親子で学ぶお金の教室
児童書

親子で学ぶお金の教室

著者: DraftZero編集部
20章構成 / ユーモラス / 公開日: 2026-05-01

📋 目次

  • はじめに
  • 第1章 お金ってなんだろう?〜ママの財布の秘密〜
  • 第2章 お金の歴史〜貝殻から電子マネーまで〜
  • 第3章 貯金ってどうやるの?〜ブタさんの知恵〜
  • 第4章 おこづかいの上手な使い方〜欲しいものリスト〜
  • 第5章 銀行ってどんなところ?〜お金の預け入れ大作戦〜
  • 第6章 お金を増やす方法〜種をまくお金〜
  • 第7章 投資ってなに?〜アイスクリーム屋さんになろう〜
  • 第8章 株って何?〜会社の小さなオーナー〜
  • 第9章 リスクとリターン〜遊園地のアトラクション〜
  • 第10章 起業ってかっこいい!〜レモネードスタンドの挑戦〜
  • 第11章 ビジネスプランを考えよう〜夢のアイデア帳〜
  • 第12章 お金のトラブル〜甘いワナに気をつけて〜
  • 第13章 寄付と社会貢献〜みんなで幸せになる方法〜
  • 第14章 お金と幸せの関係〜お金で買えないもの〜
  • 第15章 お金の計算〜数字に強くなろう〜
  • 第16章 お金と時間〜タイムマシンで未来へ〜
  • 第17章 親子でお金の話〜家族会議を開こう〜
  • 第18章 お金のプロになろう〜未来の仕事〜
  • 第19章 世界のお金〜旅行で学ぶ貨幣事情〜
  • 第20章 まとめ〜あなたの金運ストーリー〜
総文字数: 174,569字 文庫本換算: 約290ページ 読了時間: 約290分 ※ 一般的な文庫本は約8〜12万字(200〜300ページ)です
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PREFACE
はじめに

はじめに

あなたは、お金について考えたことがありますか?

「お金って、なんだか大人だけのもの」 「むずかしそうだし、まだ早いかな」 「でも、ほしいゲームソフトは買ってもらえないし…」

そんなふうに思っているあなたに、この本を書きました。なぜなら、お金の知識は、大人になるためのサバイバル道具の中で、もっとも使える「魔法の杖」だからです。

この本を書こうと思ったのは、ある出来事がきっかけでした。うちの子どもが、近所の駄菓子屋で100円握りしめて「これ、何円?」と聞いてきたんです。よく見ると、彼の手には100円玉と500円玉が両方。どっちがどっちかわからずに、店のおばちゃんに渡していたんですね。その瞬間、私は「これは大変だ。お金の教育、本気でやらないと」と決心しました。

さて、この本の主人公はタロウ。あなたと同じように、お金のことをあまり知らない小学4年生です。タロウは、ある日ママの財布からお金が消える謎にぶつかります。「お金は消えたの?それともママが食べちゃったの?」――いいえ、それはもっと面白い秘密でした。

タロウは、ブタの貯金箱と対話したり、タイムスリップして古代の物々交換を体験したり、アイスクリーム屋さんになって投資を学んだりと、めくるめく冒険の旅に出ます。時には笑い、時には「なるほど!」と膝を打ち、時には「えっ、そうなの?」と驚くことでしょう。

この本のすごいところは、全部で20章もあって、お金のことなら何でも出てくること。お小遣いの使い方から株のしくみ、起業のしかた、さらには詐欺のワナや寄付の意味まで、まさに「お金の百科事典」です。でも、むずかしい教科書ではありません。むしろ、友だちとふざけ合うような軽いノリで、でもちゃんと本質を押さえています。

特に力を入れたのは、親子で一緒に楽しめること。第17章の「家族お金会議」では、お父さんお母さんも巻き込んで、家計の話までできちゃいます。「パパの給料って、ATMから出てくるって思ってた」なんてタロウが言うシーンは、きっとどの家庭でもあり得る話でしょう。

この本を読み終えたあなたは、きっとお金の見方が変わっているはずです。お金はただの「紙切れ」や「金属の円盤」じゃありません。それは、あなたの夢をかなえるための「魔法のツール」であり、未来を切り開く「鍵」なのです。

もちろん、お金には怖い顔もあります。悪い大人にだまされそうになったり、無駄遣いして後悔したり。でも大丈夫。この本の中で、タロウも同じ失敗をして、ちゃんと学んでいきます。あなたも、タロウと一緒に、笑いながらお金のプロになっていきましょう。

さあ、タロウの冒険が始まります。ページをめくる準備はいいですか? お金の種をまく準備はいいですか? それでは、ちょっとだけ特別な教室へ、ようこそ。

(この本で使われているお金の単位やルールは、日本のものに基づいています。外国のお金の話は第19章でまとめて出てきますので、そちらもお楽しみに!)

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 1
お金ってなんだろう?〜ママの財布の秘密〜

第1章 お金ってなんだろう?〜ママの財布の秘密〜

ある土曜日の朝、小学4年生のタロウは、宿題のプリントを半分も終わらせないままリビングに飛び込んだ。目指すはテレビの前。大好きなアニメが始まるまであと3分だ。ところが、そこに立ちはだかったのはママだった。

「タロウ、宿題は終わったの?」

「うっ…あとちょっと!」

「“あとちょっと”って、昨日も言ってたでしょ。さあ、終わらせるまでテレビはお預けよ」

ママはそう言うと、キッチンで食器を洗い始めた。タロウが仕方なくランドセルを取りに行こうとしたその時、ママがエプロンで手を拭きながら言った。

「そうだ、ちょっとスーパーに行ってくるから、あなたは宿題をやっててね」

ママは財布を手に取った。タロウは何気なくその財布をチラリと見た。すると、何かがおかしい。確か昨日、ママは「給料日だ!」と喜んで、パパとハイタッチしていたはずだ。なのに、その財布の中はまるで砂漠のように乾いていた。一万円札どころか、千円札すら見当たらない。小銭が数枚、寂しく転がっているだけだ。

「ママ、お金がなくなってるよ!昨日、いっぱいあったのに!」

タロウの叫び声に、ママは振り返ってニヤリと笑った。

「あら、バレちゃった?そうなのよ。お金って不思議なものでね、夜中にこっそり逃げ出しちゃうのよ。特に、お母さんが疲れて寝てる隙にね」

「ええっ!?本当なの!?」

タロウの目がまん丸になった。ママはさらに大げさにため息をついた。

「うん。昨日ね、あなたに頼まれてお菓子を買ったでしょ?あれで300円。それから、パパが急に「焼肉が食べたい」って言い出して、お肉を買ったでしょ?あれで1500円。さらに、あなたの学校の給食費の振り込みを忘れてて、慌ててコンビニで払ったわね、あれで5000円。気づいたら、もうお財布はすっからかんよ」

タロウは頭の中で計算した。300+1500+5000…                       「6800円も使ったの!?」

「そうよ。お金はね、使えば減るの。でもね、不思議なことに、ちゃんと働けばまた増えるのよ。まるで魔法みたいでしょ?」

タロウは首をかしげた。ママの言うことは、なんだかよくわからない。お金って、いったい何者なんだろう?そもそも、なぜ人間はお金なんてものを使っているんだろう?パパとママは毎日「お金が足りない」と嘆いているけど、昔の人たちもそうだったのだろうか?

その日、タロウは学校の図書館で借りた「お金の歴史」という本を開いてみた。すると、驚くべき事実が次々と飛び込んできた。

お金が生まれる前の世界

昔々、まだお金というものが存在しなかった時代、人々は「物々交換」で生活していた。タロウが持っているお菓子と、友達のユウキが持っている消しゴムを交換するようなものだ。一見シンプルで便利そうに思える。

ところが、この物々交換、やってみると意外と大変なのだ。例えば、タロウが釣った魚と、となりのイノシシ猟師の肉を交換したいとする。ところがイノシシ猟師は「今日は肉じゃなくて、米が欲しいんだよなあ」と言う。タロウは米を持っていないから、まず米農家のもとへ行って、魚と米を交換してもらわなければならない。そして、その米を持って、もう一度イノシシ猟師のところへ行く。めんどくさいことこの上ない。

さらに困ったことに、「魚1匹に対して、イノシシ肉はどのくらいの量なら公平なのか?」という問題が発生する。魚の大きさも、イノシシ肉の部位も違う。「俺のイノシシ肉は上等だから、魚5匹分だ!」「そんなの高すぎる!3匹がせいぜいだ!」と、値段交渉は毎回大げんかになりかねない。

ある時、タロウの村でこんな事件が起きた。隣の村から来た商人が「このキラキラ光る石は、すごい力があるんだ!だから、米10袋と交換してくれ!」と言い出した。村人たちは「へえ、本当かな?」と半信半疑だったが、その石が夜になるとぼんやり光るのを見て、興奮した。タロウも「わあ、すごい!」と、自分の大事にしていた釣竿と交換してしまった。

ところが、後日判明した。その石は、ただの蛍光塗料を塗った普通の石だったのだ。村中が大騒ぎになったが、もう遅い。タロウの釣竿は戻ってこなかった。これが「価値のウソ」というものだ。というわけで、物々交換の世界は、混乱と不公平に満ちていたのである。

お金という名の魔法のアイテム

そんなある日、ある賢い人が気づいた。「みんなが『これは価値がある』と認めるものがあれば、交換がスムーズになるんじゃないか?」と。そうして生まれたのが「お金」だった。最初は貝殻だったり、塩だったり、貴重な石だったりした。時代が進むにつれて、金や銀、そして今私たちが使っている紙幣や硬貨へと進化していった。

ここで大事なことは、「お金自体には実はほとんど価値がない」ということだ。一枚の一万円札、その紙の値段はせいぜい20円くらいだ。それなのに、私たちはそれを「一万円の価値がある」と思っている。なぜか? それは、「みんながそう決めたから」だ。

「お金の価値は、みんなの合意で決まる」のだ。

タロウが学校で「この石、めっちゃかっこよくない?」と自慢の石を友達に見せた時、友達が「へえ、いいね!」と言えばその石は価値を持つが、「ただの石じゃん」と言われればただの石だ。お金も同じで、もし明日から世界中の人が「一万円札なんてただの紙切れだ」と決めたら、一万円札はただの紙くずになってしまう。でも、そんなことにはならない。なぜなら、日本中の、いや世界中の人が「一万円札には一万円の価値がある」と合意しているからだ。

これは言い換えれば、お金は「みんなの信頼で成り立っている」ということでもある。「この一万円札でパンを買える」という信頼があるから、パン屋さんは一万円札を受け取ってくれる。そのパン屋さんも、その一万円札で材料を仕入れられるという信頼があるから、受け取る。こうして信頼の連鎖が続いていく。

お金の三つの役割

タロウが図書館で調べた「お金の歴史」の本には、お金には三つの重要な役割があると書かれていた。それは以下の三つだ。

一つ目:交換手段

これは、物々交換の面倒くささを解決する役割だ。魚と米を直接交換しなくても、魚を売ってお金に換え、そのお金で米を買えばいい。「魚→お金→米」というシンプルな流れで、めんどくさい交渉や「合わない」問題から解放される。まさに文明の利器だ。

二つ目:価値の貯蔵

これは、価値を保存しておく役割だ。魚はその日に食べなければ腐ってしまうが、お金なら何年でも取っておける。タロウがお年玉で貰った一万円を、10年後に使うことも可能だ。ただし、ここで注意しなければならないのは、お金の価値は時間とともに変化するということだ。10年前は100円で買えたアイスクリームが、今は120円になっているかもしれない。つまり、ただ貯めているだけでは、価値が目減りしてしまうこともあるのだ。

三つ目:価値の単位

これは、すべての物の価値を共通のものさしで測れるようにする役割だ。魚1匹をいくらとするか、パンをいくらとするか、お金という共通の単位で表示できるから、比較が容易になる。タロウが「このゲームソフトは5800円で、あの文房具セットは1200円だ」と値段を見て、「うーん、ゲームソフトは文房具セットの約5倍の価値か…」と比較できるのは、この単位のおかげだ。

タロウはノートにこの三つの役割を書き写した。「なるほど、お金ってすごいんだな…」と感心したが、まだ一つ疑問が残っていた。お金はどうやって手に入れるのか? ママの財布の中身が、日に日に減っていくのを何度も見てきたタロウは、「お金はどこからやってくるんだろう?」と考え込んだ。

お金の入手方法:労働とおこづかい

その日の夕飯後、タロウは勇気を出してママに尋ねた。

「ママ、お金ってどうやって手に入れるの? ママはいつも『お金が足りない』って言ってるけど、どこからもらってるの?」

ママは箸を置いて、少し考えた。そして、とっておきの話を始めた。

「そうね…まず、パパとママはね、仕事をしてお金をもらっているの。パパは会社で働いて、ママはパートで働いてるでしょ? あれが『労働』って言うんだよ。労働の対価として、会社から給料が支払われるの。まるで、ゲームでクエストをクリアすると経験値がもらえるみたいなものね」

「ふーん…じゃあ、僕のおこづかいも、労働の対価ってこと?」

「そうとも言えるわね。あなたは毎日学校に行って勉強するでしょ? あれも立派な労働よ。それに、お手伝いをした時には、特別にボーナスをあげてるでしょ?」

タロウは思い出した。先週、ママが風邪でダウンした時、自分が一生懸命に台所を掃除したら、ママが「ありがとう」と言って500円をくれたことを。「あ、あれって労働だったんだ!」

「そうよ。ただし、おこづかいには二種類あるの。一つは『無条件でもらえるおこづかい』。これは、基本的な生活費みたいなものね。あなたがお菓子を買ったり、友達と遊ぶためのお金として、毎月決まった額をあげている。もう一つは『労働の報酬としてのおこづかい』。お手伝いをしたり、特別なことをした時に追加でもらえるお金よ」

「じゃあ、もっとお手伝いを増やせば、もっとお金がもらえるの?」

「理論上はね。でもね、タロウ、ここで大事なことを教えてあげる。お金は魔法のツールだけど、使い方を間違えるとトラブルのもとになる。例えばね、あなたがもらったおこづかいで、一度に大量のお菓子を買ってしまったらどうなる?」

タロウは一瞬で顔色を変えた。なぜなら、先月まさにそれをやってしまったからだ。学校の帰り道、友達と駄菓子屋に寄って、1000円分のお菓子を買ってしまった。家に帰って袋を開けると、お菓子の山! タロウは大喜びで食べまくった。しかし、次の日からはおこづかいがゼロになってしまい、友達がアイスを買っているのを見て、指をくわえて見ているしかなかった。

「うっ、そうだった…あの時は楽しかったけど、後でめっちゃ後悔した…」

「そうでしょ? お金はね、使えば減る。特に一度にたくさん使うと、あっという間になくなる。でも、ちょっとずつ計画的に使えば、長く楽しめるんだよ。これはね、まるでお風呂のお湯みたいなもの。一度にドバーッと流すとすぐになくなるけど、少しずつ使えば長く楽しめるでしょ?」

タロウは大きくうなずいた。ママの比喩はいつもわかりやすい。

「もう一つ大事なことを教えるね。お金は、あなたの『選択』を映し出す鏡なんだ。あなたが何にお金を使うかで、あなたが何を大切にしているかがわかる。例えば、あなたがいつもゲームにしかお金を使わなかったら、あなたはゲームが大好きなんだなってわかる。でも、もし本に使ったり、友達へのプレゼントに使ったりしたら、また別の一面が見える。お金は、あなたの『価値観』を教えてくれるものなんだよ」

タロウの大失敗:お菓子の山と後悔の週末

ママの言葉を聞いて、タロウは先週の大失敗を思い出していた。それは、まさに「お金の価値」を痛感する出来事だった。

あの日は、学校が半日で終わる日だった。タロウは友達のケンタとユウキと一緒に、いつもの駄菓子屋に立ち寄った。店内には、色とりどりのお菓子がずらりと並んでいる。10円のガム、30円のラムネ、50円のチョコレート…棚の前に立った瞬間、タロウの頭の中で「欲しい!」という警報が鳴り響いた。

「今日はおこづかい日だから、千円あるんだ!」

タロウが財布を取り出すと、ケンタとユウキの目が輝いた。

「すげー!千円あれば、めっちゃ買えるじゃん!」

「うん!今日は大人買いしちゃうぞ!」

三人は大はしゃぎで店内を回った。「このお菓子、前に美味しかったよね」「これ、新発売だって!」「おまけ付きのやつ、ちょうだい!」カゴの中はあっという間に、お菓子の山になった。合計金額は920円。残り80円はガム一個分だ。

「やったー!これでしばらく楽しめる!」

家に帰ると、タロウは袋をリビングのテーブルに広げた。ママが驚いた顔でやってきた。

「ちょっとタロウ、それはどうしたの?」

「今日おこづかいもらったから、全部お菓子買ったんだ!」

ママの顔色が一瞬で曇った。「全部? 千円全部? 一度に?」

「うん!」

タロウは誇らしげだったが、ママは大きなため息をついた。

「タロウ、それはね…お金の使い方としては、かなり失敗だよ。」

「え?だって、欲しいから買ったんだよ?」

「そうね、欲しいものを買うのは悪いことじゃない。でもね、一度に全部使ってしまうと、明日からどうなる?」

タロウはその時は何も考えていなかった。しかし、その翌日から地獄が始まった。学校の帰り道、ケンタが「アイス買って帰らない?」と誘ってきた。タロウは財布を開けて、がく然とした。残り80円。アイスは100円。買えない。次の日はユウキが「新しい消しゴム買いたいんだけど、一緒に文具屋行かない?」と誘ってきた。消しゴムは150円。もちろん買えない。さらに次の日は、給食のデザートにプリンが出たが、おかわりは50円。タロウは我慢するしかなかった。

「ちくしょう…お菓子の山を見るたびに、アイスが食べたい…消しゴムが欲しい…プリン食べたい…!」

タロウは自分の部屋に積まれたお菓子の山を恨めしそうに見つめた。美味しいはずのお菓子たちが、今では「後悔の山」に見えた。そう、お金は魔法のツールだが、使い方を間違えるとこうなるのだ。

お金の価値はみんなの合意で決まる

その晩、タロウはもう一度「お金の歴史」の本を開いた。すると、面白いエピソードが載っていた。

昔、ある島で、巨大な石を「お金」として使っている部族がいたそうだ。その石は重すぎて動かせないので、取引があるたびに「この石は○○さんのものになった」と口頭で宣言するだけだったという。つまり、みんなの合意さえあれば、物理的にお金を移動させる必要すらなかったのだ。

これは今の私たちの社会にも通じる話だ。例えば、スマホの決済アプリで買い物をすると、実際にお金は動いていない。ただデータが書き換わるだけ。でも、私たちはそれを「支払いが完了した」と認める。これも、みんなの合意があるからだ。

タロウはまた別のことを考えた。それは「お金の価値は一定ではない」ということだ。同じ100円でも、場所や時間によって価値が変わる。

例えば、タロウが大好きな駄菓子屋では、100円で二つのお菓子が買える。ところが、同じ100円を学校の売店に持っていくと、一つしか買えない。また、100円を10年前と今で比べると、今の100円の方が価値が低い。10年前は100円でラーメンが食べられたが、今は同じラーメンが300円するからだ。

「お金の価値は、時間や場所によって変わるんだ…」

タロウはさらに、次のような疑問を持った。「じゃあ、どうやってお金の価値を決めているの? 国によっても違うし…」

これについては、小学校の社会科の先生が教えてくれたことがある。日本の通貨は「円」で、アメリカは「ドル」、ヨーロッパは「ユーロ」などのように、国や地域によって通貨の単位が違う。そして、その価値は外国為替市場で日々変動している。例えば、1ドルが110円の時もあれば、120円の時もある。これは、世界各国の人々が「今の円の価値はこれくらいだ」と合意しているからだ。

「なんか、めっちゃ複雑だな…」

タロウは頭を抱えたが、一つだけ確かなことがわかった。それは、お金の本質は「みんなの信頼と合意」で成り立っているということだ。もしも誰も信用しなくなったら、お金はただの紙切れになる。でも、みんなが「このお金には価値がある」と信じているから、私たちは毎日、お金を使って買い物ができる。

ママの秘密のレッスン

翌朝、タロウはママに尋ねた。

「ママ、昨日いろいろ考えたんだけどさ、お金って結局、みんなが『価値がある』って決めたものなんだよね?」

ママはコーヒーを飲みながら、嬉しそうにうなずいた。

「よくわかったね!そうなの。お金はね、みんなの合意で成り立っているんだ。だからこそ、大切に扱わないといけない。」

「でもさ、ママの財布からお金が消えるのは、やっぱりママが使っちゃったからなんだよね?夜中に逃げ出したわけじゃないんだよね?」

タロウの言葉に、ママは声を出して笑った。

「そうよ。私が話した『夜中に逃げ出す』って話は冗談よ。でもね、この冗談には大事なメッセージが隠れているんだよ。」

「メッセージ?」

「うん。お金はね、使わなければ減らない。でも、使わなければ価値を生み出さない。例えば、あなたがお年玉をもらって、それをずっとタンスにしまっておいたら、そのお金は何も生み出さない。でも、それを使って本を買ったり、友達と遊びに行ったりすれば、あなたの経験や知識が増える。つまり、お金は『使うことで価値を生み出す道具』でもあるんだよ。」

「へえ…じゃあ、たくさん使えばいいってこと?」

「違う違う。使い方のバランスが大事なの。『必要なものに使う』『楽しみのためにも使う』『未来のために貯める』この三つを上手にバランスさせることが、お金の達人になる秘訣よ。」

タロウは、その言葉をノートに書き留めた。何だか、お金のことが少しわかってきた気がした。

「よし!じゃあ、今日からお金の達人になるために、お小遣い帳をつけてみようかな!」

「それはいいアイデアね。お小遣い帳をつければ、自分が何にいくら使ったかが一目でわかる。そうすれば、『あ、今月はお菓子に使いすぎたから、来月は控えよう』って計画が立てられるわ。」

「うん!やってみる!」

タロウは、自分の部屋にあった真っ白なノートを取り出した。表紙には、マジックで「タロウのお金の冒険ノート」と書き、最初のページに「今日の学び」として、ママから教わったことをまとめた。

タロウのお金のまとめ:

  • お金はみんなの合意で価値が決まる(誰かが「ただの紙だ」と言ったら終わり)
  • お金の三つの役割:交換・貯蔵・単位
  • お金は労働の対価として手に入る(おこづかいも同じ)
  • 一気に使うと後悔するから、計画的に使うべし
  • お金は「使うことで価値を生み出す道具」

「よし、これで俺も立派なお金の学習者だ!」

タロウがノートを閉じたその時、ママが呼んだ。

「タロウ、宿題は終わったの?」

「うっ…まだちょっとだけ…」

そこにパパが帰ってきて、リビングに入るなり言った。

「ただいまー!ああ、今日は仕事が大変だったよ。でも、月末の給料が楽しみだな!」

タロウはニヤリと笑った。給料日、つまりパパとママが「労働の対価」としてお金を受け取る日だ。そのお金が今度は、一家の生活を支え、そして自分たちの「価値を生み出す道具」になる。

「パパ、お疲れさま!今日はお手伝いするよ!」

タロウの突然の申し出に、パパは目を丸くした。

「おや?どうしたんだ、急に?何かあったのか?」

「だって、お手伝いをすると、お金の価値がもっとわかる気がするんだ!」

ママとパパは顔を見合わせて笑った。

「宿題を先に終わらせてからにしてね」

「はい!」

タロウはランドセルに向かって走りながら、心の中でつぶやいた。

「お金って不思議だな。ただの紙切れなのに、こんなに人を動かす力があるんだから。でも、使い方を間違えなければ、本当に便利な魔法のツールなんだ。よーし、これからはお金の達人になるために、しっかり学んでいくぞ!」

その夜、タロウはお小遣い帳の第一歩として、今日の出来事を記録した。そして、最後にこう書いた。

「お金は、使い方次第で人生を豊かにする魔法のツール。でも、無計画に使うと、ただのトラブルの種になる。使い方をマスターして、賢く生きていこう!」

こうして、タロウのお金に関する冒険の第一歩が始まった。ママの財布の秘密を知った彼は、次なる疑問に向き合うことになる。それは「どうやったらお金を増やせるのか?」という、すべての人々が長い間追い求めてきたテーマだった。しかし、その話はまた別の機会にしよう。今日は、お金の基本をしっかりと頭に叩き込んだのだから。

タロウは布団の中で、明日からの新しい挑戦に胸を膨らませた。お金のことをもっと知れば、きっと世界の見え方が変わるはずだ。そう、それはまるで、新しい冒険の地図を手に入れたようなもの。未知の世界が、今まさに広がろうとしているのである。

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CHAPTER 2
お金の歴史〜貝殻から電子マネーまで〜

第2章 お金の歴史〜貝殻から電子マネーまで〜

ある日曜日の朝、タロウの疑問

日曜日の朝。タロウはリビングのソファでゴロゴロしながら、ママのスマホをじっと眺めていた。ママが何やら画面をタップするたびに、「ピッ」という軽やかな音が鳴る。

「ママ、それ何やってるの?」

「ん? 今ね、ネットでタロウの新しい靴下を買ったんだよ。」

「えっ? 靴下? でも、お金を渡してないよ? それにお店にも行ってないし。」

ママはニヤリと笑った。

「これが現代のお金の使い方なんだよ。タロウが知ってる『現金』っていう紙のお金じゃなくて、もっと目に見えないお金のやりとりなの。」

タロウは首をかしげた。

「目に見えないお金って...幽霊みたいなもの?」

「ぶはっ!」とパパが新聞の向こうで吹き出した。

「違うよ、タロウ。これは電子マネーって言ってね、お金のデータがスマホの中で飛び交ってるんだ。まるで見えない手がお金を運んでるみたいなものさ。」

「データ...? 見えない手...?」タロウの頭の中は疑問符でいっぱいだ。

「そういえばさ、ママ。昔はお金ってどうやって始まったの? 最初から一万円札とかあったの?」

ママはソファに座り直し、目をキラリと輝かせた。

「いい質問ね! 実はね、お金の歴史ってすごく面白いんだよ。今みたいにスマホでピッ!って支払いができるようになるまでには、とてつもなく長い時間と、たくさんの人間の知恵と、そして少しばかりのドタバタがあったんだ。」

「知りたい! 知りたい!」タロウはソファの上で跳ねた。

「よし、じゃあ今日は特別授業だ。お金の歴史の旅に出かけよう!」

タイムスリップ! お金がなかった世界

「まずはね、想像してみて。ある日突然、世界中からお金が全部なくなったとするよ。」

「えっ、じゃあゲーム機も買えないし、お菓子も買えないの?」

「そうだね。でも、人間は生きていかなきゃいけない。どうすると思う?」

タロウはしばらく考えて、「うーん...物を交換する? 例えば、うちにある卵を持っていって、隣の家の野菜と交換するとか?」

「大正解! それが『物々交換』だよ。お金が生まれる前、人間はみんなそうやって生活してたんだ。」

「でもさ、」とタロウが言う。「卵10個とキャベツ1個って、どっちが価値があるの? それってすごく難しい問題じゃない?」

「その通り! そこが物々交換の一番面倒なところなんだ。でもね、タロウがタイムスリップして体験してみる?」

「え? タイムスリップなんてできないよ!」

「想像の中でいいの。さあ、目を閉じて...」

タロウが目を閉じると、ママはこっそりスマホで波の音と鳥の声を流し始めた。

「あなたは今、縄文時代の村にいます。周りには大きな石斧を持った狩人や、土器を作っている人がいます。あなたの家にはヤギが10匹います。でも、今日は魚が食べたい気分です。」

タロウは目を閉じたまま、「よし、魚を捕ってる人を探そう」と言った。

「海岸に漁師がいますね。『やあ、兄弟! そのでっかいマグロ、1匹欲しいんだけど、うちのヤギと交換しない?』」

「漁師はなんて言う?」

「漁師は言いました。『おお、ヤギか! でもなあ、うちの家族はヤギより羊の方が好きなんだ。羊はいないのか?』」

「えー、羊なんて持ってないよ! どうしよう...」

「さあ、困りましたね。あなたはヤギを10匹も飼っているのに、漁師は羊を求めている。しかも、ヤギの価値をどうやって決めたらいいのかもわからない。これが物々交換の『欲望の一致』問題です。

もっとひどいのは、こんなこともありました。昔々、とある村で、ある男が『価値のある石』を持っていると噂になりました。その石は夜になると光るというのです。村人たちは我先にと、自分の持っている貴重な品と交換したがりました。

ところが、その石の正体は、蛍光塗料を塗ったただの石ころだったんです!」

「ええっ! それって詐欺じゃん!」

「そう、これが『お金の価値のウソ』の始まり。人間は昔から、見かけや虚偽の情報で価値を偽ってきたんだよ。でもね、だからこそ人間は『もっと確かな価値のものさし』を求めるようになったんだ。」

貝殻がお金だった時代

「そこで人類は考えました。『みんなが価値を認める共通のもの』があれば、交換が楽になるんじゃないか? そうして生まれたのが『貨幣』です。」

「最初のお金って何だったの? 石? それとも骨?」

「いろいろあったよ。世界中で色んなものがお金として使われた。中国では布や農具、アフリカでは塩、そして日本ではなんと...」

「何? 何?」

貝殻だよ。」

「貝殻?! 海辺に行けばいくらでもあるじゃん!」

「そう思うでしょ? でもね、特別な貝だったんだ。『子安貝(こやすがい)』っていって、主に南方の島々でしか取れない珍しい貝。しかも一つ一つに光沢があって、装飾品としても人気があった。だから価値があったんだよ。

でもね、なぜ貝殻が価値を持ったのか、もっと深く考えてみよう。貝殻そのものは食べられないし、道具にもならない。ところが、当時の人々は『この貝殻を持っていると、他の欲しいものと交換してもらえる』と信じたんだ。つまり、貝殻の価値は『みんなが信じる』ことで生まれたんだよ。これは現代の一万円札とまったく同じ原理なんだ。」

タロウは目を丸くした。

「じゃあ、貝殻も一万円札も、根本は同じってこと?」

「そういうこと。『信頼』で成り立っているお金の原型が、貝殻だったんだね。

タロウがもし江戸時代にタイムスリップしたら、こんな会話が聞こえてくるかも。

『お代官様、今月の年貢は貝108枚でございます!』 『うむ、確かに受け取った。だがな、この貝、一枚だけ欠けておらんか? やり直しじゃ!』

「へえー、貝にお金の役割をさせてたんだね。でもさ、貝殻ってすぐ割れそうじゃない?」

「そう! そこが問題なんだ。頑丈じゃないし、たくさん持ち歩くのも大変だし、偽物も作りやすい。だから人間はもっといい素材を求めて、金属に行き着いたんだ。」

ウソみたいな大判小判の話

「金属の中でも特に人気があったのが、金と銀。キラキラ光ってて、錆びないし、小さくても大きな価値がある。まさに完璧なお金の素材だね。」

「金貨だ! 海賊の宝箱に出てくるやつ!」

「そうそう。日本でも江戸時代には金貨や銀貨が使われていたんだよ。しかも面白いのが、金の重さで価値が決まっていたこと。『大判』とか『小判』って聞いたことある?」

「ある! 『大判小判がザックザク!』ってCMで見た!」

「江戸時代の大判はね、一枚なんと今の価値で約100万円くらいだったんだって!」

「100万円?! だったら大判一枚持ってたら一生遊んで暮らせるね!」

「いやいや、そんなに甘くないよ。それにね、大判や小判をめぐっては、こんなウソみたいな本当の話があるんだ。

ある商人が、小判の重さをごまかそうとしたんだよ。小判は重さで価値が決まるから、少し削って軽くすれば、削った金をこっそり自分のものにできると考えたんだね。でもね、これがバレてしまって、お上の厳しいお仕置きを受けたんだって。」

「へえ、重さをごまかすなんて、悪い商人もいるんだね。」

「そう。だから幕府は『これが公式の小判です』って証明する印(極印)を押して、偽物や細工を防ごうとしたんだ。でも今度はその極印を偽造する奴が出てきて...いたちごっこだね。

でも、金貨や銀貨にも大きな問題があったんだ。それは 重すぎる こと!」

「重い?」

「大判一枚で約165グラム。今の五百円玉でいうと、大体15枚分の重さ。これが何十枚、何百枚にもなると、持ち運ぶだけで一苦労。買い物に行くのに馬車が必要になることもあったんだよ。」

「こりゃ不便だ!」

「そこで登場したのが『紙幣』、つまりお金の形をした紙だよ。」

お札の誕生と「ただの紙切れ」問題

「日本で最初の紙幣は、江戸時代の『藩札(はんさつ)』と言って、各藩が発行した地域通貨みたいなものだったんだ。でもね、もっと古い紙幣は世界にはある。中国ではなんと1000年以上前から紙のお金が使われていたんだよ。」

「1000年前?! すごい! でも紙ってすぐ破れそうだし、水に濡れたら終わりじゃない?」

「その通り。紙のお金は扱いに気をつけないといけない。でも、紙幣には金貨や銀貨にはない大きなメリットがあるんだ。それは 軽くて、たくさん作れる こと。

例えば、一万円札100万円分(100枚)の重さは約100グラム。たったの100グラムだよ。同じ価値の金貨だったら、約2.7キログラムにもなるんだ!」

「うわっ、全然違うね! そりゃ紙の方がいいや。」

「でもね、ここで新しい問題が生まれたんだ。『紙』に価値があるわけじゃない。ただの紙切れだ。だったら無限に刷ればいいじゃないか? そう思う藩主が出てきてしまったんだ。」

「え、それってどういうこと?」

「ある藩が、財政が苦しくなると、『よし、紙幣をもっと刷ろう!』と考えたんだよ。どんどんお札を刷って家来への給料や借金の返済に使った。

するとどうなったと思う?」

「たくさんお金ができて皆ハッピー?」

「違うんだな。お札がたくさん出回ると、一つ一つのお札の価値が下がってしまったんだ。みんなが持ってるお金の価値が半分になっちゃった。これを『インフレーション(インフレ)』って言うんだよ。

極端な話、100円のおにぎりを買うのに、一万円札が必要になったりするんだ。『紙くず同然』って言葉があるけど、まさにそんな状態になっちゃうんだね。」

「こわっ! そんなの嫌だ!」

「だから今の日本では、日本銀行っていう特別な銀行だけがお金を刷ることが許されていて、価値が急に下がらないように調整しているんだよ。」

タロウの一万円札実験

「ねえ、ママ。一万円札って、作るのにいくらかかってるの?」

「良い質問! 実はね、一万円札一枚を作るのにかかる費用は、約20円なんだって。」

「20円?! じゃあ一万円の価値のうち、9980円は...ウソの価値?!」

「そうとも言えるね。一万円札の紙自体は20円の価値しかない。でも、みんなが『これは一万円の価値がある』って信じているから、一万円として使えるんだ。

もし明日、世界中の人が『一万円札はただの紙切れだ!』って決めたら、あなたの一万円札は20円の紙くずになっちゃうよ。」

「うわー、こわいなあ。でもみんなが信じてるから大丈夫なんだね。」

「そう。お金の価値は『みんなの合意』で決まってる。これが一番大事なことだよ。

タロウが学校で『この消しゴム、すごく消えやすいんだよ!』って友達に言って、みんなが欲しがったら、その消しゴムの価値は上がる。逆に『この消しゴム、すぐ折れるんだ...』って言ったら価値は下がる。お金も同じなんだよ。

でもね、もう一つ大事なことがある。お金の価値は時間や場所によっても変わるんだ。例えば、今の100円で買えるお菓子は10年前の100円より少なくなっている。これは『インフレ』の影響だよ。それに、同じ100円でも日本の駄菓子屋と海外の空港では買えるものがまったく違う。為替レートって仕組みで、国ごとに通貨の価値が日々変わっているんだ。

タロウが将来、海外旅行に行ったら、『日本では1000円のラーメンが、アメリカでは15ドル(約2000円)もする!』なんて体験をするかもしれないね。」

お金の三つの役割、ここに極まる

「ここまでの話をまとめると、お金には三つの大事な役割があるんだ。」

ママは冷蔵庫からマグネットで留めてある紙を取り出した。

「一つ目は『交換手段』。物々交換の面倒さを解決して、誰とでもスムーズに交換できる道具。」

「二つ目は『価値の貯蔵』。今の価値を未来に持ち越せる。でもね、インフレの話をしたように、時間とともに価値が目減りすることもあるから気をつけて。例えば、10年前の100円で買えたお菓子の量が、今では買えなくなっているかもしれない。だから『貯める』だけじゃなくて、『上手に使う』ことも大事なんだよ。」

「三つ目は『価値の単位』。すべてのものを『おいくら』という共通のものさしで測れる。これがあるから、ヤギと魚とお米の価値を比べられるんだね。」

「なるほどー。じゃあヤギ1匹は今のお金でいくらくらいなの?」

「ええと...ヤギの値段は種類にもよるけど、だいたい5万円から10万円かな。でも昔の物々交換の時代は、『ヤギ1匹=魚5匹』とか、その時々で価値が変わったんだよ。」

「うわ、計算めんどくさそう。」

そして現代へ:プラスチックと電子の時代

「さて、ここからが現代のお話。紙のお金にもまだ問題があったんだ。それは『偽造(偽物を作ること)』と『持ち運びの不便さ』。」

「でも偽造防止にはすごい技術が使われてるんでしょ? 透かしとか、ホログラムとか。」

「その通り。一万円札には実に20種類以上の偽造防止技術が使われているんだよ。でも、それでも偽造する人はいる。だからこそ、新しいお金の形が生まれたんだ。」

「新しいお金の形って?」

「それが『キャッシュレス決済』。スマホやカードでピッ! ってするやつだよ。」

「あっ、ママがさっきやってたやつ!」

「そう。この技術の基本は、『お金のデータを電子的に送ること』。例えばママがスマホで靴下を買った時、ママの銀行口座からお店の口座へ『1,500円分のデータ』が一瞬で移動するんだ。

イメージとしてはね、1,500円のデータがインターネットっていう見えない道を通って、お店に届けられる感じ。」

「へえ、インターネットの道か...」

「しかもね、最近は『電子マネー』って言って、スマホやカードに直接お金のデータをチャージできるんだ。まるでデジタルなお財布を持ち歩いているようなもの。

でもね、ここで一つ大事なことを覚えておいてほしい。電子マネーも、一万円札も、金貨も、貝殻も、全部 みんなが価値を信じているから 成り立っているってこと。基本は何も変わってないんだよ。」

パパの体験談:ポケットの中の革命

その時、パパが新聞を置いて話に加わった。

「おお、お金の歴史の話か。パパも子どもの頃はね、財布に小銭をジャラジャラ入れて持ち歩いてたよ。でも今はスマホ一つでほとんど済んじゃうからね。ポケットの中がずいぶん軽くなったもんだ。」

「パパはキャッシュレスよく使うの?」

「うん。会社の昼食もスマホで払うし、電車に乗る時もスマホをかざすだけ。現金をほとんど使わない月もあるよ。」

「でもさ、現金の方が安心じゃない? スマホが壊れたらお金が使えなくなっちゃうよ。」

「鋭い指摘だね、タロウ。それがキャッシュレスの弱点の一つでもあるんだ。だからパパは念のため、財布に一万円札を一枚だけ入れているんだよ。」

「へえー、『いざという時のためのお金』ってやつだね。第1章で習った『三つのバランス』の『未来のために貯める』の実践版だ!」

「おっ、よく覚えてるね!」とママが褒めた。

キャッシュレスの裏側:お金のデータが見えないところで動く仕組み

「でもさ、スマホで払う時って、お金はどうやって動いてるの? 目に見えないけど、どこかで何かの作業が行われてるんでしょ?」

「いい質問! 実はね、タロウが『ピッ』ってするその瞬間に、裏ではすごいことが起きているんだよ。」

ママはスマホを取り出して図を描き始めた。

「まず、タロウのスマホが『お店に100円支払います』という命令を出す。すると、その情報はインターネットを通じて『決済会社』っていう中間業者に送られる。」

「決済会社?」

「そう。例えばクレジットカード会社とか、電子マネーの会社ね。その会社が『本当にタロウのスマホにお金があるか?』『不正じゃないか?』をチェックするんだ。」

「具体的にはどうやってチェックするの?」

「まず、タロウの銀行口座に残高が十分あるか確認する。次に、『このスマホは本当にタロウのものか』を認証する。パスワードや指紋認証を使うことが多いよ。そして問題なければ、『OK、支払いを承認します』っていう信号を返す。」

「そして、承認が終わると、実際にお金(データ)が口座から口座へ移動する。銀行口座から決済会社の口座に100円が移り、そこからお店の口座に100円が移る。この一連の流れが、たったの0.数秒で行われているんだよ。」

「ええっ! たったそれだけの時間で、残高チェックも、本人確認も、お金の移動もやってるの?! すごすぎる!」

「そうなんだ。このシステムのことを『決済ネットワーク』って言うんだよ。世界中の銀行やお店がつながっていて、24時間動き続けているんだ。」

「そしてね、このシステムのすごいところは、世界中どこにいても同じように使えるってこと。タロウが将来、海外旅行に行った時も、スマホ一つで買い物ができるんだよ。例えば、ニューヨークでハンバーガーを買うときも、日本の銀行口座から自動的にドルに換算されて支払われるんだ。」

「わあ、未来みたい! でもよかった、お金のデータが空を飛んでるわけじゃなくて、ちゃんとシステムがあるんだね。」

「そう、ちゃんと税金も払ってる正規のシステムだよ。」とパパが茶化した。

進化は止まらない:未来のお金

「ところでタロウ、未来のお金はどうなってると思う?」

「うーん...もっと小さくなる? それとももっと便利になって、考えるだけで支払いができるとか?」

「おお、考えるだけで支払い! 実はね、そういう研究も本当に進んでるんだよ。『脳波で決済』なんて技術もあるんだ。」

「えっ、本当?!」

「まだ実験段階だけどね。でも、もっと身近なところでは『暗号資産(仮想通貨)』っていう新しいお金も出てきているんだ。」

「暗号資産? なんか怪しい響き...」

「確かにね。でも基本的な考え方は『みんなで価値を認め合う』っていう、昔と変わらないんだよ。ただ、その価値を支える仕組みが、中央銀行や政府じゃなくて、インターネット上のコンピューターのネットワークになってるだけ。

例えば、ビットコインっていう暗号資産は、世界中のたくさんのコンピューターが『このお金は本物です』って確認し合うシステムで成り立っているんだ。」

「ふーん、難しいけど、面白いね。」

「そう。お金の形はどんどん変わっていくけど、『人と人とのつながり』と『信頼』が基本にあることは、何千年たっても変わらないの。これが一番大事なことだよ。」

夜のリビングで:タロウの感想文

その夜、タロウは自分の部屋で『タロウのお金の冒険ノート』を広げた。今日一日の出来事を思い出しながら、ペンを走らせる。

「今日、ママからお金の歴史を教えてもらった。昔は貝殻がお金だったなんて、びっくり! それに、一万円札の材料費が20円ってのもすごい。みんなが『価値がある』って信じてるから、お金はお金として使えるんだってわかった。

物々交換はめんどくさいし、金貨は重すぎる。でも人間はそのたびに工夫して、もっといいお金を作ってきた。そして今はスマホでピッ!だ。

未来のお金がどうなるかはわからないけど、基本は『人と人との信頼』だって教えてもらった。これは忘れずにいたいと思う。

そういえば、お金の価値は時間や場所によっても変わるって言ってたな。日本とアメリカじゃ、同じ1000円でも買えるものが違うんだって。将来、海外に行ったら確かめてみよう。」

「タロウー、ご飯できたよー!」

「はーい! 今行くよ!」

タロウはノートを閉じて、階段を駆け下りた。食卓には、ママ特製のカレーライスが湯気を立てている。

「今日はカレーか! やった!」

「そうだよ。でもね、このカレーにもお金の歴史が隠れてるんだよ。」

「え、どういうこと?」

「カレーのルーだって、肉だって、野菜だって、全部どこかで誰かが働いて作ったものだ。それをママがお金で買ってきて、料理した。そして今、家族で食べて笑い合う。お金はこうやって、人の幸せをつなぐ道具にもなるんだよ。」

タロウはスプーンを手に取り、考え込んだ。

「お金って、ただの道具なんだね。使い方次第で、人を幸せにもできるし、騙すこともできる。まるで魔法の箱みたい。」

「いい例えだね。そう、お金は魔法の箱。でもその箱を開ける鍵は、『知識』と『思いやり』なんだよ。」

タロウは大きくうなずいて、カレーを一口食べた。スパイスの香りが広がり、体の芯から温かくなる。

「ごちそうさま! ママ、今日はありがとう。お金のこと、もっと勉強してみたくなったよ。」

「いいね。じゃあ次の章では、『お金を増やす方法』について教えてあげようか?」

「えっ?! 本当?!」

タロウの目が、昼間に見た大判のようにキラリと輝いた。

章のまとめ:お金の歴史の教訓

  • お金が生まれる前は物々交換:『欲望の一致』が必要で、めんどくさかった
  • 最初のお金は貝殻:価値があると信じられていたものなら何でもお金になった。貝殻の価値も『みんなの信頼』で生まれた
  • 金属貨幣の時代:金や銀は『重い』という問題があった
  • 紙幣の誕生:軽くて便利だが、『無限に刷ると価値が下がる』という罠がある
  • お金の価値はみんなの合意:一万円札の材料費はたった20円。残りはみんなの『信頼』でできている。また、時間や場所によっても価値が変わる(インフレ、為替レート)
  • キャッシュレス決済:銀行口座や電子マネーの口座間でデータが移動する。決済会社が残高チェックと本人確認を行い、決済ネットワークを通じて一瞬で処理される。でも基本は『信頼』に変わらない
  • お金の三つの役割:交換手段、価値の貯蔵、価値の単位。この三つは何千年たっても変わらない。ただし、価値の貯蔵はインフレに注意が必要

お金の形は変わっても、その本質は『人と人とのつながり』と『信頼』だということを忘れずに、次の章へ進もう!

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 3
貯金ってどうやるの?〜ブタさんの知恵〜

第3章 貯金ってどうやるの?〜ブタさんの知恵〜

ある日、タロウの部屋に、真っ白でずんぐりむっくりな貯金箱が現れた。それはおばあちゃんからもらった陶器のブタさんだった。タロウは今までこのブタさんを、ただの「お金を入れる入れ物」だと思っていた。しかし、今日から違う。

「おーい、タロウ。起きてるか?」

突然、ブタさんが話し出した。タロウは飛び上がってベッドの上で後ろにのけぞった。

「えっ!? ブタさんが話した!?」

「話すさ、当たり前だろ。俺はただの貯金箱じゃない。お前のお金の管理を手伝う、『ブタさんの知恵』そのものだ。」

タロウは目をこすって、もう一度ブタさんを見た。確かに、口をパクパクさせている。どうやら夢ではないらしい。

「でも、どうして急に話し出したの?」

「お前がお小遣いを全部お菓子に使ってしまったってママから聞いたぞ。しかも、その後三日間、アイスも買えずに泣きそうになってたってな。」

タロウの顔が真っ赤になった。あの大失敗は、学校でも話題になるほどではなかったが、確かに心に深く刻まれていた。

「もう二度とあんな失敗はしないんだ!」

「その意気だ! よし、それなら俺がちゃんと貯金のやり方を教えてやる。まずは、目標を決めろ。」

目標を立てよう〜SMARTの法則を子ども向けに〜

「目標って、何を買いたいかってこと?」タロウが聞いた。

「そうだ。ただし、ただ『ゲームが欲しい』じゃダメだ。それじゃあフワフワしすぎて、すぐに別の欲しいものに心が移っちまう。」

ブタさんは体をゆすって、小さな黒板を背中から取り出した。その黒板には、何やら文字が書いてある。

「これを『スマートの法則』って言うんだ。大人の世界ではSMARTって書くんだけど、子ども向けにちょっとアレンジしてやった。」

黒板にはこう書かれていた:

タロウの目標の作り方 1. 具体的に(はっきり): 「ゲームが欲しい」じゃなくて「『ドラゴンクエストXII 勇者の帰還』が欲しい」 2. 数字で(いくら): 「5000円で買えるから、5000円貯める」 3. 達成できる(無理しない): 毎月のお小遣いから少しずつ、無理なく貯められる金額 4. 関連性がある(大事か?): 本当にそれが必要か、欲しいだけじゃないか考える 5. 期限を決める(いつまで): 「クリスマスまでに」「夏休みまでに」

「ほら、『ドラゴンクエストXII』の新作、来月発売だろ? お前、それを買いたいんだろ?」

タロウは目を輝かせた。「そうなんだ! でも5000円もするから、今月のお小遣いだけじゃ買えない…」

「だから目標を立てるんだ。『ドラゴンクエストXII勇者の帰還を、発売日までに5000円で買う』っていう具体的な目標。これが『具体的』で『数字で』『達成できる』に当てはまる。」

「でも、発売日まであと三週間しかないよ。お小遣いは月に1000円だけだし…」

「そう来たか。そこでだ、第二の貯金方法に移るわけだ。」

こつこつ貯める習慣〜小さな努力の積み重ね〜

ブタさんは得意げに鼻をフンフン鳴らした。

「タロウ、お前の毎日のお小遣い、いくらだ?」

「えっと…ママからは毎月1000円。でも、お手伝いをすると一回50円もらえるんだ。」

「お手伝いって、どんなことをするんだ?」

「食器洗いとか、部屋の掃除とか、たまにパパの肩もみ。でも、毎日はやってないな。」

「よし、ここからが本番だ。『こつこつ貯める』の魔法を見せてやる。」

ブタさんは黒板の裏側に、別の表を書き出した。

小さな努力の魔法

  • 毎日10円ずつ貯める → 30日で300円
  • 毎日50円ずつ貯める → 30日で1500円
  • 毎日100円ずつ貯める → 30日で3000円
  • 毎日のお手伝い50円 → 30日で1500円(やればやるほど増える!)

