はじめに
あなたは、お金について考えたことがありますか?
「お金って、なんだか大人だけのもの」 「むずかしそうだし、まだ早いかな」 「でも、ほしいゲームソフトは買ってもらえないし…」
そんなふうに思っているあなたに、この本を書きました。なぜなら、お金の知識は、大人になるためのサバイバル道具の中で、もっとも使える「魔法の杖」だからです。
この本を書こうと思ったのは、ある出来事がきっかけでした。うちの子どもが、近所の駄菓子屋で100円握りしめて「これ、何円?」と聞いてきたんです。よく見ると、彼の手には100円玉と500円玉が両方。どっちがどっちかわからずに、店のおばちゃんに渡していたんですね。その瞬間、私は「これは大変だ。お金の教育、本気でやらないと」と決心しました。
さて、この本の主人公はタロウ。あなたと同じように、お金のことをあまり知らない小学4年生です。タロウは、ある日ママの財布からお金が消える謎にぶつかります。「お金は消えたの?それともママが食べちゃったの?」――いいえ、それはもっと面白い秘密でした。
タロウは、ブタの貯金箱と対話したり、タイムスリップして古代の物々交換を体験したり、アイスクリーム屋さんになって投資を学んだりと、めくるめく冒険の旅に出ます。時には笑い、時には「なるほど!」と膝を打ち、時には「えっ、そうなの?」と驚くことでしょう。
この本のすごいところは、全部で20章もあって、お金のことなら何でも出てくること。お小遣いの使い方から株のしくみ、起業のしかた、さらには詐欺のワナや寄付の意味まで、まさに「お金の百科事典」です。でも、むずかしい教科書ではありません。むしろ、友だちとふざけ合うような軽いノリで、でもちゃんと本質を押さえています。
特に力を入れたのは、親子で一緒に楽しめること。第17章の「家族お金会議」では、お父さんお母さんも巻き込んで、家計の話までできちゃいます。「パパの給料って、ATMから出てくるって思ってた」なんてタロウが言うシーンは、きっとどの家庭でもあり得る話でしょう。
この本を読み終えたあなたは、きっとお金の見方が変わっているはずです。お金はただの「紙切れ」や「金属の円盤」じゃありません。それは、あなたの夢をかなえるための「魔法のツール」であり、未来を切り開く「鍵」なのです。
もちろん、お金には怖い顔もあります。悪い大人にだまされそうになったり、無駄遣いして後悔したり。でも大丈夫。この本の中で、タロウも同じ失敗をして、ちゃんと学んでいきます。あなたも、タロウと一緒に、笑いながらお金のプロになっていきましょう。
さあ、タロウの冒険が始まります。ページをめくる準備はいいですか? お金の種をまく準備はいいですか? それでは、ちょっとだけ特別な教室へ、ようこそ。
(この本で使われているお金の単位やルールは、日本のものに基づいています。外国のお金の話は第19章でまとめて出てきますので、そちらもお楽しみに!)
第1章 お金ってなんだろう?〜ママの財布の秘密〜
ある土曜日の朝、小学4年生のタロウは、宿題のプリントを半分も終わらせないままリビングに飛び込んだ。目指すはテレビの前。大好きなアニメが始まるまであと3分だ。ところが、そこに立ちはだかったのはママだった。
「タロウ、宿題は終わったの?」
「うっ…あとちょっと!」
「“あとちょっと”って、昨日も言ってたでしょ。さあ、終わらせるまでテレビはお預けよ」
ママはそう言うと、キッチンで食器を洗い始めた。タロウが仕方なくランドセルを取りに行こうとしたその時、ママがエプロンで手を拭きながら言った。
「そうだ、ちょっとスーパーに行ってくるから、あなたは宿題をやっててね」
ママは財布を手に取った。タロウは何気なくその財布をチラリと見た。すると、何かがおかしい。確か昨日、ママは「給料日だ!」と喜んで、パパとハイタッチしていたはずだ。なのに、その財布の中はまるで砂漠のように乾いていた。一万円札どころか、千円札すら見当たらない。小銭が数枚、寂しく転がっているだけだ。
「ママ、お金がなくなってるよ!昨日、いっぱいあったのに!」
タロウの叫び声に、ママは振り返ってニヤリと笑った。
「あら、バレちゃった?そうなのよ。お金って不思議なものでね、夜中にこっそり逃げ出しちゃうのよ。特に、お母さんが疲れて寝てる隙にね」
「ええっ!?本当なの!?」
タロウの目がまん丸になった。ママはさらに大げさにため息をついた。
「うん。昨日ね、あなたに頼まれてお菓子を買ったでしょ?あれで300円。それから、パパが急に「焼肉が食べたい」って言い出して、お肉を買ったでしょ?あれで1500円。さらに、あなたの学校の給食費の振り込みを忘れてて、慌ててコンビニで払ったわね、あれで5000円。気づいたら、もうお財布はすっからかんよ」
タロウは頭の中で計算した。300+1500+5000… 「6800円も使ったの!?」
「そうよ。お金はね、使えば減るの。でもね、不思議なことに、ちゃんと働けばまた増えるのよ。まるで魔法みたいでしょ?」
タロウは首をかしげた。ママの言うことは、なんだかよくわからない。お金って、いったい何者なんだろう?そもそも、なぜ人間はお金なんてものを使っているんだろう?パパとママは毎日「お金が足りない」と嘆いているけど、昔の人たちもそうだったのだろうか?