「10円って、小さくない?」タロウは首をかしげた。

「小さく見えるけどな、タロウ。これを365日続けるとどうなる?」

「えっと…10×365は…3650円!」

「正解! それだけでも、ゲームソフトが買えるだろ? もし毎日50円なら18250円! もうドラゴンクエストが三本も買えちゃう!」

タロウは目を丸くした。「そんなに貯まるの!?」

「そうだ。だから『塵も積もれば山となる』って言うんだよ。小さな努力でも、続ければ大きな成果になる。でも、これを続けるにはコツがいる。」

「コツ?」

「それはね…『見えないところに隠す』ことだ。」

ブタさんは自分の背中の穴を指さした。

「この俺の体内にお金を入れたら、出すときに割らないと出せない。つまり、『もう取れない』って覚悟ができるんだ。もしくは、ママに預けて預金しておいてもらうとか、コツコツ貯めるには『自分から遠ざける』のが一番なんだよ。」

「なるほど…でも、本当にそれで5000円貯まるかな?」

「まだ甘いな。お前にはもう一つ、秘密のテクニックを教えてやる。それは『使う前に考える』ということだ。」

使う前に考える〜衝動買い防止大作戦〜

「衝動買いって知ってるか?」ブタさんが聞いた。

「うーん、なんとなく…欲しくなってすぐ買っちゃうこと?」

「その通り。お前、駄菓子屋でよくやるだろ?」

タロウはドキッとした。確かに、友達のケンタやユウキと駄菓子屋に行くと、ついつい色々買ってしまう。気がつけばお小遣いが全部消えている。

「それって、どうすれば防げるの?」

「簡単だ。『24時間ルール』を導入するんだ。」

「24時間ルール?」

「そう。何かを買いたくなったら、すぐに買わずに24時間待つ。その間に、『本当に必要か』『他にもっと良い使い道があるか』を考える。大抵の場合、24時間たつと『やっぱり要らない』ってなるもんだ。」

タロウは考え込んだ。確かに、駄菓子屋で買ったお菓子の半分は、帰る頃にはもう飽きていた。

「じゃあ、こうしよう。スマホのメモに『欲しいものリスト』を作って、24時間たってからもう一度見る。それでまだ欲しかったら、買うかどうか決める。」

「それ、いいアイデアだな!」

ブタさんは満足そうにうなずいた。

「もう一つ、『三つのポケット』の話をしてやろう。お金を使うときは、三つのポケットに分けるんだ。」

三つのポケット 1. すぐに使うポケット: 今週の買い物用(お菓子や文房具) 2. 楽しみのポケット: 週末の遊び用(映画やゲーム) 3. 未来のポケット: 貯金用(ゲームソフトや大きな目標)

「例えば、お小遣いが1000円もらえたら、300円をすぐに使うポケットに、200円を楽しみのポケットに、500円を未来のポケットに入れる。こうすれば、無駄遣いが減るんだ。」

「でも、全部バラバラに持つの、面倒じゃない?」

「そこで登場するのが――」

ブタさんは得意げに、自分の体の横にある小さな引き出しを開けた。中には三つの小さな箱が入っている。

「この三つの箱を使うんだ。一番左が『すぐに使う』、真ん中が『楽しみ』、右が『未来』。お金をもらったら、すぐに分けて入れる。そうすれば、『あ、もう未来の分は取ってあるから、安心』ってなるんだ。」

タロウは感心した。「それ、すごく分かりやすい! でも、ちゃんと記録しないと忘れそうだな…」

「その通りだ。そこで最後のアイテム、『おこづかい帳』の登場だ!」

おこづかい帳の書き方〜お金の地図を作ろう〜

ブタさんは三つ目の引き出しから、ノートとペンを取り出した。

「これを『おこづかい帳』って言うんだ。お金の出入りを全部記録するノートだよ。」

「えー、そんなの面倒くさくない?」

「最初は面倒に感じるかもしれない。でも、これがあると自分のお金の流れが『見える』ようになるんだ。つまり、自分が何にどれだけ使っているかが一目で分かる。これはまさに『お金の地図』だ。」

ブタさんはノートのページを開いて、書き方を示した。

おこづかい帳の書き方(例)

| 日付 | 内容 | 収入 | 支出 | 残高 | |------|------|------|------|------| | 4/1 | お小遣い(4月分) | 1000円 | | 1000円 | | 4/2 | 駄菓子屋でお菓子 | | 200円 | 800円 | | 4/3 | お手伝い(食器洗い) | 50円 | | 850円 | | 4/5 | 消しゴム | | 100円 | 750円 | | 4/7 | お手伝い(掃除) | 50円 | | 800円 |

「左から、『いつ』『何を』『もらったお金』『使ったお金』『残っているお金』を書くんだ。これで、『あ、今週はお菓子に使いすぎたな』とか『今月はたくさんお手伝いしたから貯まったな』っていうのが分かるようになる。」

タロウは目を輝かせた。「それ、やってみたい!」

「よし、じゃあ早速作ってみよう。まず、ノートの最初のページに、自分だけの目標を書くんだ。」

タロウはママからもらった真っ白なノートを開き、ブタさんのアドバイスを受けながら書いた。

タロウのお金の冒険ノート

わたしの目標 『ドラゴンクエストXII 勇者の帰還』を買うため、5000円貯める!

期限 発売日まで(あと3週間)

毎日のルール 1. 毎日10円をブタさんに入れる(=小さな積み重ね) 2. お手伝いをしたら50円もらって、そのうち30円をブタさんに入れる(=もっと貯める) 3. 欲しいものがあったら24時間考える(=衝動買い防止) 4. 毎日おこづかい帳をつける(=自分のお金を見える化する)

「よし、いい感じだ!」ブタさんが褒めた。

「でもさ、ブタさん。5000円って、あと3週間で貯まるのかな?」

「計算してみよう。お前のお小遣いは月1000円。残り3週間で、毎日10円ずつブタさんに入れると…」

ブタさんは空中に計算式を書いた。

計算式

  • 基本のお小遣い: 1000円(4月分)
  • 毎日10円×21日=210円
  • お手伝いを毎日やる: 50円×21日=1050円

「全部合わせると、1000+210+1050=2260円…あれ、まだ足りないや。」

「そうだな。でも、まだ方法はあるぞ。」

「何?他にもあるの?」

「まず、お前の使っている『すぐに使うポケット』の分からも、少しだけブタさんに回すんだ。たとえば、毎週200円を『すぐに使うポケット』から『未来のポケット』に移す。すると、一週間で200円、3週間で600円増える。2260+600=2860円。」

「まだまだだなあ…」

「諦めるな。もう一つ、お前の誕生日が来月だろう? おばあちゃんからもらうお小遣い500円を、全額ブタさんに入れるんだ。ついでに、ママに『目標のために手伝いを増やしたい』って相談してみるといい。『特別お手伝いボーナス』をもらえるかもしれない。」

タロウは目を輝かせて、「それいいかも!」と叫んだ。

実践!タロウの一週間

翌日から、タロウの貯金生活が始まった。

月曜日 朝、学校に行く前に、タロウはブタさんに10円を入れた。ブタさんが「チリンチリン」と音を立てた。(実際はただの陶器だけど、タロウには音楽に聞こえた。)

「よし、今日の10円、クリア!」

火曜日 放課後、ケンタとユウキが「駄菓子屋行こう!」と誘ってきた。タロウは心の中で「24時間ルール」を思い出した。

「今日はパス。明日も行きたいと思ったら、その時考えるよ。」

ケンタは「何言ってんだ?」と笑ったが、タロウは胸を張った。

「今、貯金を始めたんだ。目標があるからね!」

水曜日 ママが『特別お手伝いボーナス』の話を聞いて、笑顔でOKを出してくれた。

「食器洗いと掃除を一週間続けたら、ボーナス300円をあげるわよ。これはブタさんに入れなさいね。」

タロウは「やったー!」と叫び、すぐに食器洗いを始めた。

木曜日 学校の売店で、新しい消しゴムが目に入った。デザインがカッコよくて、思わず手に取りそうになった。でも、ふとブタさんの言葉を思い出した。

「待てよ。この消しゴム、150円。でも、今使っている消しゴム、まだ半分以上ある。必要か? それとも欲しいだけか?」

悩んだ末、タロウは消しゴムを棚に戻した。

「今はパス。一週間考えてみる。」

金曜日 おこづかい帳をつけるのが習慣になってきた。タロウは嬉しそうにママに見せる。

「見て見て! 今週は50円しか使ってないよ!」

ママは目を丸くした。「すごいじゃない! 先週は300円も使ってたのにね。」

「うん、『24時間ルール』と『三つのポケット』のおかげ!」

土曜日 パパが「よく頑張ってるな」と言って、お小遣いの追加として200円をくれた。

「これは『頑張ったご褒美』だ。ブタさんに入れなさい。」

タロウは嬉しそうにブタさんに200円を入れた。

日曜日 一週間のまとめ。おこづかい帳にはこう書かれていた。

| 日付 | 内容 | 収入 | 支出 | 残高 | |------|------|------|------|------| | 4/8 | ブタさんに10円 | | | 10円(貯金) | | 4/9 | 特になし | | | 10円 | | 4/10 | 特別お手伝いボーナス | 300円 | | 310円 | | 4/11 | 特になし | | | 310円 | | 4/12 | 特になし | | | 310円 | | 4/13 | パパからのご褒美 | 200円 | | 510円 | | 4/14 | ブタさんに10円 | | | 520円 |

「一週間で520円! すごい!」タロウは飛び上がって喜んだ。

「まだまだこれからだぞ。」ブタさんが微笑んだ。「でも、いい調子だ。この調子で続ければ、5000円まであと4480円。約9週間で達成できる計算になる。発売日はあと2週間だからちょっと厳しいけど、無理せず続ければ夏休みまでには間に合うな。」

「夏休みまで!? それまでがまんできるかな…」

「大丈夫だ。その頃には、もっと大きな目標が見つかってるかもしれないぞ。」

ブタさんからの最終アドバイス

一週間の体験を終えて、タロウはブタさんに聞いた。

「ブタさん、貯金って、結局何が大事なの?」

ブタさんは少し間を置いて、優しい声で答えた。

「貯金で一番大事なのは、『自分を信じること』だよ。」

「自分を信じる?」

「そう。『自分の目標は達成できる』『自分にはそれができる』って信じること。目標を立てて、こつこつ続けて、使う前に考える。これができれば、どんな大きな目標でも、いつかは達成できる。」

タロウは深くうなずいた。

「もう一つ、大事なことを教えてやろう。貯金は『我慢』じゃない。『未来の自分へのプレゼント』なんだ。」

「未来の自分へのプレゼント?」

「そうだ。今、お菓子を我慢して貯めたお金で、後でゲームを買う。それは、『今の自分が未来の自分にプレゼントを送っている』のと同じだ。しかも、そのプレゼントには『自分で頑張った』という思い出もついてくる。だから、貯金は楽しいんだよ。」

タロウの目がキラキラと輝いた。

「分かった! ぼく、貯金を楽しむ!」

「その意気だ! それじゃあ、最後に一つだけ、実際にやってみるワークを用意したぞ。お前も、この本を読んでいるみんなも、一緒にやってみてくれ。」

親子で実践!おこづかい帳ワーク

ワーク①:自分の目標をSMARTに書いてみよう

  • 具体的に(はっきり): ___________________
  • 数字で(いくら): ___________________
  • 達成できる(無理しない): ___________________
  • 関連性がある(大事か?): ___________________
  • 期限を決める(いつまで): ___________________

ワーク②:一週間のおこづかい帳をつけてみよう

| 日付 | 内容 | 収入 | 支出 | 残高 | |------|------|------|------|------| | 月曜日 | | | | | | 火曜日 | | | | | | 水曜日 | | | | | | 木曜日 | | | | | | 金曜日 | | | | | | 土曜日 | | | | | | 日曜日 | | | | |

ワーク③:24時間ルールを試してみよう

何かを買いたくなったら、スマホやメモに書いて、24時間待ってみよう。24時間後、本当に欲しいかどうか、もう一度考えてみよう。

親子で話し合おう

  • 「今月、何に一番お金を使った?」
  • 「貯金するときに、一番難しいのはどんなところ?」
  • 「目標を達成したら、どんな気持ちになると思う?」

タロウはブタさんに言われた通り、ノートに自分の目標を書き、おこづかい帳をつけ始めた。そして、一週間後、なんと520円も貯まった。

「これなら、夏休みまでにはドラゴンクエスト、買えるかも!」

タロウは嬉しそうにブタさんに話しかけた。ブタさんは相変わらず黙っている。でも、タロウには、ブタさんがニッコリ笑ったように見えた。

「さて、次は『お金を増やす』冒険に出発だ!」

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CHAPTER 4
おこづかいの上手な使い方〜欲しいものリスト〜

第4章 おこづかいの上手な使い方〜欲しいものリスト〜

「ねえ、ブタさん。今週、友達のサクラちゃんからすごいことを教わったんだ!」

ある日の放課後、タロウはランドセルを放り投げるよりも先に、部屋のテーブルの上に鎮座するブタさんに話しかけた。ブタさんは相変わらず無表情な陶器の顔をこちらに向けているが、タロウにはその目が「ほう、続けたまえ」と言っているように見えた。

「サクラちゃんがね、『欲しいものリスト』ってのを持ってるんだって。ノートに、自分が欲しいものを全部書き出すんだってさ!」

タロウは興奮気味に話しながら、自分のポケットからクシャクシャになった学用ノートを取り出した。実は、昨日の休み時間にサクラからその方法を教わったのだ。

「見せて見せて!」とサクラが自分のノートを開いた時、タロウは目を丸くした。そこには、色とりどりのペンで書き込まれた「サクラの夢ノート」とも呼ぶべきリストがあったのだ。

  • 新しい消しゴム(今のやつはもう小さすぎて、ケシカスをキャッチする網みたいになっている)
  • カラーペンセット12色(水色がないと、空の絵が気持ち悪い)
  • 漫画「スイーツ探偵ミルキー」最新巻(来月発売!絶対に買う!!)
  • 自転車の新しいベル(今のは「キーン」じゃなくて「ギシギシ」しかしない)
  • 貯金用のブタさん(もう一匹欲しい。茶色のがいい)

しかも、それぞれの横に★の数が書いてあった。★が3つなら「絶対に欲しい」、★が2つなら「まあまあ欲しい」、★が1つなら「あったらいいな」という意味らしい。

「ねえ、サクラちゃんの『欲しいものリスト』って、ただの買い物リストと何が違うの?」

ブタさんが静かに口を開いた。どうやらタロウの話に興味を持ったらしい。

「それがね、単なる『ほしい!』って気持ちを書き出すだけじゃないんだよ。大事なのは、優先順位をつけることって言ってた!」

タロウはサクラから教わったことを一生懸命思い出しながら説明した。サクラは言っていた。「欲しいものはたくさんあるけど、全部は買えないでしょ?だから、どれが一番大事か、順番をつけるんだよ」と。

「ふむ。それは賢い方法だな。サクラというおぬしの友達は、なかなかの知恵者じゃな」

ブタさんが感心したように言った。その声には、ほんの少しの誇らしげな響きが混じっていた。自分が教えた「三つのポケット」の考え方を、彼女なりに実践しているのだろう。

「でね、サクラちゃんが言うには、欲しいものをリストにしたら、『本当に必要か?』って15秒だけ考えるんだって。15秒は短いようで長いんだよ!」

タロウは実際にやってみせた。目を閉じて、唇をへの字に曲げ、まるで世界一大切な決断を下す哲学者のような顔になる。

「例えば、250円のキラキラ光るペンがあったとする。すごく欲しい!でもね、その250円があれば、明日学校で使う図工の画用紙が買える。画用紙がなかったら、宿題の工作ができない。つまり…」

「つまり、そのキラキラペンは『無くても生きていける』が、画用紙は『無いと困る』、というわけか」

ブタさんがタロウの言葉を引き継いだ。その声は、どこか温かみを帯びている。

「そうそう!サクラちゃんはね、これを『にんげんにひつようなものチェック』って呼んでるんだ。人間に必要なものかどうかをチェックするんだよ!」

タロウは嬉しそうにノートをパラパラとめくりながら、サクラが作ってくれたチェックリストを見せた。

サクラの「人間に必要なものチェック」 1. それを買わなかったら、明日困る?(YES→超重要 / NO→とりあえず保留) 2. 似たようなものがもう家にある?(YES→買わなくていいかも / NO→検討) 3. それをなくしても、一週間後に思い出す?(YES→本気で欲しい / NO→一時的な欲求) 4. それを買ったら、笑顔になれる?(YES→心の栄養 / NO→買う意味ある?)

「このチェック、結構いい線いってるな」 ブタさんが珍しく褒めた。

「えへへ、そうだろ?でもね、サクラちゃんも昔は失敗したんだって!」

タロウは声をひそめて、サクラから聞いた「衝撃のエピソード」を話し始めた。

それは、サクラが小学2年生の時の話だった。

学校の近くにある小さな文具屋さんに、新しく「宇宙の星座が光るレアな消しゴム」が入荷したのだ。サクラはそれを見た瞬間、心臓がドキドキして、頭の中が「ほしいほしいほしい」の文字で埋め尽くされたという。

「あの日ね、サクラちゃんはね、ほとんど『ゾンビ』みたいになってたんだって!自分の意志じゃなくて、『欲しい』っていう呪いにかかったみたいに!」

タロウは目を大きく見開き、大げさな身振りで表現した。

「お年玉で貯めた5000円のうち、なんと3000円分も、あの消しゴムを買っちゃったんだって!」

「3000円分の消しゴム…?」 ブタさんの声が、陶器の体を通しても震えているように聞こえた。

「そうなんだよ!しかも、その消しゴム、一個100円だったんだ。つまり、30個も買ったってこと!」

タロウは首を振りながら続けた。

「サクラちゃんはね、今でもその日のことを思い出すと、胸がギュッとなるんだって。だって、家に帰って机の上に30個の星座消しゴムを並べた時、急に現実が戻ってきたんだって。『これ、どうすんの?』って」

さらに悪いことには、その翌週、サクラのクラスで「図工の時間に使う色えんぴつセット」の購入が必須になったのだ。サクラは持っていなかった。というのも、お年玉の残りは2000円しかなく、色えんぴつセットは2500円したからだ。

「それでね、サクラちゃんはママに泣きついて、お小遣いの前借りをしたんだって。でも、それは自分にとってすごく恥ずかしいことだったみたい」

タロウの顔が、真剣な表情に変わった。

「その後、サクラちゃんは全部の星座消しゴムを友達に配ったんだよね。もらった友達は喜んだけど、サクラちゃんは『3000円分の友情を買ったみたいで、なんだか空しかった』って言ってた」

「ふーむ…それが『欲しいものリスト』を始めるきっかけになったわけか」 ブタさんは深くうなずいた。

「そうそう!それで、今のサクラちゃんは『買う前にちょっと待つ』ってことを覚えたんだって。『待てる人』になると、お金に振り回されなくなるんだって!」

タロウは胸を張って言った。

その時、階下からママの声が聞こえてきた。

「タロウー!おやつの時間だよ!今日はママ特製のホットケーキだよー!」

「わーい!」

タロウは階段を駆け下りようとして、ふと立ち止まった。そして、自分のポケットからお小遣い帳を取り出し、何かを書き込んだ。

「ブタさん、今書いたのはね、『今日の夜、サクラちゃんに電話して、もっと詳しく欲しいものリストの作り方を聞く』ってメモなんだ!」

タロウはニコニコしながら言った。

「おや、それは賢い行動だな」 ブタさんが微笑んでいるように見えた。

「だって、サクラちゃんはもう『欲しいものリストマスター』だもん!私はまだまだ見習いだよ」

タロウはそう言って、ホットケーキの香りにつられて階段を駆け下りていった。

衝動買いの魔物にご用心!

次の日、タロウはサクラに電話で詳しく「欲しいものリスト」の極意を教わることに成功した。サクラはタロウのために、特別に「衝動買い防止マニュアル」まで作ってくれたらしい。

「まずね、タロウくん。人間はね、『欲しい!』って思った時、脳の中で特別なことが起きてるんだって!」

サクラは得意げに話し始めた。

「え?脳の中で?」 「そう!『欲しい!』って思った瞬間、脳の中では『ドーパミン』っていう物質がドバーッと出てるんだって。これはね、『気持ちいい!もう一回!』って感じさせる物質なんだよ」

「つまり、『欲しい!』って思うと脳がトロけちゃうってこと?」

「そういうこと!だから、そのトロけた状態で買い物をすると、『本当に必要か?』っていう冷静な判断ができなくなっちゃうんだよ」

サクラは「これをね、『ドーパミン地獄』って呼んでるんだ!」と笑った。

タロウはその言葉を聞いて、先日のお菓子の山を思い出した。あの時も、まさに「ドーパミン地獄」に陥っていたのだ。そして、脳が解けた状態で1000円分のお菓子を買ってしまったのだ。

「じゃあ、どうやってその『ドーパミン地獄』から逃げればいいの?」

「それがね、一番簡単な方法は、『時間を置く』ってことなんだよ!」

サクラは力強く言った。

「『24時間ルール』って知ってる?欲しいものを見つけたら、すぐに買わないで、まる一日待つんだよ。そしたら、冷めた目で『これ、本当に必要?』って見られるようになるんだ」

「へえーすごい!まるで魔法みたい!」

「魔法っていうより、脳のクセを利用した裏技ってところかな。ドーパミンは24時間も経てばほぼ消えちゃうからね」

タロウは早速その24時間ルールを試してみることにした。ちょうど今日、学校の帰り道にある自動販売機で、新発売の「メロンソーダ超炭酸バージョン」を見つけたのだ。値段は150円。キンキンに冷えたボトルが、まるで「飲んでくれ!」と手を振っているように見えた。

「待てよ…今はまだドーパミンが出てる状態だ」 タロウは自分に言い聞かせた。

「一度家に帰って、明日まで待ってみよう」

次の日、タロウはメロンソーダのことを思い出した。昨日あれほど欲しかったのに、今は「飲めたらいいけど、別になくても平気かも…」という気持ちになっていた。

「本当だ!24時間経ったら、熱が冷めてる!」 タロウは感動して叫んだ。

代わりに、タロウは冷蔵庫にあった麦茶をコップに注いで飲んだ。無料だ。そして、あの150円は無事に貯金箱のブタさんの中へと消えていった。

「どうやらわしの取り分が増えたようじゃのう」 ブタさんが満足そうな声を出した。

比較の達人になろう!

そんなある日、タロウは友達のケンタとユウキと一緒に、新しい文房具を買いに駅前の大きな文具店へ行った。

タロウは「ドラゴンクエストXII」の貯金計画の合間に、新しい鉛筆が欲しかったのだ。今使っている鉛筆は短すぎて、鉛筆削りに入れようとすると指が挟まりそうになる。

店に着くと、鉛筆売り場は想像以上に種類が豊富だった。

「ええっと…普通の鉛筆は…」 タロウは値札を見て回った。

『HB鉛筆 12本入り 250円』 『かわいい動物柄鉛筆 6本入り 280円』 『勉強に集中できる! 集中力アップ鉛筆 3本入り 350円』 『伝説の職人が作った鉛筆 1本 500円』 『未来のノーベル賞学者も使った!? 寅さん鉛筆 8本入り 400円』

「えー、どれにしよう…」 タロウは頭を抱えた。

「俺、この動物柄のがいいな!キリンが可愛い!」 ケンタが目を輝かせた。

「いやいや、集中力アップの方が勉強はかどるんじゃない?」 ユウキが真面目な顔で言った。

「でも、伝説の職人の鉛筆って…かっこよくない?」 「未来のノーベル賞学者って…それ本当なの?」

三人はしばらく議論したが、決まらない。その時、タロウのスマートフォン(ママから「緊急時のみ」と厳しく言われているやつ)の計算機アプリが頭の中に浮かんだ。

「そうだ!値段を本数の数で割ってみよう!」

タロウは頭の中で計算を始めた。

  • 普通の鉛筆:250円÷12本=約20.8円/本
  • 動物柄:280円÷6本=約46.7円/本
  • 集中力アップ:350円÷3本=約116.7円/本
  • 伝説の職人:500円÷1本=500円/本
  • 寅さん鉛筆:400円÷8本=50円/本

「うわっ!伝説の職人の鉛筆、一本500円もするんだ!寅さんの方が8本で400円の方が安いし、普通の鉛筆が一番コスパいい!」

タロウは驚いて叫んだ。

「でもさ、安いだけじゃないんだよ」 ケンタが言った。

「そうそう、大事なのは『何を重視するか』ってことだよ」 ユウキが付け加えた。

「例えば、勉強がはかどるなら、集中力アップ鉛筆は価値があるかもしれない。でも、普通に書ければいいなら、普通の鉛筆で十分だよね」

三人は結局、それぞれ違う鉛筆を買うことにした。

  • タロウ:普通の鉛筆12本入り(コスパ重視)
  • ケンタ:動物柄6本入り(デザイン重視)
  • ユウキ:集中力アップ3本入り+寅さん鉛筆8本入り(効果とコスパのバランス)

「これが『比べる力』か…」 タロウは自分の買った鉛筆の箱を見ながらつぶやいた。

後日、タロウはこの話をママにした。

「そうそう、『お金を使う時は、まず比較する』っていうのは、大人になってもすごく大事なスキルなんだよ」

ママは嬉しそうに言った。

「例えばね、ママがスーパーで買い物する時も、同じ商品でも店によって値段が違うから、ちょっと遠くの店まで歩いたりするんだ。そうすると、一ヶ月で結構節約になるんだよね」

「へえー」 タロウは感心した。

「でもね、時間もお金と同じくらい大事な資源だから、『節約のために1時間もかけちゃった』ってならないように、バランスが大事なんだよ」

ママはそう言って、ウインクした。

クーポンとセールの正しい使い方

ある土曜日、タロウとママは一緒にショッピングモールへ買い物に出かけた。ママは「セール期間中だから」と、何やら張り切っている。

モールに入ると、そこら中に「SALE!」「最大50%OFF!」「今だけ!ポイント10倍!」の文字が踊っている。

「わあ、すごい!何でも安くなってる!」 タロウは目を輝かせた。

「そうだね、でもね、タロウ。ここで大事なことがあるんだ」 ママは真剣な顔で言った。

「『安いから買う』のではなく、『必要なものが安くなっているから買う』って考え方が大事なんだよ」

「うーん…似てるようで違う?」 「そうそう!例えばね、70%OFFの服があったとする。でも、その服、サイズが合わなかったら?デザインが好みじゃなかったら?」

「…買っても着ないかも」 「そう!70%OFFで買っても、結局一度も着なかったら、100%のムダ遣いになっちゃうんだよ」

タロウはハッとした。

「つまり、セール品でも『本当に必要?』って自問するのが大事、ってこと?」

「その通り!セールはね、『欲しいものを安く買うチャンス』であって、『いらないものを買う口実』じゃないんだよ」

ママはそう言って、自分のスマートフォンを取り出した。

「そうそう、ママはよくクーポンも活用してるんだ。スマホのアプリにクーポンが届いたら、『これを使うならいつ行こう?』って計画的に使うんだよ」

「へえー」 タロウはママのスマホを覗き込んだ。画面には「今週限定!20%OFFクーポン!」という表示と、有効期限のカウントダウンが表示されていた。

「このクーポン、もし使わなかったら20%分、つまり1200円くらいの損になるんじゃない?」 タロウが計算して言った。

「うーん、でもね、それも注意が必要なんだ。『使わないと損』と思って必要ないものを買っちゃうと、結局は損になるんだよ」

ママは優しく諭した。

「クーポンもセールも、『自分が本当に欲しくて、かつ安くなる時』に使うのが、一番お得な使い方なんだね」

タロウは、自分でもクーポンやセールを活用する時に注意しようと心に決めた。

衝動買いの後悔とサクラの最終兵器

数日後、学校の休み時間に、サクラがタロウに「最終兵器」を教えてくれた。

「タロウくん、これまで『24時間ルール』とか『比べる』とか教えたけど、それでも衝動買いをしてしまった時はどうする?」

サクラは真剣な顔で聞いてきた。

「え?どうするって…後悔するしかないんじゃ?」 タロウは困った顔で答えた。

「違うんだよ!後悔するだけじゃなくて、その経験を『学び』に変えることが大事なんだ!」

サクラはノートを取り出し、あるページを開いた。そこには「サクラの買い物反省ノート」と書かれていた。

「これはね、衝動買いをしてしまったら、こうやってノートに記録するんだよ」

サクラの買い物反省ノート(例)

  • 買ったもの:星座消しゴム30個
  • 値段:3000円
  • 買った日:2024年5月15日
  • なぜ買った?あまりに可愛くて、『限定』って言葉にやられた
  • その時の気持ち:すごくワクワク!自分は賢い選択をしたと思った
  • 買った後の気持ち:最初は楽しかったけど、だんだん虚しくなった
  • 学んだこと:

1. 「限定」の言葉に弱い自分がいる 2. 30個もいらない 3. 買う前に友達の意見を聞けばよかった

  • 次回への対策:

1. 「限定」と書いてあるものは、特に24時間ルールを厳守 2. 「自分は今、ドーパミン地獄にいる」と気づく 3. 友達と一緒に買う時は、お互いに「本当に必要?」と聞き合う

「これを書くことで、同じ失敗を繰り返さないようにできるんだ!」

サクラは誇らしげに言った。

「すごい!まるで自分の取扱説明書を作ってるみたい!」 タロウは感動した。

サクラからこの方法を教わったタロウは、その日のうちに自分のノートに「買い物反省ページ」を作った。そして、「お菓子の山事件」を早速記録した。

  • 買ったもの:お菓子の山
  • 値段:1000円
  • 買った日:先週
  • なぜ買った?友達に誘われて、つい

書き終えた時、タロウはなんだか不思議な気持ちになった。

「こうやって書き出すと、『あの時はこういう状態だったんだな』って冷静になれるね」

ブタさんが優しい声で言った。

「そうじゃな。自分の行動を客観視できるようになるのは、とても大事なことじゃ。それを『メタ認知』と言うんじゃよ」

「メタ…にんち?」 「簡単に言うと、『自分のことを外から見る力』のことじゃ。買い物に限らず、色んな場面で役立つ力なんじゃぞ」

タロウはノートを閉じて、ブタさんに向かってニッコリ笑った。

「サクラちゃんもすごいけど、ブタさんもすごいんだね!」

親子で決めるおこづかいルール

さて、ここまで色んな方法を学んできたタロウ。でも、一番大事なのは、これらの知識を実際の生活にどう活かすかだ。

ある日曜日の夜、タロウはママとパパを呼んで、リビングのテーブルに集まってもらった。

「今日は、みんなで『おこづかいルール』を決めたいと思います!」

タロウは大きな声で宣言した。手には、自分で書いた「おこづかいルール案」の紙を持っている。

「おやおや、ずいぶん本格的だね」 パパが感心したように言った。

「前より成長したね!」 ママが嬉しそうに笑った。

タロウは深呼吸をして、話し始めた。

「まず、ママからもらうお小遣いは、毎週200円って決まってるよね?」

「うん、そうだね」 ママがうなずいた。

「でもね、それだけだと、もし急に必要なものができた時、足りなくなっちゃうことがあるんだ。前みたいに、消しゴムがなくなって困ったことがあったし…」

「なるほど。じゃあ、どうしたらいいと思う?」 パパが聞いた。

「そこで!『お手伝いボーナス制度』を作りたいんです!」

タロウは力強く提案した。

タロウの提案するお手伝いボーナス制度

  • お皿洗い(毎日):+30円
  • 自分の部屋の掃除(週1回):+50円
  • 庭の草むしり(月2回まで):+100円
  • ママやパパの手伝い(臨時):その都度相談

「おお!なかなかしっかりした提案だね」 パパが驚いた顔をした。

「でもね、タロウ。ここで一つ大事なルールを追加したいんだけど、いいかな?」 ママが優しく言った。

「何?」 「このボーナスは『目的を持って使う』っていうルールをつけよう。例えば『ドラゴンクエストXIIを買うため』とか『友達と遊園地に行くため』とか、具体的な目標があれば、無駄遣いしにくくなるからね」

「なるほど!それ、いいアイデアだ!」 タロウはすぐにママの提案をメモした。

追加ルール:目的を持って使う お手伝いボーナスは、具体的な目標(例:ゲームを買う、貯金するなど)のために使うこと。

「じゃあ、他にもルールを決めよう!」

三人はその後一時間、話し合って「タロウ家のおこづかいルール」を完成させた。

タロウ家おこづかいルール(決定版) 1. 毎週のお小遣いは200円(ママから) 2. お手伝いボーナスは別途(ママと相談) 3. 欲しいものは「欲しいものリスト」に書き出し、優先順位をつける 4. 買い物の前には「本当に必要か?」をチェック(15秒ルール) 5. 衝動買いは24時間ルールでガード 6. 買い物後はおこづかい帳に記録 7. 月末に、ママと「今月のお金の使い方」を振り返る

「よし、これで準備万端だ!」

タロウは満足そうに笑った。

ママとパパも、誇らしそうにタロウを見つめている。

「タロウ、すごく成長したね」 ママが目を潤ませて言った。

「ありがとう!ママ、パパ。これからもお金のこと、一緒に勉強していきたいです!」

親子でやってみよう!「欲しいものリスト」ワーク

さて、この章を読んでいるあなたも、タロウと一緒に「欲しいものリスト」を作ってみませんか?

以下のワークを親子でやってみてください。

ワーク1:欲しいものリストを作ろう 1. ノートを一冊用意します(タロウは学用ノートを使っています) 2. 今、欲しいものを全部書き出してみましょう(10個以上が理想) 3. それぞれに★の数を付けます(★3つ=絶対欲しい、★1つ=あればいいな) 4. ママやパパと、一番欲しいものについて話し合ってみましょう

ワーク2:優先順位を決めよう 1. 欲しいものリストを見ながら、本当に優先すべきものを選びます 2. 選んだものについて「なぜそれが欲しいのか」理由を考えます 3. その理由を親に話してみましょう(「友達が持ってるから」は、ちょっと弱い理由かもしれません…)

ワーク3:おこづかいルールを決めよう 1. お小遣いの金額を決めます(タロウは毎週200円ですが、家庭によって違います) 2. お手伝いの報酬を決めます(タロウはお皿洗いで30円ですが、クリアなルールが大事) 3. 24時間ルールや、買い物後の振り返りをルール化します 4. ルールは紙に書いて、冷蔵庫に貼っておきましょう

タロウ家のルールを参考に、あなたの家庭だけの「オリジナルルール」を作ってみてくださいね!

まとめ:おこづかい上手になるための三つのポイント

この章で学んだことを、最後におさらいしておきましょう。

ポイント1:欲しいものはリストにして優先順位をつける

  • 頭の中だけで考えず、紙に書き出す
  • ★の数でランク付けする
  • 「本当に必要か?」をチェックする

ポイント2:買い物の前に「待つ」と「比べる」

  • 24時間ルールで衝動買いを防ぐ
  • 値段と量・質を比べる(コスパを考える)
  • 「安いから買う」ではなく「必要なものだから買う」と考える

ポイント3:失敗を恐れず、学びに変える

  • 衝動買いをしたら、反省ノートに書く
  • 同じ失敗を繰り返さないための対策を考える
  • お金の失敗は「成長のチャンス」と捉える

タロウはこの章を通じて、お金の使い方の大切さを学びました。そして、サクラやママ、パパ、ブタさんの知恵を借りながら、自分のお金と向き合う力を身につけていきました。

あなたもきっと、同じように成長できるはずです!

さあ、次の章では、タロウがついに「ドラゴンクエストXII」を買うための貯金計画を実行に移します。一体、タロウは目標を達成できるのでしょうか?次章もお楽しみに!

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 5
銀行ってどんなところ?〜お金の預け入れ大作戦〜

第5章 銀行ってどんなところ?〜お金の預け入れ大作戦〜

社会科見学の朝

朝の6時半、タロウの部屋に目覚まし時計の音が鳴り響いた。今日は待ちに待った社会科見学の日だ。

「ブタさん、起きてる?今日は銀行に行くんだよ!」

タロウは机の上の陶器のブタに話しかけた。ブタさんは相変わらず無表情だったが、タロウにはちょっとだけ口元が緩んだように見えた。

「銀行か…あそこはな、人間の欲望と理性がぶつかる面白い場所だぞ」

ブタさんが低い声でそう言ったかと思うと、タロウのママがドアを開けて入ってきた。

「タロウ、早起きね!今日の社会科見学、楽しみにしてたもんね。でも、銀行でお金を預けるときはね…」

「わかってるよママ!『安いから預ける』じゃなくて『預けるべきところに預ける』んだよね!」

タロウが得意げに言うと、ママはちょっと驚いた顔をして、それから優しく笑った。

「あら、ちゃんと覚えてたのね。でも今日は預ける練習じゃなくて、銀行の仕組みを勉強してくるんでしょ?しっかり見てきなさい」

銀行に到着!〜まるでお城のような建物〜

学校から歩くこと20分。タロウたちの前に現れたのは、石造りの重厚な建物だった。大きな柱が立ち並び、入り口には立派な金属の扉がある。

「わあ…まるでお城みたい!」 「これが銀行かあ…お金持ちそう!」 「入っていいの?なんか緊張する…」

クラスのみんながざわつくなか、担任の先生が説明を始めた。

「みんな、ここが『みどり銀行』本店です。今日は銀行の仕事を実際に見学して、お金の流れについて学びます。中では静かに行動するように」

タロウは胸がドキドキしていた。ブタさんから教わった貯金の話。そして、銀行はその貯金したお金をどうやって使っているのか。今日はその謎が解けるのだ。

タロウはふと、自分の目標を思い出した。『ドラゴンクエストXII 勇者の帰還』を5000円で買うため、約3週間で貯金しなければならない。今週のお手伝いで稼いだお金はどう管理すればいいのか、銀行なら何か教えてくれるかもしれない。

ようこそ!銀行の仕組みツアー

銀行の中に入ると、ひんやりとした空気と、かすかに漂うお金の匂い(タロウの想像かもしれない)が迎えてくれた。天井は高く、シャンデリアが輝いている。カウンターの向こうには、スーツを着た銀行員の人が忙しそうに動いていた。

「みなさん、こんにちは!今日の案内役を務める、銀行員の山田と申します!」

現れたのは、ちょっと太めで頭が少し寂しくなりかけている、優しそうなおじさんだった。名札には「山田 貯金(やまだ ちょきん)」と書いてある。

「えーっと、山田さん…『貯金』って名字…あれ?」 タロウが首をかしげると、山田さんはニコッと笑った。

「ああ、これは『貯金箱(ちょきんばこ)』って読むんです。珍しい名字でしょ?よく『貯めてる?』って冗談を言われるんですよ」

クラス中が笑った。山田さんは冗談を交えながらも、話を進めるのが上手いらしい。

「さて、みなさん。今日は『銀行って何をするところか』を一緒に学びましょう!まずはこのクイズから!」

山田さんがホワイトボードに書き出したのは、こんな問題だった。

『銀行の仕事は次のうちどれ?』 A. お金を預かって寝かせておく B. お金を預かって、増やしながら貸し出す C. お金を預かって、銀行員のボーナスにする

「はい、手を挙げて答えてください!」

ケンタが元気よく手を挙げた。「Cでしょ!大人はみんなボーナス欲しがってるもん!」

山田さんは大げさに肩を落とした。「ぶっ!その答え、銀行員としては聞き捨てならないけど…まあ、結果的には間違いではないかもしれません…が!正解はBです!」

タロウは慌ててメモを取った。預かるだけじゃないんだ。増やす?貸し出す?どういうことだろう。

預金の仕組み〜100円が旅に出る日〜

山田さんはタロウたちをカウンターの前に連れて行った。

「ここが預金の窓口です。おじいちゃんやおばあちゃんが、年金を受け取りに来る場所としても有名ですね。さて、ここでちょっと実験をしてみましょう!」

山田さんはポケットから100円玉を取り出した。

「この100円、誰かに貸してあげてもいいんだけど…いいかな?」

クラスのみんなは「え?」という顔をした。お金を貸すって、なんだかドキドキする。

「でもね、実はこれが銀行の仕事の本質なんです。お金を預かることと、お金を貸すこと。この二つが銀行の両輪なんですよ」

山田さんは手元のパソコンを操作すると、天井の大型スクリーンにアニメーションが映し出された。そこには、かわいらしい100円玉のキャラクターが出てきた。

「見てください、この『ワンちゃん』っていう100円玉がいます。あなたが銀行にこのワンちゃんを預けると…」

アニメーションでは、ワンちゃんが銀行の大きな金庫の中に入っていった。すると、金庫の中でワンちゃんがキョロキョロしていた。

「預けた瞬間、あなたの『預金口座』には100円と記録されます。ここで大事なのは、お金そのものが銀行にあるのではなくて『あなたが100円預けましたよ』という記録がコンピューターに残るってことです」

タロウはそれを聞いて、あれ?と思った。

「でも、預けたお金はどこに行くんですか?金庫の中にずっとあるんですか?」

「いい質問です!タロウくん。実はね、金庫の中に眠っているお金は全体のほんの一部だけ。残りは…こうやって動いてるんです」

スクリーンのアニメーションが変わった。ワンちゃんが金庫の裏口からこっそり抜け出して、今度は別の人のところに歩いていく。

「銀行は、あなたが預けたお金を、お金が必要な人に貸し出します。たとえば、家を建てたい人、会社を始めたい人、車を買いたい人。彼らが銀行からお金を借りるんです」

「ええっ!?それって、僕の100円を使われちゃってるってこと!?」

タロウは驚いた。自分の預けたお金が他人に使われているなんて、なんか変な気分だ。

「心配しないでください!ちゃんとルールがあります。銀行は『あなたがいつでも引き出せるように』一定の割合のお金を必ず残しています。それに、貸したお金は必ず返してもらう約束。しかも、借りた人は『利息(りそく)』っていう、お礼の気持ちとして追加のお金を払うんです」

タロウの頭の中で、ブタさんの言葉がよみがえった。『貯金は未来の自分へのプレゼント』。でも、それだけじゃなかったんだ。預けたお金は誰かを助けるのにも使われている。

「それって、お金の三つの役割のうちの『交換手段』と『価値の貯蔵』が関係してるってことですか?」

タロウがそう言うと、山田さんは目を丸くした。

「おや?タロウくん、よく知ってるね!その通りだよ。お金はただ貯めておくだけじゃなくて、社会の中でぐるぐる回ることで初めて役割を果たすんだ」

利息ってなんだ?〜お金が寝てるだけで増える不思議〜

山田さんは続けて説明した。

「そして、あなたが銀行にお金を預けていると、銀行からあなたにも『利息』がもらえるんです。つまり『預けてくれてありがとう。そのお礼に少し増やしておくね』ってこと」

タロウの目が輝いた。「寝てるだけでお金が増えるの?それって最高じゃん!」

「そう思いますよね?ただ、その増え方は…まあ、カメさんが歩くより遅いですけどね」

山田さんはパソコンで数字を表示した。

「たとえば、100万円を銀行に預けたとします。今の金利(利息の割合)が年0.1%だとすると、1年後に増えるお金は…」

スクリーンに大きな文字で表示された。

100万円 × 0.1% = 1000円

「1000円!?たったそれだけ?」

タロウはがっかりした。100万円も預けたのに、たった1000円。それなら、お手伝いを10回すればもらえる金額だ。

「そう、たったそれだけ。でもね、タロウくん。この『たった1000円』が町中の人が預けたお金の利息の合計になると、銀行全体としては莫大な金額になる。そして銀行はその一部を使って、お金を借りたい人に貸し出す。すると借りた人は家を建てられて、大工さんが仕事をもらって、そのお金でラーメンを食べて、ラーメン屋さんが儲かって…というように、お金がぐるぐる回っていくんです」

タロウはブタさんから教わった『お金は道具』という言葉を思い出した。確かに、ただ貯めておくだけじゃなくて、動かすことで人を助けたり、喜ばせたりできるんだ。

「でも、それじゃあ銀行はいつも損しちゃうんじゃないですか?貸したお金の利息を、僕たち預けた人にも一部あげてるんですよね?」

ユウキが鋭い質問をした。山田さんはニッコリ笑った。

「いいところに気づきましたね!銀行は『貸すときの利息』を『預けるときの利息』より高く設定しているんです。つまり、借りる人は年3%の利息を払うけど、預ける人には年0.1%しかあげない。この差額が銀行のもうけになります」

「なるほど!つまり銀行は『お金の仲介人』っていうわけか!」

タロウが大きな声で言うと、山田さんはパチパチと拍手した。

「大正解!銀行はお金を『余っている人』から預かって、お金が『足りない人』に貸す。まさにお金の仲介役ですね。小学生にはちょっと難しいかもしれませんが、『お金の価値の単位』っていう役割とも関係してるんです。銀行があるおかげで、みんなが同じものさしでお金を測れるんですよ」

タロウ、100円を預ける〜目標達成への第一歩〜

見学が一通り終わったあと、山田さんが特別に「体験コーナー」を用意してくれた。

「実際に預金を体験してみたい人、手を挙げて!」

タロウは真っ先に手を挙げた。心臓がドキドキする。僕が、銀行にお金を預けるんだ!

でも、ふとタロウは考えた。ポケットにある100円は、先週のお手伝いで稼いだお金だ。本来なら、この100円はブタさんにどのように振り分けるべきだったんだろう。毎日のルールでは、お手伝いで50円もらったら30円をブタさんに入れることになっている。でも今日は、そのお金を銀行に預けようとしている。

タロウはブタさんの言葉を思い出した。『お前の「最初の銀行」だ。本当の銀行に旅立つのが、お金の成長というものだ』。確かに、ブタさんはお金を管理する最初の場所。でも、もっと大きな場所でお金を預かることも学ぶ時期なのかもしれない。

「よし、決めた!」

タロウはポケットから100円玉を取り出した。これは先週、お手伝いで稼いだお金のうち、ブタさんに入れずにとっておいた分だ。今日、これを銀行に預けることで、自分なりの「お金の成長」を試してみたい。

「預け入れの手続きをしますね。この用紙に名前と金額を書いてください」

タロウは慎重に、一文字一文字、名前を書いた。『鈴木タロウ 100円也』

「この100円、本当に返ってくるんですか?」 タロウが少し不安そうに言うと、山田さんは真剣な顔で答えた。

「日本には『預金保険制度』という素晴らしい仕組みがあります。もし銀行が潰れても、一人あたり最大1000万円までは国が保証してくれるんです。だから、安心して預けられますよ」

「1000万円!?そんな大金、考えたこともない…」

「そうですね。でも、この制度のおかげで、みんな安心して銀行にお金を預けられる。お金の流れが止まらないんです。お金って、信頼で動いてるんですよ。前に『お金の価値はみんなの合意で決まる』って話を聞いたことはありますか?」

タロウは目を輝かせた。「それ、知ってます!一万円札の紙の値段は約20円だけど、みんなが『これには価値がある』って信じてるからお金として使えるんですよね!」

「その通り!銀行も同じです。みんなが『この銀行は大丈夫』と信じているから、安心して預けられる。信頼こそがお金と銀行を支えているんです」

タロウは渡された通帳をじっと見つめた。そこには『鈴木タロウ様 100円』と印字されていた。

「この100円、これからどこに行くんですか?」

「そうだなあ…もしかしたら、どこかで新しいお店を始めたい人の手に渡るかもしれない。あるいは、大きな工場を建てたい会社の資金になるかもしれない。あなたの100円が、誰かの夢を応援するんだよ」

タロウの胸が熱くなった。たった100円でも、誰かの役に立つ。それって、ブタさんが言ってた『未来の自分へのプレゼント』の別の形かもしれない。それに、自分の目標である『ドラゴンクエストXII』を買うための一歩にもなる。銀行に預ければ安全に保管してもらえて、しかも少しだけ増える。まさに一石二鳥だ。

銀行は安全?〜信頼と現実の話〜

見学も終盤に差し掛かったとき、山田さんは表情を引き締めて話し始めた。

「みなさん、最後にすごく大事な話をします。銀行はお金を預ける安全な場所ですが、世の中には『銀行みたいなふりをしている悪い人たち』もいるんです」

クラスがシーンと静まり返った。

「例えば、『絶対に儲かる投資話』とか『今だけ特別金利』とか『預けたら3倍になる』とか…そういう甘い言葉で近づいてくる人には気をつけてください」

タロウは身を乗り出した。「そんなの絶対怪しいですよね!」

「その通り。銀行は法律で厳しくルールが決められていて、国が定期的に検査もします。でも、悪い金融機関は法律を無視して、甘い言葉で人のお金をだまし取ろうとする。これを『闇金融(やみきんゆう)』って言います」

山田さんはホワイトボードに表を書き始めた。

安全な銀行

  • 国に登録されている
  • 金利が異常に高くない
  • 預金保険制度がある
  • きちんとした店舗がある

危ない金融機関

  • 登録がない
  • 「必ず儲かる」「絶対安全」と言う
  • 金利が異常に高い
  • 連絡先が曖昧

「一番のポイントは、『必ず儲かる』なんて約束をするところは絶対に怪しいってこと。お金の世界に『絶対』はありませんからね。『お金の価値はみんなの合意で決まる』っていう話をしましたが、悪い人たちはその『合意』を偽って、人をだまそうとするんです」

タロウはさっき預けた100円のことをもう一度考えた。ちゃんとした銀行に預ければ、たとえ利息は少なくても、お金は安全だ。でも、怪しいところに預けたら、なくなってしまうかもしれない。

「ブタさんが言ってた『自分を信じる』って、そういうことなのかな。ちゃんと調べて、賢く選ぶこと…」

タロウがつぶやくと、隣の席のサクラが「うん、私もそう思う」と言ってから、さらに付け加えた。

「それにね、銀行に預ける前に、まずは自分の中で『本当に預けるべきお金か?』って考えることも大事だよね。私の『欲しいものリスト』と同じで、お金をどこに置くかも、よく考えないと」

タロウはサクラの言葉に納得した。確かに、ブタさんに預けるべきお金と銀行に預けるお金は、目的が違うのかもしれない。

帰り道、タロウの頭の中は

見学が終わり、学校に戻るバスの中で、タロウは通帳を何度も見返した。たった100円の記録だけど、なんだか誇らしい気持ちになった。

「ブタさんに報告しなきゃ。今日わかったこと、いっぱいあるんだ」

バスの窓から見える景色は、いつもと同じ町並みだった。でもタロウには、その景色がちょっと違って見えた。

あのコンビニも、銀行からお金を借りて建てられたのかな。 あの新しい家も、誰かの預金が使われているのかな。 道路を走るトラックも、会社が借りたお金で買ったのかな。

「お金って、見えないところでぐるぐる回ってるんだなあ…」

タロウはそうつぶやいて、通帳を大切にカバンにしまった。

家に帰って、ブタさんとの対話

「ただいま!」

タロウは家に飛び込むと、まっすぐ自分の部屋に走った。机の上のブタさんが、相変わらず無表情で鎮座している。

「ブタさん!すごい発見したよ!銀行ってね、お金を貸す仕事もしてるんだって!」

ブタさんが微かに揺れたような気がした。タロウには、それが「よくやった」という合図のように思えた。

「それでね、利息ってものがあって、預けると少しだけ増えるんだけど、その増え方はカメさんより遅いの。でもね、銀行が貸すときの利息は高いから、その差額で銀行は儲けてるんだって」

タロウは今日一日で覚えたことを、ブタさんに次々と話した。預金の仕組み、貸出の流れ、利息の話、安全な銀行と危ない金融機関の違い。

「それからね、僕、100円を銀行に預けたんだ。ちょっと迷ったんだけど…だって、毎日のルールでは、お手伝いで稼いだお金は30円をブタさんに入れるって決めてたから。でも、今日は特別だと思って、100円全部を銀行に預けたんだ」

タロウは少し申し訳なさそうに言った。しかし、ブタさんは優しい声で答えた。

「よく決断したな、タロウ。お前が自分で考えて行動したことが大事だ。確かに、毎日のルールではお金の一部を私に入れることになっている。しかし、ルールはあくまで基本だ。今日は『銀行を体験する』という特別な日だった。お前がその機会を活かして、新しいことを学んだのなら、それはルールを破ったことにはならない」

「本当?よかった…」

「ただし、これからは毎日のルールを守ること。お前の目標は『ドラゴンクエストXII』を買うことだろう?そのためには、ブタさんにコツコツ貯める方法と、銀行に預ける方法をうまく使い分ける必要がある。私はお前の『最初の銀行』として、お前が自分で決めた目標に向かって進むのを見守っている。銀行はお前の『次の銀行』だ。両方を上手に使うのが、賢いお金の使い方というものだ」

タロウは通帳をもう一度開いた。100円という小さな数字が、なんだか温かく感じられた。そして、明日からまた毎日のルールを守って、ブタさんにも銀行にも、計画的にお金を貯めていこうと心に決めた。

ママとの夕食〜銀行預金とブタさんの役割〜

夕食のとき、タロウはママに今日の話を興奮気味に伝えた。

「ママ!僕、今日銀行に100円預けたんだ!ちゃんと通帳もらったよ!」

「まあ、偉いわね!でも100円かあ…利息はいくらつくのかしら?」

「えっと…山田さんが言ってたけど、今の金利が0.1%だとしたら、100円の利息は…1年間で0.1円?つまり10銭?」

ママは優しく笑った。「そうね。10円すら増えないのよ」

「えー!それなら、お手伝いしたほうがよっぽど稼げるや!」

「その通り。でもね、タロウ。銀行預金の本当の価値は『利息の大きさ』じゃないの。『安全にお金を守ってもらえること』なのよ」

ママはスプーンを置いて、真剣な顔で話し始めた。

「もし、家のタンスに100万円をしまっておいたら?火事になったら?泥棒に入られたら?全部なくなっちゃうでしょ?でも銀行なら、そういうリスクからお金を守ってくれる。それって、とても大事なことなの」

「あ、そうか…確かに。ブタさんもそう言ってた。お金は『安全な場所』に置くことが大事だって」

「そうよ。それにね、銀行に預けておけば、通帳やキャッシュカードがあれば全国どこでもお金を引き出せる。そんな便利さも、銀行の大事な役割なの」

タロウはうなずいた。確かに、遠くの町に旅行に行っても、銀行があればお金が下ろせる。それは便利だ。

「でもね、ママ。ブタさんにも毎日10円と、お手伝いの30円を入れているんだけど、ブタさんと銀行、どっちに預けるのが正しいの?」

「それはね、目的によって使い分けるのが正解よ。毎日使うかもしれないお小遣いは、家のブタさんで管理する。でも、長期的に貯めたいお金や、『絶対に使ってはいけない』というお金は銀行に預ける。そうやって使い分けるのが賢い方法ね」

「なるほど!じゃあ、ドラゴンクエストを買うためのお金は、ブタさんで貯めて、銀行に移すのがいいのかな?」

「そうね。目標金額に近づいたら、銀行に預けて安全に保管してもらうのもいい選択よ。タロウはよく考えられてるじゃない」

タロウは嬉しくなった。自分の目標達成に、銀行が役立つかもしれない。明日からもっと計画的に貯金しよう。

夜のひそひそ話

その夜、布団に入ってからもタロウは考えていた。今日学んだことを、明日学校のみんなに話してあげたい。特にケンタは、銀行のことを「お金を預けるだけの場所」だと思っているから、教えてあげなきゃ。

「そういえば…」

タロウは暗闇の中でブタさんの方を見た。

「ブタさん、銀行って、僕たちの『信頼』で成り立ってるんだよね?お金の価値も、みんなの信頼で決まるんでしょ?」

「その通りだ。銀行が潰れたら『うちの預金は大丈夫か!?』と人々がパニックになる。でも、逆に『この銀行は絶対に潰れない』と全員が信じていれば、実際に銀行が危ない状況でも、なんとか持ちこたえられる。お金も銀行も、結局は人間の『信じる力』で動いているんだ。一万円札の紙の値段が約20円でも、みんなが信じているから10000円として通用する。それと同じだ」

「人間の信じる力…か。でも、それってすごく脆いね。もし誰かが『このお金はただの紙だ』って言い出したら、みんなが信じるのをやめてしまうかもしれない」

「そうだな。だからこそ、信頼できる場所にお金を預けることが大事なんだ。銀行は法律で守られていて、国もチェックしている。みんなが『この銀行なら大丈夫』と信じられる仕組みがあるから、安心できるんだ」

タロウは目を閉じた。頭の中で、今日の100円が旅をしているイメージが浮かんだ。ワンちゃんが銀行を出て、どこかの家を建てる人のポケットに入り、そこから大工さんに渡り、ラーメン屋さんのレジの中へ…そして、いつかまた自分のところに帰ってくる。

お金って、本当に生きているみたいだ。

「明日も、お手伝い頑張ろう。そしたらまたブタさんに入れるお金と、銀行に預けるお金を分けられるからな」

タロウはそうつぶやいて、眠りについた。

第5章のまとめ〜銀行との付き合い方〜

こうしてタロウは、銀行の仕組みを実際に体験して学んだ。ポイントは次の通りだ。

預金は『お金の安全な保管庫』 タロウが教わったように、銀行に預ければお金は安全だ。火事や盗難のリスクから守られ、しかも預金保険制度で最大1000万円まで保証される。

銀行はお金の『仲介役』 預かったお金を、家を建てたい人や事業を始めたい人に貸し出す。これによって、お金は社会の中で循環し、経済が回っていく。これは『お金の三つの役割』のうちの『交換手段』と『価値の貯蔵』が同時に働いている例だ。

利息は『お礼の気持ち』 預ければ少しだけ増えるし、借りれば少しだけ多く返す。この差額が銀行の収入になる。ただし、現在の日本では預金利息はほとんど期待できないほど低い。

危ない金融機関との違いを見極める 『必ず儲かる』『絶対安全』という甘い言葉には要注意。ちゃんとした銀行かどうかは、国の登録や預金保険機構のマークで確認できる。『お金の価値はみんなの合意で決まる』という原則を悪用する者からは、自分を守らなければならない。

ブタさんと銀行の使い分け 毎日使うお小遣いはブタさんで管理し、長期的に貯めるお金は銀行に預ける。目的によって使い分けることで、お金をより賢く管理できる。ブタさんは『最初の銀行』として基本を教え、銀行は『次の銀行』として安全に保管してくれる。

そして何より、タロウが学んだのは「お金は信頼で動いている」という、お金の本質だった。銀行もお金も、人間の『信じる力』で成り立っている。だからこそ、信頼できる場所を選び、自分自身も信頼されるお金の使い方をすることが大事なのだ。

次の日、タロウは学校でケンタとユウキに、銀行見学の話をたくさんした。

「つまりさ、銀行って『お金の託児所』みたいなものなんだよ!預けてる間にお金はちょっとだけ成長するし、安全に見てもらえるんだ!」

ケンタは首をかしげた。「託児所?お金が泣いたりしないよな?」

「まあ、それはそうだけど…でもね、預けたお金が誰かの夢を応援するって考えると、なんだか嬉しくなってくるんだ」

タロウのその言葉に、ユウキが「たしかに」とうなずいた。

「じゃあ、俺もお小遣いの一部を銀行に預けてみようかな。100円からでも預けられるんだろ?」

「うん!ちゃんとした通帳ももらえるんだよ!それに、銀行に預ければ、目標のゲームを買うためのお金も、安全に貯めておけるんだ」

三人は顔を見合わせて笑った。お金を『使う』だけでなく『預ける』という選択肢。タロウはそれを自分のものにしたのだ。

ブタさんは今も、タロウの机の上で無表情に鎮座している。でもタロウにはわかる。ブタさんが、誇らしげに微笑んでいることが。なぜなら、タロウは今日、自分で考えて、ブタさんと銀行の両方を理解し、使い分けることを学んだからだ。

「次は、どんなお金の冒険が待ってるのかな…」

タロウの胸は、新たな発見への期待で膨らんでいた。

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CHAPTER 6
お金を増やす方法〜種をまくお金〜

第6章 お金を増やす方法〜種をまくお金〜

ある日の夕方、タロウはベランダでプランターを見つめていた。先週まいた朝顔の種が、もう小さな双葉を出している。

「すごいなぁ。小さな種から、こんなに立派な葉っぱが出てくるんだ」 「ふむ。種をまけば、ちゃんと水をあげれば芽が出る。お金も同じだぞ」 「えっ?」

振り返ると、ブタさんが棚の上からタロウを見下ろしていた(見下ろしているように見えた)。

「お金の種をまけば、お金も芽を出す。ただし、ただ地面に埋めてもダメだ。ちゃんと育てる方法がある」

タロウは首をかしげた。「お金の種って……お金を土に埋めるの? それってただの埋蔵金じゃない?」

「違う違う。比喩だ、比喩。要するに、お金をどうやって増やすかって話だ」

お金を増やす、三つの方法

ブタさんは得意げに(貯金箱なので表情は変わらないが、なぜか得意げに感じられた)語り始めた。

「お金を増やす方法は、ざっくり言って三つある。お前はいくつ思い浮かぶ?」

タロウは顎に手を当てて考えた。 「えっと……銀行にお金を預けると利息がつくってママが言ってた!」 「一つ正解。あと二つは?」 「うーん……宝くじ?」 「それは『増やす』じゃなくて『ギャンブル』だ。ちなみに宝くじの当選確率は、落ちてる間に雷に打たれる確率より低い」 「そんなに!?」 「まあ、それは置いといて。残りの二つは『働く』と『投資する』だ」

タロウが首をかしげる。ブタさんは続けた。

「まず『働く』。これは簡単だ。お前が家事手伝いをしてお小遣いをもらう。それが立派な“働いてお金を増やす”ってわけだ。掃除、皿洗い、洗濯物たたみ……。たかが100円でも、自分で動いて稼いだお金には特別な価値がある」

「うん。でも、それって“お金を増やす”って感じじゃなくて、“もらう”って感じだよ」 「ふむ。じゃあ、次だ。『預ける』。これは銀行に預けることで、寝ている間にも少しずつお金が増える」 「寝てる間にもお金が増えるの!?」 「ただし、超スローペースでな。まるでカタツムリが駅伝を走るようなスピードだ」 「……それって増えてるって言えるの?」

ブタさんの目(陶器の割れ目)がわずかに光ったように見えた。

「そして三つ目。これが一番魔法に近い。『投資』だ」 「投資?」 「簡単に言うと、『お金に働いてもらう』ってことだ。自分の代わりに、お金を働かせて増やすんだ」

タロウは目をキラキラさせた。 「つまり、僕がゲームしてる間も、お金が僕の代わりに働いてるってこと?」 「まあ、そういうイメージだ。ただし、魔法には代償がつきものだ。投資は必ず増えるとは限らない。減るときもある」 「ええっ!?」 「お金を増やす三つの方法には、それぞれリスクとリターンがある。まずはその違いをしっかり理解しよう」

働くお金〜皿洗いから見える景色〜

次の日の朝。タロウはママに言った。

「ママ、今日の夕飯の皿洗い、僕がやるよ」 「どうしたの急に? まさか、何かやらかした?」 「違うよ! お金を増やそうと思って!」 「なるほどね。働いてお小遣いを稼ぐ作戦か」

ママはニッコリ笑った。この笑顔は「試されている」ときの笑顔だとタロウはもう知っている。

「じゃあ、条件を出そう。皿洗い1回で30円。ただし、食器を割ったら半額ね」 「えー、割引あるの!?」 「リアルな社会ってそういうものよ。ところで、タロウはどうして急に働こうと思ったの?」

タロウはブタさんから聞いた三つの方法を話した。ママはうなずいた。

「なるほどね。じゃあ、三つの方法を順番に体験してみる?」 「体験できるの!?」 「もちろん。まずは『働く』から。今から一週間、決められた家事をやってお小遣いを稼ぎなさい。ただし、ただ働くんじゃない。『見えない学び』にも注目するのよ」 「見えない学び?」 「うん。皿を洗いながら、どんなことを感じるか。例えば……皿洗いの大変さを実感すると、外食のありがたみがわかるかもしれない。お母さんが毎日やってる仕事の重みを知ると、感謝の気持ちも生まれる」 「なるほど……まさに“皿洗い哲学”だね」

タロウはその日から一週間、皿洗いに加えて、掃除機かけ(50円)、靴を揃える(10円)、洗濯物をたたむ(40円)の“アルバイト”をこなした。

結果:一週間で総額270円を稼いだ。

「270円か……。ドラゴンクエストのソフトには全然届かないや」 「でも、お前が一週間かけて270円を稼いだという事実は、お前を強くしたぞ」 「強くなった?」 「『お金を稼ぐってこんなに大変なんだ』という実感。これこそ、教科書では学べない“お金のリアル”だ」

タロウは確かに、何かが変わった気がした。それまでは、お店に並んでいる商品を「300円だって。まあいっか」と軽く考えていた。でも今は「300円って、皿洗い10回分か……」と考えられるようになった。

「これって、お金の“重み”がわかるってこと?」 「その通りだ。『働く』という方法でお金を増やす最大のメリットは、お金の価値を体で覚えられることだ。これはどんな投資の本を読むより大事な経験だぞ」

預けるお金〜銀行のカタツムリ大作戦〜

「さて、次は『預ける』だ。これはお金の三つの役割のうち、『価値の貯蔵』を実践する方法でもある」

ブタさんがそう言ったのは、週末の朝だった。タロウが貯金箱にお小遣いを入れようとしたときだ。

「お金の三つの役割って、交換手段と価値の貯蔵と価値の単位だよね。預けるのは価値の貯蔵ってことか」 「その通り! 覚えていたか。お金を預けるという行為は、今の価値を未来に持ち越すことなんだ。ただし、インフレで価値が目減りするリスクもあるから、そこは注意が必要だ」

「預けるって、銀行でしょ? でもさ、ブタさんも貯金箱だよね。僕が君にお金を預けてるってことになるんじゃない?」 「お、鋭いな。確かに、この貯金箱も“タロウ銀行”の支店のようなものだ。ただし、利息はつかないけどな」 「えー、じゃあ僕が銀行にお金を預けたら、どれくらい利息がつくの?」 「ふむ。今の時代、普通預金の金利は0.001%とかそんなもんだ」

タロウは電卓を取り出した(最近、電卓を使うのがちょっとしたマイブームだった)。

「えっと……100万円預けたら……100万円 × 0.001% = ……10円!?」 「正解。一年間寝かせて10円だ」 「それって、一週間皿洗いした方が儲かるじゃん!」 「その通り。でも、銀行に預ける意味は利息だけじゃないんだ。銀行にはもう一つの大事な役割がある。『預金と貸出の両輪』だ」

「両輪?」 「そう。銀行はお金を預かるだけじゃない。預かったお金を、お金が必要な人に貸し出すんだ。その時に貸出利息と預金利息の差額で銀行は儲ける。銀行は『お金の仲介役』なんだよ」

「なるほど。預けたお金が他の誰かの役に立ってるってことか」 「いいところに気づいたな!」

ちょうどそのタイミングで、ママがキッチンから声をかけた。

「タロウ、今日、銀行に行くけど一緒に来る?」 「行く行く! あ、そうだママ、銀行の利息ってほんとにカタツムリみたいなスピードなの?」

ママは笑いながら「カタツムリどころかナメクジレベルよ」と答えた。

みどり銀行に行くと、例の山田貯金さんがカウンターから手を振っていた。

「やあ、タロウくん! 今日はどんな用事だい?」 「お金を預けるとどうなるのか、実際に見てみたいんです!」

山田さんは「おお、いいところに来たね!」と言って、タロウを窓口の前に座らせた。そして、パソコンの画面をタロウに向けて見せた。

「例えばだよ。タロウくんが1000円を預けたとする。一年後には1000円が1000円1銭になる」 「1銭……って、何ですか? 食べられますか?」 「1円の100分の1だよ。100円玉を100個に分けたうちの1個分ってイメージだ。つまり、1000円預けても一年後に増えるのは0.1円。10円玉の100分の1だ」 「……それって、増えてるって言えるの?」 「言えるには言えるけど、実質的には“安全に保管してもらう料金”って思った方がいいかもね。でもね、銀行預金の本当の価値は“減らない”ってことなんだ。投資は増えるかもしれないけど、減ることもある。でも預金は、よっぽどのことがない限り減らない。ここが一番大事だ」

「なるほど。つまり、銀行は“お金の安全な家”ってことか」 「その通り! 安全な家にちょっとだけ家賃を払って泊めてもらうイメージだ。それに、銀行は預かったお金を企業に貸し出して、街の経済を動かす役割もしてるんだよ」

山田さんは続けて、銀行のもう一つの顔について説明してくれた。

「例えばね。パン屋さんが新しいオーブンを買いたいとする。でも、お金がない。そんな時、銀行は預金者から預かったお金を貸し出す。するとパン屋さんは美味しいパンをもっと作れるようになって、街の人も喜ぶ。預金者のお金が、間接的に街を豊かにしているんだよ」

タロウは「わあ、すごい!」と目を輝かせた。 「つまり、僕が預けた100円も、誰かの役に立ってるかもしれないんだね」 「そういうことだ! 預金は自分を守るだけでなく、社会の役にも立っているんだ」

家に帰ると、ブタさんが待っていた。

「どうだった、銀行見学は?」 「うん。利息はすごく少ないけど、安全な場所だし、預けたお金が他の人の役に立ってるってわかったよ」 「ふむ。いい学びをしてきたな。ところで、お前はスマホを持っているか?」 「持ってないよ。でもママのスマホなら時々見せてもらえるよ」 「ちょっと当ててみせてくれ。銀行の通帳アプリで、お前が貯めたお金の『欲しいものリスト』の進捗も見られるんだぞ」 「えっ? ママに聞いてみる!」

タロウは『24時間ルール』と『欲しいものリスト』を思い出した。そういえば、ドラゴンクエストXIIも、あのリストに★3つで書いてあったっけ。

「ところでブタさん。僕の目標って、『ドラゴンクエストXIIを5000円で買う』だよね。SMARTの法則で考えてみたんだけど、具体的で、数字で表せて、達成可能で、大事で、クリスマスまでって期限もある。これってSMARTに合ってる?」

ブタさんは驚いた顔をした(ようにタロウには見えた)。

「おやおや。自分でSMARTの法則を使って目標を分析したのか!」 「うん。具体的か?→『ドラクエXIIを買う』ではっきりしてる。数字で表せるか?→5000円だからOK。達成できるか?→家事手伝いで一週間270円稼げたし、3ヶ月あればいける。関連性があるか?→僕がめっちゃ欲しいから大事。期限を決めるか?→クリスマスまで! 全部クリアだよ!」

「完璧だ。お前はもう立派な“お金の達人”の仲間入りだな」

単利と複利、どっちがすごい?

「さて、ここで一つ、知識の種をまいておこう。『単利』と『複利』だ」

ブタさんはタロウに紙とペンを差し出した(もちろん、鼻で)。タロウが書く準備をすると、ブタさんは説明を始めた。

「まず『単利』。これは、元本だけに利息がつく方式だ。100万円を年利1%で預けたとする。単利だと、毎年1万円ずつ増える。10年後には10万円増えて、合計110万円だ。簡単な計算だよな」 「ふんふん。100万円+(100万円×1%×10年)=110万円ってことね」 「お、計算できてるじゃないか。次は『複利』だ。これは、元本+利息にも利息がつく方式だ。最初の一年は同じで1万円の利息。でも二年目は、101万円に対して1%の利息がつくから、1万100円だ」 「……ちょっと待って。つまり、利息にさらに利息がつくってこと?」 「その通り! 雪だるまが坂道を転がるように、だんだん利息の額が大きくなっていくんだ。これを『複利の魔法』って呼ぶこともある」

タロウは電卓を叩いた。

「100万円を年利1%で複利運用した場合……10年後は約110万4600円! 単利より4600円も多い!」 「お、計算が速くなったな。だがな、本当の複利の威力は、長い時間をかけたときに発揮されるんだ。ちょっと面白い話をしてやろう」

ブタさんはさらに説明を続けた。

「100万円を年利5%で複利運用した場合。10年後は約162万9000円。20年後は約265万3000円。30年後は約432万2000円」 「えっ……30年で4倍以上!?」 「複利の魔法は『時間』という名の魔法使いが使うんだよ。時間が長ければ長いほど、その効果は大きくなる。例えば、お前が生まれた時に100万円を年利5%で運用してたら、18歳の時には約240万円になってたんだぞ」

タロウは自分の貯金箱を見つめた。今、中には約3000円が入っている。

「じゃあ、今の3000円を30年後に使おうとすると……」 「月2000円ずつ、年利5%で積み立てていくとしよう。30年後には約167万円になる。もちろん、これはあくまで理論上の話だ。現実の投資にはリスクがある。でも『小さな種でも、時間をかければ大きな木になる』ということは覚えておいて損はない」

タロウの目が輝いた。「それって、まるで魔法みたいだね!」 「魔法じゃない。数学だ。でも、数学が織りなす奇跡と言ってもいいかもしれないな。ただし、もう一度言うぞ。現実の投資には必ずリスクがある。『必ず増える』なんて話は、たいてい嘘だと思え」

投資するお金〜お金に働いてもらう〜

「さて、最後の方法だ。『投資』。これが一番、大人の世界に近い」

ブタさんの声が、なぜか少し低くなった気がした。

「投資って、株とかの話でしょ? テレビで見たことあるよ。上がったり下がったりするやつ」 「そうだ。でも、もっとわかりやすく言うと『お金にアルバイトを頼む』ってことだ」 「お金がアルバイト?」 「例えばだ。お前が500円持っているとする。この500円を使って、レモネードを作って売るとする。材料費が100円で、それを10杯分作って、1杯100円で売ったら……」 「500円の投資で、1000円の売り上げ!」 「そうだ。500円が1000円になった。これも立派な投資だ。レモネードを作るという『事業』にお金を使ったわけだ」 「なるほどね。自分で働くんじゃなくて、お金に働いてもらうんだ」 「その通り。もう一つ例を出すぞ。お前が、ある会社の株を買うとする。その会社が儲かれば、株の価格は上がる。すると、お前が買った株の値段も上がる。これも投資だ」 「会社の成長に、自分のお金で応援するって感じ?」 「いい例えだな。投資は、自分がいいと思う会社や事業を応援して、そのお礼をもらうイメージだ。ただし、応援している会社がうまくいかなければ、お礼はもらえない。むしろ損をすることもある」

タロウは考え込んだ。「でもさ、株の値段が下がることもあるんでしょ。その場合はどうなるの?」 「下がった時に売れば、損をする。だから投資には『リスク』がつきものだ。でもね、リスクをちゃんと理解すれば、こわがらずに付き合えるぞ。投資の世界では『リスクとリターンは表裏一体』って言うんだ」

ブタさんは続けた。

「例えば、お前が500円を銀行に預ければ、ほぼ確実に500円は守られる。でも、増えるのは0.5銭くらいだ。一方、500円でレモネードを作って売れば、1000円になる可能性もあるけど、売れ残って腐らせてしまえば0円になる。リスクを取れば取るほど、リターンも大きくなる可能性があるけど、損失も大きくなる可能性がある」

「つまり、どこでバランスを取るかが大事ってこと?」 「その通り! 賢い投資家は、一つの方法に頼らず、いくつかの方法を組み合わせるんだ。預金で安全を確保しつつ、投資で成長を狙う。これを『分散投資』って言うんだよ」

タロウはうなずいた。「リスクとリターンの階段」のイメージが頭に浮かんだ。低い段(預金)は安全だけどリターンは小さい。高い段(投資)はリターンが大きいけど落ちる危険もある。

「でも、どうやってどの段に登るか決めればいいの?」 「それは、お前の『お金の目的』と『時間』によるな。例えば、来月までに必要な500円を株で増やそうとするのは、あまりにリスキーだ。だって、来月までに株が上がるとは限らないからな。でも、30年後に使うお金なら、多少のリスクを取っても時間が味方してくれる。株価が一時的に下がっても、長い目で見れば回復する可能性が高いからだ」

タロウ、庭に“お金の種”をまく

その日の夜、タロウは布団の中で考えていた。

「働く……預ける……投資する……。三つの方法か。どれが一番いいんだろう」

答えは出なかった。でも、何だかワクワクしていた。翌朝、タロウは起きるなり庭に飛び出した。

「よーし、お金の種をまくぞ!」

そして、プランターの前にしゃがみこむと、おもむろにポケットから10円玉を取り出した。朝顔の種を植えたプランターを見つめながら、今度は別の小さなプランターを準備した。

「ちょっと待った!」

後ろから声がした。振り返ると、ブタさんがなぜかベランダの手すりの上に鎮座していた(昨夜、タロウがベランダに置き忘れたらしい)。

「お前、いくら何でも10円玉をそのまま埋めようとするな」 「え? だってブタさん、『お金の種をまけ』って言ったじゃん」 「比喩だって言っただろ! 地面に直接お金を埋めても、芽は出ない。10円玉からは10円玉しか生えてこない」 「あ、そうか……」 「でも、その“やってみたい!”という気持ちは大事だ。いいか、本当の“お金の種”っていうのは、知識と行動のことだ」

タロウは10円玉をポケットにしまい、代わりにスコップを持ち上げた。 「わかった! じゃあ、ちゃんと“種”を育てる努力をするよ」

その時、ママが窓から顔を出した。 「タロウ、朝ごはんできたよ。今日は卵焼きとウインナーだよ」 「わーい! ……あ、そうだママ。これからのお小遣い、少しずつお金を増やしたいんだけど、どうしたらいい?」

ママは「うーん」と首をかしげて、タロウの隣にしゃがみこんだ。

「三つの方法を試してみる? まず、家事手伝いで“働く”。次に、銀行に“預ける”。最後に、小さな“投資”をしてみる」 「でも、僕は小学生だよ。株なんて買えないよ」 「そうね。でも、投資には株以外にも方法があるのよ。例えば、将来のための勉強や習い事も、自分への投資と言えるわ」

ママはタロウの手を取り、家の中に入った。テーブルの上には、朝ごはんと一緒に「お小遣い帳」と「お金の種まき計画シート」が置いてあった。

「まずは目標を決めよう。タロウは何のために、お金を増やしたいの?」 「ドラゴンクエストXII!」 「いくら必要?」 「5000円」 「いつまでに欲しい?」 「……クリスマスまで!」

ママはシートに書き込んだ。「目標:ドラゴンクエストXIIを買う(5000円)。期限:クリスマスまで(約3ヶ月後)」

「じゃあ、三ヶ月で5000円を貯めるには、一ヶ月約1667円、一日約56円貯めればいい計算ね」 「一日56円……」 「まずは毎日のお小遣いから、56円を“種まき用”に回す。それで足りない分は、家事手伝いで補う。どう? ところで、『欲しいものリスト』にはもう書いた?」 「うん! ★3つでバッチリ書いてあるよ。『24時間ルール』もちゃんと使って、本当に欲しいか確かめたんだ」 「偉いじゃない! サクラに教えてもらったことが、ちゃんと生きてるね」

お金の種が枯れる時〜努力しないと育たない〜

一週間後。タロウは自分の部屋でうなだれていた。 「どうしたんだ?」とブタさんが尋ねる。 「三日坊主になっちゃった……。最初は頑張ったんだけど、三日目から『今日くらいはいいや』ってなって、四日目にはすっかり忘れてた」 「あるあるだな」 「しかも、貯めようと思ってたお金を、ついつい駄菓子屋で使っちゃったし……」

タロウの貯金箱の中身は、なんと先週より減っていた。おこづかい帳を見ると、支出の欄に「駄菓子屋 230円」と書いてある。

「はあ……。お金の種は、ちゃんと水をあげないと枯れちゃうんだね」 「その通りだ! その気づきこそが大事なんだよ」

ブタさんは、得意げに(また得意げだ)続けた。

「お金を増やすのは、庭で花を育てるのと似ている。種をまくだけじゃダメだ。毎日の水やり(貯金)、適度な日当たり(計画)、時々の肥料(収入アップの工夫)。これらを欠かすと、花は枯れる。それに、お前がせっかく学んだ『24時間ルール』や『欲しいものリスト』も、使わなければ意味がないぞ」 「つまり、努力しないとお金は増えないってことか」 「そうだ。“お金が自動で増える”なんて魔法はない。でも、コツコツ続ければ、必ず結果はついてくる。それに、お前の『お金の三つの役割』の知識も活かせるはずだ。今、タロウがお金を使う時は、『これは交換手段? それとも価値の貯蔵?』って考えるようにしてみろ」

タロウは深くうなずいた。『努力しないと増えない』ということを、身をもって学んだのだ。

「よし、もう一度チャレンジする!」 「いい心がけだ。ただし、同じ失敗を繰り返さないために、一つの工夫をするといい」 「工夫?」

ブタさんは、鼻で机の上のノートを指さした。 「『お金の種まき日記』をつけるんだ。毎日いくら貯めたか、どんな気づきがあったかを書く。そうすれば、三日坊主になった時に、『あ、またサボってる!』と自分で気づけるぞ」 「それって、メタ認知ってやつだね!」 「覚えていたか! いいぞ!」

小さな種が、やがて大きな木に

それから二ヶ月が経った。タロウは毎日コツコツと貯金を続け、ついに先週、目標の5000円を達成した。

今、タロウの目の前には、『ドラゴンクエストXII 勇者の帰還』のパッケージが置いてある。ゲームショップで実際に買ったのだ。

「やったー! ついに買えた!」

タロウは嬉しさのあまり、部屋の中で飛び跳ねた。ブタさんは、そんなタロウを温かい目(陶器の割れ目)で見守っている。

「どうだ、自分の力で買ったゲームの重みは?」 「すごい! 今までのゲームと全然違う! だってこれは、皿洗い166回分の価値があるんだ!」 「正しいお金の感覚が身についてきたな。それに、SMARTの法則で目標を立てたからこそ、達成できたんだぞ」

タロウはゲームを開けながら、ふと考えた。

「ねえ、ブタさん。これからもっとお金を増やすには、どうしたらいいの?」 「いい質問だ。まずは、この三つの基本を忘れずに続けること。働く、預ける、投資する。その上で、もっと大きな“種”をまくことを考えよう」 「大きな種?」 「そうだ。例えば、自分の趣味を仕事にする、とか。自分にしかできないことを見つける、とか。つまり、“自分自身に投資する”ってことだ」 「自分に投資?」 「自分のスキルや知識を磨けば、それだけ多くのお金を稼げるようになる。勉強も、習い事も、全部“自分への投資”だ。お金の三つの役割で言えば、自分の能力を高めることは、将来の『価値の貯蔵』になるんだ」 「なるほど。つまり、僕が今やってる『ドラゴンクエスト』でモンスターを倒す経験も、いつか役に立つってこと?」 「……それはさすがに無理があると思うがな。でも、ゲームで培った集中力や計画性は、勉強にも活かせるかもしれないぞ」

ブタさんは、そう言いながらも、どこか楽しそうだった。

タロウはゲームを起動しながら、心の中で誓った。 「いつか、もっと大きなお金の種をまいて、大きな木に育てるんだ。そして、その木の下で、いろんな人と笑い合いたいな」

外では、朝顔の双葉がぐんぐんと伸びていた。タロウが毎日水をあげたからだ。お金も同じ。ちゃんと育てれば、必ず大きくなる。

その日の夜、タロウはお金の種まき日記にこう書いた。

『今日、ドラクエを買いました。自分の力で買ったゲームは、すごく特別なものに感じます。SMARTの法則で目標を立て、三つの方法(働く・預ける・投資する)を組み合わせて達成できました。次は、ブタさんに教えてもらった“投資”にチャレンジしてみたいです。でも、まずはちゃんと勉強します。お金の種を育てるには、知識という水が一番大事だって、今日改めてわかりました。そして、24時間ルールや欲しいものリストも、これからも使い続けます。』

タロウの“お金を増やす冒険”は、まだ始まったばかりだった。

【第6章のまとめ】〜お金の種まき術〜

  • お金を増やす三つの方法

1. 働く:自分の時間と労力を使ってお金を稼ぐ。一番確実だが、自分の時間を消費する。お金の“重み”を体で覚えられる最大のメリットがある。 2. 預ける:銀行にお金を預けて利息をもらう。安全だが、増えるスピードは非常に遅い。お金の三つの役割のうち『価値の貯蔵』を実践する方法。 3. 投資する:お金に働いてもらい、増やす可能性を追求する。リスクはあるが、リターンも大きい可能性がある。銀行預金との組み合わせ(分散投資)が賢い。

  • 利息の考え方
  • 単利:元本だけに利息がつく。シンプルでわかりやすいが、増え方は控えめ。
  • 複利:元本+利息に利息がつく。時間が経つほど効果が大きくなる“雪だるま方式”。
  • 目標設定のSMARTの法則をおさらい
  • S(具体的):はっきりとした目標
  • M(数字で):いくら必要なのか数字で表す
  • A(達成できる):無理のない目標
  • R(関連性がある):自分にとって本当に大事か
  • T(期限を決める):いつまでに達成するか
  • 努力と時間がお金を育てる
  • お金を増やすには、コツコツとした努力が欠かせない。
  • 「三日坊主」にならないために、記録をつけたり、目標を明確にすることが大切。
  • 時間をかければかけるほど、複利の効果は大きくなる。
  • 既存のツール(24時間ルール、欲しいものリスト、おこづかい帳)を継続して使うことが成功のカギ。

最後に、一番大事なこと。 お金の種まきに失敗はない。大切なのは、種をまき続けること。そして、水をあげるのを忘れないことだ。

さあ、あなたも今日から、あなただけの“お金の種”をまいてみませんか?

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 7
投資ってなに?〜アイスクリーム屋さんになろう〜

第7章 投資ってなに?〜アイスクリーム屋さんになろう〜

夏休みも中盤に差し掛かった、とある暑い日のこと。

タロウはリビングでダラダラと扇風機の風にあたりながら、テレビを見ていた。画面では「夏のアイスクリーム特集」という番組が流れていて、カラフルなかき氷やクリームたっぷりのソフトクリームが次々と紹介されていた。

「あー、アイス食べたいなあ…」

タロウのつぶやきを聞きつけたママが、冷蔵庫から麦茶を取り出しながら言った。

「アイスねえ。そういえばさっき、町内会の回覧板に『夏祭りの屋台出店者募集』って書いてあったわよ」

「屋台?お祭り?」タロウがぱっと顔を上げる。「それって、なんか売っていいってこと?」

「そうそう。申し込みすればね。ちなみに、出店料は無料で、売り上げの一部を町内会に寄付するシステムみたい。タロウ、やってみたいの?」

タロウの目が輝いた。アイスクリームを売る自分を想像するだけでワクワクしてきた。しかし同時に、ある不安もよぎる。

「でも…アイスを売るには、まずアイスを買わなきゃいけないよね?お金がいる…」

その時、タロウの背中から聞き慣れた低めの声がした。

「ブヒブヒ。それが『投資』の始まりというやつだ」

振り返ると、部屋の棚の上からブタさんがこちらを見つめていた。いつもは自分の部屋で話しかけてくるブタさんが、なぜかリビングまで移動している。

「ブタさん!なんでここに?」

「お前がアイスの話で盛り上がっているのを感じ取ってな。これはいい機会だと思って、ちょっと顔を出したのだ」

「でも、ママの前で話しても大丈夫なの?」

ブタさんは微妙な表情を浮かべた(ただし、陶器の顔なので変わらないが)。

「うむ…実は、お前のママは私の存在に気づいていないようだ。ただの貯金箱としか認識していない。だから、私と話すときは周りから見ると独り言にしか見えん。恥ずかしいがな」

ママはキッチンで料理をしながら、「タロウ、誰と話してるの?」と首をかしげた。

「え?あ、ううん!なんでもない!」

タロウは慌ててごまかしながら、こっそりブタさんに話しかけた。

「ブタさん、アイスを売るのに投資が必要ってどういうこと?」

「フン。簡単だ。『投資』とは、未来のために今のお金や時間を使うことだ。お前が今、アイスを仕入れるためにお金を使う。それは、『明日の利益』を期待してのこと。まさに投資の基本だ」

「なるほど…」

その時、玄関のチャイムが鳴った。ママが出ると、サクラが立っていた。

「こんにちは!タロウいる?」

「サクラ!ちょうどいいところに!」

サクラは玄関から入るやいなや、テーブルの前にちょこんと座った。

「さっきブタさんから投資の話を聞いてたんだ!」

「ブタさん?」サクラが首をかしげる。

「えっと…あ、この貯金箱!ブタさんって呼んでるんだ!」

「変わった名前だね。まあいいや。それで、投資の話?」

サクラは得意げにうなずいた。

「いいね!ちょうど俺も、お金を増やす方法を考えてたところなんだ。タロウ、一緒にやってみない?」

まずは計画を立てよう!

二人はテーブルにノートを広げた。タロウの手元には、いつも使っている『おこづかい帳』もある。

「まず、用意するものを書き出してみよう」

サクラがペンを取り出し、ノートに書き始めた。

【アイスクリーム屋台 準備リスト】 1. アイスクリーム(濃厚ソフトクリーム)…1本150円 × 何本? 2. 保冷剤とクーラーボックス…もしかしたら家にある? 3. 紙ナプキン…100円ショップで買える 4. 看板…段ボールとマジックで手作り 5. お釣り用の小銭…あったほうがいい 6. お店の名前…決めよう!

「おおっ、結構いろいろいるんだなあ」

「そうそう。でも、全部お金をかけなくていいものもあるよ。例えば、クーラーボックスはママに借りられるんじゃない?」

タロウがママの方を向くと、ママはうなずいた。

「いいわよ。それに、保冷剤もうちにたくさんあるから貸してあげる」

「お釣りの小銭も、家にある貯金箱から出せるな…」タロウは考え込んだ。「だからか!投資って『今あるもの』を使って未来の儲けを生み出すってことなんだな!」

その言葉に、ブタさんが棚の上から声をかけた。

「ブヒブヒ。よく理解できたようだな。だが、投資において最も大事なのは『元手』と『リスクの計算』だ。まずは具体的な数字を出してみよ」

タロウは自分の貯金箱の残高を確認した。現在の貯金額は3200円。目標は5000円だったけれど、まだ足りない。

「でも…3200円でアイスを何本買えるんだろう?」

「計算してみよう。1本150円だから、3200÷150…」サクラは電卓を叩く。「21.333…だね。つまり21本買えるけど、ぴったりじゃないから端数が出る。現実的には20本買って、残り200円を保冷剤や看板代に充てる、ってところかな?」

「20本か…全部売れたらいくらになるんだろう?」

ブタさんが低い声で口を挟んだ。

「ふん。単純な掛け算だ。仕入れ値は20本×150円=3000円。1本200円で売れば、売上は20本×200円=4000円。差額の1000円が利益だな。もっとも、これは全て売れた場合の話だが」

「1000円かあ…悪くないな!」

「でも、もし全部売れなかったら?」ブタさんの目(のような模様)が光った。「例えば、半分の10本しか売れなかったら?売上は2000円。仕入れの3000円は既に使っているから、差し引き1000円の赤字だ」

タロウは顔色を変えた。

「えっ!赤字になっちゃうの?」

「投資には必ずリスクがつきものだ。儲かるかもしれないが、損をする可能性もある。これが投資の本質だ」

ママが優しく説明した。

「そうね。投資は『必ず儲かる』わけじゃないの。どれだけリスクを理解して、そのリスクに備えられるかが大切なのよ」

タロウは少し怖くなったが、同時に挑戦してみたい気持ちも強かった。

「じゃあ、できるだけリスクを減らすにはどうすればいいんだろう?」

リスクを減らす作戦会議

三人(と一匹のブタ)は真剣に作戦を練り始めた。

「まず、アイスが溶けないようにするのが大事だよな。夏の暑い日だし」

「そうだね。だから、クーラーボックスに保冷剤をたくさん入れて、さらにタオルで包んで冷気を逃がさないようにしよう」

「あと、売るときに氷を入れたバケツにアイスを立てておくのもいいって聞いたよ」とサクラが付け加えた。

「それから、たくさん売るためには宣伝も大事だよね」

「うん。看板は派手な色を使って、『超濃厚!夏限定!ソフトクリーム1本200円!』って書こう。それに、のぼりも作ったら目立つかな?」

「いいね!それと、『最初の10人には特典』とかやると、お客さんが呼び込めるかもしれない」

その時、ブタさんが口を挟んだ。

「ブヒ。それも良いが、もう一つ大事なことを忘れているぞ。『分散投資』の考え方だ」

「分散投資?」

「そうだ。一つのものに全てを賭けるのは危険だ。例えば、アイスだけに全額を投資するのではなく、少しだけ別の飲み物などを用意しておくのも手だ。もしアイスが売れ残っても、飲み物が売れるかもしれない」

「なるほど!リスクを分散させるってことか!」

「その通り。そしてもう一つ、『長期投資』の視点も大事だ。今日の屋台で失敗しても、その経験を次に活かせば長期的にはプラスになる。目先の損得だけに一喜一憂するな」

タロウたちは夢中で計画を練った。気づけばノートは5ページにもなっていた。その中には、売上の予測、経費の詳細な計算、リスクヘッジの方法がぎっしりと書かれていた。

【経費の明細計算】

  • アイスクリーム仕入れ:20本 × 150円 = 3000円
  • 紙ナプキン:100円(100円ショップ)
  • 看板材料:段ボールとマジック(家にあるため0円)
  • 小銭準備:自宅の貯金箱から1000円分(お釣り用)
  • クーラーボックス・保冷剤:ママから借りる(0円)
  • 合計投資額:3100円

「よし、これで準備は整ったぞ!」

「でも、まだ決めてないことがあるよ」サクラが指を一本立てた。

「なに?」

「『屋台の名前』だよ。名前がないと、お客さんに覚えてもらいにくいだろ?」

「名前かあ…『タロウのアイス屋さん』?いや、それじゃ普通すぎるな…」

「『あっちむいてほいアイス』はどう?」ママが茶化す。

「違うよママ!」

三人(と一匹)であれこれ考えた結果、最終的に『サマー・ドリーム・アイスクリーム』という名前に決まった。タロウが「夏の夢を売る」というコンセプトを気に入ったのだ。

いよいよ当日!

夏祭りの日は、朝から快晴だった。空は真っ青で、太陽がギラギラと照りつけている。

「今日こそ、アイスを売るぞ!」

タロウは朝6時に起きて、すべての準備を確認した。クーラーボックスにぎっしり詰まったアイスクリーム20本。看板やのぼりも完璧だ。お釣り用の小銭も用意した。

「よし、行くぞ!」

ママと一緒に、屋台のある神社の境内へ向かう。途中でサクラにも会った。

「おはよう!準備はバッチリ?」

「おう!今日は絶対に儲けてやる!」

境内に着くと、すでに他の出店者たちが準備を始めていた。焼きそばの香ばしい匂い、たこ焼きのソースの香り、輪投げの景品が並ぶ様子…タロウの胸は高鳴った。

「ここがうちの場所か!」

割り当てられたスペースにテーブルを置き、看板を立て、クーラーボックスを開ける。パッケージから取り出したアイスクリームは、冷気をまとってキラキラと輝いていた。

「ああ、いい感じだ」

「よし、じゃあサクラは宣伝係をやるよ!」サクラがのぼりを手に立ち上がる。

「『いらっしゃいませ!サマー・ドリーム・アイスクリームへようこそ!濃厚ソフトクリームをどうぞ!』」

その声に驚いたのか、通りかかったおばあさんが足を止めた。

「まあ、かわいい屋台ね。一つくださいな」

「はい!200円です!」

タロウが震える手でアイスを渡す。おばあさんは財布から200円玉を取り出し、タロウの手に握らせた。

「あ、ありがとうございます!」

最初の売上が立った。タロウの心臓がドキドキしている。これが『商売の楽しさ』なんだ!