その日、タロウは学校の図書館で借りた「お金の歴史」という本を開いてみた。すると、驚くべき事実が次々と飛び込んできた。
お金が生まれる前の世界
昔々、まだお金というものが存在しなかった時代、人々は「物々交換」で生活していた。タロウが持っているお菓子と、友達のユウキが持っている消しゴムを交換するようなものだ。一見シンプルで便利そうに思える。
ところが、この物々交換、やってみると意外と大変なのだ。例えば、タロウが釣った魚と、となりのイノシシ猟師の肉を交換したいとする。ところがイノシシ猟師は「今日は肉じゃなくて、米が欲しいんだよなあ」と言う。タロウは米を持っていないから、まず米農家のもとへ行って、魚と米を交換してもらわなければならない。そして、その米を持って、もう一度イノシシ猟師のところへ行く。めんどくさいことこの上ない。
さらに困ったことに、「魚1匹に対して、イノシシ肉はどのくらいの量なら公平なのか?」という問題が発生する。魚の大きさも、イノシシ肉の部位も違う。「俺のイノシシ肉は上等だから、魚5匹分だ!」「そんなの高すぎる!3匹がせいぜいだ!」と、値段交渉は毎回大げんかになりかねない。
ある時、タロウの村でこんな事件が起きた。隣の村から来た商人が「このキラキラ光る石は、すごい力があるんだ!だから、米10袋と交換してくれ!」と言い出した。村人たちは「へえ、本当かな?」と半信半疑だったが、その石が夜になるとぼんやり光るのを見て、興奮した。タロウも「わあ、すごい!」と、自分の大事にしていた釣竿と交換してしまった。
ところが、後日判明した。その石は、ただの蛍光塗料を塗った普通の石だったのだ。村中が大騒ぎになったが、もう遅い。タロウの釣竿は戻ってこなかった。これが「価値のウソ」というものだ。というわけで、物々交換の世界は、混乱と不公平に満ちていたのである。
お金という名の魔法のアイテム
そんなある日、ある賢い人が気づいた。「みんなが『これは価値がある』と認めるものがあれば、交換がスムーズになるんじゃないか?」と。そうして生まれたのが「お金」だった。最初は貝殻だったり、塩だったり、貴重な石だったりした。時代が進むにつれて、金や銀、そして今私たちが使っている紙幣や硬貨へと進化していった。
ここで大事なことは、「お金自体には実はほとんど価値がない」ということだ。一枚の一万円札、その紙の値段はせいぜい20円くらいだ。それなのに、私たちはそれを「一万円の価値がある」と思っている。なぜか? それは、「みんながそう決めたから」だ。
「お金の価値は、みんなの合意で決まる」のだ。
タロウが学校で「この石、めっちゃかっこよくない?」と自慢の石を友達に見せた時、友達が「へえ、いいね!」と言えばその石は価値を持つが、「ただの石じゃん」と言われればただの石だ。お金も同じで、もし明日から世界中の人が「一万円札なんてただの紙切れだ」と決めたら、一万円札はただの紙くずになってしまう。でも、そんなことにはならない。なぜなら、日本中の、いや世界中の人が「一万円札には一万円の価値がある」と合意しているからだ。
これは言い換えれば、お金は「みんなの信頼で成り立っている」ということでもある。「この一万円札でパンを買える」という信頼があるから、パン屋さんは一万円札を受け取ってくれる。そのパン屋さんも、その一万円札で材料を仕入れられるという信頼があるから、受け取る。こうして信頼の連鎖が続いていく。
お金の三つの役割
タロウが図書館で調べた「お金の歴史」の本には、お金には三つの重要な役割があると書かれていた。それは以下の三つだ。
一つ目:交換手段
これは、物々交換の面倒くささを解決する役割だ。魚と米を直接交換しなくても、魚を売ってお金に換え、そのお金で米を買えばいい。「魚→お金→米」というシンプルな流れで、めんどくさい交渉や「合わない」問題から解放される。まさに文明の利器だ。
二つ目:価値の貯蔵
これは、価値を保存しておく役割だ。魚はその日に食べなければ腐ってしまうが、お金なら何年でも取っておける。タロウがお年玉で貰った一万円を、10年後に使うことも可能だ。ただし、ここで注意しなければならないのは、お金の価値は時間とともに変化するということだ。10年前は100円で買えたアイスクリームが、今は120円になっているかもしれない。つまり、ただ貯めているだけでは、価値が目減りしてしまうこともあるのだ。