「やったね!まず1本売れたよ!」サクラがハイタッチを求めてくる。

「よし、この調子でどんどん売るぞ!」

しかし、アクシデントは突然に…

順調に売れていき、3本、5本、10本…昼過ぎには15本が売れていた。売上は3000円。仕入れ値がまだ回収できていないけれど、このペースなら夕方までには完売できる見込みだった。

「すごいな!この調子ならもう少し値上げしてもよかったかもな!」

「調子に乗るのはまだ早いよ。残り5本、しっかり売ろう」

そう言った瞬間、空が曇り始めた。遠くで雷の音がゴロゴロと鳴っている。

「え?まさか…」

ポツリ、ポツリと、大粒の雨が落ちてきた。

「ヤバい!アイスが濡れる!」

タロウは慌ててクーラーボックスを屋根の下に移動させようとした。しかし、雨はあっという間に本降りになり、境内にいた人々は一斉に屋根のある場所へ避難し始めた。

「お客さんが…一人もいなくなった…」

雨の音だけが聞こえる境内。屋台はビニールシートで覆われているけれど、外で売るのは不可能だ。

「このままじゃ、残りの5本が売れない…」

タロウは絶望的な気持ちになった。仕入れに使った3000円のうち、まだ回収できていないのは1500円分。つまり、このままでは赤字になる。

「どうしよう…どうしよう…」

「落ち着け、タロウ」サクラが肩をポンと叩く。「まだ方法はある。雨が止むまで待って、その後に売ろう」

「でも、もし雨が止まなかったら?」

「その場合は…」

サクラが言いかけた時、背後から声がした。

「どうしたの?二人とも、そんな暗い顔をして」

振り返ると、ママが傘を差して立っていた。

「ママ!アイスが売れないんだ!雨でお客さんが来ないし、このままじゃ5本も余っちゃう!」

ママはしばらく考え込み、そして優しく微笑んだ。

「タロウ、投資のもう一つの大切なことを教えてあげる。それは『失敗したときのリスクをどう受け止めるか』ってことよ」

「リスクを…受け止める?」

「そう。投資はいつもうまくいくとは限らない。天気のようにコントロールできないこともある。大切なのは、失敗から学んで次に活かすことよ」

タロウはしょんぼりと肩を落とした。

「でも…損しちゃうんだよ…」

「じゃあ、今からできることを考えてみよう。例えば、残りのアイスをどうするか。冷凍庫で保存して、明日また売ることはできる?」

「ダメだよママ。今日しか屋台は出せないんだ」

「じゃあ、近所の人に安く譲るとか?あるいは、今ここで食べてもらうとか?」

「今ここで…?」

タロウは周りを見渡した。境内の雨宿りスペースには、何人かの人が立っている。彼らもきっと退屈しているはずだ。

「そうだ!今ここにいる人たちに、安く売ってみよう!」

タロウは勇気を振り絞って声を上げた。

「すみませーん!雨宿りの間に、アイスクリームはいかがですか?今日は特別に、1本150円でお売りします!」

するとどうだろう。予想に反して、何人かの人が興味を示した。

「あら、涼しそうね。一つくれない?」

「俺も一つもらおうかな」

「子どもがアイス食べたいって騒いでるし、買ってあげようか」

なんと、5本のアイスが一気に売れた!しかも150円だから、少なくとも元は取れた。

「やった!全部売れた!」

タロウは嬉しさのあまり、雨の中でぴょんぴょん跳ねた。サクラも笑顔でハイタッチをした。

「よくやったな、タロウ。最後まで諦めなかったのが良かったんだ」

「うん…でも、ちょっと怖かったよ。もし最後の5本が売れなかったら、本当に赤字だったんだもん」

ママがうなずいた。

「それが『リスクの現実』よ。投資は、うまくいけば利益を得られるけれど、失敗すれば損失を被ることもある。でも、タロウは今日、そのリスクをちゃんと受け止めて、最後まで行動した。それが一番大切なことよ」

お金の種まきと投資の真実

家に帰って、タロウはその日の収支を計算した。ノートに丁寧に書いていく。

【収支報告書】

  • 通常販売:15本 × 200円 = 3000円
  • 雨の日販売:5本 × 150円 = 750円
  • 売上合計:3750円
  • 仕入れ値:20本 × 150円 = 3000円
  • その他経費:紙ナプキン100円
  • 純利益:3750円 - 3000円 - 100円 = 650円

「え?650円しか儲かってないの?」

がっかりしているタロウに、ブタさんが棚の上から話しかけた。

「ブヒブヒ。儲けの額だけを見てはいけないぞ、タロウ。今日君が得たものは、650円以上の価値がある」

「え?どういうこと?」

「君は実際に投資をして、その結果、650円の利益を得た。しかし、それ以上に、『投資はリスクを伴う』という重要な教訓を学んだだろう。それは教科書だけでは得られない、生きた知識だ。お金を使うことの意味、商売の難しさ、そしてリスクへの対処法。これらは将来、もっと大きな投資をする際に必ず役立つ」

サクラも横から口を挟んだ。

「そうそう。それに、今回の経験を活かせば、次はもっと上手くやれるよ。例えば、天気予報をちゃんとチェックするとか、雨が降った時のための代替案を用意しておくとかね。それに、『長期投資』の考え方で言えば、今日の650円を次の投資の種にすればいいんだ」

「つまり…失敗も学びの一つってこと?」

「その通り!」ブタさんとサクラが同時にうなずいた。

ママが台所から顔を出した。

「タロウ、今日の経験で一番大事なことを教えてあげる。投資の本質はね、『お金を増やすこと』だけじゃないの。『未来の選択肢を増やすこと』でもあるのよ」

「未来の選択肢?」

「そう。例えば今日、タロウはアイスクリーム屋さんをやってみて、『自分は商売に向いているかどうか』を知ることができた。これは、将来の職業選択のヒントになる。もし合わなかったとしても、『これは自分には向いていない』とわかったこと自体が大きな収穫よ」

ブタさんが得意げに付け加えた。

「さらに言えば、投資にはもう一つ大事な選択肢がある。『分散投資』と『長期投資』だ。今日のように一つのアイスに全額を賭けるのではなく、預金と投資を組み合わせるのが賢い方法だ。銀行に安全に預けておく部分と、自分でチャレンジする部分を分ける。これが『リスクとリターンのバランス』というやつだ」

タロウは深く考え込んだ。

投資って、ただお金を増やすだけじゃないんだ。未来の自分を育てるための行動なんだな。それに、リスクを理解して、ちゃんと準備をすることも大事なんだ。

まとめ:投資の三原則

ブタさんが得意げに語り始めた。

「よし、今日の学びを整理しよう。投資には三つの原則がある」

第一の原則:投資は未来のための今の選択である 「タロウが今日、自分のお金を使ってアイスを仕入れたのは、『明日の利益』を期待してのことだ。これはまさに『未来のために今を使う』という投資の本質だ」

第二の原則:利益と損失は表裏一体(リスクとリターンの関係) 「うまくいけば利益が出るが、うまくいかなければ損失が生じる。投資には必ずリスクが伴う。だからこそ、事前の準備と計画が大切なのだ。また、リスクを減らすには『分散投資』が有効だ。一つのものに全てを賭けるな」

第三の原則:リスクを理解してチャレンジする 「リスクを恐れて何もしないのが一番安全だが、それでは何も得られない。大切なのは、リスクを理解した上で、それを乗り越える方法を考えながら挑戦することだ。目先の損得に一喜一憂せず、長期的な視点を持つことも大事だ」

「ブヒブヒ。今日のタロウは、立派な投資家の第一歩を踏み出したと言えるだろう」

タロウは自分の手を見つめた。まだ小さなこの手で、今日、初めて『商売』をした。3100円を投資して、たった650円の利益。でも、その先にあるものは数字では測れないほど大きい。

「そうだ、ブタさん。もう一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「投資って、お金を増やすだけじゃなくて、経験や知識も増やすものなんだよね?」

「その通り。まさにその理解ができたなら、君はもう立派な投資家だ。お金だけでなく、自分の人生に投資することを覚えたのだから」

タロウはにっこり笑った。

「よし!じゃあ明日から、もっと色んなことに挑戦してみよう!今日の650円を元手に、次の投資を考えたい!」

「落ち着け落ち着け」ママが笑いながら止める。「まずはちゃんと休んで、明日の計画を立てましょう。でも…その意気や良し!」

その夜、タロウはベッドの中で考えた。

投資って、難しい言葉だけど、実はすごくシンプルなんだ。『未来を信じて、今がんばること』。それって、アイスクリーム屋さんだけじゃなくて、勉強や友達づきあいにも同じことが言えるなあ。

例えば、今、宿題をがんばるのも投資だ。未来の自分がテストで100点を取れるように。友達に優しくするのも投資だ。未来の自分が困ったときに助けてもらえるように。

「ふふ、お金だけの話じゃなかったんだな」

タロウはそうつぶやいて、眠りについた。

翌日、タロウは『投資日記』をつけ始めた。今日のアイスクリーム屋さんの経験を、細かく記録するノートだ。そこには、売れた数、儲け、学んだこと、次に活かしたいことがびっしりと書かれていた。

「おお、これは立派な投資家の日記だな」とブタさんが褒めてくれた。

タロウはちょっと照れながらも、誇らしげに笑った。

「うん!これからも、色んなことに投資していくぞ!」

こうして、タロウの投資家としての第一歩は、甘くて少し苦い、夏の思い出とともに刻まれたのだった。


【この章で学んだこと】

  • 投資は「未来のために今の資本を使う」こと
  • 利益を得るには、仕入れ値より高く売る必要がある
  • 投資には必ずリスクが伴う(リスクとリターンは表裏一体)
  • リスクを恐れず、でも準備を怠らないことが大切
  • 失敗から学ぶことが、次の成功につながる
  • 投資はお金だけでなく、経験や知識を増やすことも含む
  • リスクを減らすには分散投資(預金と投資の組み合わせ)が有効
  • 長期的な視点を持つことが重要(長期投資の考え方)
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CHAPTER 8
株って何?〜会社の小さなオーナー〜

第8章 株って何?〜会社の小さなオーナー〜

謎の書類とワクワクする文字

ある日曜日の午後、タロウがリビングのテーブルで宿題をしていると、ママが封筒を一枚テーブルにポンと置いた。

「タロウ、ちょっと面白いものを見せてあげるね」

封筒には「株主総会のご案内」と書かれていた。

「かぶぬしそうかい? なにそれ、かぶってなに? 野菜の株?」

「おしい! 野菜の『株』は『かぶ』って読むけど、お金の『株』は『かぶ』……あれ、どっちも『かぶ』だね。でも中身は全然違うんだよ。野菜の株は土の中で育つけど、お金の株は会社の中で育つんだ」

ママは笑いながら封筒を開け、中から書類を取り出した。

「この書類ね、ママが持っている株に関するお知らせなんだ」

「ママ、株なんて持ってるの!?」

タロウの目がまん丸になる。ママはパートで働いているけど、まさか株なんて買っているとは思わなかったのだ。

「うん、パートの仕事とは別にね。少しずつだけど、将来のために投資しているんだよ」

タロウは書類をじっくり眺めた。難しい漢字が並んでいるが、「配当金」とか「株主優待」という言葉が目に飛び込んできた。

「はいとうきん? しゅぬしゅゆうたい? なにそれ?」

「いい質問だね。今日はタロウに、株の世界をちょっと案内してあげようか」

ママはそう言うと、おもむろにホワイトボードを取り出した。どうやら本気で教えるつもりらしい。

おかし株式会社の誕生

「まずはね、タロウの大好きなものから考えよう。何が好き?」

「チョコレート!」

「よし、じゃあタロウが『タロウのおかし株式会社』っていう会社を作ったとしよう」

ママはホワイトボードに「タロウのおかし株式会社」と書いた。

「この会社では、世界一おいしいチョコレートを作って売るんだ。でもね、チョコレートを作るにはお金がかかる。材料を買うお金、工場を建てるお金、働く人に払うお金……全部で100万円必要だとするよ」

「100万円!? そんなお金、持ってないよ!」

「そうだよね。そこで登場するのが、この『株』という仕組みなんだ。タロウは100万円を持っていないけど、周りの人たちからお金を集めることができる。『この会社にお金を出してくれた人には、将来利益が出たらその一部をあげます』って約束するんだ」

「それって、借金みたいなもの?」

「鋭いね! 似ているけど違うんだ。借金は『必ず返さなきゃいけないお金』だけど、株は『出してもらったお金』で、返す必要はないんだ。その代わり、お金を出した人は『この会社の一部を持っている人』=『株主』になるんだよ」

「株主……なんか難しそうな響きだね」

「でも言い換えれば、『会社の小さなオーナー』なんだよ。つまり、マクドナルドの株を持っていたら、あなたもマクドナルドのオーナーの一人ってことになる」

「え!? マックのオーナーになれるの!?」

タロウの目がキラキラ輝いた。大好きなハンバーガー屋さんのオーナーになれるなんて、夢みたいだ。

「もちろん、マックを全部買えるわけじゃないよ。でも、マックの株を1株持っていれば、マックという巨大な会社の、ほんの小さな欠片のオーナーになれるんだ」

「すごい! じゃあ今すぐマックの株を買いたい!」

「待って待って。まずは基本を理解しようね」

株の正体は「会社の小さな切れ端」

ママはホワイトボードに丸い図を描き始めた。

「会社っていうのはね、一つの大きなケーキみたいなものなんだ。そして株は、そのケーキを小さく切った一切れずつ。一つ一つのケーキの切れ端が『株』で、それを持っている人が『株主』。つまり『会社の切れ端の持ち主』ってわけ」

「会社の切れ端……なんか食べられそうだね」

「そういう意味じゃないよ!(笑)でも、いいところに気づいたね。実は株のことを『株式(かぶしき)』とも言うんだけど、『式』には『切符』とか『券』みたいな意味もあるんだよ。例えば電車の切符で目的地に行けるように、株を持っていると会社のオーナーとしての権利が得られるんだ」

「なんだかわかってきたよ。株を持っていると、会社の一部をちょっとだけ持っているってことだね」

「大正解! じゃあ、もし誰かが株をたくさん持っていたらどうなると思う?」

「うーん……その人の言うことを会社が聞かないといけないのかな?」

「大正解! たくさん株を持っている人が『大株主』で、会社の大事な決めごとに参加できるんだ。例えば『次の社長はこの人にしよう』とか『新しい商品はこれを開発しよう』とかね」

「ええっ! そんなことまで決められるの!?」

「もちろん、全部を一人で決められるわけじゃないよ。でも、たくさんの株を持っている人の意見はとても重いんだ。だから株主は、会社の『小さなオーナー』と呼ばれるんだね」

おかし株式会社の株を買ってみよう

「よし、じゃあ実際にやってみようか。タロウが作った『タロウのおかし株式会社』の株を、ママが買うとしよう」

ママは紙を一枚取り出し、そこに「株券(かぶけん)」と書いて、タロウに渡した。

「この株券は、『タロウのおかし株式会社』の株を1株持っている証拠だよ。1株の値段は今なら1000円。ママは1000円払ってこれを買うね」

ママは財布から1000円を取り出し、タロウに差し出した。

「本当に1000円くれるの!?」

「うん。ただし、この1000円はタロウが自由に使っていいお金じゃないよ。これで材料を買って、チョコレートを作って、売って、儲けなければいけないんだ」

タロウは1000円を受け取り、何だか緊張した面持ちになった。

「じゃあ、まずは材料を買いに行こうかな……」

「ちょっと待って。株主としての権利も教えておくね。ママが1株持っていることで、二つの特権があるんだ。一つ目は『配当金(はいとうきん)』。もし会社が儲かったら、その利益の一部を株主に配るんだ」

「配るって、お金をくれるの?」

「そう。例えば100万円儲かったら、そのうちの10万円を株主全員で分けるって決める。ママは1株持っているから、その分の配当金がもらえるんだ」

「じゃあたくさん株を持っている人は、たくさんお金がもらえるんだね」

「その通り! そして二つ目の特権が『株主優待(かぶぬしゆうたい)』。これは会社の商品やサービスを特別に安く買えたり、無料でもらえたりするんだ」

「例えば?」

「例えば、ある航空会社の株を持っていると、飛行機のチケットが安くなったり、あるホテルの株を持っていると、宿泊料金が割引になったりするよ。そしてなんと、お菓子メーカーの株を持っていると、年に一度、その会社のお菓子が詰め合わせで送られてくることもあるんだ」

「ええっ! お菓子が届くの!?」

タロウは飛び上がらんばかりに驚いた。株を持っているだけで、大好きなお菓子が家に届くなんて、夢のような話だ。

「そうなんだ。だから『おかし株式会社』の株を持てば、きっとタロウの大好きなチョコレートが届くかもしれないね」

「わかった! じゃあママはタロウのおかし株式会社の株主だから、タロウが儲けたら配当金を払わなきゃいけないし、お菓子も届けなきゃいけないんだね」

「その通り。株主は会社のオーナーだから、ちゃんと責任を持たないといけないんだよ」

タロウは1000円を握りしめ、真剣な顔で考えた。

「うーん、じゃあ材料を買って、チョコレートを作って、売らなきゃね。でも、誰に売ろうかな……」

「いい質問だよ。それがこれから話す、株価の変動に関係してくるんだ」

株価が上がったり下がったりするのはなぜ?

「さて、タロウのおかし株式会社が軌道に乗って、順調にチョコレートを売っているとするね。そしたらどうなると思う?」

「儲かる!」

「そう。でも、儲かるのはタロウだけじゃないんだ。周りの人が『おかし株式会社、すごく流行ってるらしいよ』『あの会社のチョコレート、めっちゃ美味しいんだって』って噂を聞くようになる」

「そりゃそうだよ、世界一美味しいんだから!」

「そしてね、その噂を聞いた人たちが、『じゃあ俺もあの会社の株を買いたい』って思うようになるんだ」

ママはホワイトボードにグラフを描き始めた。

「最初は1株1000円だった株なのに、『買いたい!』って人が増えると、株の値段が上がっていくんだ。だって、みんなが欲しがるものは値段が上がるでしょ?」

「わかる! 限定品のポケモンカードみたいなものだね!」

「その通り! だから需要と供給の関係なんだ。買いたい人が多ければ値段は上がるし、売りたい人が多ければ値段は下がる」

「でもさ、逆に『この会社のチョコレート、まずいって評判だよ』ってなったらどうなるの?」

「いいところに気づいたね。そうなると、株を売りたい人が急に増えるんだ。『早く売らなきゃ!』って。すると株の値段は下がる。これが株価の変動の基本なんだよ」

タロウはうんうんと頷いた。

「つまり、会社の評判が良いと株価が上がって、評判が悪いと株価が下がるんだね」

「その通り! でも、評判だけじゃないんだ。例えば会社が新商品を発表したら株価が上がるかもしれないし、逆に工場で事故が起きたってニュースが流れたら株価が下がるかもしれない。自然災害で材料が手に入らなくなったら……なんてこともある」

「会社の外のことで、株価が変わっちゃうこともあるんだね」

「そう。だから株価の動きは、天気予報みたいなものなんだ。明日の天気はわからないけど、だいたいの傾向は予測できる。でも、絶対に当たるとは限らない」

値上がり益って何?〜キャピタルゲインの話〜

「ところでタロウ、株を持っているともう一つ儲ける方法があるんだ。知ってる?」

「え? 配当金と優待以外にもあるの?」

「そうなんだ。『値上がり益(ねあがりえき)』って言って、株価が上がった時に株を売って利益を得る方法だよ。専門用語では『キャピタルゲイン』って呼ばれている」

「キャピタルゲイン……なんかかっこいい響きだね」

「例えば、タロウが1000円で買った株が1200円に値上がりしたとする。その時に売れば、200円の利益が出る。これが値上がり益なんだ」

「なるほど! 株を買った値段と売った値段の差額が利益になるんだね」

「その通り! 先ほどの紙芝居で体験した通り、株価は毎日変わる。だから『安い時に買って、高い時に売る』ことで利益を得られるんだ。ただし、逆に『高い時に買って、安い時に売る』と損をすることもあるから注意が必要だよ」

タロウ、株主になって一喜一憂

「よし、じゃあ実際にここからはタロウが『おかし株式会社』の株主になってみよう!」

ママはタロウの前に、新しく印刷した紙を置いた。そこには「株主カード」と書いてある。

「このカードは、タロウがおかし株式会社の株を1株持っている証拠だよ。1株1000円ね。さあ、実際に株価が動く体験をしてみよう」

ママはスマートフォンを取り出し、架空のおかし株式会社の株価アプリ(もちろん手作りの紙芝居)を開いた。

「現在の株価は1000円です。さあ、ここでニュースです!『おかし株式会社、新商品「ヘンな味グミ」を発売! 子ども達に大人気!』」

「やったー! 最高のグミを作ったよ!」

「このニュースを受けて、株価が上昇! 現在1200円!」

「わあ! 僕の株が200円も値上がりした! これがキャピタルゲインってやつだね!」

タロウは飛び上がって喜んだ。たった1株なのに、自分が持っているものの価値が増えるのが本当に嬉しかった。

「ところがどっこい、続いてのニュースです!『おかし株式会社の工場でチョコレートが溶ける事故発生! 生産がストップ!』」

「えええっ!? そんなことになるの!?」

「このニュースを受けて、株価が急落! 現在800円!」

「うわーん! 200円も減った!」

タロウはわざとらしく床に転がって悲しんだ。たった数秒で一喜一憂する姿に、ママは思わず笑ってしまう。

「ね? 株って面白いでしょ。でも、こんな風に一喜一憂してしまうと、頭が疲れちゃうんだよね」

「確かに……毎日こんなに上がったり下がったりしてたら、心臓がもたないよ」

長期投資と短期売買の違い

「そこで大事なのが、『どのくらいの期間、株を持ち続けるか』という考え方なんだ」

ママは新しいページをめくり、二つのグラフを描いた。

「一つ目は『短期売買(たんきばいばい)』。これは、株価が上がったらすぐに売って利益を得ようとする方法だよ。デイトレードとも言うんだけど、一日のうちに何度も売ったり買ったりするんだ」

「えー、そんなの大変そう!」

「そして二つ目が『長期投資(ちょうきとうし)』。これは、何年も何十年も株を持ち続ける方法だ。例えば、ママが持っている株の中には、もう10年以上持っているものもあるよ」

「10年も!? そんなに長く持ってて飽きないの?」

「株は飽きるものじゃないんだよ(笑)。長期投資のいいところは、会社の成長をじっくり待てること。短期間で株価が上下しても、長い目で見れば、良い会社はだいたい成長していくんだ」

「つまり……すぐに一喜一憂しなくていいってこと?」

「そういうこと! まるで朝顔の種を植えるみたいなものだね。タロウが育てている朝顔も、種を植えた翌日に芽が出るわけじゃないでしょ?」

「うん、水をあげて、日光を当てて、何日も待ってやっと芽が出たよ」

「株も同じ。投資したらすぐに結果が出るわけじゃない。会社が成長して、利益を出して、それが株価に反映されるまでには時間がかかるんだ。だから長期投資は『会社を育てる』感覚に近いんだよ」

タロウは窓辺に置いてある朝顔の鉢を見た。確かに、種を植えたその日に花が咲くなんてありえない。毎日水をあげて、世話をして、長い時間をかけてやっと大きく育つのだ。

「じゃあ、短期売買っていうのは悪いことなの?」

「悪いことじゃないよ。プロの投資家の中には、短期売買で利益を出している人もたくさんいる。でもね、短期売買はとても難しい。まるでジェットコースターに乗っているみたいに、感情が激しく揺れるんだ」

「確かに、さっきの体験だけで頭がクラクラしたもん」

「そう。だからお金の初心者や、子どもが株を始めるなら、長期投資の方がオススメなんだ。長い目で見て、じっくり育てるイメージを持つといいよ」

ブタさん参上! 株の達人からのアドバイス

その時、タロウの部屋の机の上にあるブタの貯金箱が、かすかに光ったような気がした。でもママは気づかず、自分のスマホを見ている。どうやらブタさんの存在は、タロウにしか認識されていないようだ。

タロウはこっそりブタさんに目を向けると、頭の中でブタさんの声が聞こえた。

「タロウよ、株の話をしているな。このブタさんも一言、言いたいことがあるぞ」

(ブタさん! 聞こえてるよ!)

タロウは心の中で返事をしながら、ママに「ちょっとトイレに行ってくる」と言って自室へ向かった。

「ブタさん、株についても知ってるの?」

「当然だ。このブタさん、何年も貯金箱として生きてきた。そして貯金箱として、お金の動きを見てきている。株もまた、お金が成長するための素晴らしい方法だ」

ブタさんは、得意げに鼻先を動かした。

「では、ここでブタさんからの 株の三カ条 を伝授しよう」

ブタさんは重々しく語り始めた。

「第一条:分散投資(ぶんさんとうし)せよ」

「一つの会社にだけ全額を投資するのは危険だ。もしその会社が倒産したら、すべてを失うことになる。だから、いくつかの会社に分けて投資するのが賢い方法だ。お菓子の会社だけじゃなくて、ゲームの会社、自動車の会社、病院の会社……いろんな会社に分けて投資することで、リスクを減らせる」

「リスクって、危険って意味だよね?」

「その通り。一つのかごにたくさんの卵を入れちゃダメ、という言葉がある。もしそのかごを落としたら、全部の卵が割れてしまうからだ。だから複数の会社に分散させるんだ。

例えば、タロウが5000円を投資するとしよう。お菓子の会社に2000円、ゲームの会社に2000円、そして残りの1000円は銀行に預けておく。こうすれば、もしお菓子の会社の株価が下がっても、ゲームの会社が上がればトントンになるかもしれない。預金は安全だから、全額を失うリスクは減るんだ」

「第二条:長期で考えよ」

「さっきも話に出た通り、株は短期間で一喜一憂するものじゃない。10年、20年と持ち続けることで、会社の成長とともに資産も成長していく。長期的に見れば、良い会社の株価は必ず上がる傾向がある。ただし、それは『良い会社』に限るんだがな」

「どうやって良い会社かどうか見分けるの?」

「そこが難しいところだ。でも、普段から会社のことを調べたり、ニュースをチェックしたりすることが大事だ。『この会社の商品、好きだな』『このサービス、よく使うな』という感覚も、一つの目安になるよ」

「第三条:余裕資金(よゆうしきん)で投資せよ」

「株に投資するお金は、生活に必要なお金とは別にしなさい。もし株で損失が出ても、生活に困らないお金で投資するのが鉄則だ。例えば、タロウのお小遣いが月に1000円だとして、毎日のおやつ代を削ってまで株を買うのはダメだ」

「それはそうだね。お腹すいちゃうもん」

「その通り。投資はあくまで、将来のために余っているお金を有効活用する手段だ。決して、生活費を削ってまでやるものではない。まずは、しっかり貯金して、生活に余裕ができてから投資を始めるのが正しい順番だ」

タロウはメモを取りながら、深く頷いた。

実際に株を買うにはどうすればいい?

タロウは部屋に戻ってママに尋ねた。

「ママ、実際に株を買いたいと思ったら、どうすればいいの?」

「いい質問だね。株を買うには、まず『証券会社(しょうけんがいしゃ)』に口座を作る必要があるんだ。大人であればネットで簡単に開設できるけど、子どもは親の同意が必要になることが多いよ」

「証券会社って、銀行みたいなもの?」

「似ているようで少し違うね。証券会社は、株の売買を代行してくれる専門の会社なんだ。銀行はお金を預かるけど、証券会社は株を売り買いするためのサービスを提供してくれる。もちろん、タロウが株を買う時はママかパパが一緒じゃないとできないからね」

「なるほど。じゃあまずは証券会社に口座を作って、それから株を買うんだね」

「そうだよ。最近はスマホのアプリで簡単に株が買えるようになったから、数百円から始められる会社もあるんだ。でも、最初はちゃんと勉強してから始めるのが大事だよ」

株主優待の魅力

「ところで、タロウに伝えたいことがもう一つあるよ」

ママが言った。

「株主優待だ。これは本当に楽しい特典なんだ。タロウの大好きなお菓子の会社の株を持っていれば、年に一度、自慢のお菓子が詰め合わせで届くんだぞ」

「ええっ! 本当に!?」

「例えば、『カルビー』の株を持っていれば、ポテトチップスやかっぱえびせんの詰め合わせが届く。『明治』の株を持っていれば、チョコレートやアイスの詰め合わせが届く。『江崎グリコ』の株を持っていれば、ポッキーやプリッツの詰め合わせ……しかも、ビックリするくらいの量が届くんだ」

「すごい! そんなの絶対に買いたい!」

「ただし、ここで大事なのは『優待目当てで株を買う』のは本末転倒だということだ。優待はあくまでオマケ。会社の成長に期待して投資するのが基本だ」

「でもね、優待があるから株を持ち続けるモチベーションになるってのも、また事実なんだよ。タロウも将来、自分の好きな会社の株を買ってみるといいね。優待が届いた時のワクワク感は、一度味わうとやめられなくなるから」

「うーん、でも株を買うにはお金がかかるんだよね? いくらくらいから買えるの?」

「それがね、最近はとても買いやすくなっているんだ。昔は1株が数万円することもあったけど、今は数百円から買える会社もあるんだよ」

「数百円! それなら僕でも買えるかも!」

「そうなんだ。タロウが貯金している5000円があれば、何社かの株を買うこともできる。ただし、まずはしっかり勉強してからね。証券会社の口座を作るのも、ママと一緒じゃないとできないから、その時は言ってね」

本当の価値は「知識」と「経験」

ママは真剣な顔になって言った。

「タロウ、今日は株についてたくさん学んだね。でも、一番大事なことを忘れちゃいけないよ」

「なに?」

「株も投資も、お金を増やすための道具に過ぎないってこと。本当に大事なのは、そのお金を何に使うか、どんな未来を作りたいか、っていうことなんだ」

タロウは朝顔の鉢を見ながら考えた。

「つまり……お金を増やすことだけが目的じゃないんだね」

「そう。例えばタロウが株を持っていて、そのおかげである程度お金が増えたとする。そのお金をどう使う? ゲームを買う? 友達と一緒に遊園地に行く? それとも、もっと他の株に投資する?」

「うーん……僕なら、みんなで美味しいものを食べに行きたいな。ママとサクラも一緒にね」

「いいね! それこそがお金の正しい使い方だよ。お金は最終的には、人を幸せにするために使うものなんだからね」

タロウは頭の中で、ブタさんの声が聞こえた気がした。

(ブタさんも同感だ。お金そのものが目的ではない。お金を通じて得られる『経験』や『思い出』こそが、本当の価値なんだ。タロウもこれから、もっともっとお金の面白さを学んでいくといい。ただし、決して欲に駆られて無茶はするなよ)

「わかった!」

タロウは元気よく返事をした。今日学んだことは、これからの人生にきっと役に立つだろう。

今日のまとめ〜タロウの株ノート〜

その夜、タロウは新しいノートを取り出し、今日学んだことをまとめた。

『タロウの株ノート』

★株とは?

  • 会社の「小さなオーナー」になること
  • 株を持っている人を「株主」という
  • 株を持っていると、会社の利益の一部(配当金)がもらえたり、会社の商品(株主優待)がもらえたりする

★値上がり益(キャピタルゲイン)とは?

  • 株価が上がった時に株を売って得る利益のこと
  • 「安い時に買って、高い時に売る」のが基本
  • 配当金や優待とは別の儲け方

★株価が変わる理由

  • 会社の評判が良いと株価が上がる
  • 新商品の発表や事故などのニュースでも変わる
  • 買いたい人が多いと上がり、売りたい人が多いと下がる(需要と供給の関係)

★短期売買 vs 長期投資

  • 短期売買:株価の上下で短期間で利益を狙う。ジェットコースターみたいで忙しい
  • 長期投資:何年も持ち続けて会社の成長を待つ。朝顔を育てるみたいにゆったり

★実際に株を買うには

  • 証券会社に口座を作る必要がある(子どもは親の同意が必要)
  • 最近は数百円から買える会社もある
  • スマホのアプリで簡単に売買できる

★ブタさんの株の三カ条 1. 分散投資:一つのかごに卵を入れすぎるな。複数の会社や預金と組み合わせよう 2. 長期投資:じっくり育てる 3. 余裕資金:生活費は削るな。まずは貯金が先

「よし、ちゃんとまとまった!」

タロウはノートを閉じて、窓の外を見た。夜空には星がきらめいている。あの星々のように、世の中にはたくさんの会社が存在していて、その会社の小さなオーナーになれるなんて、なんだかロマンチックだなとタロウは思った。

「いつか、僕もお気に入りの会社の株を買ってみたいな」

そうつぶやくと、タロウはそっと貯金箱に触れた。ブタさんは黙って、ニッコリしているように見えた。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 9
リスクとリターン〜遊園地のアトラクション〜

第9章 リスクとリターン〜遊園地のアトラクション〜

日曜日の、突然の宣言

「ママ!今日は遊園地に連れて行って!」

日曜日の朝、タロウがリビングに飛び込んできて、いきなりそんな宣言をした。ママは新聞を読んでいた手を止めて、にっこり笑った。

「いいわよ。その代わり、今日はお金の勉強をしようね」

「えーっ!遊園地で勉強なんて嫌だよ!」

タロウが不満そうに言うと、ママは笑いながら言った。

「大丈夫。今日は特別な授業よ。題して『リスクとリターン〜遊園地のアトラクション〜』」

「タイトルが長いよ…」

ブタさんがタロウの部屋の棚の上から小声でつぶやいた。「ふむ、遊園地か。実に良い教材だ。お金の三つの役割と、お金の価値の本質を思い出しながら学ぶといいぞ」

三十分後、タロウとママは最寄りの遊園地に到着していた。入場ゲートをくぐると、正面に大きな観覧車と、ぐるぐる回るコースターのレールが見える。

「わあ!ジェットコースターだ!」タロウが目を輝かせる。

「あれに乗りたいの?」

「うーん…ちょっと怖いかも」

タロウの声が急に小さくなった。ママは優しく笑って、園内のベンチに座った。

メリーゴーランドという銀行預金

「じゃあまずは、あっちから行ってみよう」ママが指さした先には、メリーゴーランドがあった。カラフルな馬が音楽に合わせてゆっくりと上下している。

「えー、そんなの子どもの遊びだよ」

「そう?じゃあ乗ってみよう。そして考えてみよう、このメリーゴーランドが何の比喩か」

タロウは仕方なく馬にまたがった。メリーゴーランドはゆっくりと回り始めた。風が気持ちよくて、音楽ものんびりしている。

「ねえ、このメリーゴーランドって、あんまり怖くないよね?」

「そうね。絶対に落ちないようにできているし、スピードも遅い。安定しているわ」

「まるで銀行預金みたいだね」とタロウが言った。

ママが目を丸くした。「すごい!その通りよ。銀行預金は、お金を預けるとちょっとだけ利息がつく。でも、大きく増えるわけじゃない。安全だけど、リターンは小さい」

「つまり、メリーゴーランドの楽しさと一緒ってわけか。安全だけど、スリルはない」

「正解!」ママが拍手した。「これが投資の第一原則『投資は未来のための今の選択』の一つの形ね。安全を選ぶことも、立派な選択なのよ」

タロウはメリーゴーランドから降りながら考えた。確かに銀行預金は安心だ。でも、ドラゴンクエストXIIを買うための五千円を貯めるのに、利息だけじゃ時間がかかりすぎる。ブタさんにも「預金は安全だが、それだけでは大きくは増えない」と言われたことを思い出した。

「ママ、じゃあ次は何に乗る?」

「次はね…ちょっと冒険したくなったら?」

ママの目がいたずらっぽく光った。指さす先には、ジェットコースターがそびえていた。

ジェットコースターという株式投資

タロウはジェットコースターを見上げて、ゴクリとつばを飲み込んだ。

レールは急な傾斜で空高く伸びていて、ループも二つある。乗っている人たちの悲鳴が風に乗って聞こえてくる。でも、降りてきた人たちの顔は、なんとも言えない達成感に満ちていた。

「あれは…株式投資ってこと?」

「大当たり!」ママが嬉しそうに言った。「株式投資は、ジェットコースターみたいなものよ。ものすごく上がることもあるし、急に下がることもある。ドキドキするけど、うまくいけば大きなリターンが得られる」

「でも、すごく怖い…」

「そうね。でも、みんながみんな、同じジェットコースターに乗る必要はないのよ。ここで大事なのが、投資の第二原則『利益と損失は表裏一体』ってこと。リスクを取らなければリターンはないけれど、理解せずに飛び込むのは危険よ」

タロウはアイスクリーム屋台で経験したことを思い出した。あの時も、雨が降って売れなくなったらどうしようとすごく不安だった。でも、値下げで乗り切って、純利益も出せた。

「あの時は…リスクを取ったからこそ、利益が出たんだよね」

「その通り。それが投資の第三原則『リスクを理解してチャレンジする』ってことよ。リスクを理解した上で挑戦することが大切なの」

ママはバッグからスマホを取り出して、何かを調べ始めた。

「例えばね、ある株を100万円で買ったとする。一週間後に120万円になっていたら?嬉しいわよね」

「20万円も増えたの?」

「でも、逆に80万円になるかもしれない。それが株式投資のリスクなの。もしその会社が倒産したら、株の価値はゼロになる可能性だってある」

「えっ!ゼロ!?」

「そう、企業倒産のリスクよ。会社が潰れてしまえば、株はただの紙切れになってしまう。でも、成長している会社の株を持ち続ければ、長い目で見ると価値が増えることも多いの」

タロウは考え込んだ。100万円がゼロになるなんて、すごく怖い。でも、20万円増えるかもしれないと思うと、ワクワクもする。

「それって、リスクとリターンは比例するってこと?」

「そうよ!リスクが大きければリターンも大きくなる可能性がある。でも、その分、損失も大きくなる可能性がある。これが、お金の世界の絶対的なルールなの」

ちょうどその時、ジェットコースターがスタートした。乗っていた人たちの楽しそうな悲鳴が聞こえる。

「うわあああ!」

「きゃあああ!」

「もう一回乗りたい!」

降りてきた人たちの顔は、笑顔と興奮でいっぱいだった。

恐怖のジェットコースター体験

「タロウ、乗ってみる?」ママが優しく尋ねた。

「うーん…ちょっと…」

タロウは正直言って、すごく怖かった。高いところが苦手なわけじゃない。でも、あのスピードと、ループのあの逆さまになる感じは、想像しただけで足がすくむ。

「無理しなくていいのよ」ママが言った。「これが、『リスク許容度』の個人差ってやつね」

「リス…なんとか?」

「リスク許容度。簡単に言うと、『どのくらいのリスクなら受け入れられるか』の個人差のことよ。例えば、タロウはジェットコースターが怖い。でも、人によっては平気だったり、むしろ大好きだったりする」

ママは二人分のソフトクリームを買ってくれた。ベンチに座って食べながら、話を続ける。

「具体的に言うとね、もし10万円を投資して、それが8万円になったらどう感じる?」

「ちょっと嫌だな…でも、まだ我慢できるかも」

「じゃあ、5万円になったら?」

「それは…すごく嫌だ。泣いちゃうかも」

「そう。これがリスク許容度の測り方よ。どのくらいの損失までなら冷静でいられるか。それを知っておくことが、自分に合った投資を選ぶ第一歩なの」

タロウはソフトクリームを舐めながら考えた。自分はどっちだろう。アイスクリーム屋台では勇気を出した。でも、それは自分の貯金三千二百円の範囲内だった。もしもっと大きな金額だったら、怖くてできなかったかもしれない。

「つまり、自分に合ったリスクを選ぶのが大事ってこと?」

「その通り!」ママが嬉しそうに言った。「正解を一つだけ覚えておいて。リスクとリターンは比例する。だから、誰かに『絶対儲かる』と言われたら、それは怪しいと思ってね」

投資の種類とリスクレベル

「ママ、教えて。お金を増やす方法には、他にどんなのがあるの?」

タロウがソフトクリームの最後の一口を食べながら尋ねた。

ママは紙ナプキンで口を拭いてから、話し始めた。

「じゃあ、遊園地のアトラクションで例えてあげるわね。お金を増やす三つの方法『働く』『預ける』『投資する』のうち、今日は主に『投資する』に焦点を当てるわ」

ママはスマホのメモ機能を開いて、こんな表を作って見せた。

  • メリーゴーランド(銀行預金):リスクほぼゼロ。元本が保証されている。リターンは年利0.1%程度と小さめ。安全第一の人向け
  • 観覧車(国債):リスク低め。国が発行する債券で、ゆっくりと回るように着実に増える。金利は預金より少し高いが、急激な値上がりは期待できない
  • ゴーカート(投資信託):自分でコースを決めるけど、プロが運転をサポート。世界中の株式や債券に分散投資し、リスクを抑えながら平均的なリターンを狙う
  • ジェットコースター(株式投資):リスク中〜高め。個別の会社の株を買うので、上がったり下がったりが激しい。ただし、うまく選べば大きなリターン
  • フリーフォール(仮想通貨など):リスク極めて高い。短期間で何倍にもなることもあるが、突然価値がゼロになる可能性もある。投資というより投機に近い

「ふわあ…こんなに種類があるんだ。でも、それぞれのリスクの理由がよくわからないな」

「いい質問ね。例えば観覧車(国債)の場合、国が発行しているから、国が潰れない限りは安全なの。でも、日本以外の国の国債だと、その国の経済状況によってリスクが変わるわ」

「ゴーカート(投資信託)はどうしてリスクが中くらいなの?」

「それはね、世界中のいろんな会社の株をまとめて買うからよ。一つの会社が倒産しても、他の会社がカバーしてくれる。つまり分散投資の仕組みを、専門家がやってくれているの」

「なるほどね。じゃあ、子どもでもできる投資はあるの?」

「残念ながら、株を買うには大人の手続きが必要よ。でも、タロウにもできる投資があるわ」

「え?何?」

「それはね、自分への投資よ。つまり、勉強したり、新しいことにチャレンジしたりすること。それも立派な投資なんだから」

リスクを取った勇者たちの話

ベンチで休んでいると、後ろのテーブルでサクラとその父親が話しているのが聞こえた。どうやらサクラも遊園地に来ていたらしい。

「父ちゃん、この前買った株、どうなった?」

サクラの父は嬉しそうに笑った。

「それがね、二十万円も増えたんだよ!」

「わあ、すごい!」

「でもね、その前に三十万円も減ったことがあるんだ。ジェットコースターみたいに、上がったり下がったりでね。最初はよく調べもせずに飛びついて大損したこともあったんだが、最近は経済新聞を読んで勉強してから投資するようにしている」

タロウはその話に聞き入った。サクラの父は続ける。

「株式投資で大事なのは、長い目で見ることだ。今日上がった、明日下がったで一喜一憂していては、心臓がもたない。十年、二十年のスパンで考えるんだ」

「そんなに長く?」

「そうさ。長く持ち続ければ、たいていの株は上がる。ただし、会社が潰れるリスクは常にあるから、ひとつの会社だけに集中するんじゃなくて、いろんな会社に分散するのがコツだ」

「分散投資ってやつですね」とタロウが思わず口を出してしまった。

サクラが振り返って驚いた。「タロウ!お前も来てたのか!」

「うん。ママと一緒に。サクラの父ちゃん、勉強になってるみたいだね」

「ああ。前に仮想通貨で大損してから、ちゃんと勉強し始めたんだ。『絶対儲かる』なんて言葉には飛びつかないって決めたんだ」

サクラの父がうなずいた。「そう、それが賢い投資家の条件だよ。『自分が何に投資しているのかを理解すること』。ただ儲かりそうだからと飛びつくんじゃなくて、その会社が何をしているのか、どんな価値を提供しているのかを理解してから投資するんだ」

タロウはアイスクリーム屋台の経験を思い出した。あの時も、仕入れという投資をして、リスクを取ったからこそ利益が出た。株も同じようなものなんだろう。

自分に合ったリスクの選び方

「ママ、自分に合ったリスクって、どうやって選べばいいの?」

タロウは質問を続けた。今日はたくさん学べる日だ。

ママはジェットコースターの方を見ながら答えた。

「まずね、自分がどれだけの損失に耐えられるかを考えてみるの。もし、預けたお金が半分になっても平気なら、高いリスクの投資にも挑戦できる。でも、ちょっとでも減るのが嫌なら、安全な投資の方がいい」

「つまり、自分の性格によって選ぶってこと?」

「そう。そしてもう一つ、目標までの期間も大事よ」

ママはタロウの手を取って、話を続けた。

「例えば、ドラゴンクエストXIIを来月買いたいなら、株式投資は向かないわ。ジェットコースターが急に下がったら、買えなくなっちゃうからね」

「確かに…」

「でも、十年後にお金が必要なら、株式投資もいい選択肢になる。長い目で見れば、ジェットコースターもだいたいは上がっていくからね。これが投資の第一原則『投資は未来のための今の選択』の本当の意味よ」

ブタさんの言葉が頭に浮かんだ。「長期投資こそが、複利の力を活かす秘訣だ」と言っていた。

「わかった!つまり、短期の目標には安全な投資、長期の目標にはリスクを取った投資ってことだね」

「正解!」ママが嬉しそうに言った。「タロウ、すごく成長したね」

タロウは照れくさそうに笑った。その時、サクラが走ってきた。

「よう、タロウ!一緒にジェットコースター乗ろうぜ!」

「え?いや、ちょっと…」

「怖いのか?大丈夫だって!一緒に乗れば怖くない!」

サクラの誘いに、タロウの心臓がドキドキした。でもさっき、自分に合ったリスクを選ぶことが大事だと学んだばかりだ。

ハイリスク・ハイリターンのワナ

「サクラ、お前はさっきジェットコースター乗ったのか?」

「ああ!三回連続で乗った!超楽しかったぜ!」

「三回!? すげえな…でも、お前の父ちゃんは仮想通貨で大損したって言ってたけど、それってジェットコースターに何度も乗るのと似てないか?」

サクラが首をかしげた。「どういうことだ?」

ママが説明した。「タロウの言う通りね。ハイリスクな投資に何度も飛びつくのは、ジェットコースターに何度も乗るようなもの。楽しいけど、疲れるし、大きな事故に遭うリスクもある」

「父ちゃんは『絶対儲かる』って言われて飛びついたんですよね?」タロウが尋ねた。

「そうなんだよ。『この仮想通貨は来月には三倍になる』って言われて、五十万円つぎ込んだんだ。そしたら三週間で十万円になっちゃった」

「うわあ…」

「母ちゃんがすごく怒って、父ちゃんは三ヶ月間、お小遣い減らされたらしい」

ママがうなずいた。「それが典型的な『話に乗せられたパターン』ね。『絶対儲かる』『絶対安全』なんて言葉には、必ず裏があるの。投資の世界に『絶対』はないって覚えておいて」

タロウは考え込んだ。遊園地にも、そんなアトラクションがあるだろうか。『絶対安全!誰でも楽しめる!』と書いてあるのに、実際はめちゃくちゃ怖いアトラクション。

「つまり、よく調べないとダメってことだね」

「その通り。投資の基本は、『理解できないものには手を出さない』ことよ。そして、もう一つ大事なのが、先ほどおじいさんが言っていた分散投資ね」

分散投資という安全ベルト

「分散投資って、本当に大事なの?一つの会社に集中した方が儲かりそうだけど」

サクラの疑問に、ママが答えた。

「例えてみようか。もしタロウが持っている三千二百円全部で、一つのアイスクリーム屋台の材料を仕入れたとする。その屋台が一日で全部売れたら大儲けだけど、雨が降って売れなかったら大損よね?」

「そうだね。実際、あの時は途中で雨が降ってきて焦ったんだ」

「そう。でも、もし三千二百円を三つに分けて、アイスクリーム屋台、かき氷屋台、綿あめ屋台にそれぞれ投資したら?」

「雨の日はかき氷は売れないけど、綿あめは売れるかも!」

「そう!これが分散投資の基本よ。『卵は一つのカゴに盛るな』っていう格言があるくらい大事なことなの。一つのカゴが落ちたら全部の卵が割れるけど、複数のカゴに分ければ、一つ落ちても他は無事だからね」

サクラが指を鳴らした。「なるほど!つまり、全部をジェットコースターに賭けるんじゃなくて、メリーゴーランドと観覧車とゴーカートと、バランスよく組み合わせるってわけか」

「その通り!それが賢い投資家の戦略よ。具体的には、預金と投資を組み合わせるのが基本。例えば、全財産の半分は安全な銀行預金に、残りの半分をリスクのある投資に回す。そうすれば、投資で損をしても、預金があるから生活に困らない」

「それって、子どもの僕たちにもできる方法かな?」

「もちろん。タロウの貯金三千二百円だって、一部はブタさんに預けて、一部は未来のための投資に使うって考え方もできるよ。例えば、二千円は絶対に使わない貯金にして、千二百円は勉強や新しいチャレンジに使う。それが自分への分散投資ね」

タロウは納得した。アイスクリーム屋台の時も、もし雨に備えてテントを用意していたら、もっと安心できたかもしれない。リスクを減らす方法は、ちゃんとあるんだ。

恐怖を乗り越えて

「タロウ、さっきジェットコースターを怖がってたけど、どう?」サクラがニヤリと笑った。

「まだ怖いよ」

「でも、今日はせっかく来たんだから、一回くらい乗ってみないか?」

サクラの提案に、タロウの心臓がドキドキした。ママが優しく言った。

「無理しなくていいのよ。でも、少しだけ勇気を出してみるのも経験よ。投資の第三原則『リスクを理解してチャレンジする』を実践してみる?」

タロウは考えた。投資もそうだ。リスクを取らなければリターンは得られない。でも、無理をすると大けがをする。ちょうどいいバランスが大事なんだ。

「わかった。乗ってみる」

「本当!?」サクラが驚いた顔をした。

「ただし、一番小さいのにする!」

三人はキッズ向けの小さなジェットコースターの前に並んだ。高さは五メートルくらいで、ループも急カーブもない。ただ、ちょっと速度が出るだけだ。

「これならいけるかも」

タロウはサクラと並んで座った。ママが手を振っている。

「行ってらっしゃい!」

ゴーッという音とともに、コースターが動き出した。ゆっくりと頂上まで上がり、そして…急降下!

「うわあああ!」

タロウの声が風に消えた。思ったよりスピードが出る。でも、怖いけど、なぜか楽しい。風を切る感覚が気持ちいい。

コースターが止まった時、タロウの顔は笑顔になっていた。

「もう一回乗りたい!」

「おお!タロウが変わった!」サクラが驚いた。

ママが駆け寄ってきた。「どうだった?」

「めっちゃ楽しかった!ちょっと怖かったけど、終わったらすごくスッキリする!」

「それが、適度なリスクを取ることの気持ちよさよ。無理のない範囲でチャレンジすると、成長できるの。でも、今日はもう終わりにしよう。やりすぎもリスクだからね」

タロウはその言葉を胸に刻んだ。投資も、人生も、リスクを恐れて何もしないより、少しずつチャレンジする方がきっと楽しい。

ブタさんの秘密のアドバイス

その夜、タロウは部屋でブタさんに今日の出来事を話した。

「ブタさん、今日はすごく勉強になったよ。お金の三つの役割を思い出しながら学べたし、投資の三原則も実感できた」

「ふむ。リスクとリターンの関係を実体験で学んだわけだ。そして、お金の価値がみんなの合意で決まることも忘れなかったようだな」

ブタさんはいつもの低い声で言った。

「でもね、タロウ。一番大事なことを忘れていないか?」

「一番大事なこと?」

「そうだ。リスクを取ることは大切だが、それはあくまで『自分の理解できる範囲』での話だ。理解できないものに手を出すのは、ギャンブルであって投資ではない。今回のサクラの父さんの例がそれを示している」

タロウは真剣に聞いた。

「じゃあ、どうすればいいの?」

「簡単だ。一に勉強、二に勉強、三に実践。そして、焦らないこと。投資は長期戦だ。短期の損得に一喜一憂していては、良い結果は得られない。特に、分散投資を忘れてはいけない。預金と投資の組み合わせが、安定した資産形成の基本だ」

ブタさんの言葉は、遊園地のサクラの父さんが言っていたことと同じだった。

「わかった。まずはしっかり勉強するよ。そして、貯金も投資もバランスよくやるんだ」

「その意気だ。そして、もう一つ。リスクとリターンは比例する。だから、『絶対儲かる』という言葉には疑いの目を持つことだ。お金の価値はみんなの合意で成り立っている。その合意が突然崩れることもあると覚えておけ」

タロウはうなずいて、おこづかい帳を取り出した。今日の出費を記録しようと思ったのだ。入園料、ソフトクリーム代、ランチ代…全部で二千八百円。結構使った。

「ああっ!二千八百円も使っちゃった!」

「それが日常のリスクだな。計画性なく使うと、後で困ることになる。まさに、分散投資をしないで一つのことに全財産を賭けるようなリスクだ」

ブタさんが笑っているように見えた。タロウも思わず笑ってしまった。

旅立ちの前に

次の日、学校でタロウとサクラは会った。

「なあ、タロウ。昨日の件で考えたんだけどさ」

「何を?」

「将来、俺たちも投資をするかもしれないだろ?その時、絶対に失敗しない方法ってあるのかな?」

タロウは首を振った。

「ママが言ってたけど、絶対に失敗しない投資方法なんてないんだって。でも、リスクを減らす方法はある。まず、分散投資をすること。そして、長期で考えること。それに、理解できないものには手を出さないこと」

「投資の三原則ってやつか?『投資は未来のための今の選択』『利益と損失は表裏一体』『リスクを理解してチャレンジする』」

「おお!よく覚えてるな!」

「父ちゃんの失敗を見てると、自然と覚えるさ。でも、タロウは本当に賢くなったな。お前のその貯金箱のブタさん、ただ者じゃないな」

「え?あ、いや…その…」

タロウは慌てた。ブタさんが話すことは、まだ誰にも言っていない秘密だ。

「まあいいや。それより、今度の日曜日、一緒に図書館で投資の本を調べないか?お金の三つの役割とか、お金の価値の本質とか、もっと深く知りたいんだ」

「いいね!行こう!」

二人は約束を交わした。タロウの心は、新しい冒険への期待でいっぱいだった。リスクを理解して、チャレンジすること。そして、分散投資でリスクを管理すること。それが、お金の世界で生き抜く力になるんだ。

その夜、タロウはブタさんに言った。

「ブタさん、僕、決めたよ」

「何を決めたんだ?」

「まだ子どもだから、大きな投資はできない。でも、できることがある。勉強すること、新しいことにチャレンジすること。それが自分への投資だってママが言ってた。そして、貯金と投資をバランスよく組み合わせる分散投資を覚えた」

「ふむ。それで?」

「だから、まずはドラゴンクエストXIIを買うために、貯金を頑張る。貯金額の半分は絶対に使わない貯金、残りの半分は未来のための投資に使うってルールにする。それから、将来のために、いろんなことを勉強する。そうすれば、いつか本当の投資もできるようになるはずだ」

ブタさんはしばらく沈黙していたが、やがて低い声で言った。

「良い答えだ。タロウ。お前は確実に成長している。リスクを恐れず、しかし無謀でもない。分散投資という安全ベルトをしっかり身につけている。それが賢者の道というものだ」

タロウは嬉しくなって、ブタさんを抱きしめた。

「ありがとう、ブタさん。僕、頑張るよ」

そうして、タロウのリスクとリターンの学びは、まだまだ続くのだった。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 10
起業ってかっこいい!〜レモネードスタンドの挑戦〜

第10章 起業ってかっこいい!〜レモネードスタンドの挑戦〜

夏休みが始まって一週間。タロウはアイスクリーム屋台で得た650円の純利益を、自慢げにブタさんに報告していた。

「いやあ、あの時の雨はヒヤッとしたけど、なんとか全部売り切れたよ。やっぱり商売って面白いな!」

ブタさんは貯金箱の中から、いつもの低い声で答えた。

「フフフ、タロウよ。お前はもう『働く喜び』と『投資の感触』を味わった。そして貯金や株のことも学んだ。ならば次に進む時だ。」

「次って…何?」

「決まっているだろう。『起業』だ。」

タロウの目がキラリと光った。

「起業って…かっこいい響きだ!」

「お前が自分で考え、自分で決め、自分で責任を取る。まさに自由と責任の両方を手に入れる冒険だ。しかも、儲かることもあれば、大失敗することもある。まさに人生の縮図よ。」

「うーん…でも、何から始めればいいんだろう?」

「夏休みの自由研究も兼ねて、レモネードスタンドを開いてみてはどうだ?暑い夏ほど、冷たいレモネードはよく売れる。供給と需要の基本だ。」

タロウはすぐにママに相談した。ママは台所で夕飯の準備をしながら、ニヤリと笑った。

「レモネードスタンドねえ。懐かしいわね。ママも小学生の時やったわよ。覚えてるのは…二日目に雨が降って大赤字になったことかな。」

「ええっ!ママも失敗したの?」

「それが起業のリアルよ。でもね、失敗から学んだことの方が成功よりずっと多かった。さあ、計画を立てましょう。まずは『事業計画書』からよ。」

起業の第一歩:アイデアを形にする

翌日、タロウはノートを開いて、ブタさんとママと一緒に作戦会議を始めた。

「まず初めに、『なぜレモネードなのか』を考えよう」とママが言った。

「それはね…夏は暑いから!」

「正解。でもそれだけじゃ弱い。もっと具体的に『誰に』『どんな価値を』提供するかを考えないと。」

タロウは頭をひねった。するとブタさんがヒソヒソとささやく。

「お前のターゲットは誰だ?お年寄り?子ども?それとも公園で遊ぶ家族連れ?レモネードスタンドは公園の近くが鉄板だぞ。」

「あっ!公園!そうだよ、近所の中央公園はいつも子ども連れでいっぱいだ!」

「よし、ターゲットが決まった。次に『商品』を考えよう。ただのレモネードじゃつまらない。何か差別化できるポイントはない?」

タロウは冷蔵庫を覗き込み、ふと目に留まったのはハチミツの瓶だった。

「そうだ!ママの実家から届いたハチミツを使ってみよう!『はちみつレモネード』なら、他の屋台にないオリジナル商品になる!」

「おおっ!」ママが拍手した。「いいアイデア!それが『差別化』ってやつだよ。同じものを作っても価格競争に巻き込まれるだけ。唯一無二の商品が強いんだ。」

「よし!商品は『特製はちみつレモネード』で決まり!」

価格設定の心理学

次にタロウたちは価格を決めることにした。タロウが「一杯500円!」と張り切ると、ママが「ちょっと待った」と制止した。

「500円って…高いの?安いの?どうやって決めるの?」

「良い質問だ。答えは『原価』と『市場調査』を知ることから始まる。」

ママはキッチンの引き出しから電卓を取り出した。

「まず原価を計算しよう。レモン一つで何杯作れる?ハチミツの値段は?氷や紙コップの値段は?」

タロウは得意げに計算を始めた。

「えーと…レモン一個で約4杯分のレモネードができる。レモン一個はスーパーで98円だから、1杯あたり…約25円のレモン代。ハチミツは一瓶700円…小さじ一杯分で約35円か。紙コップ10個入り200円だから1杯20円。氷は…水道代と冷凍庫代だけど、これはタダにしとくとして…。」

「氷代、電気代、水道代をタダにしてたら起業家失格だよ」とブタさんがツッコんだが、タロウは華麗にスルーした。

「合計で1杯あたり…約80円!じゃあ300円で売れば1杯220円の儲けになる!」

「おおっ!なかなか良い計算だ。でも、本当に300円で売れるかどうか、市場調査が必要だ。公園で売ってるかき氷はいくら?」

「えっと…200円くらい?」

「なるほど。じゃあ300円のレモネードは高いと感じるかもしれない。でも、『特製はちみつ』ブランドが乗っていれば、少し高く売れる可能性がある。価格設定のコツは『原価+利益』だけじゃなくて、『お客さんが払ってもいいと思う値段』を知ることだ。」

「じゃあ、いったいいくらにすればいいんだろう…」

「よし、親子で市場調査に行こう!」

市場調査大作戦

ママとタロウは近所の中央公園に出かけた。タロウはノートとペンを持って、周囲の子どもや親たちの様子を観察した。

かき氷屋台は行列ができていた。値段はいちご味200円、メロン味250円。タロウはお母さんたちにインタビューを試みた。

「すみません、ちょっとアンケートを取ってもいいですか?」

「いいわよ。何のアンケート?」

「えっと…もしレモネードスタンドがあったら、いくらまでなら払いますか?」

「レモネード?」お母さんは考え込んだ。「そうね…普通ので200円。特製だったら300円でもいいかな。」

別のおじいちゃんに聞いてみた。

「レモネードかー。孫が大好きなんだよね。一杯200円なら買ってやるけど、300円はちょっと高いな。」

帰り道、タロウはノートを見ながら呟いた。

「どうやら200円から300円の間が相場みたいだ…。」

「そうだね。じゃあちょっと実験してみよう。最初の1時間は『200円』で売ってみて、その後『250円』に値上げする。どうなるかな?」

「えっ!同じもので値段が変わるの?それってずるくない?」

「『プライシング戦略』って言うんだよ。最初は安くして沢山の人に試してもらい、徐々に価値を理解してもらって値上げする。これを『ペネトレーション(浸透)戦略』って言う。逆に、最初から高めに設定して『高級感』を演出する方法もある。それが『スキミング(上澄み)戦略』だ。」

「なんか難しいな…。」

「大丈夫。まずは200円で売ってみよう。そして、お客さんが『もう少し高いけど買いたい』と思うような価値を付ければいいんだ。」

資金調達のリアル

次にタロウは資金集めをしなければならなかった。レモン、ハチミツ、紙コップ、看板用の段ボール…初期投資は約3000円と見積もられた。

「今の貯金額はいくらだ?」

「えっと…アイスクリーム屋台で稼いだ650円と、おこづかいを貯めたのを合わせて、合計3850円!」

「うむ。十分だ。だが、全財産を突っ込むのはリスキーだ。賢い起業家は『他人のお金も使う』。」

「つまり…借金?」

「違う。『出資』だ。ママやパパに出資してもらうんだ。銀行から借りるのは大人の話。子どもの起業は『家族からの出資』が基本だ。」

タロウはママに提案した。

「ママ、レモネードスタンドに出資してくれない?儲かったら、利益の20%を配当として払うよ!」

「おや?ちゃんとした提案だね。でも、投資の基本は『リスクとリターン』だよ。もし君が赤字になったら、ママの出資金は戻ってこない。それでもいいの?」

「うん。もし失敗したら、ママにはお小遣いから少しずつ返していくって約束する!」

「それじゃあ貸付になっちゃうな」とブタさんが口をはさんだ。「出資はあくまで利益が出たら分配するが、損失が出ても返済義務はない。ただし、出資者が納得するリターンが必要だ。」

「うーん…じゃあ、ママに出資してもらったお金で材料を買って、もし儲かったら半分はママに、残りは僕の取り分。どうかな?」

「50%か…それが子どもの起業にはちょうどいい配分割合かもしれないね」とママは笑った。「よし、1000円出資しよう。その代わり、ちゃんと帳簿をつけること。少なくとも毎日の売上と経費はきちんと記録するんだよ。」

こうしてタロウのレモネードスタンドは、自己資金2850円+ママからの出資1000円=3850円の資本でスタートすることになった。

事業計画を書こう

その夜、タロウはママと一緒に正式な事業計画書を書いた。

【タロウのレモネードスタンド 事業計画書】

事業名:『タロウの特製はちみつレモネード』

コンセプト:夏の公園で、体に優しい自然な甘さのはちみつレモネードを提供

ターゲット顧客:中央公園に遊びに来る親子連れ(特に3〜10歳の子どもとその親)

商品ラインナップ: 1. 特製はちみつレモネード(200ml) 200円 2. はちみつ多めの大人レモネード(250ml) 250円 3. おまかせ酸っぱさ調節サービス 無料

初期投資

  • レモン10個 980円
  • ハチミツ一瓶 700円
  • 紙コップ50個 800円(100個入りを半分使用)
  • 氷 300円
  • 看板用段ボールとマジック 200円
  • テーブルと椅子 自宅から無料調達

合計:2980円

売上予測

  • 1日あたり40杯販売
  • 1杯200円 × 40杯 = 8000円
  • 3日間の総売上予測:24000円

経費予測

  • 材料費(3日分):約5000円
  • 利益:24000円 − 5000円 = 19000円

出資者への配当

  • ママ(出資1000円):利益の30%
  • タロウ(自己資金):利益の70%

「うーん、計算が合わない気がする…」とタロウは首をかしげた。「3日で40杯×3日=120杯も売れるわけないよね。」

「良いところに気づいたね」とママがうなずいた。「これが『机上の空論』だよ。現実の市場は甘くない。まずは1日20杯を目標にしよう。」

「じゃあ修正だ。1日20杯、3日間で60杯。売上12000円。材料費は…レモンとハチミツは使い切りで再仕入れが必要かも。経費を8000円と見積もれば、利益は4000円。」

「そうだね。それがリアルな数字だ。でも、もし全て完売できたら、もっと儲かる可能性はあるよ。リスクとリターンはいつも背中合わせなんだ。」

ポスターとマーケティング

開店準備の真っ最中、タロウはもう一つ大事なことに気がついた。

「そうだ!お客さんに『来てください』って伝えなきゃ!ポスターを作ろう!」

「マーケティングの基本だね!」とママが言った。「『良いものを作れば勝手に売れる』は幻想だ。売るための仕掛けが必要なんだ。」

タロウは画用紙とクレヨンを取り出し、真剣な表情でポスター作りに取りかかった。最初に書いたのは…

「とびきりおいしい!タロウの特製はちみつレモネード!!!」

「うーん…文字だけじゃ伝わらないな。絵で魅力を伝えよう!」

タロウはレモンの絵、キラキラした氷の絵、そして金色のはちみつがしたたる様子を描いてみた。「全国のレモンキャラクターコンテストで金賞を取った」と書こうとして、ママに「その表現は誇大広告になっちゃうよ」と止められた。

「じゃあ、どんな言葉なら良いんだろう…」

「『自然の甘さ』とか『体に優しい』はどう?健康志向のママたちに響くよ。あと『無添加』って書くのは事実だからOK。」

「よし!『自然の甘さ、はちみつレモネード』にしよう!」

さらにタロウは思いついた。「そうだ!初日限定で『二杯目半額』って書こう!」

「お?それは面白い。『ロスリーダー戦略』って言って、最初に安い商品を出して人を呼び込み、他の商品を買ってもらうテクニックだ。でも、半額だと儲けが減るから注意してね。」

ポスターが完成した。カラフルな字と絵がぎっしり詰まったポスターには、以下の情報が書かれていた。

【この夏一番の清涼感!】 『タロウの特製はちみつレモネード』 ◎場所:中央公園、東側ベンチ前 ◎日時:8月5日~7日 10:00~16:00 ◎値段:1杯200円(初日は2杯目半額!) ◎自慢のポイント:国産はちみつ使用・無添加 ◎数量限定!なくなり次第終了

ライバル出現!競争のリアル

ポスターを書き終えて意気軒昂だったタロウの耳に、衝撃的な情報が飛び込んできた。学校の友達のケンタが、同じ公園で『激ウマ!かき氷屋台』を開くというのだ。

「えっ!ケンタも商売するの!?」

「どうやら、夏休みの自由研究で同じようなことを考えたんだろうね」とママが冷静に分析した。「これが『競合』だよ。君のレモネードには、かき氷という強力なライバルが現れた。」

「でも、レモネードとかき氷って、全然違うじゃん!」

「確かに違うけど、お客さんの『喉を潤したい』『涼みたい』という欲求は同じだ。同じお財布を取り合うのが競争だよ。」

タロウは悩んだ。どうやってケンタのかき氷に勝てばいいんだろう?

「差別化のポイントはもう一度考え直そう」とブタさんが助言した。

「君のはちみつレモネードには、『健康』『自然派』『体に優しい』という強みがある。かき氷はシロップたっぷりでカロリーが高いから、健康志向のママたちはレモネードを選ぶかもしれない。さらに、アレルギー対応『砂糖不使用』を謳えば、別の層も狙える。」

「なるほど!じゃあ、ポスターの文言を追加しよう。『砂糖不使用・はちみつの自然な甘さ』!」

さらにタロウは、ティッシュペーパーで簡単な手ぬぐいを作り、水で冷やしたものを「無料おしぼりサービス」として提供することにした。「レモネードを買ってくれたお客さんに、無料で冷たいおしぼりを渡したら喜ばれるかな?」

「おっ!それが『付加価値』だ!」とママが叫んだ。「競争に勝つ方法は値下げだけじゃない。サービスや品質で勝負することもできるんだ!」

いよいよ開店!〜初日の興奮と試練〜

8月5日、朝の8時。タロウは興奮して目を覚ました。空は快晴!気温はすでに30度近い。

「最高の商売日和だ!」

タロウは自転車の荷台に材料を積み、ママと一緒に中央公園へ向かった。テーブルを広げ、看板を立て、氷を入れたクーラーボックスを準備する。手作りの『タロウの特製はちみつレモネード』の旗が風に揺れた。

10時、いよいよ開店。最初の一時間は閑古鳥が鳴いた。通りかかる人はポスターをちらりと見るだけで、誰も立ち止まらない。

「まずい…誰も来ない…」タロウは焦り始めた。

「待ってみよう。開店直後はまだお客さんが集まっていないだけだ。」

しばらくすると、ベビーカーを押したお母さんが立ち止まった。「あら、素敵ね。はちみつレモネード、一杯ください。」

「ありがとうございます!200円です!」

最初のお客さんがレモネードを飲み干すと、「すっきりしておいしい!自然な甘さがいいわね!」と褒めてくれた。

これをきっかけに、口コミが広がったのか、少しずつお客さんが集まり始めた。特に、タロウがサービスしていた「冷たいおしぼり」が好評で、お母さんたちから「気が利くね」と褒められた。

午後2時、ピークタイムを迎えた。気温は35度に迫ろうとしていた。行列ができ始めた!

「レモネード二つください!」

「はい!600円になります!」

タロウは大忙しだ。レモンをギュッと絞り、ハチミツを加え、氷をたっぷり入れてかき混ぜる。汗だくになりながらも、笑顔を絶やさない。

すると隣のブースから、ケンタの声が聞こえてきた。

「かき氷いかがですか!イチゴ味、メロン味、ブルーハワイ!」

見ると、ケンタもなかなかの行列を作っている。二つの屋台が競い合うようにお客さんを呼び込む。まるで夏祭りのような賑わいだ。

「タロウ、レモネード一つ!」ケンタが買いに来た。

「おう!ケンタも商売頑張ってるな!」

「ああ!お互い頑張ろうぜ!」

競争しながらも、互いをリスペクトする。それが健全な市場というものだ。

初日の営業が終了。タロウは売上を計算した。

売上:42杯 × 200円 = 8400円(2杯目半額キャンペーン適用後の実質売上) 材料費:レモン5個(490円)+ハチミツ1/3瓶(230円)+紙コップ42枚(336円)=1056円 経費:氷代(300円)、その他雑費(200円) 純利益:8400円 − 1056円 − 500円 = 6844円

「初日でこれだけ稼げた!すごいぞ!」

「でも明日の天気予報は曇り時々雨だって…」とママがスマホを見て暗い顔をした。

リスクの現実:雨の日の教訓

8月6日、予報通り空はどんよりと曇っていた。タロウは朝から気が重かった。

「今日はお客さん来るかな…」

「それが起業のリスクだよ。天候に左右される商売は特に脆弱だ。これも経験だと思って、やってみよう。」

タロウは少ない在庫(レモン3個分、紙コップ20枚)だけを持って公園に向かった。

案の定、客足はぱったりと途絶えた。午前中の売上はわずか5杯。タロウの目は虚ろだった。

「どうしよう…材料が余っちゃう…」

すると、小学生の女の子が近づいてきた。

「お兄ちゃん、レモネード一個ください!」

タロウの目が輝いた。

「ありがとう!100円でいいよ!」

「え?200円じゃないの?」

「今日は特別セール!100円だ!」

ママは「乱売しちゃダメよ」と止めに入ろうとしたが、タロウは首を振った。

「売れ残って捨てるより、少しでも売ってお客さんに喜んでもらった方がいい。値下げも『戦略』だって教えてくれたじゃん!」

「確かに…利益は減るけど、『売り切る力』も大事だね。」

午後からは小雨がパラつき始め、タロウは早めに店じまいを決断した。

2日目の結果 売上:12杯 × 平均150円(値下げ含む)= 1800円 材料費:レモン3個(294円)+ハチミツ少量(100円)+紙コップ12枚(96円)=490円 純利益:1800円 − 490円 − 雑費(200円)= 1110円

「うーん…初日よりかなり少ないな…。でも、ゼロじゃなかったのが救いだ。」

「良い判断だったよ。全額損失を出さずに済んだ。これが『リスク管理』ってやつだ。全部を失わないための判断ができるかどうかが、起業家の腕の見せ所なんだ。」

最終日:大逆転?それとも涙のフィナーレ?

8月7日、最終日。朝、タロウはカーテンを開けて、絶叫した。

「雨だー!!!」

本降りの雨だった。公園で屋台を開くのは不可能に近い。

「今日は中止だな…」ママがため息をついた。

「でも…せっかく準備したのに!残ったレモンやハチミツを無駄にしたくない!」

タロウは必死に考えた。すると、ひらめいた!

「そうだ!家の前でやろう!狭いけど、通りがかりの人に売れる!」

ママは驚いた。「家の前で?通行人なんてほとんどいないわよ…」

「やってみなきゃわからない!」

タロウは家の前に小さなテーブルを置き、傘をさしながらレモネードスタンドを開いた。雨音に負けないように、大声で叫んだ。

「レモネードいかがですか!特製はちみつレモネード!今日は特別80円!」

すると、近所のおばあちゃんが傘をさして歩いてきた。

「あら、タロウちゃん、商売してるの?じゃあ一杯もらおうかな。」

「ありがとうございます!」

さらに、雨宿りしていたおじさんが「面白い子だな」と買ってくれた。そして…ケンタが自転車でやってきた。

「タロウ!雨の中やってるのか!すげえな!」

「ケンタ!お前は?」

「俺は今日は中止にしたよ。雨でかき氷なんて売れないからな。でも、タロウが頑張ってるから、レモネード一本買うわ!」

「ありがとう!でもなんで?ケンタはライバルなのに…」

「ライバルだけど、友達だろ?それに、応援したくなる商売ってあるじゃん。」

競争相手すら味方にする…それが本当の魅力ある商売の力だ。

結局、最終日は売上37杯(1杯80円で売ったため、売上は2960円だったが、材料費はほとんど使い切った)。

3日間の総決算

家に戻り、タロウは机に向かって真剣に電卓を叩いた。

【レモネードスタンド 3日間の決算】

総売上

  • 初日:8400円
  • 2日目:1800円
  • 3日目:2960円

合計売上:13,160円

総経費

  • レモン代:980円(10個購入、残り2個はジュースにした)
  • ハチミツ代:700円(瓶一本使い切り)
  • 紙コップ代:800円(30枚使用のため約半分残った)
  • 氷代:900円(3日分)
  • 看板・ポスター代:200円
  • 雑費(おしぼり用ティッシュ、軍手など):300円

合計経費:3880円

総利益:13,160円 − 3880円 = 9280円

出資者への配当

  • ママ(出資1000円の30%):2784円
  • タロウ(自己資金の70%):6496円

「やったー!6496円も儲かった!」

「おめでとう!」ママがハイタッチを求めてきた。

「でもね、タロウ」とブタさんが静かに語りかけた。「お前はもう一つの『利益』を手に入れたんだ。それは…」

「うん!商売の難しさと楽しさを身をもって知ったこと!」

「正解。しかも、天候リスクへの対処法、値下げ戦略のタイミング、ライバルとの関係の築き方…全部が貴重な経験だ。これは学校では教えてくれない『生きた知識』だぞ。」

タロウは深くうなずいた。

「起業って、ただお金を稼ぐだけじゃないんだね。新しいチャレンジをして、失敗してもそこから学んで、また新しい挑戦をする…その繰り返しが起業なんだ。」

「そう。そして、起業家は『課題解決者』でもある。レモネード一つ作るにも、『暑い人を涼しくしたい』という課題解決がある。これからも、周りの人の困っていることを『自分ならどう解決できるか』と考えてみるといい。」

起業の心得:タロウから未来の起業家へ

一週間後、タロウは夏休みの自由研究として、『私の起業体験記〜レモネードスタンドの挑戦〜』というレポートを学校に提出した。その最後のページには、こんな言葉が綴られていた。


「起業ってかっこいい!でも、かっこいいだけじゃない」

「私はこの夏、レモネードスタンドを開いて、起業の本当の意味を知りました。起業とは、『アイデアを形にする』『計画を立てる』『行動する』『失敗から学ぶ』ことの繰り返しです。

最初は儲けることばかり考えていましたが、実際には『人を喜ばせること』『問題を解決すること』が大事だとわかりました。お客さんが『おいしい!』と笑顔になる姿を見た時、お金以上の喜びがありました。

雨の日は落ち込みました。でも、その経験があったからこそ、『リスクにどう備えるか』を真剣に考えられるようになりました。

もし、あなたも起業に興味があるなら、まずは小さく始めてみてください。レモネードスタンドでも、お菓子販売でも、お手伝いでもいい。大事なのは『やってみること』です。失敗を恐れず、一歩を踏み出せば、きっと新しい世界が見えてきます。

未来の小さな起業家たちよ、一緒に頑張ろう!


ブタさんからの最終講義

その夜、タロウはベッドで考え込んでいた。ブタさんがいつもの低い声で語りかける。

「タロウよ、今日の経験を忘れるな。起業には三つの基本がある。」

「三つ?」

「第一に、『アイデアを現実にする力』だ。お前は『はちみつレモネード』というアイデアを形にした。多くの人はアイデアだけで終わってしまう。実行に移す勇気こそが、起業家の第一歩だ。」

「うん、それはわかった!」

「第二に、『数字を読む力』だ。原価計算、利益計算、価格設定…。お前は一人でこれをやり遂げた。これは社会人になっても使えるスキルだぞ。」

「うーん、算数の勉強って役に立つんだな…」

「第三に、『折れない心』だ。雨で悩み、ライバルが現れ、それでも諦めずに立ち向かった。失敗から学び、修正する。これが一番大事だ。」

「ありがとう、ブタさん。僕、将来本物の会社を作ってみたいな!」

「フフフ、その時はブタさんも『株主』として出資してやるぞ。ただし、ちゃんと配当を忘れるなよ?」

タロウは笑いながら、ブタさんをギュッと抱きしめた。そして、部屋の電気を消す前に、もう一度つぶやいた。

「起業って…本当にかっこいい!」

翌朝、タロウは机の上に置かれたノートを見つけた。ママからのメッセージだった。

「タロウへ。人生最大の起業は、『自分自身という会社』を経営することだ。君の人生という会社のCEOは、君自身だ。しっかり計画を立てて、楽しく経営しよう。応援しているよ。ママより」

タロウはそのメモを、宝物のようにノートに挟んだ。そして、新しい一日が始まる。

今日もどこかで、誰かが小さな一歩を踏み出している。それがいつか、大きな花を咲かせる日が来ることを信じて。

起業の種は、もうタロウの心にしっかりと根を下ろしていた。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 11
ビジネスプランを考えよう〜夢のアイデア帳〜

第11章 ビジネスプランを考えよう〜夢のアイデア帳〜

週末の午後、タロウの部屋からは鉛筆を走らせる音と、ときおり笑い声が聞こえてきた。机の上には真っ白なノートが広げられ、タロウとサクラが何やら真剣に書き込んでいる。

「よし!『タロウ・スペース・アドベンチャー社』のビジネスプランができたぞ!」

タロウが誇らしげにノートを掲げた。そこには大きな文字でこう書かれていた。

「宇宙旅行会社 火星往復チケット なんと驚きの1万円!」

「……タロウ、ちょっと待って」 サクラがノートをじっと見つめ、首をかしげた。

「火星まで1万円って、どうやって実現するの?」 「え?だって、安い方が売れるだろ?それに、みんな宇宙に行きたいはずだよ!」

タロウは胸を張る。しかし、サクラの表情はますます怪訝になっていく。

「タロウ、ロケットを作るのにいくらかかるか知ってる?」 「え?うーん……よく考えたら、前にママとテレビで見たロケットの打ち上げ、すごいお金がかかってた気がする。たしか……数百億円って言ってなかった?」 「お、正解!よく覚えてたね」 サクラが感心したようにうなずいた。

「実際のロケットは、打ち上げるのに数十億から数百億円かかるんだ。1万円のチケットを売ったら、一発飛ばすごとに大赤字。すぐに破産するよ」

タロウの顔が一気に曇った。宇宙の夢が、目の前でしぼんでいく。

「じゃあ、いくらならいいんだよ……」 「子ども一人を宇宙に連れて行くのに、今の技術だと数千万円、いや数億円だって聞いたことある」

タロウの口がぽかんと開いた。彼の頭の中に、山のような紙幣が積まれていく映像が浮かんだ。

「僕のお小遣い、月500円……火星に行くのに何年かかるんだ……?」 「計算してみる?」 「やめとく!」

二人が笑い合っていると、ブタさんが棚の上から声をかけた。

「フン。君のプランは『壮大すぎて笑える』という点では★五つだな。しかし、ビジネスプランとは『実現可能な夢の設計図』だ。単なる願望では、だれもお金を出してはくれないぞ」

タロウが振り返ると、ブタさんがいつもの得意げな口調で続けた。

「いいか、ビジネスプランには三つの要素が必要だ。まず『目的』——何を実現したいのか。次に『顧客』——だれが買ってくれるのか。最後に『財務』——いくらで売って、いくら儲けるのか。この三つがそろって、初めて『夢』が『ビジネス』になる」

サクラがうなずいた。

「そうそう。私も前にね、同じようなことを考えたんだ。『欲しいものリスト』を作る時に学んだことなんだけど、夢を叶えるには優先順位を決めて、現実的に計画を立てるのが大事なんだよね」

タロウは感心してうなずいた。サクラはリュックから『衝動買い防止マニュアル』を取り出した。

「このマニュアルを作る時に、私はたくさん失敗したんだ。でも、その失敗から学んだことが、今のビジネスプランを考えるのに役立ってるよ」

ブタさんが口を挟んだ。

「そうだ。これまでタロウが学んだ『SMARTの法則』や『24時間ルール』も、ビジネスプランに応用できる。例えば、SMARTの法則で目標を具体的に決め、24時間ルールで冷静に判断する。お金の管理術は、ビジネスの基本でもあるのだ」

ニーズ調査ってなんだ?〜お客様の心の声を聞け〜

サクラは新しいページを開いた。そこには『ニーズ調査シート』と書かれていた。

「タロウ、『お客様が本当に欲しいもの』って、どうやって調べると思う?」 「え?…直接聞く?」

「正解!でもね、ただ『何が欲しい?』って聞くだけじゃダメなんだ」

サクラは笑いながら説明した。

「例えば、私が『消しゴムアート教室を開きたいんだけど、どう思う?』って聞いても、たいていの人は『いいんじゃない?』って言うだけ。本当に知りたいのは『いくらなら払ってもいいか』とか『どんな時間なら参加できるか』っていう具体的なことなんだ」

「なるほど…『興味ありますか?』じゃなくて『何円までなら払えますか?』って聞くべきなんだね」 「そうそう!それでね、私が実際に近所のママ友10人に聞いてみた結果がこれ」

サクラのノートには、こんなグラフが描かれていた。

アンケート結果(10人中)

  • 参加したい:4人
  • 条件次第で:3人
  • 興味なし:3人

希望価格帯

  • 300円以内:2人
  • 500円以内:4人
  • 800円以内:2人
  • 1000円以上:0人

「ここで大事なのは、競合を考えることだよ」とサクラ。 「競合?」 「うん。近所に似たような教室や習い事がなかったか調べるんだ。もし近くに工作教室があれば、うちの教室がどう違うか考えないとね」

ブタさんがうなずいた。

「マーケットの差別化だ。同じようなサービスでも、『ここが違う』という特徴があれば、お客様に選んでもらいやすい。サクラの消しゴムアート教室なら、『手軽に参加できる』『少人数で丁寧に教える』など、強みを打ち出すべきだ」

タロウはノートに「競合分析」と書き加えた。

「つまり、『他の人とどう違うか』も考えないといけないんだね」 「そう!オリジナリティが大切なんだ」

ブタさんがさらに続けた。

「ニーズ調査とは『市場の声を聞くこと』だ。しかし、人々は実際にお金を払う場面になると、アンケートとは違う行動をとるものだ。アンケートは『仮の約束』であり、実際の購入は『本契約』。その違いを理解しておくことが重要だ」

「じゃあ、どうすればいいの?」 「簡単だ。『小さく始めて、反応を見る』。少人数でもいいから、実際に売ってみること。それが、最も確かなニーズ調査になる」

創造性と現実性のバランス〜夢を形にする方法〜

「さて、タロウ。君の宇宙旅行プランだが…」 ブタさんが話し始めると、タロウは覚悟を決めた顔で聞いた。

「ちょっと考え方を変えてみるか?」 「考え方?」 「そうだ。火星に行くのは無理でも、宇宙に関係するビジネスならできるだろう?大事なのは、『夢をあきらめる』のではなく『夢を現実的な形に変える』ことだ」

タロウは考え込んだ。宇宙…宇宙…宇宙…そうだ、前に『SMARTの法則』で学んだじゃないか。具体的に、達成できる形に落とし込むことが大切なんだ。

「そうだ!『流れ星観察会』はどう?」 「流れ星?」 「うん。流星群の時期に、近所の公園でみんなで観察するイベントを開くの。参加費は200円。お菓子と解説付き。これなら、宇宙に行かなくても宇宙を楽しめる!」

サクラが目を輝かせた。

「おお!それならできるかもね!しかも、『24時間ルール』で考えてみると、参加者はすぐに申し込むんじゃなくて、一日考えてから決断できるようにすれば、本当に来たい人だけが来るようになるよ」 「なるほど!『予約制』にして、前日までに申し込む方式にすればいいんだね」

ブタさんがうなずいた。

「いいぞ。『夢』を『現実的な形』に落とし込んだ。創造性と現実性のバランスが取れている。これがビジネスプランの真髄だ」

タロウは興奮してノートに書き始めた。

『タロウの流れ星観察会』ビジネスプラン

目的: みんなで星空を楽しみ、宇宙の不思議を学ぶイベントを開く

顧客:

  • 近所の親子(特に小学生とその親)
  • 学校の友だちとその家族
  • 宇宙好きの大人たち

価格:

  • 参加費:200円(子ども)、300円(大人)
  • お菓子セット(オプション):100円

コスト計算(1回あたり)

  • お菓子代:500円(20人分)
  • 飲み物代:300円(20人分)
  • チラシ印刷代:200円
  • 合計:1000円

売上予測(20人参加の場合)

  • 子ども(10人):2000円
  • 大人(10人):3000円
  • 合計:5000円

利益: 5000円 - 1000円 = 4000円

「おお!なんか現実的になってきた!」 タロウは興奮した。

「でもね、タロウ。ここで一つ質問」 サクラが手を挙げた。

「天気が悪かったらどうする?」 「え?」

タロウは固まった。そうだ、流れ星観察会の最大の敵は天気だ。

「そんな時は…室内でプラネタリウムごっこをする!」 「プラネタリウムごっこ?」 「うん。段ボールで簡易プラネタリウムを作って、天井に星を映すんだ。それなら雨の日でもできる!」

「おお!代替案まで考えてあるんだね!」 サクラが拍手した。

ブタさんも感心したように言った。

「リスク管理も重要なビジネスプランの要素だ。天候不順への対策を考えたのは良い判断だ」

実践編〜タロウ、初めての市場調査〜

「よし、じゃあ実際にニーズ調査をしてみよう!」 タロウはノートと鉛筆を持って、玄関に向かおうとした。

「ちょっと待った!」 サクラがタロウの腕をつかんだ。

「いきなり外に出て『宇宙観察会に参加したいですか?』って聞いて回るの?」 「ダメなの?」 「ダメじゃないけど…もっと効果的な方法があるよ」

サクラはタロウをリビングに連れて行った。ママがソファで本を読んでいた。

「ママ、ちょっと質問!」 「なに?急に改まって」 「もし、近所の公園で流れ星観察会を開くとします。参加費は200円。お菓子と解説付きです。ママは参加したいですか?」

ママは本を置いて、少し考えた。

「うーん…200円ならいいかな。でも、夜の8時から10時って言われると、パパの帰りが遅い日は行けないかもね」 「それだ!」

タロウは叫んだ。

「時間の条件が大事なんだ!」 「そう。ママは『行きたいけど、時間が合わない』って言った。これがリアルな声だよ」

サクラが教える。

「よし、じゃあ時間もアンケートに加えよう!」

タロウは急いでノートに書き加えた。

アンケート項目(タロウver.) 1. 流れ星観察会に参加したいですか?(はい・いいえ・わからない) 2. いくらまでなら払えますか?(100円・200円・300円・それ以上) 3. 何時からなら参加できますか?(19時〜・20時〜・21時〜) 4. どんな特典があれば参加したいですか?(お菓子・解説・写真撮影・その他) 5. 似たようなイベントに行ったことはありますか?(競合調査)

「よし!これを近所の人に聞いてみよう!」

タロウ、町に飛び出す〜勇気の一歩〜

タロウはノートを小脇に抱え、勇んで外に出た。最初のターゲットは、隣に住む山田さんだ。

ピンポーン

「はーい…あら、タロウくん。どうしたの?」 「あの、ちょっとアンケートに答えてもらえますか?」

山田さんは快く応じてくれた。タロウは質問を読み上げた。

「流れ星観察会…いいわねえ。私、星空を見るのが好きなのよ」 「やった!参加してくれるんですか?」 「ええ、200円なら安いわね。でも、夜9時はちょっと遅いかしら。私は8時くらいまでがいいわ」

タロウは必死にメモを取った。その後も、3軒ほど回ってアンケートを取った。

結果はこんな感じだった。

タロウのニーズ調査結果(4人に聞いた)

  • 参加したい:3人
  • 条件次第:1人
  • 希望価格:100円〜300円
  • 希望時間:19時〜20時が最も多い
  • 競合イベント経験:無し(全員)

「よし!これならいける!」

満足げなタロウが家に戻ると、サクラとブタさんが待っていた。

「どうだった?」 「4人中3人が『参加したい』って言ってくれたよ!しかも、似たようなイベントに行ったことがある人はいなかったから、競合はいなさそうだ」 「おお!なかなかの好結果じゃないか」

しかし、ブタさんが釘を刺した。

「ただし、アンケートは『参加したい』と『実際に参加する』は別物だということを忘れるな。本番でどれだけの人が来るかは、やってみなければわからない。だが、競合がいないという情報は大きな武器になるぞ」

「うん、わかってる。でも、0人よりは3人も可能性がある方がいいでしょ?」

タロウの目は輝いていた。

いよいよ本番〜小さなビジネス、大きな冒険〜

数週間後。タロウはついに『流れ星観察会』を決行することにした。日時は土曜日の夜7時半。場所は近所の公園。ターゲットは親子連れ20人。

チラシはママの協力で近所にポスティングした。学校の友だちにも口コミで広めた。

そして当日——。

「来た…来たよ…!」

タロウの目に、公園に集まる人々の姿が飛び込んできた。

子ども10人。大人8人。合計18人。

「すごい!18人も来てくれた!」 「やったね!」

サクラがタロウの肩を叩いた。

流れ星は期待通りに現れた。参加者たちは「わあ!」「きれい!」と歓声を上げながら、夜空を見上げた。タロウはスマホの星座アプリで解説をしながら、みんなと一緒に星を楽しんだ。

イベント終了後、参加者からはこんな声が聞かれた。

「すごく楽しかった!またやってほしい!」 「200円でこんなに楽しめるなら毎月来たい!」 「タロウくんの解説がわかりやすかったよ!」

タロウの心は感激でいっぱいになった。

結果発表〜数字で見る成功と学び〜

帰宅後、タロウはノートに収支をまとめた。

『タロウの流れ星観察会』収支報告

売上:

  • 子ども(10人 × 200円):2000円
  • 大人(8人 × 300円):2400円
  • お菓子セット(5人 × 100円):500円
  • 合計:4900円

経費:

  • お菓子代:1200円
  • 飲み物代:800円
  • チラシ印刷代:300円
  • 合計:2300円

利益: 4900円 - 2300円 = 2600円

「やった!2600円の黒字だ!」

タロウはガッツポーズをした。

「でもね、タロウ。あなたの労働時間は?」

ブタさんがいつものように冷静な質問を投げかけた。

「準備に3日間。当日に3時間。合わせて…ざっと10時間くらいかな」 「時給に換算すると?」 「…260円」

タロウはちょっとがっかりしたが、すぐに笑顔を取り戻した。

「でもね、ブタさん。これはビジネスの練習だよ。最初の時給が260円でも、次はもっとうまくやれる。それに、参加者が喜んでくれたことが、なによりの報酬だよ」

ブタさんは満足げにうなずいた。

「フン。なかなか良いことを言うじゃないか。ビジネスとはお金を稼ぐことだけではない。人に喜びを届け、社会に価値を生み出すことだ。君はその本質を理解し始めている」

夢のアイデア帳〜未来への第一歩〜

その夜、タロウは机の前に座り、『夢のアイデア帳』と名付けたノートを開いた。そこにはすでにいくつものアイデアが書かれていた。

タロウの夢のアイデア帳

1. 流れ星観察会(実績あり、次は100人規模に拡大) 2. お菓子販売(夏祭りの屋台で再挑戦) 3. 宇宙工作教室(段ボールでロケットを作る) 4. 庭でミニ野菜栽培販売(ママの畑を借りて) 5. 古本販売(読み終わった本をリサイクル)

「まだまだ増えそうだな」 タロウは満足そうに微笑んだ。

「お金を稼ぐって、ただお金を集めることじゃないんだなってわかった。誰かの役に立って、喜んでもらって、その対価としてお金をもらう。それがビジネスなんだ」

ママがドアの隙間から顔をのぞかせた。

「タロウ、今日はお疲れさま。すごくいいイベントだったわね」 「ありがとう、ママ。それでさ、今日の利益の2600円、どうしようかな」

「どうするって?」 「半分は次回のイベントの費用に回して、残りの半分は貯金しようかな。『三つのポケット』の未来のポケットに入れておくんだ。それで大きくなったら、いつか本当の宇宙旅行ができるかもしれないしね」

ママは優しく笑った。

「素晴らしい計画ね。でも、一つだけ約束してほしいことがあるの」 「なに?」 「夢を追いかけることを忘れないで。お金を稼ぐことは大事だけど、あなたが『やりたい!』と思う気持ちを、ずっと大切にしてほしいの」

タロウはうなずいた。

「うん、約束する!」

その夜、タロウは夢のアイデア帳に新しいページを書き足しながら、考えた。

「ビジネスプランは『現実的な夢の設計図』なんだ。大きすぎる夢も、小さく分ければ実現可能になる。そして、失敗しても良い。むしろ失敗から学べば、次はもっと良いプランができるんだ。これまで学んだ『SMARTの法則』で目標を具体化し、『24時間ルール』で冷静に判断する。それがビジネスにも生きるんだね」

タロウは窓の外の星空を見上げた。今夜もたくさんの星が輝いている。

「いつか本当に宇宙に行く日まで…まずは地上でできることから始めよう」

彼の夢は、確実に大きくなっていた。お金について学ぶことで、ただの空想だった夢が、手の届く目標へと変わっていく。その感覚が、タロウの胸を熱くするのだった。

ブタさんが棚の上から声をかけた。

「フン。なかなか良いスタートを切ったな。だが、本当の勝負はこれからだ。ビジネスを続けるためには、お客様の声に耳を傾け、常に改善し続けること。そして、儲けだけでなく、やりがいや楽しさも忘れないこと。それが長く続くビジネスの秘訣だ。君の『夢のアイデア帳』は、まだまだ白いページがたくさんあるぞ」

「うん、わかってるよ、ブタさん」 タロウは微笑んだ。

「僕のビジネスは、まだ始まったばかりだからね」

夢のアイデア帳には、まだたくさんの白いページが残されていた。未来は、これから書かれる物語のように広がっている。タロウの小さなビジネスへの挑戦は、まだ始まったばかりだった。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 12
お金のトラブル〜甘いワナに気をつけて〜

第12章 お金のトラブル〜甘いワナに気をつけて〜

夏休みも終わりに近づいたある日の放課後。タロウは学校からの帰り道、友達のケンタと公園で遊んでいた。

「なあ、タロウ、すごい話があるんだけどさ」 ケンタが何やら興奮した様子で話しかけてきた。

「どうしたの?」 タロウはブランコに乗りながら、何気なく答えた。

「『スマホでポチポチするだけで1日5000円稼げる』ってやつ、知ってる?」 ケンタの目はキラキラと輝いている。

「え?そんな話、どこで聞いたの?」 タロウはブランコをこぐのをやめて、ケンタの方を向いた。

「ネットで見つけたんだ!『友達を紹介するとボーナス』って書いてあってさ。最初にちょっと参加費を払えばいいだけなんだって。もうやってる人もいるみたいだよ」

タロウは少し考えた。確かにケンタの話はワクワクする。でも、どこかで聞いたような…。

「ねえ、その話、なんかおかしいと思わない?『最初にお金を払う』っていうのが気になるんだよね。それに『簡単に儲かる』って、そんなうまい話ってあるのかな?」

ケンタは少し不満そうな顔をしたが、タロウは続けた。

「サクラの『24時間ルール』を思い出したんだ。急いで決めなくてもいいんじゃない?一度家に帰って考えてみようよ」

「まあ…そうかもな」 ケンタも素直にうなずいた。

その夜、タロウは自室で宿題をしながら、今日のことを思い出していた。

「ねえ、ブタさん、聞いてる?」 タロウが机の上の貯金箱に話しかけると、ブタさんから低い声が返ってきた。

「聞いておるよ。よくぞ『怪しい』と気づけたな」 ブタさんの声は少し誇らしげだった。

「でも、確かにケンタの話って魅力的だったんだよ。『1日5000円』って聞くと、つい『やってみたい』って思っちゃう」 タロウは正直な気持ちを打ち明けた。

「それが人間の心の弱さよ。しかし、それを自覚していることが大事なのだ」 ブタさんは落ち着いた口調で語り始めた。

「教えてやろう。今日ケンタが言っていた話はな、『ねずみ講』というものだ」

「ねずみ講って何?」 タロウが首をかしげる。

「簡単に言うと、新しい会員を紹介して集めたお金を、上の人たちで分け合う仕組みだ。実は何の価値も生み出していない。ただお金が上に移動しているだけだ。新しい人が入らなくなると、最後に入った人だけが損をすることになる。法律でも禁止されている犯罪行為だ」

「えっ、犯罪なの?」 タロウは目を丸くした。

「そうだ。儲かるのはシステムの頂点にいるごく一部だけで、大多数は損をする。まさに『簡単に儲かる』という言葉に引き寄せられた人たちが餌食になるんだ」

「でも、儲かってる人の話を聞くと、つい自分も…って思っちゃうよね」 タロウは複雑な表情で言った。

「その心理を利用しているのが詐欺師というものだ。『成功者の声』は、ほぼ全て作られたものか、ごく一部の例外だ」

実は身近なところに潜む罠

数日後、タロウは学校から帰ってパソコンで宿題の調べ物をしていた。ふと画面の隅に広告が目に入る。

「【限定】たった3日で5000円!小学生でもできる秘密の方法!」

「またこれか…」 タロウは苦笑いした。ブタさんから教わったことが頭に浮かぶ。『簡単に儲かる』はウソだ。

しかし、次に目にしたものに、タロウは息をのんだ。

それは、友達のユウタがよく遊んでいるオンラインゲームの広告だった。

『限定アイテムゲット!今だけ友達招待でレアスキンがもらえる!』

「これは…ゲーム内の話?」 タロウはついクリックしそうになったが、思いとどまった。

「ちょっと待て」 ブタさんの声が聞こえた気がした。

「うん。まずは調べてからにしよう」 タロウはスマホで検索してみた。すると、同じゲームで「無料アイテム」につられて個人情報を入力してしまい、勝手に課金されていたという小学生の事例がたくさん出てきた。

「あぶなかった…」 タロウは冷や汗をかいた。

ブタさんと学ぶ、現代のワナ

夜になって、タロウはブタさんに今日の出来事を話した。

「ブタさん、オンラインゲームの罠ってあるんだね」

「ああ。今や小学生でもスマホやタブレットを持つ時代だ。ネットの世界にはいろんな罠が仕掛けられている」 ブタさんは優しく、しかし真剣な口調で語る。

「例えば、こんなケースもある」 ブタさんは語り始めた。

「ある小学生が、『無料でゲームのアイテムがもらえる』というリンクをクリックしたら、知らない間に月額9800円の有料サービスに登録されていた。気づいた時には5ヶ月分、約5万円もの請求が来ていた。親が問い合わせても『同意の上での登録です』と突き返されたそうだ」

「ひどい…」 タロウは顔をしかめた。

「別のケースでは、SNSで『簡単に稼げる』と誘われて、中学生が自分の銀行口座を犯罪グループに売ってしまい、結果として詐欺の片棒を担がされたという話もある。これは『闇バイト』と言って、最近増えている手口だ」

「それって、ぼくみたいな小学生でも関係あるの?」

「もちろん、ある。今は小学生でもフリマアプリで不用品を売ったり、オンラインゲーム内でアイテムを取引したりするだろう?その中にも危険は潜んでいる」

タロウはドキッとした。先週、自分ももう使わなくなったゲームソフトを出品しようかと考えていたところだった。

「フリマアプリで気をつけることってある?」 タロウが聞いた。

「もちろんある。例えば『商品を先に送ってください』と言われて送ったら、代金が払われなかった。または逆に、代金を振り込んだら商品が届かなかった。そんなトラブルが実際に起きている。そして、小学生が個人で取引をするのは、法律上も難しいケースがある」

「どういうこと?」

「未成年者が親の同意なしに結んだ契約は、基本的に取り消すことができる。これは『未成年者取消権』と言って、子どもを守るための法律だ。ただし、それを悪用して『やっぱり返品する』と言ってトラブルになるケースもある。だから、ネットでの売買は必ず大人に見てもらうのが安全だ」

「なるほど…」 タロウはメモを取りながらうなずいた。

怪しい話を見分ける七つの方法

「ここで、本題だ」 ブタさんは姿勢を正した。

「これから、怪しい話を見分ける方法を教えよう。俺の長年の経験から編み出した『七つのチェックポイント』だ」

タロウはノートを開いてペンを用意した。

一つ目:「簡単に儲かる」はウソ

「『努力しなくても』『誰でも』『一瞬で』などの言葉が出てきたら要注意。本当に儲かる方法は、誰かに教えてもらうまでもなく、自分で見つけるものだ」

二つ目:先にお金を払わせる

「『参加費』『教材費』『登録料』など、最初に支払いを求められたら疑え。本当に儲かる方法なら、儲かってから手数料を取るはずだ」

三つ目:「今だけ」「限定」「最後のチャンス」

「時間的なプレッシャーをかけて判断を急がせるのは、典型的なワナ。冷静に考える時間を奪おうとしている。これを聞いたら、逆に『24時間ルール』を適用するんだ」

四つ目:知らない人からの連絡

「SNSで知らないアカウントから『お金の話』を持ちかけられたら、まず疑え。友達の紹介でも、その友達が実際に儲かっているか確かめることだ」

五つ目:口コミ・体験談だけが証拠

「『成功者の声』はほぼすべて作られたものか、ごく一部の例外だ。公的な機関の認証や、明確な数字の根拠がないものは信用するな」

六つ目:「内緒」「秘密」「人に言わないで」

「人に話してはいけないと言われたら、それは間違いなく怪しい。本当に良い話なら、誰に話しても恥ずかしくないはずだ」

七つ目:自分の直感を信じる

「『なんか変だな』『気持ち悪いな』と思ったら、その感覚を大切にしろ。人間の直感は、時に論理よりも正しい判断をする」

「すごい…これだけ覚えておけば、たいていの怪しい話は見抜けるね」 タロウは目を輝かせた。

「これらのうち、一つでも当てはまったら要注意だ。特に三つ以上当てはまったら、絶対に飛びついてはいけない」

実践!ロールプレイで学ぶ対処法

「でも、もし直接誘われたら、どうやって断ればいいんだろう?」 タロウが不安そうに聞いた。

「わかった。では、実践練習をしよう」 ブタさんは突然声のトーンを変えた。

「今から俺が怪しい勧誘の相手役をやる。お前はそれに対して正しい対応をしてみせろ」

「えっ!急に!?」 タロウは慌てたが、気合を入れ直した。

シーン1:ねずみ講の勧誘

「やあ少年、友達を紹介するだけで毎月10万円稼げるバイトがあるんだけど、興味ない?」 ブタさんがネコのような口調で話しかける。

タロウは深呼吸してから答えた。

「ちょっと待って!」 右手を前に出して、いったん間を置く。

「『簡単に儲かる』って言ってるけど、それって怪しいと思う。それに『友達を紹介』って、ねずみ講のことじゃない?まずは大人に相談してから返事するよ」

「う…まあそう言わずに…今だけ特別だし…」 ブタさんの声が小さくなる。

「『今だけ』って言われても、急かされるとむしろ怪しいと思う。ぼくはこの話にはのらない。ごめんね」 タロウはきっぱりと言い切った。

「うむ!素晴らしい!」 ブタさんが豹変して喜んだ。

「完璧だ。特に『ちょっと待って』と言って時間を稼ぎ、『大人に相談』と言って断るのは、一番効果的な方法だ」

シーン2:高額教材の販売

「この教材さえあれば、君もお金の天才になれる!通常5万円のところ、今だけ9800円!」 ブタさんが再び勧誘モードで迫る。

タロウは今度は落ち着いて対応した。

「『今だけ』って言ったね。それに、本当に価値がある教材なら、ネットで口コミや評判を調べられるはずだよね?まずは学校の先生やママに相談して、それから考える。あと、その教材の内容のサンプルって見せてもらえますか?」

「おっ!サンプルを聞くなんて、上級テクニックだ!」 ブタさんは大いに感心した。

「そうなんだよ。本当に価値がある教材なら、一部を無料公開しているものだ。サンプルを見せない、あるいは見せられないものは、中身がない証拠だ」

シーン3:オンラインゲームのトラップ

「このリンクをクリックするだけで、レアアイテムがもらえるよ!」 今度はゲーム内の広告を想定した練習だ。

「ちょっと待って」 タロウはまず立ち止まった。

「無料でアイテムがもらえるっていうのは魅力的だけど、『個人情報を入力してね』とか『アプリのインストールが必要』って書いてない?まずは親に相談してからにするよ」

「うん、いいぞ。特にネット上では、リンクをクリックする前に、そのリンクが何なのか確認する習慣が大切だ」

困ったときの相談先

タロウはそこで、ふと気になることがあった。

「ブタさん、もし万が一、自分や友達が怪しい話に引っかかってしまったら、どうすればいいの?」

「いい質問だ」 ブタさんは真剣な表情で答えた。

「まず第一に、必ず親や先生に相談すること。一人で抱え込んではいけない。恥ずかしいとか、怒られるかもという気持ちはわかるが、それ以上に大きな被害になる前に相談するのが正解だ」

「うん、わかった」 タロウは真剣にうなずいた。

「そして、親以外にも相談できる場所がある」 ブタさんは続けて教えてくれた。

相談できる窓口

1. 消費者ホットライン(188) 「消費者トラブル」の専門家が無料で相談に乗ってくれる。詐欺や悪質商法の被害にあった時も相談できる。

2. 警察相談ダイヤル(#9110) 詐欺にあいそうになった時、または実際に被害にあった時に相談できる。

3. 子ども専用の相談電話 学校の先生やスクールカウンセラーも相談相手になる。普段から信頼できる大人と話せる関係を作っておくことが大切だ。

「特に『188』の番号は覚えておくと便利だ。『いやや(188)』と覚えるんだ」

「『いやや』か。覚えやすいね!」 タロウはスマホにメモした。

親子で話してみよう

「よし、今日学んだことを復習しよう」 ブタさんが言った。

「今日のテーマは『怪しい話から身を守る方法』だ。これを機会に、お前さんもママと話してみるといい」

「どういうこと?」

「例えば、『ママは怪しい話を持ちかけられたことある?』とか、『ネットで困ったことがあったら、どうやって相談すればいい?』とか、家族で話し合ってみるんだ。この章で学んだことを、家でも実践してほしい」

「なるほど!確かにママも何か知ってるかもしれないね」 タロウは早速、ママに話してみることにした。

その晩、夕食のときにタロウは今日の出来事を話した。

「ママ、今日ね、ブタさんから詐欺のことを教わったんだ」 タロウは興奮気味に語り始めた。

「ブタさんから?ああ、あの貯金箱のこと?」 ママは少し首をかしげたが、話を聞くことにした。

「そう!ねずみ講とか、架空請求とか、それを見分ける七つの方法を教わったんだよ!」

ママは驚きながらも、嬉しそうな顔で聞いてくれた。

「それでね、『困ったら親に相談』ってブタさんが言ってたから、もし何かあったら真っ先にママに言うね!」

「それはいい心がけだね」 ママはタロウの頭を撫でた。

「ちなみにママは、最近SNSで『簡単に稼げる』っていう広告を見かけたんだけど、やっぱりあれは怪しいのかな?」

「もちろん!『簡単に儲かる』はウソだよ!それに『今だけ』とか『限定』って書いてなかった?」 タロウが得意げに答える。

「確かに『今だけ』って書いてあったわ。さすが、うちの息子はもう詐欺に引っかからないね」 ママは笑いながら言った。

「でもね、ママ」 タロウは急に真剣な表情になった。

「本当に怖いのは、自分は大丈夫って思ってることだって、ブタさんが言ってた。新しい手口はどんどん出てくるから、油断しちゃいけないって」

「その通りだね。だからこそ、こうやって家族で話し合うことが大事なんだ」 ママは優しく微笑んだ。

「あ、そうだ。ママに『24時間ルール』って教えてもらったんだよね。それって、怪しい話にも使えるんだよ。急かされても『24時間待つ』って決めておけば、冷静に判断できるもんね」

「本当に成長したね、タロウ」 ママは嬉しそうに、もう一度タロウの頭を撫でた。

その夜、タロウはベッドに入ってからも、今日学んだことを反芻していた。

(『ちょっと待って、大人に相談』。これが一番大事なんだ。それと『24時間ルール』。怪しい話は急かしてくるから、その場で決めずに時間を置くこと。そして『困ったら188』の相談窓口…)

タロウの頭の中には、今日学んだことがきれいに整理されていた。

「ブタさん、ありがとう」 小さな声でつぶやくと、机の上の貯金箱から微かな声が返ってきた気がした。

「おやすみ、タロウ。しっかり守れたら、きっといい大人になれるぞ」

あなたへの挑戦状

さて、ここで読者のあなたにクイズです!