三つ目:価値の単位
これは、すべての物の価値を共通のものさしで測れるようにする役割だ。魚1匹をいくらとするか、パンをいくらとするか、お金という共通の単位で表示できるから、比較が容易になる。タロウが「このゲームソフトは5800円で、あの文房具セットは1200円だ」と値段を見て、「うーん、ゲームソフトは文房具セットの約5倍の価値か…」と比較できるのは、この単位のおかげだ。
タロウはノートにこの三つの役割を書き写した。「なるほど、お金ってすごいんだな…」と感心したが、まだ一つ疑問が残っていた。お金はどうやって手に入れるのか? ママの財布の中身が、日に日に減っていくのを何度も見てきたタロウは、「お金はどこからやってくるんだろう?」と考え込んだ。
お金の入手方法:労働とおこづかい
その日の夕飯後、タロウは勇気を出してママに尋ねた。
「ママ、お金ってどうやって手に入れるの? ママはいつも『お金が足りない』って言ってるけど、どこからもらってるの?」
ママは箸を置いて、少し考えた。そして、とっておきの話を始めた。
「そうね…まず、パパとママはね、仕事をしてお金をもらっているの。パパは会社で働いて、ママはパートで働いてるでしょ? あれが『労働』って言うんだよ。労働の対価として、会社から給料が支払われるの。まるで、ゲームでクエストをクリアすると経験値がもらえるみたいなものね」
「ふーん…じゃあ、僕のおこづかいも、労働の対価ってこと?」
「そうとも言えるわね。あなたは毎日学校に行って勉強するでしょ? あれも立派な労働よ。それに、お手伝いをした時には、特別にボーナスをあげてるでしょ?」
タロウは思い出した。先週、ママが風邪でダウンした時、自分が一生懸命に台所を掃除したら、ママが「ありがとう」と言って500円をくれたことを。「あ、あれって労働だったんだ!」
「そうよ。ただし、おこづかいには二種類あるの。一つは『無条件でもらえるおこづかい』。これは、基本的な生活費みたいなものね。あなたがお菓子を買ったり、友達と遊ぶためのお金として、毎月決まった額をあげている。もう一つは『労働の報酬としてのおこづかい』。お手伝いをしたり、特別なことをした時に追加でもらえるお金よ」
「じゃあ、もっとお手伝いを増やせば、もっとお金がもらえるの?」
「理論上はね。でもね、タロウ、ここで大事なことを教えてあげる。お金は魔法のツールだけど、使い方を間違えるとトラブルのもとになる。例えばね、あなたがもらったおこづかいで、一度に大量のお菓子を買ってしまったらどうなる?」
タロウは一瞬で顔色を変えた。なぜなら、先月まさにそれをやってしまったからだ。学校の帰り道、友達と駄菓子屋に寄って、1000円分のお菓子を買ってしまった。家に帰って袋を開けると、お菓子の山! タロウは大喜びで食べまくった。しかし、次の日からはおこづかいがゼロになってしまい、友達がアイスを買っているのを見て、指をくわえて見ているしかなかった。
「うっ、そうだった…あの時は楽しかったけど、後でめっちゃ後悔した…」
「そうでしょ? お金はね、使えば減る。特に一度にたくさん使うと、あっという間になくなる。でも、ちょっとずつ計画的に使えば、長く楽しめるんだよ。これはね、まるでお風呂のお湯みたいなもの。一度にドバーッと流すとすぐになくなるけど、少しずつ使えば長く楽しめるでしょ?」
タロウは大きくうなずいた。ママの比喩はいつもわかりやすい。
「もう一つ大事なことを教えるね。お金は、あなたの『選択』を映し出す鏡なんだ。あなたが何にお金を使うかで、あなたが何を大切にしているかがわかる。例えば、あなたがいつもゲームにしかお金を使わなかったら、あなたはゲームが大好きなんだなってわかる。でも、もし本に使ったり、友達へのプレゼントに使ったりしたら、また別の一面が見える。お金は、あなたの『価値観』を教えてくれるものなんだよ」
タロウの大失敗:お菓子の山と後悔の週末
ママの言葉を聞いて、タロウは先週の大失敗を思い出していた。それは、まさに「お金の価値」を痛感する出来事だった。
あの日は、学校が半日で終わる日だった。タロウは友達のケンタとユウキと一緒に、いつもの駄菓子屋に立ち寄った。店内には、色とりどりのお菓子がずらりと並んでいる。10円のガ