次のうち、怪しい話に該当するものはどれでしょう?

A. 「無料でゲームが遊べるよ!ただし最初に月会費の登録が必要だよ」 B. 「今だけ特別!いつもは5000円の教材が980円!ただし3日以内の申し込み限定」 C. 「友達を紹介したら、紹介した友達の分もあなたにボーナスが入ります」 D. ネットで見つけた「正体不明の業者からの商品購入。代金を先に振り込んでください」 E. 上記すべて

※正解はE。 すべてに「簡単に儲かる」「先にお金を払わせる」「今だけ限定」「友達紹介」といった怪しい要素が含まれているね。

もし同じような話を聞いたら、この章で覚えたことを思い出してほしい。

「ちょっと待って、大人に相談」 が合言葉だ。

そして、お家の人とも今日の話をしてみよう。 「ママやパパは、怪しい話を持ちかけられたことある?」 「友達から『簡単に儲かる話がある』って言われたら、どうすればいい?」 「困ったときの相談窓口『188(いやや)』って覚えたよ!」

家族で話すことで、あなたも家族も、もっとお金のトラブルに強くなれるはずだ。

お金にまつわるトラブルは、知っていれば防げる。 これからも一緒に学んでいこう!

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 13
寄付と社会貢献〜みんなで幸せになる方法〜

第13章 寄付と社会貢献〜みんなで幸せになる方法〜

ある日の放課後、タロウがランドセルを置くなり、ママにこう言った。

「ママ、学校で募金活動があるんだって!『野良猫を助けるプロジェクト』っていうやつで、お金を集めて猫たちのごはんや病院代にするんだって!」

ママはキッチンから顔を出して、ニコニコしながら言った。

「あら、タロウ。それはいい経験になるわね。ところで、募金って何だと思う?」

「えっと…お金をあげること?」

「半分正解で、半分は間違い。募金は『あげる』んじゃなくて、『お金の使い道を自分で選んで、誰かのために使う』ことなのよ。」

タロウは首をかしげた。

「でも、お金をあげたら自分のお金が減っちゃうよ。それって損じゃない?」

ママは冷蔵庫から麦茶を取り出しながら、得意げな顔をした。

「タロウ、お金にはね、三つの使い道があるの。一つは『自分のために使う』。二つ目は『未来のために使う(投資)』。そして三つ目は…『みんなのために使う(寄付)』。損か得かで言えばね、寄付は『心の得』がすごく大きいのよ。」

「心の得?」

「そう。お金を誰かのために使うと、自分の心がポカポカ温かくなるでしょ?あれが『心の得』。実はね、お金持ちの人ほど寄付をしているって研究もあるの。お金を使うほど幸せになるってわけ。」

ブタさんがタロウの机の上から低い声で口を挟んだ。

「グオッ…実に深い話だ。ワシも貯金箱として長年生きてきたが、お金の最高の使い方は『誰かの笑顔を買う』ことかもしれんのう。」

タロウは目を輝かせた。

「じゃあ、僕も募金しよう!でも、どのくらい入れればいいのかな?」

「それはね、タロウが決めることよ。『無理のない範囲で、心が動いた分だけ』が、いいと思うわ。」

学校での募金活動

次の日、学校の体育館で募金活動が行われた。体育館の入り口には、大きなポスターが貼ってあった。そこには痩せた野良猫の写真と「私たちの手で、猫たちに温かいご飯とお家を!」という文字が書かれている。

タロウの友達のサクラが隣に立って、募金箱をじっと見つめていた。

「タロウ、いくら入れるの?」

「うーん…300円にしようかな。昨日おこづかいから取り分けたんだ。今の貯金は3850円だけど、そのうちの300円なら、まだドラゴンクエストXIIの目標に手が届きそうだから。」

「私は500円にする。だって、この前の星座消しゴム事件で学んだんだ。お金は自分のためだけじゃなくて、誰かのためにも使えるんだって。」

タロウはサクラの成長にちょっと驚いた。あの衝動買いの女王だったサクラが、こんなことを言うなんて。

「すごいな、サクラ。でも、星座消しゴムの時は3000円も使ったのに、今回は500円なんだね。」

「あの時はね、『自分が欲しい!』っていうドーパミン地獄に落ちてただけ。でも募金は違うの。『誰かが助かる』って気持ちで入れるお金だから、ドーパミンじゃなくて、なんか…『オキシトシン』ってやつかもしれない。」

「オキシトシン?」

「愛情ホルモンって言われてるやつ。調べたんだ!」

タロウはサクラがすごく賢くなったように感じた。お金の勉強を始めてから、友達も一緒に成長しているんだなあ。

二人は募金箱にそれぞれお金を入れ、受付のお姉さんに「ありがとうございます!」と言われた。その瞬間、タロウの胸の中にポカポカしたものが広がった。

「…これが心の得ってやつか!」

クラウドファンディングとの出会い

その日の夜、タロウはパソコンを開いているママの後ろからのぞき込んだ。

「ママ、何見てるの?」

「これね、クラウドファンディングって言うんだ。インターネットでみんなから少しずつお金を集めて、何かプロジェクトを実現する仕組みよ。」

画面には「野良猫保護プロジェクト 第一弾!地域の猫たちに温かいシェルターを」というタイトルが表示されていた。目標金額は50万円。すでに35万円集まっている。

「わあ、学校の募金と同じようなもの?」

「ちょっと違うわね。募金はただお金を集めるだけだけど、クラウドファンディングはね、『支援者へのリターン』があるんだよ。」

「リターン?」

「そう。例えばこのプロジェクトだと、3000円支援した人には『お礼の手紙と猫の写真カード』が届くの。5000円だと『シェルターに支援者の名前を刻んだプレート』が付く。つまり、お金を出す見返りに、何か特別な体験や物がもらえるってわけ。」

タロウは興奮して言った。

「それって、まるで『みんなで買うプレゼント』みたいだね!一人じゃ買えない大きなプレゼントを、みんなで少しずつお金を出し合って買うんだ!」

ママはパソコンから顔を上げて、タロウの頭を撫でた。

「その通り!まさに『みんなの力を合わせる』ってやつね。特にこの野良猫プロジェクトは、タロウも興味あったでしょ?」

「うん!でも、僕の貯金は3850円で、アイスクリーム屋台で650円の利益を出した後の残高なんだ。それで支援したら、ドラゴンクエストXIIの目標が遠のいちゃうかな…」

「見てみよう。あ、一番安いコースだと1000円で『お礼のハガキ』がもらえるみたいよ。3850円から1000円引くと2850円。まだ目標には届かないけど、無理のない範囲ならいいんじゃない?」

ブタさんのアドバイス

その夜、タロウがベッドに入ろうとした時、ブタさんが静かに話し始めた。

「タロウよ、あのクラウドファンディング、ワシも面白いと思うぞ。しかし、ちゃんと考えて支援するのじゃ。」

「どういうこと?」

「寄付にも『見極め』が必要なんじゃ。どんな団体に、どんな目的で、どんな使い道でお金が使われるのか。それを知らずにポンと出すのは、まるで『目をつぶって的当てをする』ようなものじゃ。」

タロウは布団の中でゴロンと寝返りを打った。

「じゃあ、どうやって見極めればいいの?」

「三つのポイントを覚えておくといい。」 ブタさんは低い声で解説を始めた。

一つ目:『目的と活動内容』 「その団体が本当にやりたいことと、実際にやっていることが一致しているかを確認するんじゃ。例えば『野良猫を助ける』と言いながら、実際は猫を増やして売っているような団体だったらダメじゃ。」

二つ目:『お金の使い道が明確か』 「集めたお金がどこに使われるのか、具体的に書いてあるかを見るのじゃ。『管理費30%』とか『広告費50%』とか、変な割合の団体は要注意じゃ。」

三つ目:『実績と評判』 「過去にどんな活動をしてきたのか、他の人はどう評価しているのか。SNSや口コミサイトで調べてみるのも良いぞ。まあ、猫のプロジェクトなら『にゃんとも口コミ』とかあるかもしれんがの。」

タロウは真剣に聞いていた。

「なるほど。じゃあ、野良猫プロジェクトもちゃんと調べてみよう。」

「うむ。寄付は『善意のお金』じゃ。善意に乗じて悪さをする人もいるからのう。ちゃんと目を開いて、頭を使って、それから心で決めるんじゃ。」

タロウは「わかった!」と元気に答え、そのまま眠りについた。

野良猫プロジェクトの真相を探る

翌日、タロウはママのパソコンを借りて、野良猫プロジェクトの詳細を調べた。

「えーっと…代表者は鈴木花子さん。活動地域は町田市。実績は…去年も同じプロジェクトをやってて、42匹の猫を保護したんだって!」

タロウはさらに調べを進めた。プロジェクトページには、使途が詳細に書かれていた。

  • 猫の医療費(ワクチン・去勢手術): 20万円
  • シェルター建設費(断熱材・屋根材): 15万円
  • 餌代(3ヶ月分): 8万円
  • 管理費(保険・諸経費): 7万円

合計 50万円

「おお、ちゃんと書いてある!去年の活動報告も公開されてるし、写真もある!」

タロウはさらに、プロジェクトの「よくある質問」コーナーを見つけた。そこには「寄付金は全額が活動に使われますか?」という質問に対する答えがあった。

「管理費として約15%をいただいております。これは保険料や銀行手数料、報告書作成の経費など、活動を継続するために必要な費用です。透明性を高めるため、毎月の収支報告を公開しています。」

タロウは納得した。管理費がちゃんと説明されていて、しかも報告が公開されている。これは信頼できそうだ。

「ブタさん、このプロジェクトは合格かな?」

「うむ。使途が明確で、実績もあり、報告も公開している。ワシの三つの条件をクリアしておるのう。タロウ、よく調べた。立派じゃ。」

タロウは胸を張ったが、ふとあることに気がついた。

「でも、僕の貯金は3850円。1000円を寄付したら、残りは2850円になっちゃう。ドラゴンクエストXIIを買うための5000円目標、まだ遠いんだよな…」

ブタさんは優しい声で言った。

「タロウ、寄付は『残ったお金でやる』ものじゃ。自分の生活を犠牲にしてまでするものではない。『無理のない範囲』で、『心が動いた分だけ』で十分なんじゃ。それに、アイスクリーム屋台で650円の利益を出したお前さんなら、またチャンスは作れるはずじゃ。」

タロウは少し考えた。そして決心した。

「わかった!1000円を寄付しよう。お礼のハガキももらえるし、それに何より、猫たちが助かると思うと嬉しいから!」

初めてのクラウドファンディング体験

ママのクレジットカードを借りて、タロウは支援ボタンを押した。入力する項目は:支援コース選択、名前、メッセージ(任意)。タロウはメッセージにこう書いた。

「小学4年生のタロウです。野良猫さんたちを助けてください。僕も将来、お金をたくさん稼いで、もっと大きな支援ができる人になりたいです。」

送信ボタンを押した瞬間、画面に「ご支援ありがとうございます!」の文字が表示され、さらに「応援メッセージがプロジェクト運営者に届きました」と出た。

その時、タロウのスマホにメールが届いた。差出人はプロジェクト運営者、鈴木花子さんからの自動返信メールだったが、そこには手書き風のメッセージが添えられていた。

「タロウくん、ご支援ありがとうございます!あなたの優しい気持ちが、猫たちに必ず届きます。シェルターが完成したら、写真を送りますね!」

タロウはそのメールを何度も読み返した。胸が熱くなった。ポカポカする。これが「心の得」か!

ママが台所から顔を出して言った。

「どう?初めての寄付、どんな気持ち?」

「なんかね…お金をあげたのに、もらった気分なんだ。不思議だよ。」

ママは優しく微笑んだ。

「それが寄付の魔法なのよ。お金はね、『使ったら終わり』じゃない。『誰かの笑顔に変わる』の。そしてその笑顔は、必ずあなたにも返ってくる。形は違うけれどね。」

寄付の世界を広げる

それから一週間後、タロウの家に一通の封筒が届いた。差出人は「野良猫保護プロジェクト」。中には手書きのお礼のハガキと、猫の写真カードが入っていた。写真には、保護された三毛猫が気持ちよさそうに寝ている様子が写っていた。

「おお!これがリターンか!」

タロウは写真カードを机の前に貼った。そこには「この猫はタロウくんの支援で保護されました」という文字が添えられている。

ブタさんが感心したように言った。

「これで貯金が2850円に減ったわけじゃが、タロウは満足そうじゃのう。」

「うん!だってね、僕のお金がこんなに素敵なことに使われるなんて思わなかったんだ。まるで、自分の分身がどこかで誰かを助けているみたいな気分!」

「グオッ…実に素晴らしい心がけじゃ。ところで、タロウ。寄付にはもう一つ大事な意味があるのを知っておるか?」

「なに?」

「『社会貢献と自己満足のバランス』じゃ。寄付をすると、自分が良いことをした気分になる。それは悪いことじゃない。むしろ、それが続ける原動力になる。しかし、忘れてはいけないのは、本当の目的は『誰かを助けること』じゃ。自己満足だけに終わってはいかん。」

タロウは真剣に聞いた。

「じゃあ、どうしたらいいの?」

「例えば、寄付をした後も、その活動に関心を持ち続けることじゃ。『寄付したからおしまい』ではなく、『寄付したからこそ、応援し続ける』。それが本当の社会貢献の形なんじゃ。」

タロウは「なるほど…」とつぶやき、早速プロジェクトのSNSをフォローした。すると、シェルターの建設現場の様子や、保護された猫の新しいお家探しの様子が日々更新されていた。

「毎日見てたら、まるで自分もプロジェクトの一員になったみたいだ!」

寄付の心理学

数日後、タロウは学校から帰ると、ママに質問した。

「ママ、どうして人は寄付をするの?だって、自分のお金が減るだけじゃん。」

ママは夕飯の支度をしながら考え込んだ。

「面白い質問ね。実はね、人間の脳は寄付をすると快感を感じるようにできているの。」

「えっ!?」

「脳科学の研究でわかっているんだけど、自分のお金を誰かのために使うと、脳の『報酬系』と呼ばれる部分が活性化するの。これはチョコレートを食べたり、ゲームで勝ったりした時と同じ反応なんだって。」

タロウは驚いた。

「つまり、寄付って『お金を使って幸せホルモンを買う』ようなものなの?」

「その通り!しかもね、寄付の快感は『買い物の快感』よりも長続きするっていう研究もあるのよ。」

「えー!買い物より気持ちいいの?」

「そう。買い物の快感は『その瞬間だけ』だけど、寄付の快感は『誰かが喜んでいる姿を想像できる』から、ずっと続くの。まるで、お菓子を食べるか、花の種を植えるかの違いね。お菓子は食べたら終わりだけど、花は育ち続けるでしょ?」

タロウは昨日の写真カードを思い出した。あの三毛猫が今も元気に過ごしていると思うと、確かにまだポカポカした気持ちが続いている。

「なるほど…。でも、ママはどうして寄付をするの?」

ママは手を止めて、優しい目をした。

「ママね、小学校の時にね、おばあちゃんからもらったお年玉の一部を、いつも地元の子ども食堂に寄付してたの。当時は『なんでお金をあげるの?』って不思議だったけど、大人になってからわかったんだ。『自分が助けてもらった喜びを、誰かに返したい』って気持ちが自然と湧いてくるのよ。」

「ママも子ども食堂で助けてもらったことあるの?」

「うん。ママが小学生の頃、パパが仕事を失って、家計がすごく苦しかった時期があったの。その時にね、子ども食堂で無料でご飯を食べさせてもらったんだ。あの時の『ありがとう』の気持ちが、今も心の中に生きているの。」

タロウはママの話を初めて聞いて、何だか胸が熱くなった。

「じゃあ、今度ママが寄付してるのは、その時の恩返しなんだね。」

「そういうこと。お金の循環はね、時を超えてつながっているんだよ。タロウが今、野良猫のために1000円を使ったことも、いつかどこかで、誰かの笑顔になって返ってくるかもしれないね。」

継続的な支援の形

それからのタロウは、毎月のおこづかいから100円ずつを「寄付用のポケット」に貯めることにした。

「これで年に1200円!毎年野良猫プロジェクトに支援できる!」

ブタさんが感心したように言った。

「グオッ…継続は力なり、じゃな。一度だけの大きな寄付も素晴らしいが、コツコツ続ける小さな寄付には『持続可能な支援』という大きな価値がある。それに、タロウが毎月この活動を思い出すことで、社会貢献への意識も高まるというものじゃ。」

タロウはおこづかい帳を開いて、新しい項目を書き加えた。『寄付用ポケット:毎月100円』

すると、サクラからLINEが来た。

「タロウ!私も野良猫プロジェクトに興味あるんだけど、一緒に支援しない?」

タロウは嬉しくなって、すぐに「いいよ!」と返信した。そして、野良猫プロジェクトのページのリンクを送った。サクラもすぐに1000円を支援したらしく、数分後には「支援したよ!猫の写真カード、楽しみ!」と返ってきた。

タロウはふと、あることに気がついた。自分が始めたことが、友達にも広がっている。それって、まるで…

「あ、これが『寄付の連鎖』ってやつか!」

ブタさんが得意げに言った。

「そうじゃ。一つの善意が、次の善意を呼ぶ。それが社会を良くする本当の力なんじゃ。タロウ、お前さんはもう立派な社会貢献者じゃな。」

まとめ:みんなで幸せになる方法

その夜、タロウはベッドの中で今日一日の出来事を振り返った。学校の募金に300円、クラウドファンディングに1000円、そしてサクラにも野良猫プロジェクトを紹介した。

「今日だけで、僕は合計1300円も誰かのために使ったんだな。でも、全然損した気がしない。むしろ、すごく得した気分だ!貯金は3850円から1000円引いて2850円になったけど、それでも十分だ。」

ママが寝室のドアを開けて、「電気消すよ」と言った。

「タロウ、今日はいい経験をしたね。お金ってね、『自分だけのために使う』と、どんどん足りなくなる気がするんだ。でも『誰かのために使う』と、なぜか心が満たされる。それがお金の不思議なところだね。」

タロウはうなずいた。

「ママ、僕は大きくなったら、もっともっと稼いで、もっとたくさん寄付したい。野良猫だけじゃなくて、困っている子どもたちのためにも、環境のためにも。」

ママは「いい夢を見なさい」と言って、そっとドアを閉めた。タロウの頭の中には、これからの未来が広がっていた。お金を稼ぐこと、お金を貯めること、お金を投資すること、そしてお金を誰かのために使うこと。それらすべてが、自分とみんなの幸せにつながっている。

ブタさんが小声でつぶやいた。

「グオッ…今日はよく学んだのう。お金は『持つため』ではなく『使うため』にあり、その使い道は『自分だけ』ではなく『みんなのため』にも広がる。これこそが、お金の本当の力を引き出す方法じゃ。」

暗闇の中で、タロウは幸せな気持ちで眠りについた。お金の勉強を始めた頃は、ただ「お金を増やす方法」だけを考えていたけれど、今は違う。お金の使い方を選べるようになったこと、その使い道で誰かの笑顔を作れること、それがどれだけ素晴らしいことかを知ったのだ。

「明日も、いい一日になりそうだ…」

そうつぶやいて、タロウはぐっすりと眠った。

第13章の学びをおさらいしよう

1. 寄付の三つのメリット

  • 自分だけじゃなく、誰かのために使える
  • 「心の得」という目に見えない幸せが手に入る
  • 社会の一員としての意識が育つ

2. 寄付先の見極め方(ブタさんの三つのポイント)

  • 目的と活動内容が一致しているか
  • お金の使い道が明確に示されているか
  • 実績と評判はどうか

3. クラウドファンディングの基本

  • 多くの人が少しずつお金を出し合う仕組み
  • 支援者にはリターン(お礼)がある
  • 目標金額に達しないと実施されない場合もある(All or Nothing方式)

4. 寄付の継続が大切

  • 一度だけの大きな支援より、コツコツ続ける小さな支援にも大きな価値がある
  • 継続することで、社会貢献への意識が自然と身につく

5. 寄付は「無理のない範囲」で

  • 自分の生活を犠牲にしてまでするものではない
  • 「残ったお金でやる」のが基本

そして何より、お金は「使うこと」でその価値を発揮する。その使い道が「自分だけ」から「みんな」に広がった時、お金は本当の意味で輝き始めるのだ。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 14
お金と幸せの関係〜お金で買えないもの〜

第14章 お金と幸せの関係〜お金で買えないもの〜

ある日、タロウの心に浮かんだ疑問

「ねえ、ママ。お金がたくさんあったら、ずーっと幸せになれるの?」

ある土曜日の朝食の席で、タロウが突然こんな質問を投げかけました。トーストにイチゴジャムをたっぷり塗っていた手が空中で止まり、目はちょっと真剣でした。

ママはコーヒーカップをテーブルに置き、考えるような顔をしました。

「いい質問ね、タロウ。それ、実はものすごく奥が深いんだよ」

「だってさ、お金があれば好きなゲームも買えるし、ゲームセンターにも行き放題だし、毎日ハンバーガー食べられるじゃん!」

「ハンバーガー毎日は……お腹壊すよ?」

「それはそうだけどさ!」

タロウはトーストをかじりながら、さらに考えを巡らせました。先日、学校でこんなことがあったのです。

クラスで一番のお金持ちと言われているユウジ君(彼の家は大きな病院を経営している)と、タロウはたまたま同じグループで校外学習に行きました。ユウジ君はいつも最新のゲーム機を持っていて、お小遣いもタロウの三倍くらいあるそうです。

「すごいなあ、ユウジ君は欲しいもの何でも買えるんだろうな」

そう思って、ちょっとだけ羨ましくなったタロウでした。

でも、その日の放課後、まったく逆の出会いがありました。公園のベンチに座って、おじいちゃんが小さな孫娘とアイスキャンディーを半分こして食べていたのです。二人ともボロボロの服を着ていて、お金はなさそうに見えました。でも、その笑顔は、まるで太陽のようにキラキラ輝いていました。

「ママ、本当に幸せって、お金の多さで決まるのかな?」

ママはにっこり笑って言いました。

「よし、今日はお金と幸せの関係について、特別授業を開こうか」

二つの家庭を訪ねて

「ところでタロウ、今日の午後、予定ある?」

「特にないけど……」

「じゃあ、ママの友達の家を二軒、訪ねてみよう。一人は『お金持ち代表』、もう一人は『お金はないけど幸せ代表』だよ」

「え、そういう人がいるの?」

「ママも人生いろいろあるんだよ〜」

そう言ってママはウインクしました。

第一訪問:ユウジ君の家

最初に訪ねたのは、さっき話に出てきたユウジ君の家でした。実はユウジ君のママとタロウのママは、高校時代のバレーボール部の先輩後輩だったのです。

チャイムを押すと、自動で開く重厚な門。タロウは「おおっ」と声を漏らしました。家の中はまるで美術館のようで、大きなテレビ、ふかふかのソファ、そしてユウジ君専用のゲームルームまでありました。

「やあ、タロウ!よく来たね!」

ユウジ君は嬉しそうにタロウをゲームルームに案内しました。そこには発売前の最新ゲームも置いてあり、タロウの目はハートマークになりました。

「すごい……これ、まだ発売されてないやつじゃん!」

「父さんがメーカーと付き合いがあるから、先にもらったんだ」

ユウジ君はちょっと得意げでした。でもその時、タロウは気づきました。ユウジ君の目が、なんだか寂しそうだったのです。

「ユウジ君、どうしたの?」

「実はさ……今日、父さんも母さんも仕事でいないんだ。いつもそうなんだよ。この広い家に、僕とお手伝いさんだけ」

ユウジ君の声が少し小さくなりました。

「一緒にゲームしない?二人でやるゲーム、あんまりやったことないんだ」

タロウはその言葉に、ちょっと胸がキュッとしました。ユウジ君は新しいゲームには困らないけれど、誰かと一緒に遊ぶ時間には困っているのだと気づいたのです。

第二訪問:ミワさんの家

次に訪ねたのは、町外れの小さなアパートでした。ドアのペンキは剥げていて、ベルも壊れていました。タロウは「なんだか暗そうだな」と思いましたが、ママがドアをノックすると……。

「はーい!お待ちしてました!」

ぱっとドアが開き、にこにこ笑顔の女性が出てきました。彼女の名前はミワさん。小さな子どもが二人いて、シングルマザーで必死に働いているとママから聞いていました。

「お邪魔します……」

タロウが中に入ると、そこにはお金持ちの家とは正反対の世界がありました。家具は古くて安物ばかり。テレビは小さなブラウン管テレビでした(タロウはそれが何か最初わからず「変な箱だな」と思ったくらいです)。

でも、部屋の中は笑顔であふれていました。

「ねえねえ、タロウ君!一緒に泥だんご作ろうよ!」

ミワさんの娘さん(小学1年生のアヤちゃん)が、泥のついた手をタロウに向かって振りました。

「外で泥遊び?」

「うん!今日ね、お母さんが『特別に裸足で遊んでいいよ』って言ってくれたんだ!」

タロウは迷わず参加しました。アパートの裏の小さな空き地で、三人(タロウ、アヤちゃん、そしてアヤちゃんの弟のケンちゃん)は夢中になって泥だんごを作り始めました。

「この泥、すごくきめ細かい!まるで高級スイーツのスポンジみたい!」

タロウが言うと、アヤちゃんは「スイーツって何?」と聞き返しましたが、それでも笑顔は絶えませんでした。

泥だんごを作っているうちに、三人は顔中泥だらけになりました。アヤちゃんの母であるミワさんは、大きなバケツに水をはってきて、「はい、じゃぶじゃぶタイムだよ!」と三人の泥を洗い流してくれました。蛇口から直接水をかけられる感触が、タロウにはなぜかすごく気持ちよく感じられました。

「タロウ君、お家のお風呂より楽しいでしょ?」

アヤちゃんが言いました。確かに、いつものお風呂よりもずっと楽しかったのです。

帰り道の会話

帰り道、タロウは黙って歩いていました。頭の中では、ユウジ君の豪華なゲームルームと、ミワさんの小さなアパートでの泥遊びが、交互に浮かんでは消えていきました。

「考え事?」ママが優しく聞きました。

「うん……ユウジ君の家はすごかったけど、ユウジ君ってあんまり楽しそうじゃなかった。でもミワさんの家は、物は全然ないのに、みんなすごく楽しそうだった」

「それが答えの一部かもしれないね」

ママはコンビニに寄って、ミルクティーを二本買ってくれました。タロウはペットボトルのキャップを開けて、一口飲みました。甘くて、ほんのり温かくて、なんかすごく幸せな気持ちになりました。

「ねえママ、このミルクティー、100円ちょっとだよね?でもすごく幸せ」

「そうだね。この幸せはお金で買えるけど、さっきの泥遊びの楽しさはどう?」

「それは……お金で買えない。だってあれは、アヤちゃんたちと泥で遊んだから楽しかったんだもん」

「正解!」

ママは嬉しそうに拍手しました。

お金で買えるもの、買えないもの

家に帰ると、タロウはノートとペンを取り出して、自分なりに「お金で買えるものリスト」と「お金で買えないものリスト」を書いてみました。

お金で買えるもの ・ゲーム機とソフト ・好きな洋服 ・ハンバーガー(何個でも) ・飛行機のチケット ・大きな家 ・最新のスマホ

お金で買えないもの ・友達と遊ぶ時間 ・健康な体 ・家族の愛情 ・泥遊びの楽しさ ・「ありがとう」と言われたときの気持ち ・朝日の美しさ ・笑顔 ・思い出

「へえ、比べてみると、お金で買えないものって結構あるんだな」

タロウはリストを見ながらうなずきました。

そこに、突然ブタさんの声が聞こえました。

「ふむ、いいリストだな、タロウ」

「ブタさん!ちょうどいいところに!」

「お金で買えるものは、使えばなくなる。でもお金で買えないものは、使えば使うほど増えていく。それが人生の面白いところだ」

幸福度とお金の関係〜ある研究の話〜

ママがリビングからスマホを取り出してきました。

「タロウ、面白いデータを見せてあげるね。これはね、実際の研究結果なんだ」

ママが見せてくれたのは、ある大学の研究データでした。世界中のたくさんの人を調査した結果、お金と幸せの関係は「あるところまでは比例するけど、そこから先はあまり変わらない」というものでした。

「例えばね、年収が300万円の人が500万円になったら、『やった!生活が楽になった!』と幸せを感じる。でも、年収が1億円の人が1億200万円になっても、『ふーん、ちょっと増えたね』くらいで、そんなに幸せは変わらないんだって」

「へえ……じゃあ、お金がすごくたくさんあっても、幸せはそんなに増えないの?」

「そういうこと。人間の幸せには、『お金で満たせる部分』と『お金では満たせない部分』があるんだね。食べるものや住む家、病気の治療といった基本的なことができているかどうかが、まず大事。それを『基礎的ニーズ』って言うんだ」

「で、その基礎的ニーズが満たされると、あとはお金を増やしても幸せはあんまり変わらないってこと?」

「そういう研究結果が出ているんだよ。むしろ、お金がたくさんありすぎると、『なくなるのが怖い』『みんなに狙われる』って逆にストレスになることもあるんだって」

タロウはびっくりしました。

「お金がありすぎて困ることもあるの?」

「うん。昔、宝くじで何億円も当たった人が、その後悲惨な人生を送ったって話、聞いたことない?友人関係が壊れたり、詐欺にあって結局一文無しになったりね。『お金がすべての幸せの鍵だ』って思いこむと、かえって危ないんだよ」

ブタさんが付け加えました。

「つまり、お金は道具であって、それ自体が目的じゃないってことだ。ハンマーがいくらあっても、家は建たない。お金も同じで、使い方次第で幸せにも不幸せにもなる」

三つのポケットの再考

「そういえば、タロウ。前に『三つのポケット』の話、したよね?」

「うん!すぐに使うポケットと、楽しみのポケットと、未来のポケットだよね」

「そう。あれってね、実は『お金と幸せのバランス』を取るための工夫でもあるんだ。全部を『すぐに使う』に回すと、今は楽しいけど未来が貧しくなる。全部を『未来』に回すと、今がつまらなくなる。このバランスが大事なんだ」

タロウは自分のおこづかい帳を見ながら、うなずきました。

「そういえば、サクラの『欲しいものリスト』も、『本当に欲しいか?』って考える仕組みがあったな。あれも、お金と幸せを考える方法の一つなんだね」

「その通り!賢いね、タロウ」

ママはタロウの頭を撫でました。

「そうやって、お金と自分の気持ちをちゃんと見つめる習慣がつくと、『何に価値を感じるか』がわかるようになるんだよ」

もしもお金がなかったら…?逆転の発想

ここでママがクイズを出しました。

「じゃあタロウ、もしも明日からお金が全部なくなったら、どうなる?」

「ええっ!?それは困るよ!ゲームも買えないし、学校に行く交通費もないし……」

「そうだよね。お金は確かに便利な道具だ。でも、もう一つ考えてみよう。お金がなくてもできる楽しいことは何だろう?」

タロウは少し考えました。

「……散歩?」 「公園で遊ぶ?」 「図書館で本を読む?」 「家族でおしゃべり?」

「そう!お金がなくても楽しめることって、結構あるんだね。そして実は、そういうことにこそ、本当の幸せのヒントが隠れているんだよ」

ママはコーヒーを一口飲んで、続けました。

「人間の幸せはね、大きく分けて三つあるって言われているんだ」

ママはスマホで画面を出しました。

「つながりの幸せ」 家族や友達と過ごす時間、誰かの役に立つこと

「成長の幸せ」 新しいことを覚えたり、できるようになったりすること

「感謝の幸せ」 「ありがとう」と言ったり言われたりすること

「どれもお金があればより豊かになることもあるけど、お金がなくても十分に感じられる幸せなんだよ」

「なるほどなあ……」

タロウは自分の経験に当てはめて考えました。アイスクリーム屋台チャレンジで覚えたのは、お金もうけの楽しさというより、「お客さんが喜んでくれた!」という感動でした。あれこそ「つながりの幸せ」と「感謝の幸せ」だったのかもしれません。

本当の豊かさとは

「それじゃあ、本当の豊かさって、何だろうね?」

ママの質問に、タロウはちょっと迷いながら答えました。

「たくさんお金があること……じゃない。でも、お金が全然ないのも困るし……」

「そうだね。『豊かさ』の定義は人それぞれでいいんだよ。お金をたくさん持っていることを豊かだと思う人もいれば、自由な時間が多いことを豊かだと思う人もいる。大切な人と一緒にいられることが豊かだと思う人もいる」

ブタさんがまた口を挟みました。

「俺の知ってる富豪はな、朝日を見る瞬間が一番好きだと言っていた。金で買えるものより、金で買えないものを大事にしている人ほど、本当の意味で豊かなのかもしれないな」

タロウはユウジ君の顔を思い浮かべました。ゲームルームの豪華さの裏にある、寂しそうなまなざし。そしてミワさんの家の、小さなアパートにあふれる笑顔。

「ママ、僕はこう思うよ。本当の豊かさは、『自分が今ここにあることに感謝できること』なんじゃないかな。お金があったらそれはそれでいいけど、お金だけじゃなくて、友達や家族や、今この瞬間を楽しめることこそが、一番大事なんだ」

ママは目を丸くして、タロウを見つめました。

「タロウ……すごいね。それは大人でもなかなか気づけないことだよ」

「えへへ、だってママが教えてくれたもん」

タロウは照れくさそうに笑いました。

ミルクティーの教え

その夜、タロウは自分の机の上に、さっき買ってもらったミルクティーの空きペットボトルを置きました。

「これ、100円ちょっとで買った幸せの証拠……いや、そうじゃないな。これと、ミワさんちでの泥遊びは、どっちも幸せだけど質が違うんだ」

タロウは、ミルクティー100円分の幸せと、泥遊びの無限の幸せの違いを考えました。

ミルクティーは確かに美味しいけれど、飲み終わればそれで終わりです。でも泥遊びの思い出は、ずっと心に残っています。

「そうか……お金で買えるものは、使い切ったら終わるけど、お金で買えないものは、心の中でずっと生き続けるんだ」

ブタさんが優しく言いました。

「その通りだ、タロウ。お金は使えば減る。でも、笑顔や友情や思い出は、使っても減らないどころか、どんどん増えていく。それこそが、本当の『豊かさ』の正体かもしれないな」

タロウはノートの端にこう書き加えました。

本当の豊かさ=お金で買えるもの+お金で買えないもののバランス

「よし、明日はサクラにもこの話をしてみよう」

タロウはそうつぶやいて、ブタさんの中に今日のお小遣いの残り100円を入れました。お金も大切にしつつ、もっと大事なものにも気づいた一日。タロウの心は、ミルクティー以上に満たされていたのでした。


親子で話してみよう!〜お金と幸せのワーク〜

1. お金で買えるもの・買えないものリストを作って、家族で比べてみよう 2. 「今日、お金を使わずに楽しかったこと」を話し合ってみよう 3. 「自分にとっての本当の豊かさ」を、絵や作文で表現してみよう 4. 100円以内で買える「小さな幸せ」を探してみよう(例:アイス、シール、ガチャガチャ1回)

お金は魔法の杖じゃないけれど、上手に使えば、人生をもっと楽しく、もっと豊かにしてくれる道具なんだ。一番大切なのは、その道具をどう使うかを「自分で決める」こと。お金に振り回されるのではなく、お金を味方につける。それが、幸せなお金の使い道の始まりなのかもしれません。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 15
お金の計算〜数字に強くなろう〜

第15章 お金の計算〜数字に強くなろう〜

土曜日の朝、タロウは自分の部屋の机で、おこづかい帳を広げていた。貯金箱のブタさんが、いつものように静かに机の端に置かれている。

「3200円か…ドラゴンクエストXII 勇者の帰還まで、あと1800円。まだまだ遠いなあ」

そこに、廊下からママの声が聞こえてきた。

「タロウー!ちょっと手伝ってくれる?」

リビングに行くと、ママが買い物袋を台所に置いているところだった。袋の中からは、タロウの大好きなカップ麺とプリン、それに今夜のカレーの材料が顔をのぞかせている。

「近所のスーパーが『開店10周年記念セール』やっててね、色々お買い得だったのよ」

ママは買い物袋を台所に置きながら、レシートを取り出した。

「見て見て。カレーのルーが30%オフ、プリンは20%オフ、それにこのカップ麺は50%オフだったの」

タロウがぱっと顔を上げた。

「50%オフ!?それってつまり…あれ?半額ってこと?待って、30%オフって何だっけ?」

タロウの頭の中に、数字がぐるぐると渦巻き始める。百分率。割合。割引。どれも学校で習ったはずなのに、実生活で使おうとすると急に混乱する。

「そうだ!タロウ、今日はお金の計算を一緒に勉強しよう!」

ママが目をキラキラさせながら言った。

「えー、せっかくの休みなのに…」

「大丈夫!ただの勉強じゃないよ。これからタロウがお菓子を買うときに、『あ、この値段、実はお得じゃない!』って分かるようになる魔法の授業だよ」

その言葉に、タロウの目が少し輝いた。確かに、いつもお店で「20%オフ」とか「3割引」って見かけるけど、実際にいくら安くなるのか、ちゃんと考えたことなんてなかった。

パーセントの謎を解け!〜50%オフって何円?〜

ママはホワイトボードを取り出して、リビングの真ん中に置いた。そしてマジックペンで大きく「50%」と書いた。

「さあタロウ、まずは基本の基本。この『%』ってやつだけど…実は『パーセント』って、『100分のいくつか』って意味なんだよ」

「100分のいくつか…?」

「そう。50%っていうのは『100分の50』ってこと。つまり半分。30%なら100分の30、つまり100個に分けたうちの30個分ってイメージ」

タロウは首をかしげた。

「じゃあ、50%オフって、半分の値段になるってこと?」

「正解!」

ママは嬉しそうに丸を書いた。

「例えば、500円のお菓子が50%オフだったら、いくらになる?」

「えーっと…500円の半分は…250円!つまり、250円で買えるってこと?」

「大正解!」

タロウは急に計算が楽しくなってきた。そうか、50%オフってシンプルに半分になるだけなんだ。

「じゃあ、30%オフだったら?」

ママは次の問題を投げかけた。

「500円の30%って…えーっと、500円を100で割ると5円。その5円が30個分だから、5×30で…150円?つまり、150円引き?」

「おおっ!賢いじゃないか!」

ママは拍手した。

「そう、30%引きってことは、元の値段から30%分を引くってこと。だから500円の品物が30%オフなら、500円から150円引いて…」

「350円!」

タロウの声が弾んだ。

「よし、じゃあ実際にやってみよう!」

ママは財布から千円札を取り出した。

「これはタロウにあげるお小遣いだよ。ただし、これで近所のコンビニで50%オフのお菓子を買ってきてほしい。でも、ちゃんと計算してお釣りをもらってくること。もし計算ミスをしたら、その分はタロウの罰金ね」

「罰金!?そんなの聞いてないよ!」

「冗談だよ(半分はね)。でも、ちゃんと計算できるかどうか試したいんだ。さあ行ってこい!」

タロウは千円札を受け取り、元気よく家を飛び出した。

コンビニに着くと、目当てのコーラ味のグミがちょうど50%オフのシールを貼られて棚に並んでいた。定価は400円。つまり半額の200円だ。

「よし、グミが200円。千円出したらお釣りは800円。簡単簡単!」

タロウはレジにグミを持っていき、千円札を差し出した。

「ありがとうございます。200円になります」

店員さんがにっこり笑ってレシートを渡してくれた。お釣りは800円。計算通りだ。

ところが、その隣の棚に、見慣れたチョコレートの箱が目に入った。『50%オフ!』の大きな文字。定価は600円。

「600円の50%オフは300円か…まだ500円残ってるし、買っちゃおうかな!」

タロウはチョコレートも手に取り、再びレジへ向かった。

「すみません、これもお願いします」

「はい、グミ200円とチョコレート300円で、合計500円です。千円お預かりしますので、お釣りは500円です」

「はい、ありがとうございます!」

タロウは上機嫌で家に帰った。

「ただいまー!ママ、ちゃんと計算して買えたよ!」

「おお、偉い偉い。じゃあ、レシートを見せてごらん」

ママはレシートをじっくりと眺めた。

「ふむふむ…グミ200円、チョコレート300円、合計500円、お釣り500円…」

「でしょ?完璧でしょ?」

「ちょっと待って。チョコレートの定価は600円で、50%オフってことは300円…合ってるね。でも、グミは定価400円の50%オフで200円…これも合ってる」

ママはうなずいた。

「計算は完璧だね。でもさ…」

ママの目がいたずらっぽく光った。

「タロウ、君は今、『50%オフの品物を2つ買って500円使った』わけだけど、もし『50%オフの対象商品を3つ買うと、さらに合計金額から10%オフ!』っていうセールがあったとしたら、どうなると思う?」

「え?それって…3つ買ったら、もっとお得ってこと?」

「そういうこと。でも、あくまで『もし』の話だけどね。実はさっきのコンビニ、そんなキャンペーンやってなかった?」

タロウははっとして振り返った。そういえば、入り口に『50%オフコーナーの商品を3点以上お買い上げで、さらに合計金額から10%オフ!』って書いてあった気がする。

「あっ!見逃した!」

「残念でした〜。あと1つ何か買ってれば、どうなったか計算してみよう。50%オフ後の値段が200円+300円で合計500円。そこからさらに10%オフだと、500円の10%は50円だから、支払いは450円になる。つまり、50円お得だったんだね」

「くそー!あと50円分のお菓子が買えたのか!」

「そういうこと。計算だけじゃなく、そういう情報をちゃんと見ることも大事なんだよ」

割引の大惨事〜50%オフ=無料!?の大誤解〜

数日後、タロウはサクラと一緒に駅前の大型書店に来ていた。サクラが新しい参考書を買いたいと言うので、付き合いがてら自分も漫画の新刊をチェックしようと思ったのだ。

書店の入り口には大きな看板が立っていた。

「『開店5周年記念!全品50%オフ!』」

「すげえ!全品半額だって!」

タロウは興奮して叫んだ。

「すごいね。じゃあ、5000円のゲームソフトも半額で2500円ってことか」

サクラが冷静に計算する。

「うんうん。でもさ、サクラ。50%オフってことは…半分の値段になるってことは…」

タロウの目が怪しく光った。

「ちょっと待ってくれ。もし定価が1000円の品物があったとする。50%オフで500円。じゃあ、もっと大きな割引…例えば90%オフなら100円になる。そして…」

タロウは真剣な表情で指を折り始めた。

「100%オフなら…0円!つまり無料だ!」

「…え?ちょっと待ってタロウ」

サクラが怪訝な顔をしたが、タロウは止まらない。

「てことは!50%オフって、半分は無料になるってことだよな!?だって50%引くってことは、50%分はタダになるってことだ!」

「いやいやいや、それは違うから!」

サクラは慌ててタロウの腕を引っ張った。

「50%オフは『半額』であって、『半分タダ』じゃないよ!」

「だって、50%分の値段が引かれるんだろ?だったら、その50%分は無料ってことじゃないか!」

「そうじゃなくて!…ああ、もう!」

サクラはため息をついて、近くにあった値札を指さした。

「見て、この漫画。定価500円。50%オフで250円だよね?」

「うん」

「じゃあ、250円を払うんだよね?タダじゃないよね?」

「…あっ!」

ようやくタロウの頭の中で電球が点いた。

「そうか…『50%オフ』って『50%の値段を引く』って意味で、『50%が無料』って意味じゃないんだ…」

「そうそう。『50%オフ=半額』ってこと。半分の値段を払えばいいってこと。完全無料ではないんだよ」

タロウは恥ずかしそうに頭をかいた。

「やべえ…ママに聞かれたら笑われるな」

「まあ、よくある誤解だよ。でもね…」

サクラはいたずらっぽい笑顔を見せた。

「もし本当に50%オフ=無料って意味だったら、世界中の人が50%オフの品物を全部持っていっちゃうよ。お店は一瞬で空っぽ。そしたら次の日から『100%オフ!全品無料!』なんてチラシが出て、日本中の人が書店に殺到するんだろうな」

「想像しただけで怖い…」

二人は笑いながら書店の奥へと進んでいった。

消費税の謎〜「なぜ108円なの?」の秘密〜

書店のレジで、サクラは980円の参考書を手に取った。

「お願いします」

店員は参考書をスキャンし、レジを打った。

「お会計は1058円になります」

「はい、千円でお釣りは…あれ?」

サクラは首をかしげた。

「980円の本なのに、なぜ1058円?差額は78円…」

「ああ、それ、消費税だよ」

タロウは得意げに言った。

「消費税?何それ?」

「えっとね、商品を買うときに、国に払う税金のこと。今は10%なんだって。ママが言ってた」

「10%税率ってことは、980円の10%は98円。でも実際の差額は78円だよ。合わなくない?」

サクラの頭が混乱し始めた。

「あれ?消費税って10%じゃないの?」

その時、タロウの背後から声がした。いや、本当は机の上に置いてあるブタさんが、タロウの心の中に話しかけているような感覚だ。でも周りの人は気づいていない。

「おやおや、計算で悩んでいるようだね。でも、ここで声をかけるわけにはいかない。後で自室で説明しよう」

ブタさんの声は確かにタロウにだけ聞こえていた。サクラは気づいていない。

「あ、うん、そうだね。後でママに聞いてみるよ」

タロウはごまかしながら、レジの金額をもう一度見た。

「サクラ、ここでちゃんと考えてみよう。消費税って、実は二種類あるんだって。ママが言ってた。標準税率10%は、お菓子とかゲームとか、普通のものにかかる。でも、本や食べ物には軽減税率っていうのがあって、8%なんだって」

「え、そうなの?なんで本と食べ物だけ安いの?」

「生活に必要なものは税金を低く抑えようって国の考え方らしいよ。でも、高級レストランでの食事は10%で、スーパーのお弁当は8%。同じ食べ物でも、どこで買うかで違うんだって」

「へぇ〜、税金って意外と複雑なんだな」

サクラは感心したように言った。

「じゃあ、この参考書は本だから8%ってこと?980円の8%は…78.4円。切り捨てて78円。合計1058円。つじつまが合う!」

「正解!じゃあ、1500円のゲームソフト(標準税率10%)の税込み価格は?」

「1500×1.10で…1650円!」

「300円のお菓子(軽減税率8%)を3つ買ったら?」

「300×3=900円。900×1.08で…972円!」

「よしよし、理解はできているようだ。でもね、ここで大事なのは『表示価格が税込みか税抜きか』を確認すること。最近は税込み表示が増えたけど、まだ税抜き表示の店もあるから注意が必要だよ」

「そうなんだ…」

タロウは深くうなずいた。これまで何気なく払っていた消費税の意味を初めて実感した瞬間だった。

複利のパワー〜魔法の倍々ゲーム〜

その夜、タロウは部屋でおこづかい帳をつけていた。今日の収支を計算しながら、ふと疑問が浮かんだ。

「ブタさん、お金って増やせる方法があるんだよね?前に『投資』とか『利息』って聞いたけど…」

「おや、ついにその質問が来たか」

ブタさんは貯金箱の中で(実際には動かないが)ちょっと誇らしげな雰囲気を醸し出した。

「お金を増やす方法は主に三つある。働く、預ける、投資する。今日はその中でも『預ける』について、特に『複利』という魔法を教えてやろう」

「複利?」

「そう。複利とは、『利息に利息がつく』仕組みだ。例えば、タロウが銀行に10万円預けたとする。年利1%の定期預金なら、1年後に1000円の利息がつく。これが『単利』」

「うん」

「でも、複利の場合、次の年は元金10万円+利息1000円の、合計10万1000円に対して利息がつく。つまり、2年目の利息は1010円になる」

「たった10円の違い?」

「そう、最初のうちは誤差みたいなものだ。でも、10年、20年と続けるとどうなると思う?」

ブタさんはタロウのスマホを取り出して、計算アプリを開いた。

「10万円を年利5%で運用した場合を計算してみよう。複利でね」

「5%って、結構大きいね」

「これは投資の平均的なリターンをイメージしたものだ。預金の利息はもっと低いが、話をわかりやすくするために使う」

ブタさんは計算を始めた。

「1年後:10万5000円。2年後:11万250円。3年後:11万5762円。5年後:12万7628円。10年後:16万2889円。20年後:26万5329円。30年後:43万2194円」

「えっ!?30年で4倍以上!?」

タロウは目を丸くした。

「すごい!これが複利の力か!」

「待て、まだ驚くのは早い。今度は毎月1万円ずつ積み立てた場合を計算してみよう。年利5%の複利で30年間だ」

ブタさんは本格的に計算を始めた。

「毎月1万円×12ヶ月=年間12万円の積み立て。30年で元本は360万円。これに複利の利息がついて、30年後の総額は約83万6000円…」

「え?元本360万円で、利息が約476万円もつくの?」

「そういうことだ。複利は『魔法の倍々ゲーム』とも呼ばれる。時間が長ければ長いほど、その効果は大きくなる。アインシュタインが『複利は人類最大の発明』と言ったという話もあるくらいだ」

タロウは感動してしばしば言葉が出なかった。

「でも、どうやって複利で増えるのが分かるの?計算が大変そう…」

「いい質問だ。そこで登場するのが『72の法則』だ」

ブタさんはスマホのメモに「72÷金利=お金が2倍になる年数」と書いた。

「72を金利で割ると、元本が2倍になるのに必要な年数が分かるんだ。例えば、年利1%なら72÷1=72年。年利5%なら72÷5=14.4年。年利8%なら9年だ」

「へぇ〜!じゃあ、年利10%なら7.2年で2倍になるんだ!」

「その通り。この法則を使えば、複利の効果をざっくりとイメージできるんだ」

「でも、実際にはそんなに高い金利はないよね?銀行の預金金利って0.01%とかだし…」

「よく気づいたな。その通りだ。預金だけでは複利の効果はほとんど期待できない。でも、投資の世界では年利5%や10%を目指すことも可能だ。ただし、その分リスクも伴う。投資には『元本割れ』のリスクがあるからね」

「リスクとリターンの関係か…前にママに教わったやつだ」

「そう。リスクを取れば取るほどリターンも大きくなる可能性があるが、損失も大きくなる可能性がある。賢い投資家は、預金と投資を組み合わせた『分散投資』を行うんだ」

実践!おこづかい帳の裏ワザ〜「見える化」で節約上手〜

「よし、ここまで教えたところで、実際にタロウのおこづかい帳を使ってみよう」

ブタさんはタロウのおこづかい帳を指さした。

「タロウはおこづかい帳をつけてるけど、『見える化』の力を最大限に活用できているか?」

「うーん、とりあえず書いてるけど…」

「そうか。では、今日から新しい習慣を加えてみよう。それは『お金の流れをグラフにする』ことだ」

「グラフ?」

「そう。例えば、1ヶ月のお小遣いの使い道を『お菓子』『ゲーム』『漫画』『貯金』に分類して、円グラフにしてみるんだ。そうすると、『お菓子にこんなに使ってたのか!』って驚くことがある」

「なるほど…確かに、数字だけじゃピンとこないかも」

「もう一つ、『単位の換算』も重要だ。タロウ、『万円』って単位は分かるか?」

「うん。1万円は10000円」

「そう。じゃあ、1000万円は?」

「1000万…えーっと、0が7個?1000万円=10000000円」

「正解。お金の計算では、大きな数字を扱うことがよくある。例えば、『年収500万円』というとき、それは『月収約42万円』ということだ。単位を換算できるようになると、大きな金額のイメージがつかみやすくなる」

「それは確かに便利そうだ!」

「もう一つ、『概算』のスキルも身につけよう。買い物の前に、『だいたいいくらになるか』を見積もる習慣だ。例えば、200円のお菓子を3つ買ったら600円、それに300円のジュースを買ったら合計900円。レジを通る前に大体の金額が分かっていれば、予算オーバーを防げる」

「確かに!それならおこづかい帳にも正確に書けるね」

「そういうことだ。さあ、実際にやってみよう」

タロウはおこづかい帳を開き、今月の支出を分類してみた。

「えーっと…今月のお小遣いは1500円で始まって、グミ200円、チョコレート300円、漫画500円、文房具300円…残り200円か。円グラフにすると、お菓子が500円で33%、漫画が500円で33%、文房具が300円で20%、貯金が200円で13%だ。お菓子と漫画で66%も使ってる!」

「どうだ?数字だけより分かりやすいだろう?」

「めっちゃ分かりやすい!来月はお菓子を減らして、貯金をもっと増やそう!」

「良い心がけだ。ただし、急に節約しようとすると続かないから、少しずつ目標を設定するといい。例えば、『来月はお菓子代を今月の半分にする』とかね」

「うん、やってみる!」

概算と見積もりの力〜賢い買い物術〜

翌日、タロウはママと一緒にスーパーに買い物に行った。カゴの中には、今夜の夕食の材料がいくつか入っている。

「タロウ、ちょっと問題だよ。このカゴの中の商品の合計金額を、概算で当ててみて」

「え?計算機なしで?」

「そう。暗算でいいから、だいたいいくらになるか予想してみて」

タロウはカゴの中の商品をぐるっと見渡した。

「うーん…牛乳198円、卵198円、キャベツ128円、豚肉398円、カレーのルー198円、にんじん98円、たまねぎ98円…」

タロウは頭の中で計算を始めた。

「200+200+100+400+200+100+100=1300円…くらい?」

「すごい!実際のレシートを見てみよう」

ママはレジを通して、レシートを取り出した。

「合計は…1318円!ほぼ当たりだね!」

「やった!概算って結構使えるんだ!」

「そう。特に『四捨五入してまとめて計算する』のがコツだよ。細かい数字を気にしすぎると、かえって計算がややこしくなる。ざっくりと『200円くらい』『400円くらい』と見積もれば、暗算も簡単になる」

「なるほど!これならお店で買い物するときも、予算オーバーを防げるね!」

「そういうこと。これからは買い物かごの中身をざっくり計算する習慣をつけてみよう」

タロウは嬉しそうにうなずいた。今日も一つ、賢い買い物のコツを学んだ。

タロウの決意〜計算ができるって強い!〜

その夜、タロウは部屋でおこづかい帳をつけながら、今日の学びを振り返っていた。

「ブタさん、今日は本当にいろんなことを学んだよ。パーセントの計算、消費税の仕組み、複利のパワー、そして概算のコツ。どれもすごく役に立ちそうだ」

「そうだな。でもね、タロウ。本当に大事なのは、計算が『できること』じゃなくて、計算結果を『どう使うか』なんだ」

「どういうこと?」

「例えば、30%オフの商品を見て『2000円が1400円になるのか』と計算できるのは素晴らしい。でも、じゃあ『それを本当に買う必要があるのか?』と判断できるかどうかが大事なんだ。計算は道具に過ぎない。最終的には、自分にとって何がベストなのかを決めるのは、自分の頭と心だ」

タロウは深くうなずいた。

「計算ができると、騙されにくくもなる。例えば、『50%オフでもう一割引き!』とか『全品半額!さらにポイント10倍!』みたいな複雑なキャンペーンも、冷静に計算すれば『実際にはいくら得なのか』が分かる。そういう意味で、計算力は『お金の護身術』でもあるんだ」

「なるほど…確かに、計算ができないと、店側の宣伝文句に踊らされちゃうかもしれない」

「そういうこと。逆に言えば、計算ができれば、賢い消費者になれる。買い物の達人として、無駄遣いを減らし、必要なものだけを適正な価格で手に入れられる」

タロウは目を輝かせた。

「よし!これからはちゃんと計算してから買い物する!今日から俺は『計算マスター』だ!」

「その意気だ!ただし、『計算マスター』になるには、まだまだ修行が必要だぞ。次は、基本的な計算以外にも、『利回り』とか『複利の計算式』とか、もっと深い世界が待っている」

「え〜、まだあるの?」

「当たり前だ。世の中には、銀行預金の金利計算、ローンの返済シミュレーション、投資信託のリターン計算…数え上げればキリがない。でも、今日覚えた『パーセントの考え方』と『72の法則』があれば、その辺の基礎はカバーできる」

ブタさんは優しい口調で言った。

「そして何より、計算は練習すれば誰でも上達する。最初は間違えてもいい。大事なのは、『やってみよう』という気持ちと、『間違いから学ぶ』姿勢だ」

ママとの約束〜消費税ごっこで遊ぼう〜

次の日、タロウはママを台所に呼び止めた。

「ママ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なに?宿題の計算ドリルが分からないの?」

「違うよ。今日はママと一緒に『消費税ごっこ』をしたいんだ!」

「消費税ごっこ?」

ママは首をかしげたが、タロウの説明を聞いて笑い出した。

「なるほど、お店屋さんごっこの進化版ね。面白いじゃない!」

さっそく、台所にある食品や日用品を使ってミニスーパーを開店した。タロウが店員で、ママがお客さんだ。

「いらっしゃいませ!今日は特売日です!」

「まあ、これは安いわね。カレーのルーが350円。じゃあ、それと…この500mlのペットボトル飲料(150円)もください」

「かしこまりました。カレーのルー350円は軽減税率8%、ペットボトル飲料150円は標準税率10%ですね。計算します」

タロウは真剣な顔で電卓を叩いた。

「350円×1.08=378円。150円×1.10=165円。合計543円になります!」

「はい、600円でお釣りは…57円ですね」

「ありがとうございます!またのお越しをお待ちしております!」

笑いながら何度も繰り返すうちに、タロウの消費税計算はかなり正確になってきた。

「もう大丈夫そうだね。ママからの実戦テストは合格だよ」

「やった!」

タロウはガッツポーズをした。

「でもね、タロウ。本当に勉強になったのは、計算だけじゃないんじゃない?」

ママが優しく言った。

「どういうこと?」

「今日タロウは、『消費税の計算は意外と簡単だ』って気づいたでしょ?そして、『分からないことをそのままにしない』って態度を身につけた。これから大人になるにつれて、税金とか利率とか、もっと複雑な計算が必要になる。でも、基本的な考え方が分かっていれば、怖がらずに挑戦できる」

「うん…確かにそうかも。前までは『%』とか『消費税』って聞くだけで頭が痛くなったけど、今はちょっと面白いって思える」

「それが一番の成長だよ」

ママはタロウの頭を撫でた。

「お金の計算ができるようになると、人生の選択肢が広がる。例えば、将来、車を買うときにローンの金利を比較できるし、家を買うときにも返済計画を立てられる。そして何より、『今日の買い物でいくら使ったか』が分かるようになる」

「確かに!おこづかい帳をつけてると、『今月はお菓子に使いすぎたな』ってすぐ分かるもん」

「そう、それが『見える化』の力。数字で見えるから、改善できるんだ」

タロウは自分のおこづかい帳を取り出して、今日の支出を記入した。

今日のまとめ

  • グミ200円(50%オフでお得!でも3点買いの10%オフを逃した…反省)
  • チョコレート300円(同上)
  • 消費税ごっこの学び:軽減税率と標準税率の違い
  • 概算のコツ:四捨五入してまとめて計算する

「そういえば、ママ。『72の法則』って知ってる?」

「あら、ブタさんに教わったの?」

「うん。年利が何%だと、何年でお金が2倍になるかが分かるんだって」

「へぇ、それは便利ね。実際、私は投資信託で資産運用してるんだけど、目標利回りを決める時に参考にしてるわ」

「ママも投資してるの?」

「うん。パートのお給料の一部を、毎月コツコツ積み立ててるんだ。長い目で見れば、複利の力で雪だるま式に増えていくからね」

タロウは自分の貯金箱(ブタさん)を見つめた。中には今、3200円が入っている。このお金をどうやって増やしていくか。計算力があれば、その計画も立てやすくなるはずだ。

「ありがとうママ。今日は本当に勉強になったよ」

「どういたしまして。でもね、タロウ。一番大事なのは、計算ができても『お金は道具』だってことを忘れないこと。数字に強くなるのは大事だけど、お金に支配されないで、お金を味方につけるんだよ」

「お金を味方に…か。なんかカッコいい!」

タロウは笑顔で、ブタさんをぎゅっと抱きしめた。ブタさんは相変わらず無言だったが、タロウには「よく頑張った」と言っているように感じられた。

今日の勉強で、タロウは「お金の計算」の重要性を身をもって理解した。パーセントの仕組み、消費税の計算、複利のパワー、そして概算のコツ。どれも、これからの人生で欠かせない知識だ。

そして何より、計算が「楽しい」と思えるようになったことが、最大の収穫だった。数字と仲良くなれば、お金の世界ももっと面白くなる。タロウの冒険は、まだまだ続く──。

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◆ ◆ ◆
CHAPTER 16
お金と時間〜タイムマシンで未来へ〜

第16章 お金と時間〜未来のために今を生きる〜

ある日曜日の午後、タロウは自分の部屋でおこづかい帳を開いていた。貯金額は順調に増え、もうすぐ4000円に手が届きそうだ。

「ふんふんふ〜ん♪」 鼻歌交じりに計算していると、突然部屋の隅から低い声がした。

「タロウよ、ちょっと未来の話をしないか?」

見ると、ブタさんがいつもより真剣な表情(に見える)でこちらを見つめている。

「未来? なにそれ、また新しいお金の話?」 「そうだ。お前の未来のお金と時間の話だ」

ブタさんがゆっくりとまばたきをした、ような気がした。

「ちょっとした実験をしてみよう。目を閉じて、20年後の自分を想像してみろ」

タロウは言われた通り目を閉じた。

「20年後の自分… 大人の僕かあ。仕事をしてるのかな? 家はあるのかな?」 「いいぞ、その調子だ。次に、今のお前の一日の過ごし方を思い浮かべろ。朝起きてから夜寝るまで、どんなことに時間を使っている?」

タロウは頭の中で一日の流れを思い出した。朝はギリギリまで寝ていて、学校から帰るとゲームを2時間、宿題は夕飯の後でバタバタと… 遊ぶ時間が足りないと愚痴をこぼすことも多い。

「うん、だいたいわかった」

目を開けると、ブタさんの前に小さなホワイトボードが現れていた。そこには二つのイラストが描かれている。一つは、きちんとしたスーツを着て笑顔の男性。もう一つは、ヨレヨレの服を着てゲームをしているやつれた男性。

「これは…」 「同じお前の未来だ。左は『時間とお金を上手に使った未来』、右は『時間とお金を無駄にした未来』だ」

タロウはまじまじと見つめた。

「同じ僕なのに、こんなに違うの?」 「そうだ。今のお前の選択の積み重ねが、未来の自分を作る。時間とお金は、どちらも限りある資源。どちらにどう使うかで、未来が決まる」

時間もお金も「資源」である

タロウはハッとした。今の自分は確かにお金を計画的に使うようになってきた。でも「時間」についてはどうだろう? 宿題をギリギリまで先延ばしにしたり、ゲームをだらだらと何時間もやったりしている。

「なるほど… 今のお金の使い方だけじゃなくて、時間の使い方も大切なんだ」 「その通りだ、タロウ。時間はお金以上に貴重だ。なぜなら時間は貯めておけないからな」 と、ブタさんが得意げに付け加えた。

「お金は貯められるけど、時間は絶対に貯められない。使ったら終わり。戻ってこない。そして、時間をお金に変換することはできるけど、お金を時間に変換するのは難しい」

「時間をお金に変換?」 「そうだよ。例えば、タロウが1時間勉強して知識を得る。それは将来役立つ。大人になって働けば、時間を使って時給をもらう。時間をお金に換えたわけだ。でも、お金を使って子どもの頃の時間を買い戻すことはできない。時間の方がずっと貴重なんだ」

タロウは考え込んだ。確かに、ゲームをやっている1時間はもう戻ってこない。お金はまた稼げるけど、子どもの頃の時間は二度と戻らない。

「つまり… 時間は超貴重な資源ってこと?」 「その通り! お前は頭がいいな!」

ブタさんは満足げに鼻を鳴らした。

「よし、じゃあ次はお金と時間をどう組み合わせればいいか、具体的に学んでいこう。まずは『働く』ことと『預ける』ことからだ」

三つの方法を見直す〜働く・預ける・投資する〜

ブタさんがホワイトボードに大きく三つの文字を書いた。

1. 働く(時間をお金に換える) 2. 預ける(銀行にお金を預けて利息を得る) 3. 投資する(お金に働いてもらう)

「タロウ、お前はもうアイスクリーム屋台で『投資』を経験した。でも、お金を増やす方法はそれだけじゃない」

「そうだよね。働くって、ママがパートに行くみたいなこと?」 「そうだ。『働く』は、自分の時間を使ってお金を稼ぐ方法だ。例えばタロウがお小遣いをもらうのも、家の手伝いをしてお駄賃をもらうのも、『働く』の一種だ」

タロウはうなずいた。

「でも、子どもはそんなに働けないよ?」 「その通り。子どものうちは体も小さく、できることも限られる。だからこそ、『預ける』と『投資する』が重要なんだ。特に、時間を味方につければつけるほど効果が大きい『複利』という仕組みがある」

「複利? それって何?」 「簡単に言うと、『利息に利息がつく』ってことだ」

ブタさんは一枚の紙を取り出した。

複利の魔法〜雪だるま大作戦〜

「雪の日に小さな雪玉を作って、それを坂の上から転がすとどうなる?」 「どんどん大きくなる!」 「そう。最初は手のひらサイズでも、転がすうちに周りの雪をくっつけて巨大な雪だるまになる。複利も同じだ。最初は小さくても、時間をかけて転がすとどんどん大きくなる」

タロウは目を輝かせた。

「じゃあ、早く始めた方がいいってこと?」 「その通り! これで一番大事なポイントだ」

ブタさんがホワイトボードに数字を書き始めた。

【はやとくん(10歳から始めた場合)】

  • 10歳〜60歳まで50年間、毎月5000円を年利5%で運用
  • 総投資額:5000円×12ヵ月×50年=300万円
  • 60歳時点の資産額:約1300万円

【まさるくん(20歳から始めた場合)】

  • 20歳〜60歳まで40年間、毎月5000円を年利5%で運用
  • 総投資額:5000円×12ヵ月×40年=240万円
  • 60歳時点の資産額:約760万円

「わあっ! たった10年の差でこんなに違うの!?」 「そうだ。はやとくんはまさるくんより10年早く始めただけで、約540万円も多く資産が増えている。しかも総投資額は60万円しか変わらないんだ」

タロウは思わず声を上げた。

「すごい! たった60万円の差で540万円も得するなんて!」 「これが複利の力だ。『時間は金なり』とはよく言ったものだ。特に若いうちは、時間を味方につけることで大きな差が生まれる」

でも、ブタさんは少し真剣な表情になった。

「ただし、ここで大事な注意がある。さっきの計算は年利5%という数字を使ったが、これは『もし上手くいった場合』の話だ。実際の投資にはリスクが伴う。年利5%が必ず続くとは限らないし、場合によっては損失が出ることもある」

「えっ、損することもあるの?」 「そうだ。だからこそ、『一つのものに全部を賭けない』という分散投資が大事なんだ。例えば、預金でコツコツ貯める部分と、投資でチャレンジする部分を分ける。そうすれば、もし投資で損をしても、預金の部分は守られる」

「なるほど。三つの方法を上手に組み合わせるってことか」 「その通り! よくわかったな」

先延ばしのリスク〜「あとでやろう」の落とし穴〜

ブタさんが続けた。

「しかし、ここで大事なのは『先延ばしのリスク』だ。タロウ、お前は『あとでやろう』と思って後回しにしたことはないか?」

タロウはドキリとした。宿題はいつもギリギリ。歯磨きも「あとで」と言ってそのまま寝てしまうこともしばしば。

「えっと… ある、かな」 「あるだろう。それと同じことがお金にも言えるんだ」

ブタさんが新しいグラフを描いた。

「見てくれ。もし毎月5000円を年利5%で運用するとして、10歳で始めるのと20歳で始めるのとでは、60歳時点で約540万円の差がつく。『あとで』と思っている間に、大きなチャンスを逃しているんだ。これを『遅延コスト』って言うんだよ」

タロウは自分がおこづかいを「あとで貯めよう」と思っていたのを思い出した。確かに、あとで貯めようと思っているといつまで経っても貯まらない。ブタさんに言われて始めたから、今ちゃんと貯まっているのだ。

「そうか… 『あとで』は敵なんだね」 「そう。『あとで』はお金の敵であり、時間の敵でもある。先延ばしにすればするほど、取り返しがつかなくなる」

ブタさんが深いため息をついた。

「もしタロウが20歳になるまで投資を始めなかったら、10歳から始めた場合より約540万円も損することになる。それを考えると、小学生のうちから始めるのは非常に賢い選択だ」

「でもさ、大人になってから始めてる人も多いよね?」 「もちろん。でもね、知らなかったり、『あとで』と思っているうちに年を取ってしまうんだ。気づいたときには手遅れになってしまうこともある。でも、お前はもう知っている。だから今始められる」

お金と時間のトレードオフ

ブタさんが話を続けた。

「さて、次は『トレードオフ』の考え方だ。トレードオフっていうのは、『一方を取ればもう一方を失う』ってことだ」

「例えば?」 「例えば、お前がゲームを買うためにお小遣いを全部使ってしまう。そのお金はもう貯金に回せない。一方で、ゲームをする時間を勉強に使えば、将来役立つ知識が得られるかもしれない」

タロウはうなずいた。

「なるほど。お金を使うか貯めるか、時間を遊ぶか勉強するかってことか」 「そう。しかも、一度使ったお金と時間は戻ってこない。だからこそ、『何に使うか』をちゃんと考えなきゃいけないんだ」

ブタさんが口を挟んだ。

「ここで大事なのは、『お金を増やすためには時間を使う』という選択もあるってことだ」 「時間を使う?」 「そうだ。例えば、本を読んで知識を得る。習い事でスキルを身につける。これらは将来お金を生む種になる。つまり、時間を投資してお金を育てることができるんだ」

「じゃあ、ゲームばかりやってると…」 「そうなるな。ゲームもいい息抜きだけど、それだけじゃ未来は開けない。バランスが大事だ」

時間を見える化しよう〜タイムおこづかい帳の具体的な使い方〜

「さて、ここで具体的な方法を教えよう」とブタさんが言った。

「お前はもう『おこづかい帳』でお金の流れを見える化している。同じことを時間でもやってみよう」

ブタさんは一枚の紙を取り出した。そこには表が書いてあった。

【タイムおこづかい帳の例 ●月●日(月)】

| 時間帯 | やったこと | 使った時間 | 満足度(★) | 気づき | |--------|-----------|-----------|------------|-------| | 7:00〜7:30 | 朝の準備 | 30分 | ★★ | もっと早く起きれば余裕ができる | | 8:00〜15:00 | 学校 | 7時間 | ★★★ | 楽しかった | | 15:30〜17:30 | ゲーム | 2時間 | ★★ | だらだらしすぎた | | 18:00〜18:30 | 夕飯 | 30分 | ★★★★ | 家族と話せて楽しい | | 19:00〜20:00 | 宿題 | 1時間 | ★ | ギリギリで焦った | | 20:00〜21:00 | 読書 | 1時間 | ★★★★ | 新しい発見があった |

「この表のポイントは三つだ」

1. 何にどれだけ時間を使ったかを書き出す 2. その時間に満足できたかを★で評価する 3. 気づきや改善点をメモする

「これを一週間続けると、自分の時間の使い方のクセが見えてくる。例えば『ゲームに3時間使っているけど、満足度は★★だけ』とか『読書の30分がすごく充実している』とか」

「なるほど! お金と同じで、見える化すると改善できるんだね」 「その通り。そして、改善するときには『SMARTの法則』も使える。例えば『一週間でゲームの時間を2時間減らして、その分を読書に使う』という目標を立てるんだ」

タロウは早速ノートを取り出し、『タイムおこづかい帳』と書き始めた。時間版のおこづかい帳だ。

「まずは今日のスケジュールを書き出してみよう。朝の登校準備に30分、学校で6時間…」

ブタさんは満足げに鼻を鳴らした。

「ふっふっふ。良い傾向だ。時間の主になるとは、まさにこのことよ」

まとめ〜未来は今の選択で決まる〜

タロウは一通り話を聞き終えて、大きく息を吸った。

「わかった! 今日からちゃんと時間も大切にする!」

「いい返事だ。じゃあ最後に、今日学んだことを三つにまとめておこう」

ブタさんはホワイトボードにこう書いた。

1. お金を増やす三つの方法をバランスよく使おう

  • 働く(時間をお金に換える)
  • 預ける(安全にコツコツ)
  • 投資する(リスクを理解してチャレンジ)
  • 分散投資が大事!一つにまとめない

2. 複利効果は時間を味方につければつけるほど大きい

  • 早く始めるほど有利
  • 小さくてもコツコツ続けることが大事
  • ただし、投資にはリスクがあることを忘れない

3. 先延ばしはするな。『あとで』は大きな損失を生む

  • 時間もお金も『見える化』しよう
  • タイムおこづかい帳で時間の使い方をチェック
  • SMARTの法則で目標を立てて改善しよう

「この三つを覚えておけば、お前の未来は明るいものになるだろう」

タロウは真剣な表情でうなずいた。

「ブタさん、ありがとう! 今日からちゃんと時間の計画も立てるよ」

その夜、タロウはママに今日の出来事を話した。もちろんブタさんの話は内緒にして、「お金と時間の関係を学んだ」という感じで。

「ママ、僕ね、今度から時間も計画して使うことにしたよ」 「まあ! タロウ、偉いじゃない! 急にどうしたの?」 「なんとなく、時間もお金と同じくらい大事だなって思って。それに、働くことと預けることと投資することのバランスが大事だってわかったんだ」

ママは目を丸くした。タロウの成長ぶりに驚いているようだ。

「そうね。時間はお金よりずっと貴重よ。だってお金はまた稼げるけど、過ぎた時間は絶対に戻ってこないからね」 「うん。複利の力も早くから始めた方がいいってわかったし!」 「複利も知ってるの?!」

ママはさらに驚いた。タロウはにっこり笑って言った。

「教えてくれたのは… 内緒!」

こうしてタロウは、お金だけでなく時間の大切さも学んだ。彼は翌日から、宿題を先延ばしにせずにすぐ取り組むようになった。ゲームの時間も制限を設けて、その代わりに読書の時間を増やした。

そして、貯金もさらに計画的に続けた。毎月のおこづかいのうち、500円は銀行に預ける用、300円は将来の投資用にプール(まだ小学生なので投資は大人になってからだが、そのための種まき)、残りは自由に使うお金、という配分にした。

「よし、未来の自分に恥ずかしくないように、今日も一歩ずつだ!」

タロウはノートにそう書いて、ランドセルを背負った。

数十年前、ある賢い人が言った。

「時間はお金と同じく、使う前に計画しろ。さもなければ、気づかぬうちに全てを失うことになる」

タロウはその言葉を体感した初日だった。彼の20年後が明るいものであることを、ブタさんは確信していた。

ちなみに、タロウが想像した貧乏バージョンの自分は、時間とお金を無駄にし続けた場合の「警告」である。この章を読んでいる君も、もし「あとでやろう」と思っていることがあれば、今日から始めてみよう。君の未来は、今の君の手の中にあるのだから。

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CHAPTER 17
親子でお金の話〜家族会議を開こう〜

第17章 親子でお金の話〜家族会議を開こう〜

ある日曜日の午後、タロウの家のリビングでは、ちょっと特別なイベントが始まろうとしていた。

「えーっ、家族会議? なんかテレビで見る社長さんみたい!」 タロウがソファに座って、目をキラキラさせる。

ママがトレーに飲み物を三つ乗せてやってきた。 「そうよ。今日はね、『家族お金会議』を開くの。パパも仕事のシフトを調整してくれたんだからね」

「おお、これはまた格式高い集まりだな」 パパが新聞をたたんで、わざとらしく背筋を伸ばす。

タロウは首をかしげた。 「でもさ、お金の話ってさ、なんか…言いにくくない? テレビでも『お金の話はタブー』みたいなこと言ってなかった?」

ママがコーヒーを一口すする。 「確かに、日本では昔から『お金の話ははしたない』って空気があったわね。でもね、それは道具の使い方を教えずに『触るな危ない』って言ってるのと同じなのよ。実際、お金の話をしない家庭で育った子ほど、大人になってから困るってデータもあるの」

パパがうなずく。 「うちの会社の新入社員でもさ、『給料日まであと10日なのに、もうお金がないです』って相談してくる若い子がいるんだよ。学生の頃にちゃんとお金の管理を教わってこなかったんだろうな」

タロウは少し考え込んで、そしてぽつりと言った。 「ねえ、パパの給料ってさ…」

「ん? どうした?」

「パパの給料って、パパの部屋にある大きな貯金箱から出てきてるんだと思ってた」

リビングに一瞬の静寂が走り、次の瞬間、ママとパパが同時に吹き出した。

「ぶはっ! 貯金箱!?」 「ぷっ…くくく…貯金箱から給料…!」

パパは笑いすぎて涙をぬぐいながら言った。 「タロウ、パパの貯金箱…いや、確かに貯金箱みたいなものはあるけど、給料はね、会社から銀行に振り込まれるんだよ」

「銀行? あの『お金を預けるところ』?」 「そう。パパの会社が『今月もお疲れ様でした』って、パパの銀行口座にお金を入れてくれるんだ」

タロウは目を丸くした。 「へえ〜! じゃあパパの給料は、パパのポケットを経由せずに、直接銀行に行くんだ!」

「そういうことだな。そしてそこから、いろんなところにお金が出ていくわけだ」

ママがホワイトボードを取り出して、リビングのテーブルに置いた。 「さて、せっかく家族会議を開いたんだから、ちゃんと家計の内訳を見せちゃうわよ。タロウ、これが我が家の1ヶ月のお金の流れだよ」

ママがホワイトボードにペンで書き始める。まず一つの大きな丸を描いて「収入」と書き、そこから枝分かれするようにいくつもの丸が伸びている。

「まず、収入はこんな感じ。パパの給料と、私のパートのお給料。合わせて約〇万円(※実際の数字は各家庭で違います)」

「わあ、けっこうあるんだ!」 タロウが感心した声をあげる。

するとママは、にっこり笑ってから、えんぴつで書き込んだ数字にバツ印をつけた。 「残念でした〜。これ、手取りっていってね、税金とか社会保険料とかが引かれた後の金額なの。実際にパパが『頑張ったね』って言ってもらった金額よりも、もうちょっと少ないんだよ」

「税金? なんでパパの給料から取られるの?」 「それはね、みんなで使う公共のサービスのためだよ。道路を作ったり、学校を運営したり、消防署や警察を動かしたりするのに、みんなでお金を出し合ってるんだ」

パパが付け加える。 「例えば、タロウが通っている小学校も、税金で運営されている。授業料がタダなのは、みんなが税金を払っているからなんだぞ」

「ええっ!? 小学校って無料なのに、実はお金がかかってたの!?」 タロウが驚いてソファの背もたれに倒れ込む。

「そういうこと。『ただより高いものはない』って言うけど、学校はみんなの税金で支えられてるんだよ」 ママがいたずらっぽくウインクする。

そしてママは、収入の丸から伸びた枝を一本一本たどっていく。 「さて、ここからが本題。収入が入ったら、まず出ていくお金がある。これを『固定費』って言うんだ」

「固定…ひ?」 「『固定費』。毎月必ず決まった金額が出ていくものね。まずは家の家賃。それから電気代、ガス代、水道代。あと、パパとママのスマホ代とか、保険料とか」

ホワイトボードに、次々と丸が増えていく。

「家賃に光熱費に…あ、全部でこんなに!?」 タロウの目が点になる。

「これでも昔に比べたら安い方よ。まだまだ続くわよ。次は『変動費』。食費とか日用品とか、その月によって変わるお金ね。ここは私が『買い物のプロ』として毎月やりくりしてるんだからね」

「ママは家計のプロフェッショナルなんだ!」 「そうよ! スーパーの特売日は全部覚えてるし、ポイントカードの使い分けは完璧よ」

パパが小さく手を挙げる。 「ちなみに、パパのお小遣いもこの中に入ってるからな。月に一万円…」

「ちょっとパパ! 子どもに言わないでってあれほど…!」 ママが慌てて口を押さえる。

「え? パパのお小遣いってどのくらい?」 タロウの目が光る。

「あ、いや、その…」 パパが冷や汗をかく。

「一万円だそうですよ、タロウ。パパは毎月一万円でやりくりしてるんですって」 ママがにっこり笑って暴露する。

「ええっ!? パパ、一万円で生きてるの!? すごい! 尊敬する!」 タロウが立ち上がって拍手する。

パパは照れくさそうに頭をかいた。 「まあな。お昼はお弁当持参だし、飲み会は極力控えてるからな」

「でもパパ、先週『今月はもう金がねえ』って言ってなかった?」 「…タロウ、それは言わない約束だ」

ママが笑いながら話を戻す。 「さてさて、ここで大事なのはね。収入から固定費と変動費を引いた残りが、『貯金に回せるお金』になるってことよ」

「じゃあ、貯金って最後の残りカスみたいなもの?」 「残りカス…確かにそう言えなくもないけど、ちょっと違うわね。貯金は『未来への種まき』なの。だから、最初に『これだけは貯める!』って決めておくのが大事なんだよ」

ママはペンを持って、ホワイトボードに大きな○を三つ描いた。 「家計の黄金比って知ってる? 収入の『6:2:2』の法則よ」

「ろくたいにーのにー?」 「そう。収入の60%を生活費に、20%を貯金や投資に、20%を趣味や楽しみに使うのが理想的なバランスって言われてるの」

「でもさ、ママ」 タロウが首をかしげる。 「『6:2:2』って簡単に言うけど、本当にその通りにできるの? だって、ママがさっき言ってた固定費だけで、もう半分以上行っちゃいそうだったけど…」

「するどいわね、タロウ。実際には、家賃が高かったり、子どもの教育費がかかったりすると、60%に収まらないことも多いの。大事なのは『理想を知った上で、自分たちに合ったバランスを見つけること』よ」

パパがうなずく。 「そうだな。ウチも最初は『貯金なんて無理だよ』って思ってたけど、ママが『先取り貯金』って方法を始めてから、少しずつ貯まるようになったんだ」

「『先取り貯金』?」 ママが説明する。 「『先取り貯金』は『自分への最優先支払い』って呼んでるの。毎月の給料が入ったら、まず最初に『貯金分』を別の口座に移しちゃうのよ。残ったお金で生活するの。そうすると、『余ったら貯める』よりも確実に貯まるの」

「なるほど! つまり、自分に『貯金しろ』って命令するんだね!」

「そうそう。自分に給料を払う感覚よ。タロウもお小遣いのルールでやっている『三つのポケット』と同じ理屈ね」

タロウは目を輝かせた。 「ぼくのお小遣いも、『すぐに使うポケット』と『楽しみのポケット』と『未来のポケット』に分けてるよ! 貯金箱の中も『ブタさん貯金』と『ドラクエ貯金』と『お菓子貯金』で分けてるんだ!」

「おお、タロウも立派な家計管理してるじゃないか!」 パパが感心する。

「でもね、パパ。困ったことがあるんだ」 「なんだ? 言ってみろ」 タロウは真剣な顔で言った。 「『欲しいものリスト』を作っても、どうしても『欲しい!』って気持ちが勝っちゃうときがあるんだ。サクラが言ってた『ドーパミン地獄』に陥っちゃうんだよ」

ママが笑いながら言う。 「それは大人でもあるよ。『ドーパミン地獄』は年齢関係ないからね。でもね、タロウ。『欲しい!』って気持ちを否定する必要はないんだよ。大事なのは、その感情とどう付き合うかってこと」

「どうやって付き合うの?」 「いい質問ね。まずは『なぜ欲しいのか』を自分に聞いてみることよ。『本当に必要だから?』『友だちが持ってるから?』『広告で見てカッコいいと思ったから?』理由がわかれば、冷静になれることも多いの」

パパが付け加える。 「それに、『今すぐ買わなくても、もっと良い買い物のタイミングがあるかも』って考えるのも大事だぞ。パパも昔、『限定品!』って言葉に釣られて、使わないゲームソフトをたくさん買ったことがあるんだ」

「え? パパが? 衝動買い?」 「そうだよ。『限定500本! もう二度と手に入らない!』って書いてあったから買ったら、実は半年後にもっと安くて内容が充実した『完全版』が出ててね…」

パパは遠い目をした。 「あれは今でも思い出すと腹が立つな…」

ママがうなずく。 「だからこそ、家族でお金の話をするのが大事なの。『今月は予算オーバーだから来月まで待とう』とか『その買い物、本当に必要?』って、誰かに相談することで冷静になれることも多いんだよ」

話が盛り上がってきたところで、ママがホワイトボードの隅に「家族会議の心得」と書き始めた。

「せっかくの家族会議が楽しく続くように、いくつかルールを決めよう」

ルールその1:『説教禁止』 「お金の話になると、『なんでそんな無駄遣いするの!』『ちゃんと貯金しなさい!』って説教モードに入っちゃう親御さんが多いんだって。でもね、説教されたら子どもは心を閉ざしちゃう。だから、会議中は対話を心がけよう」

ルールその2:『笑いを忘れない』 「お金の話って、どうしても堅くなりがち。でも、タロウがさっき言った『貯金箱から給料』みたいな笑い話があれば、リラックスして話せるわよね」

ルールその3:『否定しない』 「『そんな考えは間違ってる』って頭から否定しない。まずは『そう思うんだね』って受け止めてから、『でも、こういう考え方もあるよ』って提案するスタイルがベストよ」

タロウは感心した顔で言った。 「まるで、ゲームの攻略本みたいだね! 『お金の話の攻略法』って感じ!」

「その通り! お金の話は『敵』じゃなくて、『一緒に攻略する仲間』なんだよ」 ママが嬉しそうに笑う。

パパがここで遠慮がちに手を挙げた。 「あのー…一つ聞いていいですか、会長?」

「会長? 何よ、急に」 「だって、この会議の仕切ってるのママじゃないか。会長って呼ばせてもらうよ。で、会長。子どもに『いつからお金の話をするべきか』ってよく聞かれるんだけど、どう思う?」

ママは顎に手を当てて考えた。 「早すぎるってことはないわよ。でも、一番いいのは『子どもが聞いてきたタイミング』ね。タロウの場合は、『おこづかいが足りない!』って騒いだ時がスタートだったけど」

「確かに。『お金が足りない!』って叫ぶのは、最高の学習チャンスだよな」 パパがしみじみ言う。

「そうそう。それからもう一つ大事なのが、『お金は汚いものじゃない』って教えること。お金はあくまで『道具』で、使い方次第で人を幸せにも不幸にもする。そのことを、実際のエピソードを交えながら教えるのがいいのよ」

タロウは突然思い出したように言った。 「そういえばさっきのホワイトボード、『収入』のところに『パパの給料』と『ママのパート』って書いてあったけど、ぼくは『収入』じゃなくて『支出』なんだよね?」

リビングが一瞬静まり返る。 「どういう意味だ?」 パパが眉をひそめる。

「だってさ、ぼくの学費とか、習い事のお金とか、食費とか…全部パパとママが出してるんでしょ? つまりぼくは、家計から見たら『お金が出ていく存在』なんだよ」

ママとパパは顔を見合わせて、同時に笑い出した。 「タロウ、君は天才だな!」 「そんな深刻に考えなくていいのよ!」

ママが立ち上がって、タロウの頭を撫でながら言った。 「確かに、子どもにはお金がかかるわ。でもね、それ以上に『価値』があるのよ。タロウが笑う姿を見ると、パパもママも『もっと頑張ろう!』って思えるんだから」

パパもうなずく。 「タロウは『支出』かもしれないけど、人生最大の『投資』だよ。だって、パパとママはタロウに投資して、未来に『素敵な大人』っていうリターンを期待してるんだからな」

タロウはぽかんとして、それから急に照れくさそうにはにかんだ。 「そ、そんな風に言われると、なんかお金の話が急に温かく感じるよ…」

「そういうことよ。お金の話は、『家族の愛情』を可視化する手段でもあるの。パパが毎日働いて、ママが家計をやりくりして、それがタロウの未来につながってる。そのことを知るのが、家族会議の一番の目的かもしれないわね」

ママがホワイトボードをもう一度見ながら言う。 「さて、今日はこれくらいにしようか。最後に、今日のまとめをタロウに発表してもらおうかな」

「ええっ、テスト!?」 「テストじゃないよ。ただ、自分が何を学んだかを言葉にすると、記憶に残りやすいんだ」

タロウは立ち上がって、ホワイトボードの前に立った。ちょっと照れくさそうにしながらも、真剣な顔で話し始める。

「えーっと…今日わかったことはね、まず『お金の話はタブーじゃない』ってこと。むしろ、話さないと損することがいっぱいあるんだなって思ったよ」

「いいね! 続けて」 「それから、家計って『収入』と『支出』のバランスが大事で、『先取り貯金』とか『6:2:2の法則』っていうコツがあるんだね。それに、説教じゃなくて対話が大事で、笑いながら話すとみんな楽しいってこと」

タロウは一呼吸おいて、最後に力強く言った。 「そして何より…ぼくはパパとママの『投資』なんだってわかったよ! だから、ちゃんと『リターン』を返せる大人になりたい!」

パパが感動して拍手をする。 「よく言った! タロウ! パパは嬉しいぞ!」 「ちょっとパパ、泣きすぎよ…」 ママが笑いながらティッシュを差し出す。

その日の夕食は、特別にタロウのリクエストでカレーライスになった。食卓には、ホワイトボードに書かれた「家族会議の心得」がまだ残っている。

「ねえ、また家族会議やろうよ」 タロウがカレーを頬張りながら言う。

「いいわね。次は『旅行の計画』について話し合おうか。予算はいくらで、どこに行くか、みんなで決めるの」 「夏休みのキャンプ計画も聞いてくれよ!」 「やったー! 次は『楽しいお金の使い方』を話すんだ!」

タロウは、お金の話がこんなに楽しいものだとは思ってもみなかった。家族みんなで話すと、お金って「必要なもの」から「未来を創る面白い道具」に変わるんだなって感じた。

そう言えば、ブタさんが言ってたっけ。 『お金そのものに価値はない。だけど、その使い方で人生は変わる。そして、一番の投資は『人との絆』だ』って。

今夜の家族会議は、まさにその言葉を体現していたのかもしれない。

(この章の学び)

  • 家族でお金の話をすると、無駄遣いが減り、貯金が増え、親子の絆も深まる
  • 家計は「収入−固定費−変動費=貯金」という流れを理解しよう
  • 「先取り貯金」で、確実に未来への種まきを
  • 説教ではなく対話を。笑いを忘れずに、否定せず受け止める
  • 子どもは「支出」ではなく、最高の「投資」
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CHAPTER 18
お金のプロになろう〜未来の仕事〜

第18章 お金のプロになろう〜未来の仕事〜

学校の廊下に貼られた一枚のポスター。カラフルな文字でこう書いてあった。

「第3回 未来の仕事体験デー! 君の夢を一日体験しよう!」

タロウはそのポスターをじっと見つめ、頭の中に疑問符を浮かべていた。

「未来の仕事……か。でも、将来どんな仕事があるのか、全然わかんないや」

すると背後から声がした。

「タロウくん、職業体験、何を選ぶの?」

振り返ると、サクラが立っていた。手にはすでに申込用紙を持っている。

「サクラはもう決めたの?」

「うん。私はね——」

サクラが言いかけたその時、タロウのランドセルの中から、低くて落ち着いた声がした。

「ふむ。職業体験か。それは良い機会だぞ、タロウ」

タロウは慌ててランドセルを開けた。中から顔を出したのは、もちろんブタさんだった。ただし今は、声が聞こえるのはタロウだけ。サクラには「ブタさんがしゃべった」なんて言えないので、タロウは咳払いをしてごまかした。

「えっと、サクラ、何を選んだの?」

「私はね——『未来のお金のプロコース』! 銀行員、投資家、会計士、起業家にインタビューできるんだって!」

タロウの目が輝いた。

「お金のプロ! それってすごく気になる!」

「一緒に申し込まない?」

タロウはうなずいた。こうして、タロウとサクラの「お金のプロ探検」が始まるのだった。

職業体験当日——銀行員の世界へ

職業体験当日。タロウとサクラは、まず最初に銀行を訪れた。

銀行のドアをくぐると、ピシッとスーツを着た銀行員の女性が出迎えてくれた。名札には「山田花子 支店長代理」と書いてある。

「ようこそ、〇〇銀行へ! 今日は一日、銀行員の仕事を体験していただきます」

タロウはキョロキョロと辺りを見回した。ATMが並び、カウンターではお客さんが手続きをしている。なんとなく堅苦しい雰囲気に、タロウはちょっと緊張してしまった。

「あの、銀行員のお仕事って、具体的に何をするんですか?」

山田さんはにっこり笑って答えた。

「銀行員はね、簡単に言うと『お金の案内人』なんだよ」

「お金の案内人?」

「そう。お金を預けたい人と、お金を借りたい人を結びつけるのが、私たちの仕事。例えば——」

山田さんはホワイトボードを取り出して、図を描き始めた。

  • Aさん:お金を預けたい(預金者)
  • Bさん:お金を借りたい(借り手)
  • 銀行:AさんとBさんの間を取り持つ仲介役

「Aさんが100万円預けたとするよね。銀行はその100万円を、家を買いたいBさんに貸し出す。Bさんは銀行に利息をつけて返す。その利息の一部を、銀行はAさんに預金利息として支払う。そして残りの利息が銀行の収益になるんだ」

タロウは首をかしげた。

「つまり、銀行はお金の両替所……じゃなくて、お金のマッチングアプリみたいなもの?」

山田さんは笑った。

「面白い例えだね! 確かにそう言えるかも。でも、もう一つ大事な仕事があるよ。それは『お金を安全に守る』こと」

山田さんはタロウたちを金庫室に案内した。分厚い鉄の扉の奥には、ずらりと並んだ金庫。

「ここにあるお金は、お客さんから預かったもの。私たちはそれを大切に保管し、お客さんが引き出したい時にいつでも引き出せるようにしているんだ」

「すごい! まるでお金の城だ!」

サクラが手を挙げた。

「銀行員になるには、どんなスキルが必要ですか?」

「良い質問だね。まず一番大事なのは『正確さ』。お金を扱う仕事だから、計算ミスは絶対に許されない。それから『コミュニケーション能力』。お客さんの要望をしっかり聞いて、最適な提案をする力が必要だよ」

タロウはメモを取りながら、感心したように言った。

「銀行員って、ただお金を数えているだけじゃないんですね。お客さんと話して、未来の計画を一緒に考える——まるでお金の設計士みたいだ!」

山田さんは優しくうなずいた。

「その通り。銀行員は『お金の設計士』でもあるんだよ」

投資家——未来を予測する占い師?

次にタロウとサクラが訪れたのは、とある投資会社のオフィスだった。

オフィスに入ると、モニターが何台も並び、数字が高速で動いている。中央の机には、一人の男性が座っていた。名札には「田中太郎 ファンドマネージャー」と書いてある。

「ようこそ! 投資家の世界へ!」

田中さんはにこやかに言ったが、その目は少し鋭かった。

「投資家の仕事って、何をするんですか?」

「簡単に言うと、『未来を予測する占い師』だね」

タロウは驚いた。

「占い師?! でも、占いって当たるか当たらないかわからないじゃないですか」

「その通り。投資も同じだよ。未来のことは誰にもわからない。でも、さまざまなデータを調べて、『この会社は伸びそうだ』『この業界は成長しそうだ』と予測して、お金を投資するんだ」

田中さんは、壁に貼ってあるグラフを指さした。

「例えば、ここにA社とB社の売上グラフがある。A社は右肩上がりに成長している。B社は横ばい。さて、どっちに投資したい?」

「もちろんA社です!」

「正解。でもね、これには落とし穴があるんだ。A社の成長が続く保証はどこにもない。もしかしたら来年、急に業績が悪化するかもしれない。逆にB社が突然新しい商品を開発して、大きく成長するかもしれない」

タロウは考え込んだ。

「じゃあ、投資ってギャンブルみたいなものですか?」

「いいや、そこが違う。ギャンブルは『運任せ』。でも投資は『情報と分析に基づいた判断』なんだ。例えば、ある会社が新しいスマホゲームを開発するとしよう。投資家はそのゲームの内容、開発チームの実力、市場のニーズなどを徹底的に調べる。『このゲームはヒットする』という確信が持てたら、投資する。つまり、『当てずっぽう』じゃなくて『根拠のある予測』なんだよ」

サクラが質問した。

「投資家に必要なスキルは何ですか?」

「一番大事なのは『情報収集力』。新聞を読んだり、会社の決算書を分析したり、世界中のニュースをチェックする。それから『忍耐力』。投資はすぐに結果が出るものじゃない。数年、数十年と待つこともある。そして最後に『メンタルの強さ』。株価が下がってもパニックにならず、冷静に判断できる力が必要だ」

田中さんはタロウたちに、一つのコインを見せた。

「このコインを投げてごらん。表が出るか裏が出るかはわからない。でもね、100回投げれば、だいたい半々になる。投資も同じ。一つ一つの判断はコイン投げのように不確実でも、長い目で見れば、確率は収束する。だから大事なのは『分散投資』。卵を一つのかごに盛るな、という言葉を知ってるかい?」

「知ってます! 卵を全部同じかごに入れると、かごを落とした時に全部割れちゃうから、複数のかごに分けて運べ、っていう意味ですよね?」

「その通り! 投資も、一つの会社や一つの商品だけに集中するのは危険。複数の投資先に分散することで、リスクを減らすんだ」

タロウは目を輝かせた。

「投資家って、ただの占い師じゃなくて、『科学者みたいな占い師』なんですね!」

田中さんは大笑いした。

「面白い例えだ! そうだね、『データサイエンティスト兼占い師』ってところかな!」

会計士——数字の探偵

三番目にタロウとサクラが訪れたのは、会計事務所だった。

中は静かで、書類が山積みになっている。机の上には電卓とパソコン、そして分厚い本が何冊も置いてあった。

会計士の佐藤さんが、眼鏡をくいっと上げて出迎えた。

「やあ、ようこそ。私は佐藤。会計士です。今日は『数字の探偵』の仕事を体験してもらうよ」

「数字の探偵?」

「そう。会計士の仕事は、会社のお金の流れを調べて、『おかしなところはないか』『ちゃんとルール通りにお金を使っているか』をチェックすることだ。まるで探偵のようにね」

佐藤さんは、ある会社の決算書を広げた。

「例えば、この会社。売上は1000万円。経費は800万円。つまり利益は200万円。ここまでは普通だね。でもね、よく見ると『交際費』が異常に多い。500万円もある。おかしいと思わないかい?」

「500万円も交際費?! それって、お客さんとご飯を食べたりするお金ですよね? そんなにかかるなんて、怪しい!」

「その通り。もしかしたら、社長が個人的に使ったお金を会社の経費としてごまかしているかもしれない。会計士はそういう『数字のウソ』を見つけ出すんだ」

タロウはぞっとした。

「つまり、会計士は『お金の探偵』で、悪い人を見つける正義の味方なんですね!」

「まあ、そんなカッコいいものじゃないけどね(笑)。でも確かに、私たちの仕事は『情報の透明性』を守ること。会社が正しいお金の使い方をしているかどうかをチェックして、投資家や銀行、取引先に『この会社は大丈夫です』と証明するんだ」

「会計士になるには、どんなスキルが必要ですか?」

「まず『細かいところに気づく注意力』。数字の間違いや矛盾を見つける観察眼が必要だ。それから『数学の力』。計算が正確でないと話にならない。でも一番大事なのは『正義感』かな。たとえ大きな会社のボスが『ここをこう書いてくれ』と頼んできても、ウソは書けない。真実を守る勇気が必要なんだ」

佐藤さんは、一枚の書類を取り出した。

「これは、とある小さなパン屋さんの決算書だ。このパン屋さん、去年は赤字だった。でも経営者は『もっと頑張れば黒字になる』と信じて、新しいパンの開発に挑戦した。会計士はその努力を数字で証明するんだ。『このパン屋さんは、今年はこういうコスト削減をして、売上をこう伸ばしたから、来年は黒字になる可能性が高い』——そういう未来を数字で描くのが、私たちのやりがいなんだよ」

タロウは感動した。

「会計士って、ただの探偵じゃないんですね。『数字で未来を描くアーティスト』だ!」

佐藤さんは照れくさそうに笑った。

「初めて言われたよ(笑)。でも、そういう見方もできるかもしれないね」

起業家——夢をカタチにする魔法使い

最後にタロウとサクラが訪れたのは、小さなオフィスビルの一室だった。

中に入ると、壁中にアイデアが書かれた付箋が貼ってある。中央には、若い女性が立っていた。名札には「中村未来 CEO」と書いてある。

「やあ、ようこそ! 私、中村未来って言います。小さなアプリ開発会社を経営しています。今日は『起業家』の仕事を紹介するね」

「起業家って、会社を立ち上げる人ですよね?」

「その通り! 簡単に言うと『夢をカタチにする魔法使い』かな」

タロウは目を輝かせた。

「魔法使い?! 具体的に、どんな魔法を使うんですか?」

「まず『発見の魔法』。世の中の困っていることや、もっと便利になることを見つける。例えば、私は友達が『料理の材料を買い忘れた』ってよく困っているのを見て、『冷蔵庫の中身を写真に撮って、不足している食材を自動で買い物リストにしてくれるアプリ』を作ろうと思ったんだ」

「なるほど! それで?」

「次に『仲間を集める魔法』。一人じゃ大きなことはできない。エンジニア、デザイナー、マーケター——それぞれのプロフェッショナルに声をかけて、チームを作る。『このアイデア、一緒に実現しない?』って魔法をかけるんだ」

「最後の魔法は?」

「『諦めない魔法』。起業は失敗の連続だよ。アプリをリリースしても、最初は誰もダウンロードしてくれない。バグだらけのレビューが届く。『もうやめようかな』と思う日もある。でもそこで諦めずに、改良を重ねる。この『諦めない魔法』が一番大事なんだ」

中村さんは、スマホでアプリの画面を見せてくれた。

「これが私たちのアプリ。最初はダウンロード数が1000人もいかなかった。でも三年かけて改良して、今では10万人が使ってくれている。うれしかったよ」

「起業家に必要なスキルって何ですか?」

「まず『アイデアをカタチにする実行力』。アイデアだけじゃお金にはならない。実際に動くものを作る力が必要。それから『リスクを取る勇気』。起業はギャンブルじゃないけど、安定した会社で働くよりリスクは大きい。でもね——」

中村さんは真剣な表情で言った。

「一番大事なのは『誰かを幸せにしたいという思い』。お金を稼ぐために起業する人もいるけど、それだけだと長続きしない。『このアプリで、料理が苦手な人を助けたい』『このサービスで、地方に住むお年寄りを笑顔にしたい』——そういう『誰かのため』という思いが、頑張る原動力になるんだ」

タロウは深くうなずいた。そして、ふとある疑問が浮かんだ。

「でも、起業するにはまずお金が必要ですよね? そのお金って、どうやって集めるんですか?」

「良い質問だね。起業のお金の集め方には、いくつか方法があるよ。まず『自己資金』。自分で貯めたお金を使う。次に『銀行からの借入』。事業計画書を持って銀行に行って、お金を借りる。それから『投資家からの出資』。『このアイデアに可能性を感じる』という人からお金を出してもらう。最後に『クラウドファンディング』。インターネットで多くの人から少しずつお金を集める方法もあるんだ」

サクラが手を挙げた。

「つまり、起業家は『お金を集めるのも仕事のうち』なんですね!」

「そう! お金のプロとして、資金調達の方法を知っていることが大切なんだ。でもね、一番大事なのは『アイデアに情熱があるかどうか』。お金はあくまで手段。目的は『世の中をより良くすること』。その情熱が伝われば、人は自然と支援してくれるものだよ」

職業体験のまとめ——お金のプロへの道

職業体験が終わり、タロウとサクラは学校の教室に戻ってきた。二人は机に並んで座り、今日の体験を振り返っていた。

「すごかったね。お金のプロにはいろんな仕事があるんだなあ」

タロウが言うと、サクラもうなずいた。

「うん。銀行員は『お金の案内人』、投資家は『未来を予測する占い師』、会計士は『数字の探偵』、起業家は『夢をカタチにする魔法使い』——どれもすごく魅力的だった」

「でもさ、どの仕事にも共通していることがあると思わない?」

「共通していること?」

「うん。どの仕事も『誰かの役に立つ』ってこと。銀行員はお金の安全を守り、投資家は未来の成長を支え、会計士は真実を明らかにし、起業家は新しい価値を作り出す——みんな、誰かを笑顔にするために働いているんだ」

サクラはタロウの言葉に感心した。

「タロウくん、すごいね。ちゃんと本質を見抜いてる」

タロウは照れくさそうに笑った。そして、ふと思い出したように言った。

「そういえば、ブタさんが言ってたんだ。『お金のプロになるための第一歩は、身近なことから始めること』だって」

「身近なこと?」

「うん。まずはおこづかい帳をちゃんとつけること。SMARTの法則で目標を立てること。それから、買い物の時に『これは本当に必要か?』って考えること。そういう小さな積み重ねが、将来お金のプロになるための土台になるんだって」

サクラはうなずいた。

「なるほどね。私の『欲しいものリスト』も、その第一歩ってわけか」

「そうそう! そしてもう一つ、ブタさんが教えてくれたことがあるんだ」

「何?」

「『お金のプロになるには、数字が好きになることが大事』だって。なぜなら、どの仕事も数字を扱うからね。計算が得意で、正確に数字を読めることが、すべての基本なんだって」

サクラはメモを取りながら言った。

「じゃあ、今から算数の勉強を頑張らないとね!」

「そうだね。でも、ただ計算ができればいいってわけじゃない。大事なのは『数字の裏にあるストーリーを読む力』だって。例えば、ある会社の売上が100万円増えたとしても、なぜ増えたのか、その理由を考えられることが大事なんだって」

タロウの説明に、サクラはますます感心した。

「タロウくん、本当にお金のプロになりたいんだね」

「うん。今日の職業体験で、ますますその気持ちが強くなったよ。だって、お金のプロって——」

タロウは窓の外を見ながら、ゆっくりと言った。

「みんなを笑顔にできる仕事なんだ。誰かの夢を応援したり、困っている人を助けたり、新しい可能性を広げたり——お金はただの道具だけど、その道具をどう使うかで、世界は変わるんだ」

サクラは優しく微笑んだ。

「それなら、私はタロウくんを応援するよ。将来、一緒に会社を作ったりするのも面白いかもね」

「本当?! それってすごく楽しそう!」

二人は笑い合った。すると、タロウのランドセルから、小さな声が聞こえた。

「ふむ。良いことを言うようになったじゃないか、タロウ」

タロウはランドセルを開けて、こっそりブタさんにささやいた。

「ブタさん、僕、決めたよ。将来はお金のプロになって、みんなを笑顔にしたい」

ブタさんは、得意げな口調で答えた。

「その決意、忘れるなよ。ただし、まずは明日の算数のテストで100点を取ることから始めろ。さあ、宿題の時間だぞ」

「ええっ! せっかく盛り上がってるのに!」

教室に、タロウとサクラの笑い声が響いた。

こうして、タロウの「お金のプロへの道」は、始まったばかりだった。今日覚えた五つの職業——銀行員、投資家、会計士、起業家——どれもが、お金を通じて人を幸せにする仕事だ。そして、その道の第一歩は、身近なところにある。おこづかい帳を書くこと、欲しいものリストを作ること、SMARTの法則で目標を立てること——そうした小さな習慣こそが、未来の大きな「お金のプロ」を育てるのだ。

タロウは心に誓った。

「いつか、僕もお金のプロになって、この世界をもっと素敵な場所にしてみせる!」

その瞳は、希望に満ちて輝いていた。

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CHAPTER 19
世界のお金〜旅行で学ぶ貨幣事情〜

第19章 世界のお金〜旅行で学ぶ貨幣事情〜

ある日曜日の朝。タロウがリビングで宿題をしていると、ママが大きな世界地図を広げて何やらニヤニヤしながら見ている。

「ママ、何してるの?」 「ん〜? ちょっとね、夢の世界一周旅行の計画をね…」 「夢の? 現実じゃないの?」 「もちろん現実じゃないわよ。うちにそんな予算あるわけないでしょ。でもね、夢を見るのはタダなのよ」

そう言いながら、ママは地図上の国々に色とりどりの付箋を貼っていく。アメリカには「ハンバーガー食べたい!」、フランスには「エッフェル塔の前でポーズ!」、インドには「カレーは本場が違うらしい」、エジプトには「ピラミッドの前で逆立ち!」——最後のは無理がある。

「ねえ、ママ。世界の国々って、お金も違うんでしょ?」 「おっ、いいところに気がついたね、タロウ。そうなの。国によってお金の種類が違うし、その価値も毎日変わってるんだよ」

タロウの目がキラリと光る。ブタさんが言っていた「お金の価値はみんなの合意で決まる」という言葉を思い出したのだ。それが国を超えるとどうなるのか、想像するだけでワクワクしてきた。

「ママ、教えて! 世界のお金のこと!」 「よしきた。じゃあ、ちょっとした頭の中の世界一周旅行に出かけようか!」

世界の通貨大図鑑〜お金にもパスポートが必要〜

ママは引き出しから、昔取ってあった外国のコインや紙幣を取り出した。タロウは目を丸くする。

「わあ! これ、本物の外国のお金?」 「そうだよ。パパが出張に行った時に少しずつ集めてたんだ。記念にね」

机の上に並べられたのは、アメリカの1ドル札、ユーロのコイン、韓国のウォン札、それにタイのバト紙幣。どれも日本の一万円札とは全然違うデザインで、タロウはまるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせた。

「まずは世界の主要な通貨から見ていこう。世界で一番よく使われているのは、アメリカのドルだよ」 「ドル? ドラゴンクエストのゴールドみたいなもの?」 「えっと…まあ、ゲームの世界でもよく出てくるから、イメージしやすいかもしれないね。世界中の貿易や取引で使われることが多い、いわば世界の共通言語みたいなお金なんだ」

ママはスマホで為替レートを調べ始めた。

「次はユーロ。ヨーロッパの多くの国で使われている共通通貨でね。フランス、ドイツ、イタリア、スペイン…たくさんの国がこのユーロ一つでお金のやりとりをしてるんだよ」 「えっ? 違う国なのに同じお金を使ってるの?」 「そうなんだ。まるで同じお財布をシェアしてるお隣さんみたいなものだね。便利だけど、全部の国が同じルールでお金の管理をしないといけないから、大変なこともあるんだよ」

タロウは首をかしげた。

「日本は? 円だけだよね?」 「そう。日本はだけ。だから海外旅行に行くときは、日本円をその国の通貨に両替しないといけないんだ。これがなかなかややこしいのよ」

為替レートの不思議〜「円が強い」ってどういうこと?〜

ママはスマホで為替レートのアプリを開いた。

「今はね、1ドルが約150円。1ユーロが約160円ってところかな」 「1ドルが150円? つまり、100円持ってってもドルにしたら…」 「100円÷150円で、約0.67ドル。つまり1ドルにもならないんだよ。アメリカでは100円は100円じゃないってこと」 「ええーっ! それって悲しくない?」 「悲しいけど、これが現実。でも逆に、外国の人が日本に来るときは、1ドルで150円分の買い物ができるから、『日本って安い!』って感じるんだよ」

タロウは必死に考え込む。ママは彼の頭の中に「?」がいっぱい浮かんでいるのを見て、笑いながら説明を続けた。

「『円が強い』っていうのはね、同じ日本円でより多くの外国のモノが買える状態のこと。例えば、1ドル=100円の時は、100円でアメリカの1ドルのお菓子が買える。でも1ドル=150円になったら、同じお菓子を買うのに150円もかかっちゃう。だから、円が強い=海外旅行がお得ってことになるんだよ」 「でも今は円が弱いってこと? 旅行に行くならもっと強い時がいいの?」 「その通り! まさにタイミングが大事ってわけ。でもね、為替レートは毎日コロコロ変わるから、『今日はお得!』って思った時に両替するのがコツなんだ」

ブタさんが突然、タロウの声にだけ反応して口を開いた。

為替レートは生き物のようなものだ。日々のニュースや世界の出来事で動く。戦争が起きれば円が弱くなり、日本の経済が好調なら円が強くなる。よく観察することが大事だぞ」 「ブタさん、その通りね…って、あれ? 誰か話した?」 「え? いや、なんでもない! ブタさんがね…あ、違う! 僕が独り言!」 「変な子ね。まあいいわ。続けるよ」

タロウの夢の世界一周旅行〜両替で大パニック!〜

その夜、タロウは夢を見た。なんと自分が世界一周旅行に出かけている夢だ。空港でママとパパに見送られ、飛行機に乗り込む。最初の目的地はアメリカのニューヨーク!

「ワクワクするなあ! 自由の女神を見て、本場のホットドッグを食べるんだ!」

タロウは空港の両替所で、持ってきた5万円をドルに替えようとした。カウンターの表示には「1ドル=100円」と書いてある。

「よし、5万円なら500ドルだ! やった、大富豪だ!」

意気揚々とドル札を受け取り、街に繰り出したタロウ。最初に入ったレストランでハンバーガーセットを注文する。メニューには「$15」と書いてある。

「15ドルか…日本円で1500円くらいだな。まあまあ高いけど、せっかくだし!」

タロウは気前よく20ドル札を出して、「おつりはいいよ」とカッコつけてみせた。店員さんが微笑んでお釣りを渡さない。本当にチップとして受け取ったのだ。

その後、お土産屋さんでTシャツを3枚($60)と、自由の女神のミニチュア($40)を買い、さらにタクシーに乗って$30。初日で100ドル以上使ってしまった。

三日目、そろそろお金が心配になってきたタロウは、残金を確認しようと財布を開いた。

「えっと、あれ? 残り…え? 300ドルしかない?! 待ってよ、500ドルあったはずなのに…」

あわてて計算し直す。ハンバーガー$20(チップ込)、Tシャツ3枚$60、ミニチュア$40、タクシー$30、ホテル代$50……あれ? ホテル代もまだ払ってなかった!

実はタロウが両替したのは500ドルではなく、1ドル=100円のレートで計算し間違えていたのだ。実際のレートは1ドル=125円。5万円で両替できたのは400ドルだけだった。

「うわあああ! 半分も残ってない! このままだと帰国できなくなる!」

パニックになったタロウは、現地でなんとか安上がりに過ごす方法を考えた。スーパーでサンドイッチを買って節約し、観光は無料の公園や美術館を巡る。そしてなんとか帰国の日までお金をやりくりした。

「もう二度と為替レートを確認せずにお金を使うのはやめよう…」

タロウは固く心に誓ったのだった。

朝、目を覚ますと、枕元にはまだ夢の余韻が残っていた。

「おはよう、タロウ。すごい寝言だったよ。『ドルが足りない!』って叫んでたけど、何か悪い夢でも見た?」 「ママ、すごくリアルな夢を見たんだ! ニューヨークで両替に失敗して、お金が足りなくなって…」 「あらあら。でもね、それはとてもいい経験になったでしょ。実際に海外に行く前に擬似体験できてラッキーだったね」

ママはにっこり笑って、朝ごはんのトーストを差し出した。

実際にやってみよう!両替チャレンジ〜親子で計算ゲーム〜

「せっかくだから、実際に両替の計算をしてみようか」 ママがノートに数字を書き始めた。

【問題1】 「1ドル=150円の時、5000円は何ドルになる?」 「えっと…5000÷150で…」タロウは指を折りながら計算する。「33.33…ドル?」 「正解! ちょうどハンバーガー2個分だね」

【問題2】 「じゃあ次。1ユーロ=160円の時、100ユーロのバッグを買うといくらになる?」 「100×160で…16000円! けっこう高いね…」 「そうなんだ。ヨーロッパの物価は日本のより高いことも多いから、『えっ、これでこの値段?!』って驚くこともあるよ」

【問題3】 「最後に応用問題。あなたがタイに旅行に行って、50バーツのパッタイ(焼きそば)を食べたい。1バーツ=4円だとすると、いくらになる?」 「50×4で…200円! 安い! 日本で焼きそば食べるより安いね!」 「そうなんだ。国によって物価が違うから、同じお金でも買えるものが全然違う。これが為替レートの面白いところなんだよ」

チップの不思議なルール〜感謝の気持ちをどう伝えるか?〜

「ところでタロウ、海外に行くとチップっていう習慣があるんだけど、知ってる?」 「チップ? ポテトチップス?」 「違う違う(笑)。チップっていうのは、サービスをしてくれた人に渡す感謝の気持ちを込めたお金のこと。国によってルールが全然違うんだよ」

ママはホワイトボードに「チップ世界地図」を書き始めた。

「アメリカでは、レストランで食事をしたら料金の15〜20%をチップとして払うのが普通。タクシーの運転手さんにも料金の10〜15%くらいが目安。ホテルのベルボーイさんには1バッグにつき1〜2ドルね」 「えっ?! そんなにいろんな人にあげないといけないの? 財布が泣いちゃうよ」 「そうなんだ。だからアメリカに行くときは、チップ用のお金を別に用意しておくのが賢いやり方。チップは給料の一部と考えられているから、払わないと失礼になっちゃうんだ」

タロウはふと、この前の夢のニューヨーク旅行でチップを払わなかったことを思い出した。

「あっ! 夢の中のレストランで、『おつりはいいよ』って言ったら、それってチップになってたんだ! 道理で店員さんが嬉しそうだったわけだ…」 「あら、夢の中で正解をやってたんだね。でも実際にそうすると、思ったよりお金が飛んでいくから気をつけてね」

ママはさらに続ける。

「でもね、日本ではチップの習慣はほとんどないでしょ? 国によってお金のマナーが全然違うんだよ」 「例えば?」 「例えば…フランスではカフェで座ってコーヒーを飲むのと、カウンターで立って飲むのとで値段が違うんだ」 「ええっ?! 立ち方で値段が変わるの?」 「そう。座ったら『席代』がかかるんだね。インドではお店によって値段交渉(値切り)が当たり前で、最初に言われた値段で買うと『あいつはボラれてるな』って思われるくらいなんだ」 「値切らないと損するってこと? なんかゲームみたいだね!」 「そうそう。国によって『お金を使う時のルール』が全然違う。旅行に行く前に、その国のルールを調べておくことが賢い旅人になる秘訣なんだよ」

世界の経済格差〜なぜ同じ地球上でこんなに違うの?〜

翌日の夕食後、タロウは世界地図をじっと見ていた。

「ねえママ。なぜ国によってお金の価値が違うの? 同じ地球なのに」 「いい質問だね。ちょっと難しい話になるけど、一緒に考えてみよう」

ママは地図上でいくつかの国を指さしながら話し始めた。

「まずね、国によって持っている『資源』が違うんだ。例えば、中東の国々は石油がたくさん採れる。だから石油を輸出して儲けている国も多い」 「でも日本は石油、ほとんど無いよね?」 「その通り。日本は資源がほとんどないから、代わりに『技術』や『製品』を輸出して稼いでいる。車や機械、電子部品なんかをね」

ブタさんがまた口を開いた。

経済の強さはその国の『稼ぐ力』で決まる。たくさんモノを作って売れる国、価値のあるサービスを提供できる国は、通貨の価値が高くなりやすい。逆に、政治が不安定だったり、産業が育っていなかったりする国は、通貨の価値が低くなってしまう」 「つまり、ちゃんと働ける国と、ちゃんと働けない国があるってこと?」 「簡単に言えばそうだな。でも実際はもっと複雑で、歴史的な理由や地理的な条件もある。同じ人間が住んでいるのに、生まれた場所によってチャンスが全然違う。それが現実だ」

タロウは少し考え込んだ。世界地図の上で、色とりどりの国々が広がっている。同じ地球で生まれても、使うお金も、暮らしも、働き方も、まったく違う。

「それって、不公平だね…」 「そうだね。不公平かもしれない。でもね、不公平を知ることが、世界を理解する第一歩なんだよ。『なぜこの国は貧しいんだろう?』『なぜあの国は豊かなんだろう?』って考えることが、すごく大事なことなんだ」

ママは優しく続けた。

「そして、お金を通じて世界がつながっていることも知ってほしい。例えば日本のコンビニで売っているバナナはフィリピンから来ているかもしれないし、あなたのDSは中国で作られているかもしれない。知らないうちに、世界中の人たちとお金のやりとりをしているんだよ」 「へえ…そう考えると、世界がすごく近くに感じるね」 「そうなんだよ。お金は世界を結ぶ接着剤みたいなもの。国境を越えて、人と人をつないでいるんだ」

海外でお金を守る方法〜トラベルマネーの知恵〜

「そういえばママ、海外でお金を安全に使う方法ってあるの? 夢の中で財布を落としかけたんだけど…」 「いい質問! 海外旅行で一番気をつけないといけないのは、お金の管理だよ。いくつかコツを教えるね」

ママは指を折りながら説明した。

「第一のルール:複数の場所に分けて持つ。全部の現金を一つの財布に入れると、盗まれたら終わり。だから、『今日使う分』と『予備』に分けて、別々の場所に保管するんだ」 「なるほど。忍者みたいに分散だね」 「そうそう。第二のルール:クレジットカードや電子マネーも併用する。現金だけだと盗まれたら大変だけど、カードなら再発行してもらえるからね」 「でもカードって便利だけど、使いすぎそうで怖い…」 「その通り! だから第三のルール:使える金額を事前に決めておく。『今日はこれだけ』って決めて、それ以上は絶対に使わない。これがお金に飲まれないコツだよ」

ブタさんが補足する。

「それから、両替は空港より街中の方がレートがいいことが多い。空港は便利だけど、手数料が高いんだ。だから、必要な分だけ空港で両替して、残りは街で両替するのが賢いやり方だ」 「へえ、ブタさんは旅行のプロなんだね」 「貯金箱は世界中を旅しているからな。いろんな人のお金を見てきたんだ」

親子でできる!ワールドマネークイズ

ママが突然、いたずらっぽい笑顔を見せた。

「タロウ、ここまでで世界のお金についてたくさん学んだね。じゃあ、最後にクイズを出してもいい?」 「いいよ! かかってこい!」

【クイズ1】 「1ドル=100円の時と、1ドル=150円の時、どっちが海外旅行に行くにはお得?」

「もちろん1ドル=100円の時! だって、同じ100円で1ドル分の買い物ができるんだもん!」 「正解! よくわかってるね!」

【クイズ2】 「日本のスーパーで200円のカレールーが、インドでは50ルピー(1ルピー=2円)で買える。どっちが安い?」

「えっと…50ルピーは100円だから、日本の200円より安い! インドの方が安いんだ!」 「正解! 同じカレールーでも、国によって値段が全然違うんだね」

【クイズ3】 「日本で一万円札を作るのにかかるお金は約20円。では、アメリカで1ドル札を作るのにかかるお金はいくらだと思う?」

「え? うーん…10セント?」 「惜しい! 実は1ドル札を作るのにかかる費用は約10〜15セントなんだって。つまり、紙幣の値段と実際の価値は全然違うってこと。これって、まさにお金の『合意の価値』そのものだね」

世界のお金が教えてくれたこと

その晩、タロウはベッドの中で今日学んだことを整理していた。

為替レートの不思議。国によって違うお金のマナー。経済格差の現実。そして、世界中の人たちがお金を通じてつながっていること。

「ブタさん、世界のお金って、本当に面白いね」 「そうだな。お金は単なる『交換の道具』以上のものだ。その国の歴史や文化、考え方が詰まったタイムカプセルでもあるんだ」 「タイムカプセル?」 「そうだ。例えば、日本の硬貨には稲穂や桜がデザインされている。これは日本が農業の国であることや、美しい自然を大切にしてきたことを表している。アメリカの1ドル札には『IN GOD WE TRUST(我らは神を信じる)』と書いてある。その国の価値観がお金に込められているんだ」

タロウは、貯金箱の中の硬貨を一枚取り出してじっくり眺めた。

「今まで気にしたことなかったけど、お金って不思議なものなんだね。こんなに小さな紙や金属に、人の信頼とか歴史とか夢が詰まってるんだ」 「そういうことに気づけるようになったのは、お前が大きく成長した証拠だぞ、タロウ」

翌朝、タロウはママに言った。

「ママ、いつか本当に外国に行ってみたい! 自分の目で世界のお金を見てみたい!」 「いいねえ。その時は、必ず予習をしてから行くんだよ。今回学んだことを活かしてね」 「うん! 絶対に為替レートを確認して、チップの習慣も調べて、お金は分散して持つ!」 「立派な旅人になる準備はできてるね。ママも楽しみに待ってるよ」

タロウは、世界地図をじっと見つめた。まだ見ぬ国々、まだ見ぬお金、まだ見ぬ人たち。お金という共通の道具を通じて、世界中の人とつながれるかもしれない。そう思うと、胸がときめいた。

「いつか、世界中を旅して、いろんなお金と出会いたいな」

タロウの新たな夢が、静かに芽生え始めていた。

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CHAPTER 20
まとめ〜あなたの金運ストーリー〜

第20章 まとめ〜あなたの金運ストーリー〜

ある日曜日の夕方、タロウの部屋には、どこか特別な空気が流れていた。机の上には、おこづかい帳、三つのポケットが描かれたノート、欲しいものリスト、そしてあのドラゴンクエストXIIのパッケージ——ついにタロウは5000円を貯めきり、憧れのゲームを手に入れたのだ。

「ふう…長かったなあ…」

タロウはゲームソフトを手に取り、感慨深げにため息をついた。そこへ、机の上でひときわ誇らしげに光るブタさんが、いつもの低い声で語りかけた。

「よくやったな、タロウ。5000円を貯めるまでの道のりは、まさにお金の冒険だったな。お前は貯金中から、この瞬間を目標にしてきたのだ。その達成感は、何事にも代えがたい。」

「うん…最初はさ、お菓子に全部使っちゃって、3日間泣きそうになったんだよ。あの時は、まさか自分が5000円も貯められるなんて思わなかった。」

タロウは遠い目をして、あの衝動買いの惨劇を思い出していた。あの日、彼はお小遣いをすべてお菓子に注ぎ込み、その後3日間、友達がアイスを食べている横で水を飲んで耐えたのだ。あの苦い経験がなければ、今の自分はなかった。

「ふふふ…人間は失敗から学ぶものだ。お前のその5000円には、単なる紙幣以上の価値がある。節制の価値、計画の価値、そして——」

「そして?」

「自分を信じる価値だ。お金は道具にすぎない。だが、その道具をどう使うかは、お前自身の物語にかかっている。」

ブタさんの言葉に、タロウはうなずいた。確かに、この数ヶ月で彼は多くのことを学んだ。貯金の仕方、投資の考え方、そしてお金の本質。それらすべてが、今の彼を作っている。

三つの柱の統合〜貯金・投資・起業のダンス〜

「そういえばブタさん、僕が学んだことって、大きく分けて三つあったよね。」

「うむ。貯金、投資、起業——お金を扱う三本の柱だ。それぞれが独立しているようでいて、じつは深く結びついている。」

タロウは机の上にノートを広げ、三つの円を描いた。

「貯金はね、『ブタさんの知恵』そのものだよ。おこづかい帳をつけて、三つのポケットに分けて、SMARTの法則で目標を立てる。最初はめんどくさいと思ったけど、今ではクセになったよ。」

「ふむ。貯金はお金の土台づくりだ。家で言えば基礎工事にあたる。基礎がしっかりしていなければ、どんな立派な家もすぐに傾く。」

「そして投資は——アイスクリーム屋台のチャレンジで学んだよね。未来のために、今のお金や時間を使うこと。リスクを取るけど、その分リターンもある。株の話もママから聞いたし、複利の力ってすごいんだなあって思った。」

タロウは目を輝かせながら語る。彼の頭の中では、お金の知識がパズルのように組み合わさり始めていた。

「起業は…まだちょっと難しいかな。でも、サクラが言ってた『自分で価値を作って、それを届ける』っていう考え方は、すごく面白いと思った。お店を開くのも、何かを作るのも、全部『起業』の種なんだって。」

「その通りだ。タロウ、いいところに気づいたな。貯金は守りの姿勢、投資は攻めの姿勢、そして起業は創造の姿勢だ。この三つがバランスよく回る時、お金はただの道具から、人生を豊かにする『相棒』へと変わる。」

ブタさんの説明に、タロウはうなずきながら、ノートに三本の矢印を書き加えた。貯金から投資へ、投資から起業へ、そして起業で得た利益はまた貯金へ——まるで循環する川の流れのように、三つの柱はつながっているのだ。

「つまり…いい感じのバランスが大事ってこと?」

「その『いい感じ』がなかなか難しいのだがな。だが、お前はすでにその感覚をつかみかけている。例えば、全財産を投資に突っ込むのは危険だが、全部を貯金に回していてはお金は増えない。自分の人生のステージや目標に合わせて、この三つのバランスを調整していく——それが『お金の達人』への道だ。」

お金の本質を振り返る〜物々交換からみんなの合意へ〜

タロウは窓の外を見た。夕暮れの空がオレンジ色に染まり、街の灯りが一つまた一つとともり始めている。あの街の中では、たくさんの人が働き、買い物をし、そのお金がぐるぐると回っている。

「ねえ、ブタさん。お金って、そもそもどうして生まれたんだっけ? ママから聞いた『お金の価値はみんなの合意で決まる』って話、もっと深く考えてみたいんだ。」

「お? いい質問だ。お前は重要なところに目をつけたな。」

「だってさ…一万円札の本当の値段は約20円で、残りの9980円は『みんなが価値があると信じているから』成り立ってるんでしょ? それってすごく不思議だよ。もし世界中の人が『この紙切れには価値がない』って決めたら、お金は一瞬でただの紙になるんだよね。」

「その通りだ。昔、人々は物々交換で生活していた。例えば、魚を釣った人が米と交換したかったら、米を持っている人と『欲望の一致』がなければならなかった。相手が魚を欲しがっていなければ、交換は成立しない。しかも、価値の比較も難しかった——魚一匹と米何合が釣り合うのか、誰も決められなかった。」

「ああ、ママが言ってた『物々交換の限界』ってやつだ! それで人類は、『みんなが価値を認める共通のもの』として貨幣を発明したんだよね。日本では最初、子安貝っていう珍しい貝殻が使われたって。」

「そうだ。貝殻も一万円札も電子マネーも、原理は同じ。『みんなの合意』で価値が決まる。だからこそ、お金の本質を理解することは、お金に振り回されないための最強の武器になる。」

タロウはうなずきながら、ノートに『みんなの合意』と書き、その周りに矢印を描いた。自分と社会、お金と信頼——すべてがつながっている。

銀行の役割を深く振り返る〜預金と貸出の両輪〜

「そういえば、銀行見学の時もたくさん学んだな。預けたお金が誰かの役に立っているって教えてもらったけど、具体的にどういう仕組みなんだっけ?」

ブタさんは低い声で説明を始めた。

「銀行には二つの大きな役割がある。『預金』と『貸出』——これが銀行の両輪だ。お前が貯金したお金は、銀行の中で眠っているわけではない。住宅を買いたい人や、事業を始めたい会社に貸し出されている。」

「えっ! 僕の貯めたお金が、誰かの家を買うのに使われてるの?」

「そうだ。ただし、タロウの預金が直接貸し出されるわけではなく、銀行はたくさんの預金をプールし、その一部を貸し出す。そして、貸出で得た利息と預金に支払う利息の差額で銀行は収益を得ている。銀行はお金の『仲介役』なのだ。」

「なるほど…だから銀行は『お金の交差点』なんだね。預ける人と、借りたい人をつなぐ場所。僕が預けたお金も、誰かの夢や生活の役に立っているんだ。」

「その理解で正しい。お前の5000円も、どこかで誰かの役に立っているかもしれない。お金は個人のものだけでなく、社会を循環する『血液』のようなものだ。銀行はその循環をスムーズにする心臓の役割を果たしている。」

タロウは、自分の貯金が目に見えないところで社会とつながっていることに、改めて感動した。お金は決して孤独な道具ではなく、人と人を結びつけるネットワークなのだ。

お金の使い方の指針〜自分と社会のバランス〜

「ねえ、ブタさん。お金って、自分だけのために使うものじゃないんだよね?」

「お? どういうことだ?」

「だってさ…銀行にお金を預けると、そのお金は誰かの住宅ローンになったり、会社の事業資金になったりするんでしょ? 投資したお金も、会社がそれを元に新しい商品を作ったりする。僕がアイスクリーム屋台で買ったアイスも、誰かが作ってくれたものだし…」

タロウの言葉に、ブタさんは目を細めた(ように見えた。陶器なので表情は変わらないのだが、なぜか得意げな雰囲気が伝わってくる)。

「お前は、お金の本質を理解し始めたようだな。そう、お金は『自分と社会をつなぐパイプ』だ。正しく使えば、自分も社会もハッピーになる。しかし、自分の欲望だけで使えば——」

「ドーパミン地獄に陥るってわけね!」

タロウはサクラから教わったあの恐ろしい言葉を思い出した。『欲しい!』という衝動にかられて、脳内でドーパミンがどばどばと分泌され、冷静な判断ができなくなる状態。あれは本当に危険だ。

「そうだ。お金をただの『欲求を満たす道具』にしてしまうと、一時的には満足するが、すぐに虚しさがやってくる。サクラが『3000円分の友情を買ったみたいで空しかった』と言ったのは、まさにそれだ。」

「でも、かといって全部誰かのためにお金を使うのも…何か違う気がする。たまには自分の好きなものに使いたいし。」

「それが自然な感情だ。大事なのは『バランス』だ。自分を満たすお金と、社会に還元するお金——この二つを、心のコンパスで測りながら配分していく。完璧な答えはないが、『自分も周りも笑顔になる使い方』を意識すれば、自然と良いバランスになるものだ。」

タロウは机の引き出しから、あるノートを取り出した。それは彼が密かに書きためている『お金の哲学ノート』だ。表紙には、「タロウの金運ストーリー〜世界を変えるための第一歩〜」と書かれている。

「実はね、こっそり考えてることがあるんだ。」

「ほう…どんなことだ?」

「将来、お金のプロになって、世界を変えたいんだ。」

ブタさんが一瞬、固まったように見えた(実際には陶器なので動かないのだが、空気がピンと張りつめた)。

「具体的には?」

「まだぼんやりしてるけど…例えば、学校でお金の授業をするとか、お金に困ってる人を助けるシステムを作るとか。お金って、使い方を間違えると人を不幸にするけど、正しく使えば世界を良くする力があるじゃん? その『正しい使い方』を広める人になりたいんだ。」

タロウの目は真剣そのものだった。彼はこの数ヶ月で、お金が単なる『交換手段』ではなく、人と人を結びつけ、未来を築くための『エネルギー』であることを学んだ。そのエネルギーをどう使うか——それこそが、彼が追い求める『お金の哲学』だった。

「ふむ…小学校4年生がここまで考えるとはな。感動して、中に入っている500円玉が震えているぞ。」

「ブタさん、中には今300円しか入ってないよ。さっき、お母さんに頼まれてお使いに行って、おつりを入れたばかりだから。」

「…細かいことは気にするな! しかし、その『細かいこと』に気づくお前の姿勢こそが、お金の達人への第一歩なのだ。」

自分だけの「お金の哲学」を作る大切さ

「タロウよ、いい機会だ。お前がこれまで学んできたことを、一度まとめてみろ。」

ブタさんの提案に、タロウはノートを開き、ペンを握った。最初は何を書いていいかわからなかったが、頭の中に浮かんでくる言葉をそのまま書き出してみることにした。

タロウのお金の哲学(第一版)

1. お金は『みんなの合意』でできている —— 一万円札の本当の価値は約20円。残りの9980円は、みんなが「価値がある」と信じているから。物々交換の不便さを解決するために生まれたこの仕組みを、忘れずにいよう。

2. お金の三つの役割を理解する —— 交換手段、価値の貯蔵、価値の単位。これがわかっていれば、お金に振り回されない。特に、価値の貯蔵にはインフレのリスクがあることも覚えておこう。

3. 衝動買いは敵! ドーパミン地獄に気をつけろ —— 欲しいと思ったら、まず24時間待つ。その間に本当に必要か考える。サクラの教えは永遠に。

4. 三つのポケットで賢く使う —— すぐに使うお金、楽しみのお金、未来のお金。この三つに分ければ、後悔しない。

5. 貯金は『ブタさんの知恵』 —— おこづかい帳をつけて、SMARTの法則で目標を立てる。コツコツ貯めることが、大きな夢への第一歩。

6. 投資は『未来への種まき』 —— アイスクリーム屋台で学んだ。リスクはあるけど、挑戦しないと何も始まらない。複利の力は時間を味方につける。投資の三原則を忘れずに。

7. 起業は『価値を生み出す冒険』 —— 自分で何かを生み出し、誰かの役に立つこと。それこそがお金を稼ぐ本来の意味。

8. 銀行は『お金の交差点』 —— 預けたお金は誰かの住宅ローンや事業資金になる。預金と貸出の両輪で社会を支えている。自分も社会も、お金を通じてつながっている。

9. お金は『自分と社会をつなぐパイプ』 —— 自分のためだけじゃなく、周りの人のことも考えて使う。バランスが大事。

10. 学び続けることが一番の投資 —— お金の知識は、一度学んで終わりじゃない。新しいことに挑戦し、経験を積むことが、本当の『お金の種』だ。具体的には、本を読んだり、お小遣いの使い方を振り返ったり、大人の話を聞いたりすることから始めよう。

「どうかな、ブタさん? ちゃんと『みんなの合意』とか『物々交換の限界』も入れたよ。銀行の預金と貸出の話も書いたし。」

タロウがノートを見せると、ブタさんはしばらく沈黙した(考えているのか、単に陶器なので反応が遅いだけなのかはわからない)。

「…見事だ。タロウ。お前はすでに、多くの大人が持っていない『お金の哲学』を持っている。特に、お金の本質と銀行の役割を自分の言葉でまとめられたのは素晴らしい。これから成長するにつれて、この哲学も磨かれていくことだろう。しかし、その核となる部分は、すでにお前の中に刻まれている。」

「本当?」

「ああ。そして、もっとも大切なことを一つ、忘れているぞ。」

「え? なに?」

「『お金は楽しく使うものだ』ということだ。」

タロウはぽかんとした。今までの真剣な流れから、ブタさんがまさかこんなことを言い出すとは思わなかったのだ。

「だってさ、お金についてあれこれ考えていると、つい『節約しなきゃ』『投資しなきゃ』って肩に力が入っちゃうけど…でも、お金って本来、人の人生を楽しくするためのものだよね。アイスを食べるときの幸福感、友達と遊ぶときの楽しさ、欲しいものを手に入れたときの喜び——そういうポジティブな感情の源泉でもあるんだ。」

「なるほど…たしかに。僕がドラゴンクエストXIIを買うために貯金していたときも、ゲームをやっているところを想像してワクワクしていた。あのワクワクがなかったら、途中で挫折してたかもしれない。」

「そういうことだ。お金の管理は『制限』じゃない。『自由』を手に入れるための手段だ。節約ばかりに気を取られて、人生そのものを切り詰めてしまっては本末転倒だ。賢く管理し、楽しく使う——それが理想のバランスだ。」

未来へのエール〜あなたの金運ストーリーを描こう〜

窓の外はすっかり暗くなり、星が輝き始めていた。タロウは自分の書いた『お金の哲学』を読み返しながら、あることに気がついた。

「ねえ、ブタさん。この哲学はまだ『第一版』だよね。」

「そうだな。お前が中学生、高校生、大人になるにつれて、どんどんアップデートされていくものだ。今日まとめた『みんなの合意』や『銀行の両輪』も、もっと深く知れば新しい発見があるだろう。」

「うん…今日はここまで書けたけど、まだまだ書き足りないことがある。例えば、世界のお金の話とか、もっと難しい投資の話とか、それに——」

タロウは遠くを見つめるような目をした。

「——お金で人の役に立つ方法について、もっと知りたい。」

ブタさんは静かにうなずいた(ように見えた)。彼の中で、タロウの成長を確かに感じていた。

「タロウ、お前の旅はまだ始まったばかりだ。今日学んだことは、人生という大海を航海するための『羅針盤』だ。羅針盤があれば、どんな嵐が来ても進むべき方向を見失わない。」

「羅針盤か…なんかカッコいい!」

「しかし、羅針盤があっても、実際に船を動かすのはお前自身だ。知識を得たら、次は行動だ。小さなことでもいい。今日から始められることを、一つずつやってみろ。」

タロウは深くうなずいた。そして、机の上に置いてあった『ドラゴンクエストXII 勇者の帰還』のパッケージを手に取り、優しく撫でた。

「このゲーム、買うまでは貯金の目標だったけど…今ではそれ以上の意味があるんだ。僕が『計画すれば夢は叶う』ってことを証明してくれた証なんだ。」

「その通りだ。そして、その経験こそが、お前の人生で最初に得た『お金の知恵』からの配当金だ。利息よりも、はるかに価値のある配当金だ。」

タロウは微笑んだ。そして、自分の『お金の哲学ノート』の最後のページを開き、こう書き加えた。

未来の私へ あなたは今、お金のプロとして世界を変えていますか? このノートを書いた小学4年生の自分を、誇りに思えますか? お金は楽しく、賢く、そして人のために使ってください。 それが、私があなたに託す『お金の哲学』です。

「よし、書けた!」

タロウがノートを閉じた瞬間、部屋の電気がついた。振り返ると、ママが立っていた。

「タロウ、夕ご飯よ。今日はカレーよ。」

「わーい! カレーだ!」

タロウは飛び上がって喜んだ。そして、ふと何かを思い出し、ママに聞いた。

「ねえママ、カレーの材料って、いくらくらいかかるの?」

「え? 急にどうしたの?」

「いや、ちょっと計算してみたくなって。お金のことを勉強するとさ、日常のいろんなものの値段が気になるんだよね。それに、カレーの材料にも『みんなの合意』で値段がついてるんだろうなって思って。」

ママは驚いた顔をした後、優しく微笑んだ。

「そうね…今日は特別に、レシートを見せてあげるわ。一緒に計算しましょう。」

「やった!」

タロウはママと一緒に階段を降りながら、心の中でつぶやいた。

お金の勉強、めっちゃ楽しい! これからもっと学んで、いつか本当に世界を変えるんだ!

その背中を、机の上のブタさんが静かに見守っていた。彼の中で、未来のタロウが描く『金運ストーリー』の第一章が、見事に完結したのを感じながら。

読者のみなさんへ〜あなたの番です〜

さて、ここまで読んでくれたあなたに、タロウから一つお願いがあります。

あなたも、自分だけの『お金の哲学』を作ってみませんか?

難しく考える必要はありません。ノートの一ページでも、スマホのメモでも構いません。次の三つの質問に答えてみてください。

1. あなたにとって、お金とは何ですか? (「便利な道具」「夢をかなえる手段」「安心のためのもの」…何でもOKです。でも、『みんなの合意』で成り立っていることを思い出してみてください)

2. あなたはどんなお金の使い方をしたいですか? (「自分の好きなものに使いたい」「誰かの役に立ちたい」「将来のために貯めたい」…バランスを考えてみてください)

3. あなたがお金を通じて叶えたい夢は何ですか? (小さなことでも大きなことでも、思いつくままに書き出してみてください。タロウのように、5000円のゲームでも、世界を変える夢でも、全部大切です)

この三つが書けたら、それがあなたの『お金の哲学』の第一版です。そして、これから人生のいろんな場面で出会うお金の出来事を通じて、その哲学はどんどんアップデートされていきます。

時には失敗するかもしれません。タロウも最初はお小遣いを全部使い切って泣きそうになりました。サクラも星座消しゴムに3000円も使って後悔しました。でも、その失敗があったからこそ、彼らは成長できたのです。

大切なのは、『完璧なお金の使い方』を目指すことではありません。自分なりの『お金との向き合い方』を見つけ、少しずつでも実践していくこと。その積み重ねが、あなただけの『金運ストーリー』を作り上げていきます。

タロウは言いました。

「お金は、人生を楽しくするための相棒だよ。怖がらずに、でも敬意を持って付き合っていけば、きっと素敵な冒険が待っている!」

さあ、あなたも今日から、自分だけの金運ストーリーを描き始めてみませんか?

最初の一歩は、おこづかい帳をつけることでも、欲しいものリストを作ることでも、24時間ルールを試すことでも構いません。

あなたの物語の主人公は、ほかでもない、あなた自身なのですから。

〜 おわり 〜

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 お金の運用は自己責任で行い、必要に応じて専門家に相談してください。 でも、一番大切なのは「楽しむこと」を忘れないこと。それが、タロウからの最後のメッセージです。

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AFTERWORD
あとがき

あとがき

さて、ここまで長い旅にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。この本を手に取った時、「親子で学ぶ」なんて大げさなタイトルだな、と思われた方もいるかもしれません。正直、私も最初はそう思いました。だって「お金の教室」と聞くと、堅苦しい公式や、ピリピリした投資の話が頭をよぎりますからね。まるで「日曜の朝に突然、税金の申告書を広げろ」と言われるような、ちょっとした絶望感に近いものがあります(笑)。

この本を書こうと思ったきっかけは、私自身の「お金に対する無教養っぷり」への反省です。昔、初めてクレジットカードを持った時、まるで魔法のカードだと思い込み、気づけば「見えない借金ペンギン」をコレクションしていたこともありました。あの頃の私は、お金が空から降ってくると本気で信じていた節があります。でも、実際にはお金は木にはならないし、自動増殖もしません。せいぜいアリのようにコツコツ集めるか、セミのように一度に大きな音を立てて飛んでは消えるか。そんな比喩ばかり思いつく自分が恥ずかしくもあり、同時に「これは多くの家庭で笑い話のネタにできる本を書けるのでは?」とひらめいたのです。

執筆中は、我が家の子どもたちも無意識のうちに実験台(いや、インスピレーション源)になりました。彼らにお小遣いを渡した時の顔つき、それを一瞬でゲーム課金に溶かす手際の良さ、それを見て青ざめる私の顔。まさに生きた教材でした。特に、息子が「1000円は1000円でしかないけど、ゲーム内のアイテムなら無限の冒険ができる」と真顔で語った時は、この本の核心的なテーマを子どもがすでに理解していることに気づき、感動と恐怖が入り混じりました。「ビットコインよりも子どもの価値観の方がよほど乱高下している」と、ノートにメモしたのは今でも忘れられません。

本書では、親子で「お金とどう向き合うか」を少しでも楽しく、そして現実的に考えられるように工夫したつもりです。難しい経済理論は極力避け、むしろ「お小遣い帳をつけるのが面倒くさい」という人間の弱さに寄り添いました。なぜなら、私自身がその面倒くささの権化だからです。貯金が趣味だと言い張る人もいますが、私にとっての趣味は「使ったお金をあとで思い出しては絶望すること」でした。そんなダメダメな大人の鏡のような私が書いたからこそ、この本が少しでも現実的で役に立つものになっていれば、これ以上の喜びはありません。

最後に、この本が読者の皆さんにとって、お金の話を「避けるべきトラウマ」から「笑い合える家族の話題」に変える一助となれば幸いです。お金の教育は、子どものためだけでなく、実は大人がやり直す絶好のチャンスでもあります。子どもの前で「どうせ貯まらないし」と嘆くよりも、「一緒に貯める作戦会議をしよう」と声をかけることで、親も子も人生が少しだけ豊かになる。そんな奇跡が、この本をきっかけに起きると信じています。

最後になりましたが、この本を支えてくださった家族、編集者の皆様、そして手に取ってくださったあなたに、心からの感謝を捧げます。これからもお金に振り回されるのではなく、一緒に笑いながら生きていくための知恵を、私たち家族も日々模索していきます。どうか皆さんの家計にいつも笑顔と、たまーに予想外のボーナスが舞い込みますように。

それでは、また別の本でお会いしましょう。その時まで、お金と仲良く、人生を幸せに遊んでくださいね。

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